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6.今後の展開について

6.7 本検討会の結果を踏まえた今後の課題

   本検討会においては、生涯学習情報の提供の在り方に関する検討を行った。そこで、ここでの検討会の成果を踏まえて、生涯学習情報の内容、提供機関、対象者、収集と提供システム、配慮事項、国内外機関との連携、今後の目標設定などの観点から、今後の展開について考えてみたい。特に、今後生涯学習情報を提供する総合サイトを充実させることを想定した場合に配慮すべき事項という観点から今後の課題を整理している。

(1) 生涯学習情報の提供内容について
   生涯学習を考える場合、教養が主であるとよく言われている。特に、公民館を中心とした生涯学習活動は教養を中心として実施されている。そのため、生涯学習情報を考える際には、教養に関する情報をきちんと提供できるようにすることが重要となる。しかし、インターネットによる生涯学習情報の提供を考える場合には、教養以外の生涯学習情報も多い。
 特に、以下に示すような種々の情報の提供が求められていることから、これらの生涯学習情報について具体的な提供について検討する必要があり、今後の課題である。
1  職業に関係する学習情報、キャリアデベロップメントに関する情報
   例えば英国では、インターネットを利用した職業に関係する学習コースを多く提供しており、ラーン・ダイレクトという名称で政府が大きな支援をした職業に関する情報と学習コースを多数提供している。また、我が国においても今年度から「草の根eラーニング」との名称で、フリーターやニート、あるいは若者を対象にした勤労意欲を高める学習を促進するプロジェクトが始まっている。また、ジョブカフェ等との連携による学習環境の構築を目指している。
 このような職業に関する生涯学習情報を提供する場合、各職業に必要な能力標準との関係から、自分の能力を自己チェックできて、自分に欠けている能力を知った上でそれに関する内容を学習できるようにすることが求められている。これらの検討については今後の課題である。
2  高齢者の生きがいに関する情報
   高齢化が進む中で、高齢者を対象にした生涯学習情報の提供が大きな検討課題である。ただし、高齢者の場合、インターネットでの生涯学習情報の提供だけでなく、インターネットによるコミュニケーション支援、人が介在した種々の支援とを総合化した仕組みを構築することが不可欠になる。

 次に、インターネット提供されている生涯学習情報は、以下の二つに分けられる。これら二つの情報は本質的に異なるので、提供の際には種々の観点で検討していくことが必要となる。
1  生涯学習機会を紹介している情報
   教養講座、大学公開講座、公民館の会合案内などで、その情報から生涯学習の機会に誘導するものである。この情報で直接学習できるわけではなく、提供されている生涯学習機会に関する情報から実際の生涯学習へ導くために効果的に運用されている。これに関する生涯学習情報は、各地域で活用されることが多いと考えられるため、全国レベルに共通な生涯学習情報提供を考える場合には、それらの共通性と他の地域での活用性を考慮した検討が必要となる。
2  生涯学習ができる情報
   生涯学習者が必要としている事項や用語の解説、インターネットによるeラーニング・コースなど、そのまま生涯学習ができる内容である。今後この情報が非常に増えてくると考えられる。特に、最近インターネットのブロードバンド化が進み、動画像による優れた生涯学習情報の提供が行なわれることになる。その場合、すべてが無料とはならず、必要経費を学習者が負担する場合も多くあるため、提供のあり方についての検討が必要となる。

(2) 生涯学習情報提供の対象者について
   本検討会では、生涯学習情報を提供する対象者を下の3つに分類整理した。
  1  学習者
2  学習者兼企画者
3  企画者
 ただし、学習者についてはさらに検討して、さらに細かな分類をする必要がある。その場合、上記の生涯学習情報の内容との関係を明確にしながら、以下の対象に対する生涯学習情報を明確にすることが今後の課題である。
  1  職業に関連した専門職
2  高齢者
3  若者、フリーター、ニート
 ここで、12に関する情報は、前項(1)における生涯学習情報の内容で説明したとおりである。3に示した若者とフリーターを対象とした生涯学習情報の提供は最近特に重要となっている。ただし、ニートの学習意欲は低いため、ニートを対象にした生涯学習を促進させることは容易でなく、単に生涯学習情報を提供しただけではまったく効果がないことも考えられる。そのため、ニートに適する学習情報の充実が重要ではあるが、社会全体が連携した実施体制の確立と学習環境の整備、ならびにその学習を支援する仕組みつくりが不可欠となる。したがってこのニートに対する学習機会の提供に関する問題は、生涯学習情報提供とは切り離して検討したほうがよいとも考えられる大きな課題である。

