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5.電源系における研究開発

5-1. 電源系における研究開発の概要
   成層圏プラットフォームの実用化にあたっては、無補給で長期間運用できなくてはならないことから、電源系として太陽電池と再生型燃料電池の組み合わせが有望と考えられた。このシステムは、昼間は太陽電池で発電した電力の一部を使用して水電解器により水素と酸素を製造し、それぞれタンクに貯蔵する。残りの電力は、推進器、航法装置及び各種ミッション機器に供給される。夜間はタンクに貯蔵された水素と酸素を使用して燃料電池による発電を行い、推進器等に電力を供給する。
 本研究開発は、宇宙航空研究開発機構が実施した。
 平成10年度よりフィージビリティ・スタディを実施し、電源系の高効率化・軽量化のための技術的見通し、その基本的な構成や要求される仕様の検討を行った。その後、開発協議会を通じてその時々の技術状況を勘案しながら計画を変更し、その計画に従って成層圏プラットフォームの要素技術として研究開発を行った。
 なお、平成15年度には電源系技術が成層圏プラットフォーム研究開発の進め方を検討する上で極めて重要なファクターの一つであることから、企業・大学等から有識者の参加を得て「成層圏プラットフォーム電源系研究会」を設置し、電源系の技術課題とその見通しについての検討を行っている。

5-2. 事後評価結果
(1) 研究開発の実施体制
   太陽電池については、早い段階でアモルファス系から単結晶シリコン系に変更しており、研究開発スケジュールの設定及び変更は妥当であると判断できる。また、主課題であるセル材料の選定、モジュール化技術、設置法などに対しては、課題の困難度に応じた資金計画及び実施体制を敷いていたと判断できる。確保した人材についても、課題、予算から見て概ね妥当である。しかしながら、技術的な検討という面では、ピーク電力に注目しており、1日あたりの発電電力量という観点での検討が不足している。
 燃料電池については、システムの検証に重きが置かれた研究開発スケジュールとなっており、成層圏特有の課題の抽出及び解決を目指したものになっていない。すなわち、固体高分子形燃料電池にとって、自動車用や家庭用よりも低圧で機器の激しい温度変化を伴う環境条件における電解質膜の加湿や、軽量化の決め手となる金属セパレータについての検討が最重要課題であるが、これらの点に対する考慮が十分とは言えない。また、資金計画についても、これらの課題の困難度を十分に勘案したものとは言いがたい。さらに、セル技術に関する人材も不足している上、開発分野に対応した外部の燃料電池のスペシャリストをアドバイザーに迎えるなど課題の抽出に関しての適切な対処がなされておらず、研究開発の実施体制には疑問がある。

(2) 研究開発の達成状況
   太陽電池については、g/Wというピーク電力の目標に対しては達成しているとみなせるが、目標を発電電力量としていない点は実用化に対して課題を残している。また、太陽電池を飛行船に設置する際の課題は把握されているが、発電特性に関して地上付近でのデータの取得にとどまっている。実際の成層圏での日射条件や気象条件は、地上付近とまったく異なっており、特に側面に設置したセルからの出力などの予測は困難と考えられる。特許数は妥当であるものの、論文数が少なく、学会発表が限られた範囲のみであり、一層の社会への広報が必要である。費用に対するこれまでの成果などを踏まえると、達成状況としては概ね妥当である。
 燃料電池については、システムの検証という観点からは一定の技術的知見が得られており、研究開発の費用対効果を踏まえ、研究開発の達成状況は概ね妥当と考えられる。しかしながら、本研究開発が、成層圏における電解質膜及び金属セパレータについての課題の抽出及び解決を目指すものでなかったことは上述のとおりである。論文や特許数は少ない。他分野への波及効果としては、再生型燃料電池を民生用に展開することによりピーク電力需要を安定化する等の検討を行う余地はある。しかしながら、燃料電池のコアとなる構成要素である固体高分子膜が国産化されていない状況を鑑みると、波及効果の期待は難しい。

(3) 今後の課題
   太陽電池については、コストの課題が残されているほか、ピーク電力ではなく一日あたりの発電電力量の議論を行う必要がある。また、シミュレーションは、成層圏の詳細な気象データがあれば地上のシステムよりも容易であると考えられる。なお、現在、地上用、宇宙用太陽電池の開発が非常に急ピッチで進められており、成層圏における一日あたりの発電電力量という観点で見直せば、別の材料が有望となる可能性がある。今後は、メーカに対し、成層圏で使用するために開発すべき太陽電池について提案することが望まれる。
 燃料電池については、成層圏特有の低圧で激しい温度変化の環境がシステムに与える影響が検討されておらず、成層圏の環境下におけるセルの耐久性向上が急務な技術課題である。また、スタックの軽量化のためには、カーボンセパレータではなく、金属セパレータの開発が不可欠である。技術的な見通しとしては、低圧環境、低加湿運転及び長期間の運用では、金属セパレータの腐食が課題となるため、こうした成層圏特有の環境において軽量化の決め手となる金属セパレータの耐久性向上は非常に難しい。従って、現状の自動車用や家庭用の技術を結集しても、成層圏の低圧環境下において耐久性を実現させることは非常に困難であると考えられる。
 また、電源系システムとしては、太陽電池、燃料電池及び電源制御装置を組み合わせ、環境条件を考慮した電源系統合試験が不可欠である。

(4) 総合評価
   太陽電池については、全体的に許容できる範囲と判断できる。今後は小規模でも、成層圏での発電電力量の測定を行うことが最重要課題と考えられる。
 燃料電池については、再生型燃料電池のシステム検証としては一定の成果を収めたと評価できる反面、これまでの研究開発では、低圧環境、低加湿運転やセパレータの軽量化など、成層圏用の再生型燃料電池にとって最重要と推測される課題が実施されておらず、研究開発の実施方法に問題がある。今後の研究開発においては、見識者の意見を反映しながら、これらの課題を最優先に解決することが不可欠である。特に、低圧環境、低加湿運転やセパレータの腐食の問題に取り組むとともに、セパレータも含めた軽量化という本質的な課題に取り組むべきである。
 以上のとおり、電源系については、解決すべき技術課題が残されていることから、基盤的な技術の確立に向けた研究開発に取り組むことが必要である。

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