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6.今後の展開について

6.3  ユビキタス社会に向けて −人から人へ、地域から地域へ広がる学習情報−
 
1   「学習情報」の考え方
 
(1) フロー情報とアーカイブ情報
   一般的に、地域および国が保有している学習情報の多くはアーカイブ情報(その時点で凍結保存された情報)である。
 一方、学習の現場から発信されている生きた情報は、フロー情報として蓄積されない場合が多く、「暗黙知」を「形式知」に変えるアーカイブ作業によって「学習情報」として認識・取り扱うことができるようになる。近年のICTの発達によって、たとえば Podcastなどのように学習現場からストリーミング型での中継や、情報蓄積ができるようになることから、このような生きた学習情報を情報提供の対象として広く伝えることが出来る可能性が高くなっている。
(2) 案内情報と知識財情報、内容(コンテンツ)
   これまでの学習情報提供は、学習機会や学習施設などの案内情報が中心であったが、インターネットを通じた学習などが活発化するにつれ、今後は学習財の内容(コンテンツ)そのものの提供・活用も可能になってくる。たとえば、地域に点在する石仏には、生活との関連、建築・彫刻、歴史など、学習情報として多面的に活用できる可能性を持つ。また、野外などいつでもどこでも情報の受発信できるユビキタス社会においては、その形態も資料や映像などデジタル・アーカイブ(凍結保存)されたもののみならず、地域の自然、史跡、生活の中にある有形・無形のフロー情報そのものが学習財として役立つ「地域デジタル・ミュージアム」も現実化する。
図6.3−1 ユビキタス社会における学習活動イメージ
(3) 提供者、学習者の分類
   学習の現場では参加者がさまざまな役割を持ちながら、一つの学習を進めることが多く見られる。(学習者、チューター、メンター、講師、サポーター、学習ディレクター…)
 図6.3−1は、インターネット市民塾に参加する学習者の動きを表したものであり、学習講座の受講者が新たに講師を目指したり、サポーターとして講師を支援する立場に立つなど、その役割は多様である。
図6.3−2 学習活動の多様な動き
 このように情報発信と提供を受ける側の両方の立場を行き来しながら学習活動が活性化していく「学習コミュニティ」も見られ、これを促進するための学習情報提供のあり方は、今後の検討の視点として重要である。
(4) 地域を越えた学習活動の活発化
   インターネットの普及にともない、地域を越えて同じ学習機会に学ぶことが容易にできるようになった。地域の学習者が集まる講座に、地域外の講師がネットを通じて参加することも見られるようになってきた。
 各地に広がるインターネット市民塾では、このような地域を越えた学習参加が活発化しており、これまでのように地域内にとどまらない学習情報の提供は、今後ますますニーズが高まるはずである。
図6.3−3 地域を超えた学習者のつながり

2   学習情報提供のあり方
   「学習情報」の多様な視点を踏まえ、ユビキタス社会を見据えた望ましい情報提供のしくみを考えてみたい。
 基本的にはこれまでのように情報を集約して、全国からのアクセスを待つ形態から、情報分散・発生源発信を前提として検討を進めていく必要がある。また、情報の更新・信頼性が保証される自立的な仕組みの検討も重要である。
(1) 人から人へ、地域から地域へ横に伝わる情報提供
   全国の学習財情報が共有され地域から地域へ情報が横に伝わるような仕組みが、ユビキタス社会での自然な形態になると考えられる。(情報の種類によっては従来どおり一ヶ所に集めたデータベースへの検索を待つという形も継続は必要)
 近年急激に普及してきたブログやSNSでは、情報を提供した人にアクセスがあったことを知らせることができ、人を介して横に伝わる情報提供を促進しようとする考え方を持っている。
 また、RSSという方式を活用し、広く分散しているサイトの最新情報を自動的にサマリーして利用者に提供するRSSリーダーが開発され、広く無償で配付されはじめた。これらを利用して、多方面のサイトからサマリー情報収集したりその更新情報を得ることが容易にできることから、学習情報の収集にも大いに役立つ可能性を持っている。
 (注)RSS:XMLフォーマットで記述されたメタデータで、Web上の情報共有を進める標準技術として広く普及され始めている。
(2) 参加型情報提供
   生きた学習情報は学習活動の現場にあるという考え方をもとに、学習活動の実践者が情報提供に参加できるようにする参加型の情報提供が望まれる。また、これらの情報を全国で共有するという考え方を確立するためにも、地域を越えて「横へ伝わる情報提供」が望まれる。
 一方で、国・県・市町村等の関係職員に参加を限定し、情報が縦に流れるクローズ型のネットワークを併用することも必要と考える。
(3) シームレスな情報提供
   自宅でのeラーニング、施設での学習、現地で体験しながら学ぶなど、学習の場所は多様化しており、いずれの場所にいても学習が継続できるよう、シームレスな情報提供が望まれる。