(3) 生涯学習情報の作成等について
   本検討会では、生涯学習情報の一次情報を下の3つに分類整理している。
  1  国が保有している情報
2  地方が保有している情報
3  情報収集・加工によってできる情報
 今後、12に関する国と地方から提供される多くの情報について、生涯学習情報としてニーズを明確にした上で提供する情報を収集、体系化する必要がある。
 ただし、国から提供されている多くの情報は貴重で関心の高いものが多いが、生涯学習情報の観点からの精査が必要であると考えられ、この精査の方法を確立することが今後の課題である。
 次に、地方から提供されている情報には、自分の地域住民に対する情報サービスの観点から提供されている場合が多いと考えられるため、これらの情報サービスが生涯学習の点で重要であることを明確にする必要がある。また、地域の伝統、文化、特産など、地域の特徴をインターネットで提供されている場合も多いが、これらの情報は他の地域の人にとっても貴重な生涯学習情報となる可能性が高い。ただし、全国の各地域からの情報を体系化することが望まれ、体系的な情報提供をする仕組みを確立しないと、生涯学習者が容易には情報を取得できないことになる。したがって、この観点での検討が今後の課題である。
 また、3の情報収集・加工によってできる情報については、現在インターネットでは提供されていない情報や、されていても体系化されていない情報を調査して、それをある考え方でデータベース化するなどする必要がある。ただし、生涯学習者のニーズを満たすための努力が常に求められる。また、このように情報収集・加工してできる情報を一般に提供する場合、1回限りの収集で終了する情報は少ないため、継続的に実施する必要がある場合が多い。そこで、この3に相当する情報を提供する場合には、基本的な事項を明確にする共に、継続的に実施体制の確立をした上で、開始することが望まれる。

(4) 生涯学習情報の収集と提供システムついて
   生涯学習情報は多くの関係機関からインターネットで提供されている。しかし、インターネットで求める生涯学習情報を探すことは容易でない。特に、生涯学習者はインターネットの情報検索に不慣れである場合が多いと考えられる。そのため、何らかの支援が必要である。
 次に、提供する生涯学習情報を収集して総合的に提供する場合、以下の二つの考え方によってシステムを構築することになる。
  1  生涯学習情報そのものを蓄積したリポジトリー(情報貯蔵庫)とする
2  生涯学習情報の概要と所在情報を集めたメタデータデータベースとする
 ここで、1のリポジトリーとする場合、一次情報をたくさん集めて同一のサーバーに蓄積することになるため、著作権契約を明確にした上で実施することが求められる。
 それに対して、2のメタデータの場合は著作権の問題は小さい。一次情報の著作物はそれぞれのサーバーにあり、タイトルなどによるメタデータだけが、センターシステムに蓄積される。ただし、情報の更新する体制の整備や、情報がなくなってNot Foundとなる場合を避ける仕組みも必要である。
 いずれ場合においても、情報提供に際して著作者の個人情報保護の観点で慎重に情報を扱うことを基本である。
 次に、生涯学習に関する学習コースなどを提供する場合、学習者の学習履歴や、学習素材や学習コースの取得するために、ID・パスワードで管理したり、学習者情報を保存したりする場合がある。その際には、個人情報保護の観点を十分配慮する必要があるが、本報告でまとめた「学習者情報の扱いに関する実態調査」の結果が参考になる。

(5) 生涯学習をより推進するための仕組み作りについて
   生涯学習をより推進するためには、求められている生涯学習情報を容易に取得できる仕組みつくりが必要となる。この場合、インターネットで情報提供することが適切であると考えられる。
 ただし、インターネット利用だけで実施することではなく、人間同士のコミュニティとの連携を如何に構築するかが重要となる。インターネット等の情報通信ネットワークを利用したバーチャルな世界ではなく、人間的な付き合いや人間的なコミュニケーションをより豊かにし、より促進するためのネットワーク活用が基本である。これに関する検討は今後の課題である。
 特に生涯学習を促進するためには、公民館活動との連携、カルチャーセンターとの連携、海外との連携などが成功の鍵となると考えられ、その方策に関する検討は今後の課題である。

(6) 生涯学習情報提供の目標設定について
   以上この項では種々の観点から生涯学習情報を総合的に提供する場合に今後の課題ついて説明した。ただし、ここで検討してきた生涯学習情報の提供を考える際に最も重要なことは、必要性の明確化と構築すべき目標を明確にすることである。
 特に、平成18年1月19日には、「IT新改革戦略」が政府からだされているので、このこととの関係も踏まえて、今後の生涯学習情報の提供について検討することが望まれる。

国立教育政策研究所教育研究情報センター長 清水 康敬

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