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4 外国人児童生徒の適応指導や日本語指導について

1.現状

  •  上述のとおり、平成18年度において、全国の公立の小学校、中学校、高等学校等に在籍する外国人児童生徒は7万人を超えており、そのうち約2万2千人は日本語指導を必要とする者であり、その数は近年増加傾向にある。また、これらの日本語指導が必要な児童生徒のうち、調査時点において日本語指導を受けている者の割合は85.6パーセントとなっている。
  •  公立学校に在籍するこれらの外国人児童生徒に対しては、通常の教育課程により日本人の児童生徒と同様の教育が行われており、学習指導要領解説において、学校生活への適応を図るとともに、外国における生活経験を生かすなど適切な指導を行うこととされている。具体的には、日本語の習得や教科指導、不適応の問題に配慮するとともに、外国人児童生徒が有する外国での生活や外国の文化に触れた体験を、教科や総合的な学習の時間などの中で、本人及び他の児童生徒の学習に生かせるような取組を行うことが求められている。
  •  こうした点を踏まえ、学校においては、国際教室や日本語指導教室を設け、取り出し指導や補充的な指導、チーム・ティーチングによる指導など特別な指導形態を交えながら適応指導や日本語指導を行っている。また、指導体制としては、学級担任や外国人指導担当の教員による指導に加え、支援員や通訳等の外部人材を活用しながら行われている場合も多く見られる。
  •  国においては、外国人児童生徒の教育を支援するため、これまで次のような取組を実施している。
    • ア 外国人児童生徒等を受け入れる学校における日本語指導の充実を図るため、日本語指導を行う教員の加配措置を実施しており、平成20年度予算においては全国で985人を計上し、その給与費の3分の1を負担している。
    • イ 独立行政法人教員研修センター(NCTD)において、外国人児童生徒の指導にあたる教員や校長、教頭等の管理職等を対象に、外国人児童生徒の日本語指導や外国人児童生徒を受け入れた場合の学校運営等に関する「外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修」を実施している。
    • ウ 「ようこそ日本の学校へ」、「にほんごをまなぼう1〜3」などの教材や教員用指導資料を発行するとともに、教科指導等を通じながら外国人児童生徒の学習言語能力の育成を目指す「JSLカリキュラム」小学校編及び中学校編を開発し、ワークショップを開催するなどしてその普及を図っている(注)。

      • (注) JSLカリキュラム
        Japanese as a second language(第二言語としての日本語)カリキュラム(外国人児童生徒の初期指導から教科学習につながる段階の指導を支援するための教員用の指導資料)
    • エ 外国人の就学支援や拠点校を中心とした外国人児童生徒等の学校での受入体制の在り方について調査研究を行う「帰国・外国人児童生徒受入促進事業」を実施している。平成20年度からは、都道府県や市町村における先進的な取組を踏まえつつ、学校入学前の外国人の子どものための初期指導教室(プレクラス)の実施や外国語の分かる地域人材を支援員として学校に配置する事業を新たに実施している。
  •  また、都道府県や市町村においても、それぞれの地域において、教員を対象とした研修の実施や、支援員や通訳等の外部人材を学校に配置する事業の実施、教材や指導資料の開発、放課後等における日本語教室や学習教室の開催等地域の実情に応じた様々な取組が行われている。

2.今後の方策

  •  現在、上述のような取組が行われているが、日本語指導が必要な外国人児童生徒数が増加傾向にある中、外国人児童生徒の適応指導や日本語指導にあたっては、引き続き、次のような課題がある。
    • ア 初期の適応・日本語指導から学習言語能力の育成のための指導までの指導内容や指導方法の改善・充実
    • イ 学校における外国人児童生徒の指導体制の構築
    • ウ 外国人児童生徒の指導にあたる教員や指導支援員等の養成・確保
  •  このため、これらの課題に対応した取組について順次提言するとともに、外国人児童生徒の進路や生徒指導上の問題等も重要であることから、これらに関する取組についても述べることとする。

