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第4章 小・中学校における制度的見直しについて

1.基本的な考え方

 近年、小・中学校において、通常の学級に在籍しているLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に対する適切な指導及び必要な支援が喫緊の課題となっている。また、特殊学級に在籍する児童生徒や通級による指導の対象となっている児童生徒についても、関係機関と連携した適切な対応等が求められている。
 さらに、平成16年6月4日に公布された障害者基本法の一部改正法により、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない旨(第14条第3項)が規定された。
 これまで、小・中学校における障害のある児童生徒の教育は、主として特殊学級等において行われてきたが、今後は、これらの課題を含め、学校全体の課題として取り組んでいくことが求められる。
 このため、小・中学校における特別支援教育の推進に関して、通常の学級も含めた教育活動全体での適切な推進が図られるよう、関係法令等における位置付けについて検討するとともに、教育委員会や学校における推進体制の整備を促進することが必要である。
 また、小・中学校における特別支援教育の推進に当たっては、障害のある児童生徒の保護者はもとより、通常の学級を担当する教員や、障害のない児童生徒及びその保護者の理解と協力が不可欠となるため、国及び各教育委員会においては、研修や広報活動等を通じた普及啓発を積極的に推進することが重要である。

2.LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に対する指導及び支援の必要性

 協力者会議最終報告においては、通常の学級に在籍しているLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒について、これらの定義と判断基準(試案)等を示しつつ、適切な指導及び必要な支援を行うための小・中学校の体制整備の具体的在り方が提言された。
 これを受け、文部科学省においては、平成16年1月に教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)を作成し、すべての教育委員会及び小・中学校に配布するとともに、平成15年度から開始された全都道府県教育委員会に対する委嘱事業などを通じ、教育委員会に「専門家チーム」を設置することや、すべての小・中学校において「特別支援教育コーディネーター」(後述)を指名すること等を内容とする推進体制整備が行われることを目指している。
 通常の学級に在籍しているこれらの児童生徒への指導及び支援は、学校教育における喫緊の課題となっており、引き続き小・中学校の体制整備を推進することが必要である。その際、厚生労働省における発達障害者支援施策との連携を図るとともに、小・中学校の教職員や保護者に対する理解と啓発を一層推進することが重要である。また、医師をはじめとする専門家の絶対数が不足していることから、その養成・確保の方策についても検討されることを期待したい。
 LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒の状態像は様々であり、周囲の環境によって変化することも多いため、個別的かつ弾力的な指導及び支援が必要となる。このため、各学校における教育課程の実施の形態についても、通常の学級における教員の適切な配慮、ティーム・ティーチングの活用、個別指導や学習内容の習熟の程度に応じた指導等の工夫などに加え、必要に応じて、通常の学級を離れた特別の場での指導及び支援を受けられるようにすることが有効である。
 このため、後述のとおり、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に対する特別の場での指導及び支援を制度的に位置付けることを含めて、現行制度の見直しを行うことが必要である。その際、特別の教育課程を編成して指導することが適当な者の範囲・要件や、その具体的な指導内容・方法について国立特殊教育総合研究所における研究等を推進しつつ、検討を進める必要がある。

3.特殊学級等の見直し

 全国の小・中学校の特殊学級の平均在籍者数は約2.8人(平成15年5月1日現在)となっているが、障害種別あるいは都道府県別の平均在籍者数には幅があり、その運用実態は様々となっている。
 特殊学級には、すべての時間を当該特殊学級で過ごし、教育を受ける必要のある児童生徒がいる一方で、相当の時間を通常の学級との交流教育という形で障害のない児童生徒とともに過ごすことが可能な児童生徒もみられ、その実態は、児童生徒の障害の種類や程度、学校の実情等に応じて様々である。
 また、特殊学級を担当する教員については、当該学級に在籍する児童生徒への指導に加え、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する通級による指導と類似した支援やいわゆる「巡回による指導」を行ったり、通常の学級を担当する教員に対する相談支援を行ったりしている例もみられる一方で、十分な専門性を有しない教員が配置されるなど、必ずしも効果的に活用されていない例もみられる。
 さらに、通級による指導については、指導時間数及び対象となる障害が限定されており、特別支援教育を推進する観点から、より弾力的な対応ができるようにする必要がある。
 協力者会議最終報告においては、「特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある」とともに、「制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることについて具体的な検討が必要」との提言が行われた。
 「特別支援教室(仮称)」の構想が目指すものは、各学校に、障害のある児童生徒の実態に応じて特別支援教育を担当する教員が柔軟に配置されるとともに、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒も含め、障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍しながら、特別の場で適切な指導及び必要な支援を受けることができるような弾力的なシステムを構築することであると考えられる。
 この考え方は、小・中学校における特別支援教育を推進するうえで、極めて重要であり、また、すでに特殊学級と通常の学級との交流教育という形で弾力的な運用が行われている例があることも踏まえれば、「特別支援教室(仮称)」の構想が目指しているシステムを実現する方向で、制度的見直しを行うことが適当である。
 しかしながら、現行の特殊学級等を直ちに廃止することに関しては、障害の種類によっては固定式の学級の方が教育上の効果が高いとの意見があることや、重度の障害のある児童生徒が在籍している場合もあること、さらには特殊学級に在籍する児童生徒の保護者の中には固定式の学級が有する機能の維持を望む意見があることなどに配慮する必要がある。
 また、特殊学級等の各都道府県等における運用や在籍する児童生徒の実態に幅がある中で、場や空間を指して用いられることが多い「教室」を制度化するに際しては、現行の「学級」編制を基本とする公立学校の教職員配置システムとの関連を検討することが必要である。
 さらに、特殊学級や通級による指導を担当する教員には障害のある児童生徒の教育に係る専門性が求められるが、今後、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒への指導及び支援を含め、特別支援教室(仮称)の構想を実現するためには、担当教員のより高い専門性が確保されることが必要である。
 以上を踏まえ、「特別支援教室(仮称)」の構想を実現するための制度的見直しについては、研究開発学校やモデル校などによる先導的な取組を早急に開始するとともに、固定式の学級が有する機能を維持できるような制度の在り方や、教職員配置及び教員の専門性の確保の在り方について、具体的に検討を進めることが適当である。
 また、新たな制度の円滑な実施を図る観点から、以下のような現行制度の弾力化等を行うことも併せて検討するとともに、小・中学校における総合的な体制整備(後述)を着実に進める必要がある。こうした弾力的な取組みが広がっていくことにより、「特別支援教室(仮称)」の構想の実現につながっていくものと考えられる。

