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第2章 諸外国における教員のICT活用指導力の基準の現状

 本章では、先進的な取組みが行われているアメリカ、カナダ及びイギリスにおける教員のICT活用指導力の基準についての現状を紹介し、それらの特徴を考察することにより、我が国における教員のICT活用指導力の基準の策定にあたっての参考とした。

1. アメリカの取組み

(1) ISTEによる指標化
 アメリカでは、ISTE(International Society for Technology in Education)という非営利の教育団体(学会)が中心となり、児童生徒及び教員が習得すべき情報技術の指標化を進めている。ISTEの指標に強制力はないが、全ての州でISTEの指標が採用または準用されたり参照されたりしている。

(2) NETSの概要
 ISTEは、1998年6月に、まず、児童生徒が習得すべき情報技術の指標としてNETS・S(The National Educational Technology Standards for Students)を発表した。また、2000年6月に、児童生徒がこの目標に到達するために必要となる教員の情報技術の指標(教員のICT活用指導力の基準)としてNETS・T(The National Educational Technology Standards for Teachers)を発表した。その後、管理職が習得すべき情報技術の指標として、NETS・A(The National Educational Technology Standards for Administrators)を策定している。

(3) NETS・Tの構成
 NETS・Tは、6つのカテゴリーと23の項目から構成されている(表2−1参照)。さらに、NETS・Tでは、教員を目指そうとする人の学習レベルを、一般教養課程、専門課程、教育実習時及び教員1年目の4段階に分類し、各段階毎に習得すべき項目を具体化している。(【資料編】まるまるを参照)

(4) NETS・Tの特徴
 NETS・Tの特徴としては、まず、6つのカテゴリーと23の項目が、A4版1枚程度に簡潔にまとめられていることが挙げられる。また、カテゴリーの2から4は、「授業の展開に沿った構造」となっていること、カテゴリー4に我が国の「情報モラル」に相当する内容を含んでいること、カテゴリー5に我が国の「校務の情報化」に相当する内容を含んでいることなども挙げられる。

(表2−1)
 NETS−T(The National Educational Technology Standards for Teachers)一覧表
1.情報技術の利用と概念 A. 教師は、情報技術に関する概念について、初歩的な知識、経験、理解を示す。
B. 教師は、現在・将来の情報技術に遅れること無く、継続的に増えていく知識と経験を示す。
2.学習環境と学習経験の計画と設計 A. 教師は、学習者の様々な要求を支援するように、情報技術を使った教授戦略を応用した、発達段階に適した学習機会を設計できる。
B. 教師は、学習環境と学習経験の計画にあたっては、情報技術を利用した教授方法や学習方法に関する最新の研究を応用する。
C. 教師は、情報技術資源を同定し、それらの正確さと適切さを評価する。
D. 教師は、情報技術資源の管理について、学習活動における文脈で計画する。
E. 教師は、生徒の学習管理について、情報技術によって強化された環境において、戦略を計画する。
3.指導、学習、カリキュラム A. 教師は、コンテンツ標準と生徒の情報技術標準に合致した、情報技術により強化された経験を促進する。
B. 教師は、生徒の様々な要求に合致した、学習者中心戦略を支援するために、情報技術を利用する。
C. 教師は、生徒のより高次な経験と想像力を開発するために、情報技術を適用する。
D. 教師は、情報技術により強化された環境で、生徒の学習活動を管理する。
4.評価 A. 教師は、さまざまな評価テクニックを用いて、主題についての生徒の学習評価にあたって、情報技術を適用する。
B. 教師は、指導技能を高め、生徒の理解を最大化するために、情報技術を利用して、データを集め、評価し、結果を解釈し、発見を相互に交換する。
C. 教師は、生徒が、学習、コミュニケーション、生産性のための情報技術資源を適切に利用したことを評価するに当って、複数の方法を適用する。
5.生産性と職業技能 A. 教師は、継続的な職能開発と生涯学習のために、情報技術資源を利用する。
B. 教師は、生徒の学習を支援するために情報技術を利用することに関して、計画したことを説明できるために、自己の職業技能を継続的に評価し見直しを行う。
C. 教師は、生産性を向上させるために、情報技術を適用する。
D. 教師は、生徒の学習を育てるために、相手、親、巨大なコミュニティと通信し、協調するために、情報技術を利用する。
6.社会的、倫理的、法律的、人道的問題 A. 教師は、情報技術の利用に関連した法律や倫理的慣習を分かりやすく解説し、教える。
B. 教師は、さまざまな背景、性質、能力をもった学習者を学習可能とするまたは学習能力を強化するために、情報技術資源を適用する。
C. 教師は、多様性を生み出す情報技術資源を同定し、利用する。
D. 教師は、情報技術資源の安全で健全な利用を推進する。
E. 教師は、すべての生徒に、情報技術資源への公平なアクセスを提供する。

(出典:「まるまる」)