3   国の役割
 
(1) 把握する
   これまでの地域からの情報収集では、都道府県の情報提供サイトに登録または把握されている情報を主な対象としていたが、これらに反映されていない「知識財」などを横断的に調査し、学習財として「把握」する役割が期待される。
 特に今後のユビキタス社会では前述のように学習財の捉え方は大きく拡大することから、全国に散在する学習財をナショナルレベルで把握し共有することで、学校教育から生涯学習まで幅広い対象者に、ユビキタス・ラーニングを提供することができる。
(2) 提供する
   国が情報提供機関の一つとして機能する形と、学習情報が地域間、学習者間で横に伝わる事を支援する「ハブセンター」機能のそれぞれが期待される。
図6.3−4 更新情報の把握と配信
 後者についてはさまざまな付加機能を持たせ、図6.3−4の情報連携を促進させる役割を果たすことが考えられる。
   学習情報を評価する機能
 さまざまな地域から発信される学習情報を共通的な分類体系で整理する機能
 情報のリレーションを付加する機能
 さまざまな角度からの情報検索を案内しコーディネートする機能
 各地の情報提供サイトの更新情報を配信する機能
 著作権管理 など
図6.3−5 国と地域の連携による情報検索
(3) 共通ソフトウェアの供給
   各地の地域サイトに組み込み、地域間の情報リンクを可能とする共通Webインターフェイスや、国が提供する学習情報の付加価値機能に対応した検索サービスを、だれでも身近な場所から利用できるソフトウェアを開発し、配付する方法が考えられる。
 前述の通りすでにRSSリーダーが広く配付され始めているが、学習情報の検索に最適な機能を付加したRSSリーダーを開発し広く配付することで、学習情報の共有や活用の普及を図ることが考えられる。
 また、これと合わせて各地の学習情報サイトにおける、RSSメタデータの登録を支援するエンコーダーを開発し、各地の機関に組み込むことも有効と考えられる。
 さらに、パソコンを利用した情報サービスとシームレスに、携帯電話でも情報を利用できるよう、共通インターフェイスを開発・提供することで、さまざまな学習の現場からの情報活用が期待される。
 これらの開発に当たっては、Web情報活用の技術標準と利用方法の社会的なトレンドに順応したものとすることが望まれる。すでに多くの学習者や学習支援関係者は、日常的にWebを活用しており、特殊なものを用意することなく、それらの中で汎用的に活用される形態がのぞまれる。
(4) 人的育成等
   情報提供の形が案内情報だけでなく内容(コンテンツ)に及ぶことから、学習活動の現場で「暗黙知」を「形式知」に変えるデジタル化は、ますます必要性が高まるとともに、その活用を図る人材の育成は不可欠となる。
 市民の学習課題を分析し、必要な学習財を検索し、それらを活用した学習方法を提案できる「学習情報サービス職員」やITサポーターの育成が不可欠と考える。
 また、国の役割が機能するためには、システムの整備だけではなく、全国の学習財を「調査」「分類」「リンク付け」などを行う人的体制は不可欠であり、情報共有する仕組み(システム)作りに20パーセント、運用の定着に80パーセントの労力をかけるという考え方で取り組んでいく必要があると考える。

  富山インターネット市民塾協議会事務局長 柵 富雄

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