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4.飛行船分野における研究開発

4-1. 飛行船分野における研究開発の概要
   成層圏プラットフォーム研究開発の中核となる飛行船分野においては、高度20キロメートルの成層圏に到達し、無人で上昇・定点滞空・降下するために、軽量かつ高強度の柔軟膜材構造、安全かつ信頼性の高い飛行制御・追跡管制等の技術開発を実施した。
 本研究開発は、宇宙航空研究開発機構が飛行船システムを、情報通信研究機構が追跡管制システムを担当した。
 平成10年度よりフィージビリティ・スタディを実施し、その結果を踏まえシステム技術の研究を進めた。
 また、平成12年度よりミレニアム・プロジェクトの目標である成層圏滞空飛行試験及び定点滞空飛行試験に向けて設計検討を開始した。
 平成15年度には無動力飛行船により高度16キロメートルにおける成層圏滞空飛行試験を実施し、材料・構造基盤技術を実証した。
 平成16年度には動力付飛行船により高度4キロメートルにおける定点滞空飛行試験を実施し、定点に留まるための飛行制御・追跡管制技術を実証した。

4-2. 事後評価結果
(1) 研究開発の実施体制
   本研究開発以前に日本国内に大型の飛行船を設計・製造できる技術及び拠点が存在しなかったことを踏まえると、ミレニアム・プロジェクトにおいてまず小型の飛行船を設計・製造し、その経験、ノウハウを積み上げる方式で技術実証機を設計・製造するとした研究開発スケジュールは的確であった。その後、再生型燃料電池の開発の遅れを踏まえ、平成15年7月の第7回開発協議会において、技術実証機の計画を白紙に戻した判断も的確であった。
 人材については、概ね適切な人材を確保したと言えるが、必ずしも研究開発のための人員数が十分ではなく、一部メーカ任せの部分が見受けられる。
 本研究開発の技術的検討については、その結果から振り返ると、初期段階において夢を追い過ぎ、フィージビリティ・スタディが十分ではなかった。また、燃費を考えた場合に必要となる低抵抗の空力形状に関する検討や、採用すべき推進器の方式に関する検討が不十分であったと考えられる。しかしながら、平成12年4月の第4回開発協議会における成層圏滞空飛行試験機及び定点滞空飛行試験機の開発に向けた計画変更の段階では、しっかりとした技術的検討が行われている。
 成層圏滞空飛行試験における成層圏大気の直接観測・採取時の不具合については、再現試験を実施できなかったため原因を絞り込めなかったが、地上試験で機能は確認されており、原因究明としての対処は尽くされたと考えられる。また、追跡管制システムにおけるGPS複合航法装置の出力異常に対する対処についても、適切に対処されたと考える。

(2) 研究開発の達成状況
   飛行船分野については、成層圏滞空飛行試験、定点滞空飛行試験における目標は十分達成された。(3)に掲げる課題は残されているものの、技術実証試験にほぼ目処をつけた技術レベルには到達しているものと思われる。
 本研究開発以前に日本国内に大型の飛行船を設計・製造できる技術が存在しなかったことを考慮すると、成層圏に40メートル級の飛行船を滞空させたこと、4キロメートルの高度で60メートル級の飛行船を定点滞空させたこと、また、そのために不可欠な地上から高層までの気象の予測及び把握を行ったことによって、多くのデータと知見を獲得した点は評価できる。ただし、成層圏大気の直接観測・採取が行えなかったことは十分に反省すべきである。また、空力特性の把握については、技術実証機による試験の困難度を考慮し、小型モデルを用いた試験による空力特性推定法及び数値解析による推算法を確立することが望まれるが、この点に関して十分な知見が得られたとは言えない。
 論文・特許等については、材料・構造の分野では高い貢献度が認められるものの、実用化を見据えたノウハウの保護及びメーカとの契約に基づく開示制限等により、全ての成果を論文・特許等にしているわけではないこともあり、本研究開発の期間としては論文・特許の数は少ない。しかしながら、口頭発表が相当数あり、今後の知の創出への貢献が期待される。
 費用対効果については、現段階で判断を行うことは困難である。
 風観測・予測技術については、副次的効果として、大学で研究されているロケットの安全かつ確実な打上げに寄与したと判断できる。また、大規模膜構造技術や、超軽量膜材料の開発、低密度環境における高効率推進技術の開発については、他の分野への波及効果が認められる。

(3) 今後の課題
   今後の課題については、成層圏環境である高温・低温、低圧、紫外線に耐える膜材の開発が必要である。特にその接合部の強度については、技術実証試験に先立ち、長期間の熱サイクル試験を含めた耐久試験評価を十分に実施することが不可欠であるが、これまでの地上における試験は不十分である。成層圏環境は地上においても技術的に実現が可能である。
 また、これまでの研究開発で68メートルの飛行船を製造しているが、成層圏プラットフォームを実現するためには、150メートルを超える大型の飛行船を製造する技術の確立が必要である。これらについては、いずれも技術的には解決が可能と考えるが、資金や時間を考慮すべきである。
 その他にも、技術実証機の空力特性推算法、定点滞空のための誘導・制御技術の高度化が必要と思われるが、いずれも適切な人材を投入することで、解決は可能であると考えられる。

(4) 総合評価
   これまでの研究開発では、人材の確保においてやや不十分な点が見られるものの、計画の変更などを含めて研究開発の実施体制及び達成状況は概ね妥当と判断できる。ただし、技術実証試験の延期及び変更については、電源系に関する問題に加え、研究開発の初期段階(フィージビリティ・スタディ)において、大型の飛行船システムについての技術的な見通しが十分でなかったことにも一因がある。
 変更後の目標である成層圏滞空飛行試験機、定点滞空飛行試験機については、期待通りの成果をあげたが、当初目標としていた技術実証機の開発のためには、上記のような、まだ解決しなければならない課題が残されている。従って、まずは、これらの課題に取り組むべきである。
 その他、これまでに得られた成果(成果リスト、論文および講演前刷集)を分野別に合本にして報告書等の付録のような形でまとめて関係機関に配付することにより、本研究開発で得られた貴重なデータやノウハウを継承することが重要である。
 さらに、北海道大樹町に構築した実験場のインフラは大変貴重であり、民間への開放や台風襲来時の退避場所としての利用のほか、飛行船に関する博物館のような施設として教育の場及び観光資源に利用することなど、大いに活用することを検討するべきである。

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