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参考資料2 HPC人材育成のためのコンソーシアムの役割について

HPCI人材育成検討WG
平成24年3月30日

1.はじめに

 平成21~22年度において,「HPC人材育成のための教育のあり方検討会」を設置し,HPCを活用できる人材育成・教育のシステムを検討してきた(同検討会中間報告参照)。大学におけるカリキュラムの考え方については同報告に詳しく述べられている。これを踏まえて,コンソーシアムが発足するにあたり,コンソーシアムやその構成機関がHPC人材育成に関していかなる役割を果たすべきかを検討するために本WGを発足させた。
 コンソーシアムは,HPCIシステム構成機関とユーザコミュニティ代表機関をはじめとして計算科学技術に関連する者が一同に集まる我が国で唯一の場であり,我が国の計算科学技術の振興方策等について,コミュニティの幅広い意見を集約し,またその実現を図ることを目的として国及び関係諸機関へ提言を行うことをその活動内容としている。
 HPCを活用する人材の育成は,関係機関の今後の発展のためにも必須の課題であることから,今後のコンソーシアムにおいては,関係機関によるこれまでの様々な取組みを踏まえつつ,より効果的な人材育成に関する具体的な方策等について適切な提言を行っていくことが必要であると考えられる。とくにどのような場で活躍する人材を育成することがいま必要とされているのかを意識した議論が必要である。この視点からWGでは検討を行い,これを踏まえて以下の通りまとめた。
 2節では,コンソーシアムが平成24年度に発足するにあたり,直ちに取りかかることが必要と考えられる活動についてまとめた。3節では,早急に具体化を検討すべき事柄について述べた。4節では,中長期的な視点で継続的に検討を行うべき課題についてまとめた。

2.早急に具体化すべき事項

 コンソーシアムは,関係諸機関におけるHPCを活用する人材の育成を支援するため,以下の事項を早急に具体化すべきである。

1) 検討体制の整備

 コンソーシアムにおいてHPC人材育成に関する具体的な方策等の検討を行う体制を整備する。コンソーシアムに担当の理事を置き,HPCI運営機関において検討を行う体制を整備する。コンソーシアム構成機関と密接な連絡を保ち,育成すべき人材像について理解を深めるとともに,構成機関をはじめHPCIを活用した人材育成等を進めていくための体制整備を進めている戦略プログラムの各戦略機関等との連携のもとに必要な活動が行われるよう適切に対応する。また,次節に挙げる具体化の検討を始めるべき事項についてもこの体制の下で検討を行う。

2)情報の一元的提供

 コンソーシアム構成機関が関係する人材育成プログラムの整備,調整,交流,連携を促進するため,人材育成に関する情報の一元的提供を行う仕組みを構築する。まずは,ポータルによる情報共有,一元的な情報提供を早急に具体化する。

3)コンテンツの相互利用の促進

 効率的かつ効果的に人材育成を推進するために,いずれかの機関が中心となり,HPCI運営機関における人材育成の検討活動とも連携して,コンテンツの相互利用を実現するしくみを構築することが必要である。これにより,コンソーシアムの各機関等で実施されている講義,セミナー,サマースクール等の相互利用,リモート配信,教材蓄積・利用の実現が期待される。諸外国ではすでに教材のリモート配信,オンデマンド教育が行われているところもあるので,このような海外のコンテンツの調査や収集の可能性を検討する。

3.早急に具体化の検討を始めるべき事項

 人材育成に関して,早急に実現すべき重要な事項であるが,どのように具体化するか議論がまとまっていない問題がある。これらについて,早急に具体化の検討をコンソーシアム構成機関および戦略機関等で始めるべきである。

1)「京」による若手人材育成方策

 「京」の利用として,一般利用枠の中に若手人材育成のための利用が提案されているが,この活用方策について検討する。とくに,大学等の教育コースにおける利用については,一般公募と異なる配慮が必要である(公募時期や応募主体,選考基準など)。この計算資源を効果的に使って人材育成が促進されるよう検討する。

