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6.通信・放送分野における研究開発

6-1. 通信・放送分野における研究開発の概要
   通信・放送分野では、平成10年度から情報通信研究機構内に横須賀成層圏プラットフォームリサーチセンターを設置して研究開発を実施した。
 平成10年度において、固定系の高速通信システム、移動系の通信システム、及び放送系の3つのシステムについて、成層圏プラットフォーム実用時のアプリケーションイメージについて概念設計を行い、実証試験が必要な項目を絞り込み、次年度以降開発研究を行うシステム、必要な搭載機器、及び地上での送受信端末機器に関する基本設計を行った。
 平成11年度から13年度においては基本設計に基づき、ディジタルビームフォーミング(DBF)アンテナ、マルチビームホーン(MBH)アンテナ、IMT−2000搭載中継器、ディジタル放送搭載機器、地上基地局機器、地上移動局機器の試作・試験を当初の予定通り実施した。
 平成14年度には、NASA(ナサ)のソーラープレーンを借用して、世界で初めて高度20キロメートルの成層圏からIMT−2000通信及びディジタル放送実験に成功し、成層圏からの通信・放送技術の利点と有効性を実証した。
 平成15年度には、次年度の定点滞空飛行試験に向けた準備として、実験機器機能の追加を図るべく、搭載用カメラ映像評価試験及びミリ波・準ミリ波機器環境評価試験を実施した。
 平成16年度には、9月の定点滞空飛行試験により、電波到来方向推定実験、ディジタル放送実験及び光空間伝送実験を実施して、飛行船に搭載した形態では初めての技術データを取得し、それぞれの技術を実証した。
 また、本分野の研究開発は国際電気通信連合(ITU)関連の世界無線通信会議(WRC)の各種会議において、周波数共用に基づいた成層圏プラットフォームに関する無線通信規則の改正や決議の決定に貢献した。

6-2. 事後評価結果
(1) 研究開発の実施体制
   通信・放送ミッションの研究開発の実施体制については、全体的に概ね妥当であると判断できる。
 対象サービスの設定、開発機器の目標、そのための要素技術課題の明確化は、いずれの判断時期にも適切に行われたと評価できる。  対象サービスの設定について、ニッチな目的に的を絞る案も出たようであるが、本来の目的を推し進める方針で進めてきたことは正しいと考える。
 平成10年度に、情報通信研究機構内に横須賀成層圏プラットフォームリサーチセンターを設置して効率よく研究開発が実施できる体制の下で実施したことも高く評価できる。
 また、当該システムの研究開発の立ち上げ期を除き、ほとんど全期間を通して通信・放送ミッションの重要な技術要素の専門家をバランスよく配置し、合計7名の研究開発要員を確保したことは、高く評価できる。
 飛行船が十分に使えない状態で、代替の試験に偏ったり、回数、実験ミッション数低減を、余儀なくされたりしたが、重要な課題は網羅され、技術的検討は十分であったと評価できる。また、NASA(ナサ)のソーラープレーンを借用しての代替実験などによる実験を実施するなど、実験手法においても可能な検討は網羅されたと評価できる。ただし、NASA(ナサ)のソーラープレーンを借用しての代替実験、定点滞空実験においては、繰り返し実施しデータを蓄積すべき実験項目が多く存在すると考えられるが、時間と経費の制約から実施が不十分であると思われる。

(2) 研究開発の達成状況
   通信・放送ミッションの研究開発の達成状況については、全体的に概ね妥当であると判断できる。
 当初からの目的である、高速無線アクセス、移動体通信、ディジタル放送のシステムに必要な技術開発目標は、それぞれ十分に達成している。
 しかし、本プロジェクトの目標が、機器開発の側面より、成層圏プラットフォームに関する魅力ある利用アプリケーションの実現性の見極めにあったのであるから、飛行船が未完である以上、ミッションの目標は達成できなかったといわざるを得ない。
 オリジナル論文15件、国際会議発表45件、標準化寄与文書20件、特許14件、その他多数の口頭発表などが行われており、大きな知的成果を挙げている。特に、日本からの勧告文書によって成層圏または高高度での通信形態が電波周波数分配の対象として設定されたことは高く評価できる。
 日本での成層圏プラットフォームプロジェクトに刺激されて、他の先進国においても同様の狙いのプロジェクトが立ち上がり、あるいは企画されている事は、プロジェクトとしての副次的効果である。

(3) 今後の課題
   通信・放送ミッションに共通する課題としては、成層圏あるいは高高度における電波干渉問題があり、このような高度に基地局を有するシステムを実用化する上で重要な課題である。実施した実験において臨機応変に解決した部分もあるが、今後飛行船を面的に配置し運用することを想定すると、将来の周波数共用化の動向などを含めて、全体的で綿密な共用可能性の検討が必要である。
 なお、成層圏プラットフォームへの実装を考えると、通信・放送ミッションの研究開発については、許容重量、許容消費電力、機構的なインターフェースなどのトータルシステムの実用化に向けての課題が残されている。つまり、プラットフォーム機構、電源系の課題の解決を見極めて、通信・放送ミッションにおける課題を整理する必要があるが、インターフェースや制限条件が明確になれば、その条件に合致するシステムを開発することに、それほど大きな困難性は無いものと思われる。
 また、成層圏または高高度における電波干渉の問題は、衛星通信と地上通信でも既に経験している課題であり、ステップを踏んで着実に研究開発を進めれば解決可能な問題である。

(4) 総合評価
   通信・放送ミッションの部分に限って評価すれば、与えられた条件下では期待通りの成果を挙げたと判断できる。一方、成層圏プラットフォームによる魅力ある通信・放送アプリケーションを実現するという当初のプロジェクト目標に対する評価としては、十分ではないが許容できる範囲と判断できる。
 成層圏プラットフォームにおける通信・放送ミッションの研究開発は、当初の目標である、高速無線アクセス、移動体通信、ディジタル放送の3つの主要システムの実証に向けて、横須賀成層圏プラットフォームリサーチセンターを拠点として着実に実施されたと判断できる。成層圏プラットフォームによる実験は、本来の20キロメートルレベルの高度では実施できなかったものの、代替手段としてジェット機やヘリコプタによる実験、NASA(ナサ)のソーラープレーンを借用しての実験及び定点滞空飛行試験機などにより、可能な限りの技術データが取得できたものと判断される。
 これらの研究開発と実験データの知的成果は、学術的にも今後の関連技術開発に有効なものが多くまた、新たなシステム研究の示唆に富む内容であることから、質・量ともに十分評価できる内容である。
 また、成層圏プラットフォームの目標も、研究内容も国際的な活動が多く、評価に海外の人間の意見を入れるのが自然である。日本国内の社会的経済的な観点のみで評価するのは、近視眼的なものとなり国益を失う。日本に期待する役割など海外の声も聞くべきプロジェクトであろう。

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