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3.企画・運営等分野における取組み


3-1. 企画・運営等分野における取組みの概要
   本研究開発は、その対象が多岐にわたり、複数の省庁及び研究開発機関が連携して行うことから、総務省及び文部科学省が共同で研究開発全体の進行管理を担当し、研究開発着手時の全体計画の策定、研究開発の進行段階における企画・運営等を実施した。
 研究開発着手にあたっては、平成10年度に技術的に成立性のあるシステム概念の明確化及び研究開発課題の整理を行うためにフィージビリティ・スタディを推進した。また、研究開発方針の検討及び研究開発の評価等を行うために、産学官で構成される「成層圏プラットフォーム開発協議会」を設立し、開発協議会における評価結果を踏まえつつ、技術実証機による飛行実証試験を目標とする研究開発計画を策定した。
 研究開発の進行段階においては、ミレニアム・プロジェクトへの参加、その後の目標の変更、研究開発の進め方等について検討を行い、研究開発を推進した。
 これらの取組みについては、適時開発協議会において議論され、その結果を踏まえて進められた。

3-2. 事後評価結果
(1) 研究開発の目標設定
   フィージビリティ・スタディでは、成層圏における気圧・気温、気象、紫外線等の環境条件に耐えうるシステムの見通しについて検討が十分ではなかった。また、研究開発計画の策定にあたっては、要素技術の開発が全て予定通りに達成されることを前提としていた。技術的な見通しは計画の当初で全て得られるものではなく、技術の進展を見極めながら適宜修正していくものであるが、このように検討に不十分な点があったことから、それまでの開発経験及び困難度を適切に勘案し目標設定を行ったとは言い難い。特に電源系の研究開発については、フィージビリティ・スタディ当時の技術動向調査により、民生の技術をそのまま利用しようとした見通しは的確ではなく、成層圏での使用環境を考慮した主体的な開発を行うとする目標設定が必要であった。
 研究開発の進行段階における目標の変更については、研究開発計画において継続的なフィージビリティ・スタディが必要であると認識されていたにも関わらず、研究開発全体を通じ、基本に立ち返った技術的検討が不十分であったため、目標変更が後追いとなり迅速に行われなかった。
 ミレニアム・プロジェクトへの参加については、ミレニアム・プロジェクトの対象となった研究開発の目標が明確化し、その達成に拍車がかかったと認められる部分もあるが、各研究開発分野の目標設定とそのための調整が十分に行われたとは言い難い。例えば、成層圏滞空飛行試験及び定点滞空飛行試験では電源系を搭載しないこととした点等、計画全体の整合性の維持に問題がなかったか疑問が残る。また、成層圏滞空飛行試験による観測項目と観測機器は非常に限られたものであり、この観測実験が地球温暖化問題の解決に対する有効性及び緊急性に応えるものでないことは当時から予見できたはずである。さらに、この目標は、技術実証機の開発に向けた道程を明確に示したものではなかったことから、的確に目標の変更がなされたとは言い難い。
 そのような中で、平成15年度の第7回開発協議会において「まずは、16年度の定点滞空飛行試験終了後、ミレニアム・プロジェクトの成果をとりまとめて事後評価を行う」としたことは適切であった。また、平成16年度の第8回開発協議会において「平成17年度から当分の間、文部科学省は、電源系に関する要素技術等に係る研究開発を引き続き実施する。また、総務省は、通信・放送分野に関する研究開発を引き続き実施する」とした決定は、ブレークスルーを生み出すような研究を粘り強く支援するという観点からは、適切であった。
 なお、成層圏プラットフォームの将来構想の検討が明確でなかったことから、これを踏まえた観点からのミッションの検討が必ずしも適切に行われなかったとの指摘があった。