2)国産ソフトウェアの教育現場での活用,普及

 これまで我が国で開発されてきたソフトウェアには優れたものが多く,これを教育現場でも積極的に活用するべきであるにもかかわらず,これまでの活用は限定されていた。国産ソフトウェアの普及促進の観点からも,教育現場での活用が望まれる。とくに平成23年度には次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェア研究開発プロジェクトが,平成24年度には次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発プロジェクトおよびイノベーション基盤ソフトウェア研究開発プロジェクトが終了することを踏まえ,これらのプロジェクトで開発されたソフトウェアを取り入れた教育活動の在り方を早急に具体化し,戦略機関等で実施する必要がある。あわせてCREST,次世代IT基盤構築等で研究開発がすすめられたソフトウェアについても,開発者の協力を得て,各機関での教育現場で活用の在り方を検討する。

3)産業界のための人材育成

 産業界においては人材不足が深刻な問題となっていることを踏まえ,大学および産業界が互いの問題意識を共有し,産業界で活躍できる人材育成のあり方を検討し,具体策を打ち出すことは焦眉の課題である。産業界が新規採用人材として期待するところやすでに社会人として研究や設計開発の中核を担っている企業人に対する社会人教育の要件等,多様な人材育成のあり方を検討し,具体化する必要がある。また,すでに各機関で行われている企業人向け講習会・教育プログラムを全体的な視点で調整するべきである。あわせて企業人の短期の大学への受け入れ制度や企業への講師派遣のあり方等の具体化を検討する。

4)アウトリーチ活動

 HPC人材の裾野を広げるために,計算科学を専攻しない大学生や,高校生,社会人等を対象としたアウトリーチ活動の在り方を具体化する。また,シミュレーションあるいは計算機を使って出来ることと出来ないこと,その実力と限界を正しく伝え,計算科学の生み出す,時として膨大な,あるいは難解なデータをわかりやすく整理し読み解き,結果が適切に理解されるよう伝達する活動,国民的リテラシーの向上に資する人材育成とそのあり方を検討するべきである。
 研究内容・成果の学問的意義のみならず,社会とのかかわりにおいて,国民の幅広い層への情報伝達をなしうる人材である「計算科学コミュニケーター」の要件検討と育成に早急に取り組むべきである。

4.中長期的に検討を進めるべき事項

 本WGにおいて,HPC人材育成を円滑に実現するためには,以下のような問題が重要であることが指摘された。実現には今後の検討が必要であるが,HPCコミュニティの幅広い意見を集約しつつ,関係機関における取り組みを踏まえ,具体化の議論を進めていくべきである。

1)HPCに関する資格認定制度の設立

 その技能を公的機関が認定することは,すでに活躍している高度HPC技術を修得した技術者・研究者のみならず,人材のすそ野拡大やキャリアパス形成にも寄与する。このため優れた技術を習得している人材に対して相応する社会的資格を認定する仕組みを検討する必要がある。たとえば公的な資格である技術士はすでに産業界や社会において十分認知された資格制度であるが,これに相当するようなHPC技術に関する資格認定制度のあり方を検討していくべきである。

2)人材育成に関する国際協力,とくにアジア地域において

 HPC分野の人材育成においても国際協力が望まれるところである。すでに海外においてシミュレーションソフトウェアの講習会実施や人的交流などを実施している機関等もあるので,これらの実績を踏まえ,国際協力のあり方を検討し,各機関へ提言していく。

3)計算科学に関する教育人材バンクの設置

 計算科学における教育を推進する際,対象となる技術分野が広いため,適切な人材を教員・指導員に割り当てることが難しくなりつつある。一方でシニア世代などHPC技術を若手に指導できる人材は潜在的に増えつつある。このため適切な人材による教育・人材育成を効果的に実施するための教育人材バンクの設立とその活用法を検討する。あわせて,教育プログラムや教育人材の調整を円滑に進めるために,教育コーディネータの設置・配置を検討すべきである。

