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6.今後の展開について

6.4  国際的視点に立ち独自の役割を活かした生涯学習情報システム
 
1. 総合的意見
 
(1) 国立教育政策研究所の生涯学習情報システムとしての役割を考える時、新たなシステムの設計においては、世界の教育研究の重要なコネクター、ターミナルとなるハブとして役立つようにすることが望まれる。その際、単なる国からの情報提供だけにとどまらず、人と人、あるいは組織間のネットワークを形成するという観点が重要となる。国の教育に関する情報収集と提供がどれだけできるかという点で、他国との連携を含め、教育に関する専門情報の収集と提供を行う一方で、都道府県システムや民間機関とのネットワークを形成することが重要である。
(2) 教育情報の活用と提供という点では、利用者がその情報をどう自らの学習に活かすかというメタ学習に関する情報も重要である。その意味では例えば、コンテンツを蓄積する方法、その利用の仕方・活用法の情報も一つのコンテンツとして必要である。
(3) さらに、学習情報は教育分野なので文部科学省の役割の範囲内でのみの情報を提供するだけでよいと捉えがちだが、生涯学習の分野の情報は、広く他省庁や民間、他の学問領域の情報も重要となってくる。実際、各都道府県では他省庁が分担している情報も首長部局と連携することで提供している。同様に、国の学習情報の収集や提供において、他分野の情報をどういった基準で収集し、それらを学習情報として提供するかを今後考えていく必要がある。
(4) 情報を収集活用するに際して、国として優先すべき学習情報はなにかという基準を明確にする必要がある。その基準の具体例としては、
1)  現代的で緊急に提供すべき学習情報
2)  国際的で国内の地方機関では提供できない情報
3)  専門的機関との連携により提供すべき専門的情報
4)  教育と他の領域にわたる学際的情報
5)  学習者の情報リテラシーを高めるメタ学習情報
などである。

2. 国として収集・整理・提供すべき生涯学習情報について
 
(1) 技術の進歩に応じたITリテラシーのために
 
生涯学習の時代になってきて、ここ20年の間に個人の学習能力が向上している。ITリテラシーは20代前半までの年令層が高いが、その上の世代は不十分。そうした層への学習機会の提供は技術の進歩に応じて学習方法の開発を含め、継続的に図る必要がある。
「生涯学習の学習需要の変化に関する縦断的研究」によるとユーザーはインターネットによる学習を求める傾向が高い。ただし、学習状況の結果によると、40代が他の世代と比較してその活動が低くなる傾向がある。職場の地位が高く仕事で多忙なことや老眼など肉体的な障害の発生年代にあたることも原因と考えられる。
(2) 学習機会の格差の是正のために
 
現実の社会は多様な学習能力を求めてきており、いわゆるデジタルディバイドも含めた学習格差が地域間や年令層間、職業間に広がっていく可能性がある。
その一つとして、文化的な施設や人材を含めた教育資源の地域間格差が地域間の生涯学習の機会の不平等をもたらす可能性がある。特に、新聞社などのマスメディアや大学などの専門教育機関は大都市に集中する傾向があり、地方都市や郡部になるとそうした情報の格差や文化の格差が、多様な学習内容や専門的な学習への機会を失わしめる可能性がある。こうした地域間の学習機会の格差をなくすことも、地域を越えた国の大きな役割である。学習機会の格差を情報面でどのように支援していくかが問われる。
大学の公開講座でも同じことがいえる。本来なら大学が提供するのだから、国が提供すべきではないと考えるのか。さらに、民間教育情報機関の場合は、営利のためやっているのだから民間教育情報機関がやっていくのかという問題がある。理念としては格差が広がらないように、情報発信能力が弱い機関は国がフォローし、強い都道府県や民間機関はその自主性に任せる。というのが教育の公共性に基づく理念ではあるが、支援に依存して自主的、自律的な機関の成長を妨げる可能性もある。
(3) 都道府県の生涯学習情報提供システムとの役割分担への配慮
 
収集、提供、活用が同列で論じられているが、例えば、収集を市町村レベル、提供を国が行うとすると都道府県での生涯学習情報提供システムは不要になってしまうこともある。そこで、市町村、都道府県、国の役割を、収集、提供、活用でどう分担するかを考える必要がある。
また、都道府県をすべて同列でとらえず、広域のシステムとして都道府県を考え、都道府県と国の間にハブとなる都道府県センターを置くシステムを考えてはどうか。ハブセンターを押さえ、ハブセンターで違う学習情報システム作りをすることによって、情報の流れをいっそうスムーズにしていくことができる。
(4) 情報利用圏に即した情報提供の必要性
 
そうした役割分担を考える際に重要なのが、情報の種類によっては、利用圏があるという点である。高度で専門的な情報は、広域圏で提供し、身近で入門的な情報は、もっと身近な市町村レベルで提供する方が効率がいい。特に、企画者の利用ということを考えると、学習機会情報、施設情報、団体分布情報は自分の住んでいる地域の近くでさえあれば良い。これは各都道府県が提供しているのだからNICERの重要性は低くなる。むしろ、NICERは、身近な地域では得られない、教材や各種資格情報がより重要であろう。
さらに、講座情報全体を国が集めて提供したとしても、受講者は自分が行動できる身近な範囲しか行かない傾向がある。もし講座情報を提供するなら、むしろ企画者(都道府県、市区町村の行政担当者)が面白いプログラムを求めて閲覧することになるだろうが、企画者は受講者の数と比べると数が少ないことを考えれば、よりコンテンツとして工夫をこらしたモデルとなるような講座情報の方が重要となるだろう。
(5) 現代的課題と要求課題による情報の区分と重要度
 