(1)指導内容・方法の改善・充実

1学校入学前の初期指導教室の開催

  •  現在、市町村の中には、学校への入学を予定する外国人の子どもを対象に、プレクラス等の初期指導教室を開催しているところがある。こうした取組は、外国人児童生徒の学校生活への円滑な適応や、学校側の日本語初期指導に関する負担軽減、また、外国人の子どもの就学促進の観点から効果的であり、初期指導教室を普及していくことが適当である。
  •  このため、国においては、現在、帰国・外国人児童生徒受入促進事業の中で就学前の外国人の子どものための初期指導教室を本事業の委嘱先の地方公共団体においてモデル的に実施している。今後、本事業における取組による成果と課題を踏まえつつ、全国的に普及するための方策を検討することが必要である。
  •  また、市町村においては、主として編入学の児童生徒を対象とした初期指導教室も開催されており、上記の趣旨から、このような取組が促進されることが重要である。
  •  なお、初期指導教室の実施にあたっては、当該教室に参加する外国人の子どもの就学先となる学校との相互の連携・協力が重要であることから、本取組を実施する市町村の教育委員会においては、こうした点に十分配慮することが必要である。

2JSLカリキュラムの普及・定着

  •  外国人児童生徒については初期指導段階を終え、ある程度日常会話ができるようになった場合においても、授業になると、読み書きのみならず、聞いたり話したりすることも十分に出来ない場合が多々見られる。
  •  これは、外国人児童生徒に学習言語能力が十分に定着していないことによるものであるが、学習言語能力の育成は容易ではなく、学校における日々の教科の指導や日本語指導において、指導体制や指導方法、教材等を工夫した丁寧な指導により徐々に培われるものである。
  •  このため、国においては、JSLカリキュラムの小学校編及び中学校編を作成し、外国人児童生徒を受け入れる全国の小学校、中学校等に配付している。しかし、JSLカリキュラムを十分に活用するためには、実践的な研修が不可欠であると指摘されていることから、国においては教員に対する実践的な研修を行うためのワークショップの開催や学校におけるJSLカリキュラムを用いた授業実践の事例を収集・普及する「JSLカリキュラム実践支援事業」を平成19年度から実施している。
  •  国や都道府県等においては、引き続き、(3)に述べるような様々な研修の機会を通じ、外国人児童生徒の指導を担当する教員等を対象に、JSLカリキュラムを用いた教科指導に関する実践的指導力の育成を図っていくことが必要である。
  •  特に、国は、都道府県等において外国人児童生徒教育に関する指導にあたる指導主事等の職員を対象にJSLカリキュラムの普及・運用を図るための研修を実施するなどして、本カリキュラムを指導することのできる人材の養成に努める必要がある。また、各学校におけるJSLカリキュラムを用いた効果的な指導を支援するため、適切な授業実践の事例を広く情報提供していくことが必要である。

3日本語能力の測定方法及び体系的な日本語指導のガイドラインの研究

  •  先に触れたように、国においては外国人児童生徒の指導のための様々な教材や指導資料をこれまで開発してきたところであるが、こうした教材等の資料に基づき、どのように外国人児童生徒の適応指導や日本語指導を進めていくべきかについての体系的かつ総合的な指導指針については、現在、整備されていない。
  •  また、外国人児童生徒の日本語指導にあたっては、これらの児童生徒の日本語能力について適切に把握することが重要であるが、そのための測定・評価の方法の開発も従来からの課題となっている。
  •  このようなことから、国においては、外国人児童生徒の適応指導や日本語指導の初期指導から学習言語能力の育成までの段階を通じて学校において活用可能な外国人児童生徒の日本語能力の測定と学習への反映方法や、外国人児童生徒の体系的かつ総合的な日本語指導のガイドラインについて、調査研究を行い、開発する必要がある。

(2)学校における指導体制の構築

  •  外国人児童生徒の受入は、指導を直接担当する教員の取組のみで円滑に行えるものではなく、学校全体の取組が必要となる。このため、学校においては教職員全員の共通理解を図りつつ協力を得られるための体制づくりを図ることが重要である。
  •  学校においては、外国人児童生徒の教育に関する校内委員会を設け、校務分掌の中に外国人児童生徒の教育を明確に位置づけるなど、全校的な指導組織の整備を図ることが必要である。また、校内委員会において適宜指導の状況を報告したり、職員会議においてこうした委員会の活動を全教職員に報告するなどの活動を通じて教職員間の連携を図ることも重要である。
  •  また、このような指導体制の構築を図るためには、校長や教頭などの管理職の理解と役割が大きく、これらの者は、外国人児童生徒を受け入れた場合の学校運営について十分な知見を有しておくことが必要である。したがって、後述のような管理職を対象とした研修を充実させるとともに、これらの者の積極的な参加が望まれる。