4)学部,修士,博士での系統立った計算科学教育のあり方の検討

 現在の大学および大学院における教育が計算機科学に重きを置いたものと,計算科学に重きを置いたものに分かれる傾向にあり,今後の高度HPC人材教育としては不十分になっていることが指摘されている。これを解決するためにコンピュータ科学と計算科学の諸分野との緊密な連携のあり方を各教育実施機関で検討することが望ましい。昨今の産業界からは即戦力人材の育成に対する要望もあるが,これに応えるためにも,断片的な技術を身につけているのではなく系統立ったカリキュラムによる課題解決型の人材育成プログラムの整備・導入が期待される。また計算科学の特質を生かし,計算科学的手法の汎用性・普遍性に由来する共通の核を軸に,従来の学問分野の枠を超え横断した人材の輩出,学際分野の創出・形成に資する教育とそのあり方の検討も望まれる。

5)大学院教育での連携,単位互換

 HPC人材育成に関する情報が一元的に集約され,授業・演習などのコンテンツが配信されるようになると,これを大学院教育で活用することが可能になる。他の機関が提供する教育コースの受講を,それぞれの大学院のポリシーに従って単位として認定することができれば,大学院生のモチベーションが上がるとともに,大学院課程の充実にも寄与できる。大学間の連携を通じた系統的な計算科学カリキュラムによる人材育成を支援するための,計算科学共通の課題を議論する場の提供,大学間の議論を活性化する場の提供も望ましい。

6)構成機関,大学,企業等の間のインターンシップ制度の具体化

 課題解決型の人材育成の一環として,またキャリアパス検討の場として,インターンシップ制度を積極的に活用すべきであり,各教育機関においてより具体化されることが望まれる。また,企業における第一線級の技術者の大学への講師派遣,大学教員による企業内研修など,教育を受ける側だけでなく,教育を行う側の人的交流も検討されることが期待される。

7)大学・学界・産業界等における人材評価の多様化

高度なHPC技術を修得した人材が大学,研究機関や企業で十分活躍できる仕組みの在り方を検討する必要がある。とくにHPC分野を発展させるにあたって重要な位置を占めるソフトウェア技術者(SEを含む)の評価を,大学にあっては論文ではない,企業にあっては特許ではない,適切に評価しうる新たな評価軸を検討するとともに,キャリアパスを明確化することが強く望まれる。とくに我が国において遅れている技術職(テクニシャン)の確立をどう進めるか,制度の進んでいる欧米の事情を調査することも含め,幅広い視点から検討されることを期待したい。

HPCI人材育成検討WG 名簿

  伊藤 聡   理化学研究所計算科学研究機構コーディネータ
  今田 正俊  東京大学工学系研究科教授
○ 小柳 義夫  神戸大学システム情報学研究科特命教授
  金田 行雄  名古屋大学工学研究科教授
  賀谷 信幸  神戸大学システム情報学研究科計算科学専攻長
  斎藤 峯雄   金沢大学理工研究域教授
  関口 智嗣  産業技術総合研究所情報技術研究部門長
  中島 研吾  東京大学情報基盤センター教授
  兵頭 志明  兵庫県立大学シミュレーション学研究科教授

○ 座長
(五十音順 敬称略)

審議経過

第1回 平成23年9月6日(火曜日)

  • WGの検討項目について
  • 大学および企業におけるHPC人材育成について
  • その他

第2回 平成23年11月25日(金曜日)

  • HPCIの環境を活用した人材育成の考え方について
  • 企業のための人材育成とHPCIへの期待について
  • 大学におけるHPC・計算科学教育への課題とHPCIへの要望について
  • その他

第3回 平成23年12月22日(木曜日)

  • 戦略分野における人材育成とHPCIコンソーシアムへの期待,提言について
  • 大学のHPC人材育成の観点からのHPCIコンソーシアムへの期待,提言について
  • 企業におけるHPC人材育成とHPCIコンソーシアムについて
  • その他

第4回 平成24年2月22日(水曜日)

  • HPCIを活用した人材育成の取組について
  • その他

お問合せ先

研究振興局参事官(情報担当)付計算科学技術推進室

電話番号:03-6734-4275
メールアドレス:hpci-con@mext.go.jp

(研究振興局参事官(情報担当)付計算科学技術推進室)

-- 登録:平成25年10月 --