2. カナダの取組み

(1) カナダの取組みの背景
 1999年のカナダの統計PCEIP(Pan-Canadian Educations Indicators Program)において、各教科指導において教員がコンピュータを活用する知識やスキルが不足していること、教員に対して十分な研修が行われていないことなどが原因で、児童生徒のICT習得目標の到達を拒んでいることが明らかとなった。
 こうした状況を踏まえ、各州の教育省は様々な施策を打出し、その結果、ほとんどの州の教員育成機関において新任教員のためのICT活用能力指標(テクノロジー・コンピテンシー)が策定されている。
 これらの指標には、「各教科において指導に必要なソフトウエアを利用するためにコンピュータシステムを運用できる能力を備えている」や「コンピュータや関連技術を活用し、既存の教授理論や研究、評価方法を探求することができる」などのチェック項目が盛り込まれている。

(2) アルバータ州エドモンド学校区の事例
 カナダでは、州レベルでの取組みに加え、学校区レベルでの地域性を重視し、教育現場のニーズを反映した能力指標を規定している例がある。表2−2に、アルバータ州エドモンド学校区の能力指標「21世紀のスタッフに必要なコンピュータテクノロジースキル」について示す。

(3) エドモント学校区の指標の特徴
 教員としては、A1〜A8の基礎知識に加え、T1〜T3のICT活用指導力が必要であるとしている。我が国の用語を用いると、T1は、校務処理や授業評価におけるICT活用、T2は、教科指導におけるICT活用、T−3は、児童生徒の情報活用能力の育成のためのICT活用に近い内容となっている。
 また、各項目をさらに具体的にしたチェックリストを設けていることも特徴的である。

表2−2「21世紀のスタッフに必要なコンピュータテクノロジースキル」

Project XXI:Computer Technoiogy Skills for the 21st Century Staff
 21世紀のスタッフに必要なコンピュータテクノロジースキル


 チェックリストは基礎知識編(A−1からA−8)と専門知識編(T−1からT−3)に分かれ、5段階(1できない、2まあできる、3できる、4よくできる、1とてもよくできる)で評価される。
 目標は全教員がすべての項目においてレベル3(できる)のスキルを満たすことである。自己評価に当たっては、各レベルのすべての項目に該当しなければならない。(各レベルの小項目については【資料編】○−○を参照)

【基礎知識編(教員・学校長・事務員共通)】
A−1  基本的なコンピュータ操作(スタンドアロンやネットワーク環境におけるハードウエアやオペレーティングシステムの理解を含む)
A−2  ファイル管理(スタンドアロン・ネットワーク環境下)
A−3  ワープロ(テキストおよび画像の入力、編集、フォーマットを含む)
A−4  電子メール(特にMS Exchange
A−5  インターネットおよびイントラネット(特に学校区のウェブサイトについて)
A−6  データおよび情報管理(特にデータベースや表計算の利用価値を理解していること)
A−7  業務に適したツール選択
A−8  知識やスキルを応用した新しい環境への対応(特にオペレーティングシステム・ソフトウエア・周辺機器のアップグレード)

 上記の基礎知識(A−1〜A−8)に加え、教員は以下のスキル(T−1〜T−3)を保有しなくてはならない。

【専門知識編(教員用)】
T−1  生徒情報の効率的な管理
T−2  教授法向上のための教材やプレゼンテーション資料作成
T−3  恣意的なテクノロジー活用による生徒の能力開発(特に総合学習的な分野において効率的なテクノロジーの活用能力)

(出典:「まるまる」)

3. イギリスの取組み

(1) イギリスの取組みの背景
 イギリスでは、1988年の教育改革法により、ICTナショナルカリキュラム(教科の各領域、各レベルごとに児童生徒の学習到達目標を詳細に記述している全国共通のカリキュラム)が導入され、教員のICT活用指導力の向上が強く求められるようになった。

(2) TTAの取組み
 イギリスでは、TTA(Teacher Training Agency)という教員研修のための独立行政法人が、ICTナショナルカリキュラムと連動して、新人教員向けのICTに特化した教員に期待される能力を発表している。この中で、教員に特に求められる能力の中でも、特に「各教科指導において効果的にICTを活用するために、ICTをいつ使うべきか、いつ使わないか、どのように使うかがわかること」が重要であるとしている。
 TTAはICTスキルに関する教員の育成のニーズに応えるため、様々なICT教員研修を実施している。教員研修の実施自体はTTAが認定した民間会社が行ない、どの会社の研修を受けるかは、学校や地方教育当局が判断し、教員は勤務外の時間に研修を受けることになる。TTAは、研修を受講した教員に対して期待するICTスキルの到達目標を詳細に明記し、教員研修の結果責任を果たしている。(表2−3参照)

(3) TTAのICT到達目標の特徴
 5つの目標のうちの3つの目標は、授業準備、授業中、授業後の評価におけるICT活用方法となっている。また、5番目の目標に「校務処理におけるICTの活用」が挙げられている。さらに、18に分類された教員研修の成果の内容について、具体的に例示する小項目が作成されていることも特徴である。