(3)外国人児童生徒の指導にあたる教員や支援員等の養成・確保等

1外国人児童生徒の指導にあたる教員や支援員等の配置の推進

  •  日本語指導が必要な外国人児童生徒については、近年その数が増加する傾向にあり、また、これらの児童生徒が在籍する学校数も増加するなど地域的な広がりが生じてきている。
  •  このような状況の中、外国人児童生徒を受け入れる各学校において、外国人児童生徒の指導を適切に行うためには、外国人児童生徒の指導にあたる教員の数を十分に充実させなければならない。このため、国においては日本語指導に対応した教員の加配措置について必要な定数を改善するとともに、都道府県においては、当該地域の必要性に応じ、これらの教員の学校への配置を推進することとする。
  •  また、近年、教員による指導を支援するために、都道府県や市町村において支援員や通訳等の外部人材の学校への配置が進められており、国においても平成20年度から「帰国・外国人児童生徒受入促進事業」の中でモデル的にこうした外国人児童生徒支援員の配置を実施している。特に、母国語を話せる支援員については、外国人児童生徒の日本語指導や教科指導の支援、教材や学校便り等の翻訳、学校と保護者との連絡などにおいて活躍が期待される。
  •  このため、都道府県や市町村においても、こうした支援員の配置を引き続き進めていくことが必要である。また、国においては、「帰国・外国人児童生徒受入促進事業」における外国人児童生徒支援員の配置の取組を検証し、その結果を踏まえながら、都道府県や市町村におけるこれらの支援員等の配置を更に支援する取組を実施することとする。

2外国人児童生徒の指導にあたる教員や支援員等の人材の養成・確保

  •  学校において外国人児童生徒の教育を適切に実施するためには、外国人の子どもの持つ言語や文化に対する理解をもち、外国人児童生徒の日本語等の指導や国際理解教育に関する知識、技能、意欲を持った教員や支援員を養成し、確保しなければならない。このため、国、地方公共団体、大学等においては、当面、以下のような取組を実施するなどして、これらの教員や支援員の専門性の確立を図ることが必要である。
    • ア 教員養成系大学等においては、当該大学等の所在する地域の必要性に応じ、教職課程に在籍する学生等が日本語教育や国際理解教育を履修することを促進する取組を行うとともに、国や都道府県等においては、大学等のこのような取組を支援すること。
    • イ 都道府県・市町村においては、地域の必要性に応じつつ、外国人児童生徒の日本語指導等にあたる教員や支援員の採用、確保等にあたり、日本語教育や国際理解教育等に関する知識・経験・能力等を有していることを観点の一つとして考慮すること。
    • ウ 国においては、地方公共団体等を対象とした教員研修に関するモデル事業を実施し、都道府県や市町村等の研修実施者が効果的、効率的に上記の研修を行えるよう、研修マニュアルの開発や研修事例の情報提供などの支援を行うこと。
    • エ 国・都道府県等においては、学校が組織的に外国人児童生徒を受け入れ効果的に指導していけるよう、「外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修」などの校長、教頭、都道府県や市町村の教育委員会の指導主事等の中核的な教職員を対象とした研修の充実を図ること。
    • オ 都道府県・市町村においては、地域の必要性に応じつつ、その主体的な判断により外国人児童生徒の指導にあたる教員等に対する日本語指導や国際理解教育に関する専門的な研修を実施するとともに、例えば初任者研修や10年経験者研修、校内研修など現職教員のための様々な研修において外国人児童生徒に対する日本語指導や国際理解教育に関する内容を盛り込むよう考慮すること。また、免許状更新講習においても、大学や都道府県等の免許状更新講習の開設者は、その主体的な判断により同様の内容を盛り込むよう考慮すること。
    • カ 都道府県・市町村においては、地域の必要性に応じつつ、学校における外国人児童生徒の教育に重要な役割を果たす支援員等の資質向上を図るため日本語指導等に関する研修を実施すること。また、国においてはこのような研修のプログラムの研究開発を行うなど、これらの取組を支援すること。
    • キ 都道府県等においては、外国人児童生徒の受入が重大な課題になっている学校に、外国人児童生徒指導に関する経験の豊富な管理職や教員を配置するなどの配慮を行うこと。また、日本語指導担当教員の確保のため、在外教育施設教員派遣制度や独立行政法人国際協力機構(JICA(ジャイカ))の青年海外協力隊現職教員特別参加制度等を通じて海外派遣経験のある教員を積極的に配置するなどの措置を行うこと。
    • ク 国においては、外国人児童生徒の教育に携わる教員や支援員の専門性の確立に向け、その資質の向上と社会的な認証を図るために、外国人児童生徒を対象とした日本語指導の能力に関する資格・認定制度の在り方を調査研究すること。