  • ア.特殊学級における交流及び共同学習の促進と担当教員の活用
     小・中学校の学習指導要領では、「特殊学級又は通級による指導については、教師間の連携に努め、効果的な指導を行うこと」や、障害のない児童生徒と障害のある児童生徒との「交流の機会を設けること」が定められているが、その趣旨が徹底されていない場合もみられる。
     障害者基本法において、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習を積極的に進める旨が規定されたことも踏まえ、特殊学級を担当する教員と通常の学級を担当する教員の連携の下で、特殊学級に在籍する児童生徒が通常の学級で学ぶ機会が適切に設けられることを一層促進すべきである。
     また、交流及び共同学習の機会が充実されるとともに、特別支援学校(仮称)のセンター的機能が発揮されることを前提とすれば、特殊学級を担当する教員が、通常の学級に在籍するLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒への指導及び支援も含め、これまで以上に特別支援教育に関する多様な役割を担うことも可能となると考えられる。
     以上を踏まえ、小・中学校において障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な指導及び必要な支援が効果的に行われるようにするため、特殊学級を担当する教員の一層の活用を進めることが必要である。
     また、特殊学級や通級による指導を担当する教員について、高い専門性を有する者が適切に養成・配置されることが必要であり、任命権者である各都道府県教育委員会等において、人事上の配慮が望まれる。
  • イ.通級による指導の見直し
     通級による指導については、指導時間数の制限を緩和することや、対象となる障害の種類にLD・ADHDを加えること(高機能自閉症等については現在でも必要に応じて対象とすることが可能)を含め、特別支援教育の観点から弾力的な運用が可能となる方向で見直しを行う必要がある。
     通級による指導の形態には、学校内での実施だけでなく、児童生徒が他の小・中学校や盲・聾・養護学校に出向く形態や、教員が他の学校を巡回訪問する形態もみられる。今後、特別支援学校(仮称)のセンター的機能が発揮されるとともに、特殊学級担当教員の活用が促進されることによって、各地域の実情に応じて、こうした多様な形態による運用が広がることが期待される。
  • ウ.いわゆる「巡回による指導」について
     障害のある児童生徒に対する指導及び支援の一つとして、小・中学校や盲・聾・養護学校の教員が複数の学校を巡回訪問して指導を行う形態がみられる。このいわゆる「巡回による指導」については、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に対する教育課程外の個別指導として、週に1回未満の頻度で行われている例がある。
     いわゆる「巡回による指導」のうち、定期的に実施されており、かつ、教育課程の一部として位置付け得る内容であるものについては、その制度的な位置付けを明確化する必要がある。その際、いわゆる「巡回による指導」を受け入れる学校における授業時間の調整、指導に当たる教員の身分、円滑な実施を確保するための仕組みについても併せて検討を行う必要がある。
     また、実施形態については、通級による指導と同様に、特別支援学校(仮称)のセンター的機能や特殊学級担当教員の活用も含め、多様な形態による弾力的運用を可能とすることが適当である。
  • エ.その他
     いわゆる院内学級については、現行制度の維持を前提としつつ、短期間の在籍であっても学籍移動の手続が必要となることや、児童生徒数の変動を適切に反映した学級編制を行うことが困難であるなどの課題が指摘されていることから、制度の運用実態を見きわめつつ、その在り方について調査研究を行う必要がある。
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