学習者向け情報では、現代的課題が中心となっているが、これは生涯学習の分野でいったら必要課題に分類されるもの。この必要課題の中でも現代的課題の定義が非常に難しい。資料にも色々な項目が上げられているが、国際化・情報化や人権問題、男女共同参画などを現代的課題に入れるかという問題もあるし、研究のトピックとして入れるか国の施策とするかで扱いが違う。また、現代的課題では、近年、防災学習や裁判員制度、環境問題などもあがっており、時代に応じてその緊急度は異なってくる。
一方、趣味・教養・スポーツといった要求課題があるが、こうした要求課題は、たとえば、民間教育機関の講座をみても、300〜400近い講座があるし、その分類も大変であり、この多様な学習情報のうち、どれだけの情報を国が提供する必要があるか、もし提供するなら、どうその精選を行うかを検討する必要があるし、直接的な提供ではなく、都道府県や民間教育機関、大学とリンクを張るなど提供の仕方を工夫した方がよい。
(6) 専門的な学習機関との連携について
 
特に、国の機関としての役割で期待されるが、高度で専門的な内容の講座情報や、大学や博物館などの専門機関、そして、他省庁で提供されている教育情報をどう整理して、提供していくかという点である。これは、都道府県や市町村、そして民間の教育機関では提供できない情報であろう。
また、わが国の状況を他国に提供する、あるいは逆に他国の学習情報をどう国民に提供するかという課題もある。この点で、国際的な学習機関や研究機関との連携をどう図るかも、本研究所における学習情報提供の重要な課題である。
(7) 民間教育事業や民間団体の情報について
 
民間教育事業を入れることは生涯学習振興法で謳われているので重要ではあるが、公共機関としての公共性がまず優先される。その上で、私事的な機関としてのカルチャーセンターやNPO機関の学習情報を公共機関として支援する必要がある。
特にNPOの様々な分野での講座・ノウハウ等や社会教育関係団体・NPOの所在情報も必要であり、全国的な連携があまり行われていないNPOについては、いろいろな学習領域毎にその連携を図り、国としてNPOの支援をどう図るかも課題の一つである。ただ、学習機会情報としての団体・グループ情報などは、情報の利用圏が非常に狭いので、地域の情報がわかればよいのであり、リンクで十分ではないかと考えられる。

3. 情報利用者に応じたシステムの在り方について
 
(1) 企画者と学習者の区分について
 
本システムでの「企画者」を事業提供者という定義で考えたときに、事業提供者の中には、学習者が成長して事業を提供することもあれば、参加型の企画を学習者が行う場合もある。その意味では、企画者向けの情報にも、学習者向けの情報が利用できるように、あるいはその逆もできるようなシステム利用の工夫が重要である。さらに、企画者や学習者は、生涯学習についての研究情報を必要とする場合もある。そこで、企画者、学習者に加えて、研究者の利用を区分として加えておくことができないだろうか。
(2) 研究者の利用のために
 
これまで本研究所では、教育文献、教育図書館データベースがあるが、学習者のレベルが上がってきたときに教育研究情報、大学院情報を入れておく必要がある。
研究者としては、国際的な情報として、国際機関としてのOECD、UNESCOとの連携が重要であり、その提供は他の教育関連研究機関にはみられない生涯学習情報とすることができる。
(3)  企画者の利用のために
 
全国的なレベルの講座を企画することがあるときに、国や企業がもっている研修施設・会議室がどこにあるかは有効な情報。特に、各省庁の下に研修機関があることがあまり知られていないので、国レベルで提供できると良い。
団体情報。社会教育団体やNPOなどの団体情報は、学習者が社会参加する際に重要であり、また、企画者にとっても、どんな団体と連携すればどのような新たな企画ができるかが重要となる。そこで、学習者向けだけでなく、企画者向け情報にも必要。

4. システム活用のための工夫について
 
(1)  データベースの継続性の保証について
 
情報のデータベース全体の活用の中で、国の知識ベースを継続的にやっていく必要がある。
文部科学省ホームページも旧文部省時代以前のページが消えている事例があり、資料として重要かつ必要なものは保存しておく必要がある。
資格情報のアーカイブもまた全然扱われていない。かつて国研でも資格データベースがあったが、消えてしまっている状況なのでこれもその変化は重要な情報となる。
(2) 学習情報活用のヒントについて
 
システム、サイト構成にもっていく際に、カテゴリの一つに学習のヒントコーナーを作って中身を充実させたい。
ノウハウも一つの学習材。ノウハウを理論的に支えるのは国の役割。また、国のレベルで生涯学習のプログラムの開発・評価も国の役割。
プログラムのノウハウを持っている都道府県はそれを周りの市町村に伝え、公民館活動が活発になるが、一方でノウハウのない都道府県はうまく行かない。したがって、社会教育実践研究センターの協力を得て、プログラム開発のノウハウを企画のノウハウとして提供していくといいのではないだろうか?
(3) ユーザー・インターフェイスについて
 
国の生涯学習情報のあり方を考えていくときに、年代、ニーズ、ライフスタイルに応じた情報提供が出来ていくかが大切。トップページのイメージで作っていくのは、ユーザー・インターフェイスを考える際に必要。

国立教育政策研究所生涯学習政策研究部総括研究官 立田 慶裕

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