(4)外国人児童生徒の進路指導や生徒指導等の諸問題への対応

1進路指導の充実等

  •  外国人生徒の中学校卒業後の進路としては、母国に帰国する場合のほか、国内の高等学校等に進学する場合や就職する場合などが考えられる。外国人生徒やその保護者の中には、言葉の問題等もあり自らの進路やその子弟の進路を考えるに当たって必要な情報を十分に持っていない者も多くいることが考えられる。
  •  このため、学校においては、本人の能力、適性、意欲、興味・関心等を踏まえつつ、本人や保護者の日本語能力等を考慮しながら、より丁寧かつ詳細な進路指導を行うことが求められる。
  •  また、市町村等の中には、外国人生徒とその保護者を対象に地域内で合同の進路説明会を開催し、多言語による説明や先輩の体験談なども含めて行っている場合もある。こうした取組は進路に関する様々な情報をまとめて入手できたり、出席した児童生徒・保護者と説明者や他の出席者との意見交換やネットワーク作りの場ともなり得る点で有益な取組である。
  •  市町村等においては、こうした取組の実施を検討するとともに、国においてもこうした取組への支援や市町村等への情報提供などを行うことが適当である。
  •  次に、外国人生徒の高等学校への入学者選抜については、現在、14の都府県及び8市において外国人生徒を対象とした特別定員枠が設定されており、また、35の都道府県において、受験教科数の軽減等の配慮措置が講じられていることから、さらにこうした取組が進められることが望ましい。
  •  外国人生徒であっても、高等学校への進学にあたり当該学校において求められる学力や日本語の能力を身につけることが求められるが、外国人生徒の持つ言語や文化等の多様性を積極的に評価し、国際理解教育など高等学校の教育の多様な展開を図ることも重要であり、そのような観点から都道府県等に対し、高等学校の入学者選抜に関するより一層の配慮と工夫を求めるものである。

2生徒指導上の諸問題等への対応

  •  外国人児童生徒についても、暴力行為やいじめ、不登校等の生徒指導上の諸問題や、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)等の発達障害の問題が生じていることが指摘されるが、外国人児童生徒の場合、こうした様々な問題について、言葉や行動様式の相異などの問題があり、日本人の児童生徒の場合よりも見極めにくいことが考えられる。
  •  また、教員や保護者等が、外国人児童生徒に関してこのような問題があることに気づいたとしても、このような場合への対応を相談できる外国人児童生徒を対象とした専門的な機関や専門家が少ないことが考えられ、どのように対処すればいいのかが難しいという問題もある。
  •  このため、国においては、国や地方公共団体において配置を進めている母国語が使える支援員の活用などによる効果的な対処方法に関する調査研究を行い、適切な対処事例を全国に紹介するような取組が必要である。また、都道府県や市町村においても、このような場合に対応可能な相談機関や相談者に関する情報を収集し、学校へ提供していくなどの取組を行う必要がある。

(5)国際理解教育の推進

  •  外国人児童生徒の受入にあたり、学校では、他の児童生徒に対し、外国人の児童生徒の長所や特性を認め、広い視野をもって異文化を理解し共に生きていこうとする姿勢を育むことが重要である。
  •  このため、学校においては、国際理解教育の一環として、総合的な学習の時間や各教科を活用するなどして、外国人児童生徒と日本人児童生徒の交流や相互理解を進めるような取組を行うことが期待される。
  •  また、国際理解教育を適切に実施するため、国はその効果的・先進的な指導事例の普及に努めるとともに、都道府県、市町村においては、教員の資質の向上のための研修や指導方法の研究を行うことが必要である。