4. 諸外国の取組みのまとめ

 以上、我が国における教員のICT活用指導力のチェック項目を検討する際の参考として、アメリカ、カナダ、イギリスの取組状況について調査を行った。
 当該3カ国は、学校におけるICT環境整備はほぼ完了しており、次の段階である教員のICT活用指導力の向上に政策の重点を移行している。
た、それぞれの取組みに共通する傾向として以下の4点が挙げられる。
  教員のICTに関するスキル指標を確立していること
その指標は、ICTの教科を担当する教員のみでなく、他の教科を含む全ての教員を対象としていること
指標が全国統一ではなく、地域のニーズを反映できるように一般的な学習内容と具体的な到達目標を含んでいること
指標は自己評価のためのものであり、自己評価の結果は教員の育成プログラム、研修プログラムの開発・改善に利用されること

(表2−3) TTAが設定する教員研修における教員のICT到達目標

期待される教員研修の成果は18領域に分類されて定義されており、大きくは以下の5点を目標に掲げている。
  授業計画の際のICT活用方法がわかる
教科指導において、ICTをいつ使うか、使わないか、どのように使うかがわかる
クラス全体を指導する際のICT活用方法がわかる
ICTを活用した際の生徒の学習評価方法がわかる
最新情報を維持し、ベストプラクティスを共有し、効率的な仕事をするためにどのようにICTを活用すればよいかがわかる。

Section A 効果的な指導法及び評価法 1.教科やそれぞれの段階の指導目標を達成するために、いつICTを使用するのがよいか、また逆に、どんな時にICTを使うと効果が薄れ、不適切なのかを、教師は知る必要がある。これらの決定をするためには、ICTの機能及び教科指導目的、学習目的を達成するために教師がICT機能を使う方法を説明出来なくてはならない。詳細は以下のとおりである。
(【資料編】2−2−1参照)
2.教科関連の目的を達成するために、ICTを効果的に利用する方法を教員は心得ていなくてはならない。
例えば:(【資料編】2−2−2参照)
3.授業のどの場面にICTを利用するかに関して、教員は授業計画段階で以下のことを明確にする必要がある。
(【資料編】2−2−3参照)
4.教科学習目標に到達するために、教員はICTの教材を効果的に事業に関する方法を知っているべきである。
例えば:(【資料編】2−2−4参照)
5.通常教室学習の中で、特殊児童を指導する際のICTの機能を教員は認識出来なくてはならない。ICTが教科内容のどこで、特殊児童のニーズに答えられるか。
6.多岐にわたる一般的或いは教科内容に関連するソフトウェアを批判的に考察した上で、教員は、指導目標を達成するため、最も適切なICTを選択、使用出来るべきである。
7.教科内容を通して、生徒のITスキルを発達、強化させていくために、ICTがどのように役に立つかを教員は知っているべきである。指導の方法は以下のものが考えられる:(【資料編】2−2−7参照)
8.ICTを利用した場合の生徒の学習状況をチェックする方法、また、教員自身が指導においてICTがどれだけその指導に貢献したかを評価する方法を、教員は理解しなくてはならない。教員は以下のことができなくてはならない。(【資料編】2−2−8参照)
9.加えて、3〜5歳の児童を教える教員は、保育園などの生徒にICTを紹介する重要性を理解し、ICTがこれらの年齢の子供達に及ぼす貢献度を認識しなくてはならない。例えば:(【資料編】2−2−9参照)

Section B ICTに関する教員の知識、理解、及びその能力 10.11〜18段階で述べられるICTの内容に関連して、教員は以下のことが出来なくてはならない。(【資料編】2−2−10参照)
11.教員は、全ての教科に通じる指導法を支援するICTの分野に精通し、十分に利用できなくてはならない。(例:ワープロ、Email、プレゼンテーションソフトウェア、データ処理)また、(ネットワーク管理者、システム管理者としてではなく)ICTの一般利用者のレベルで、あらゆる種類のICTを使えなくてはならない。例えば:(【資料編】2−2−11参照)
12.教科内容、生徒の年齢層に関連して、教員には以下のことが要求される。(【資料編】2−2−12参照)
13.関連の教科内容や段階における授業や学習を支援するために、個別にあるいは一緒に利用するICTの特徴を知るべきである。(【資料編】2−2−13参照)
14.授業準備やそのプレゼンテーションをより効果的にするために、ICTを利用することがどれほどの可能性を持つかを教員は理解しなくてはならない。しかし、以下のことを考慮にいれるべきである。(【資料編】2−2−14参照)
15.教員には以下のことが要求される。(【資料編】2−2−15参照)
16.以下に述べるそれぞれが、教える生徒の年齢層や教員の専門教科にどれくらい当てはまるかを、教員はしるべきである。(【資料編】2−2−16参照)
17.教員は以下のことを念頭におくべきである。(【資料編】2−2−17参照)
18.教員自身の専門性を高めるために、また管理体制、官僚的要素を減少させるために、どうやってICTを利用したらよいかを心得るべきである。以下を含める。(【資料編】2−2−18参照)

(出典:「まるまる」)

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