(2) 研究開発の推進方策
   全体スケジュールの設定については、当時のフィージビリティ・スタディに基づくと、概ね妥当であったと考えられる。しかしながら、フィージビリティ・スタディに不十分な点が見受けられ、そのため、開発計画の設定において見通しが甘かったと考えられる。フィージビリティ・スタディが十分であれば、研究開発スケジュールをより適切に設定及び変更ができたものと思われる。
 電源系に起因する問題については、平成14年度に開催された第6回開発協議会において、「電源系に関する技術動向の変化を受け、開発方針を見直し、今後1年間かけて、技術実証機の在り方について検討を進める」とされたが、明確な研究開発の方針を定めず、漫然と研究開発の継続を認めた開発協議会の判断には問題がある。また、電源系の技術動向の変化を受け、平成15年度には、「成層圏プラットフォーム電源系研究会」において課題の抽出が行われたが、全体の研究開発スケジュールの中では遅すぎた。さらに、技術実証機及び電源系の検討は、いずれも1年近くを要しており、より迅速な対応が必要であった。こうしたことから、電源系に起因したスケジュールの変更が適切に行われたとは判断できず、疑問がある。
 資金計画及び推進体制については、プロジェクト全体の長期的な見地からの困難度の順位付けがなされていなかったことから、要素技術、特に再生型燃料電池の研究開発の初期段階により多くの予算と人材を投入するべきであったにも関わらず、そのような資源配分がなされなかった。燃料電池については、民生用の開発が進む中、システムとしての検証に主眼が置かれ、要素技術としての課題の洗い出しやそれに基づく資金計画・推進体制への反映が行われていない。また、ミレニアム・プロジェクトについても、環境対応であるにも関わらず、中核である大気観測ミッションへの資源配分が十分でなかった。
 研究開発実施主体の選定については概ね適切であったと思われるが、電源系の開発に関しては、主体的に開発ができる機関であるかという観点を考慮していたか疑問が残る。
 推進体制内の役割分担は、より適切な役割分担があったと思われる。実際に行われた目標設定においては概ね適切であった。ただし、省庁を横断する研究開発の中で、責任を持ってその全体を見る組織・ポストが明らかであったとは言えない。また、指揮系統が明確でなかったという観点から考えると、意思疎通が円滑であったとは言えない。

(3) 今後の課題
   今回の研究開発における最大の問題点は、目的及び目標の実現のために全体を統括し、責任を持って計画を推進する統括開発責任者(Principal Investigator(PI))が置かれなかったことであり、体制上の根本的な改善が必要である。今後取り組む際には、この改善が不可欠である。なお、PI及び研究開発実施主体の選定等には、民間企業を含めた公募を行い、競争を促すことも検討の余地がある。
 本研究開発のような大型プロジェクトは、上述のような責任の所在を明らかにする推進体制に加えて、第三者による継続した外部評価が必要である。それによって、研究開発の継続を前提とせず、研究開発に困難が生じた際は、適宜計画を見直し、場合によっては部分的な中止を決断できるような仕組みを設けるべきである。
 また、計画に見直しが生じた際には、その変更にあわせて全体予算をフレキシブルに動かせる仕組みも必要である。
 目標が高く、実現に必要な要素技術の開発動向や活用するための社会的条件等が変わりうる研究開発に対しては、何度も基本に立ち返って目標を見直しながら研究開発を着実に進めていくことが重要である。また、研究開発の進捗状況を定期的に監視するような体制を作り、進捗が思わしくないような部分が生じた場合には、PIを中心として資源配分等の変更を含め、継続的な改善を図ることが重要である。
 今後、研究開発を進めるにあたっては、上記のような進め方を検討するとともに、これまでに蓄積できた経験や、航空、地球観測及び通信・放送の現場での技術の進歩を踏まえ、成層圏プラットフォームの実現に必要となる技術的条件、開発・運用コスト等について、複数の専門家による徹底したフィージビリティ・スタディを行うとともに、その後も継続的に検討することが必要である。
 なお、フィージビリティ・スタディを行う前提として、研究開発の目標達成後の将来構想が明らかとなっていることが重要である。成層圏プラットフォームを活用した具体的な将来構想を明確に設定することにより、より実効的なフィージビリティ・スタディが実施できると考えられる。また、その際、人工衛星システムとの相互補完や諸外国の技術動向等を適切に反映させることも重要である。

(4) 総合評価
   成層圏プラットフォーム研究開発は、当初の目標である150メートル級の技術実証機の開発にはいたらなかったものの、40メートル級の飛行船による成層圏滞空飛行及び60メートル級の飛行船による4キロメートル高度での定点滞空飛行に世界で初めて成功した。また、膜材の研究開発や通信・放送分野の研究開発等、個々の研究開発においても期待された成果が得られている。これらについて、高度な技術レベルに到達したことは画期的であり、多くのデータと知見を得るものであったと評価できる。この点について、世界的に見ても本研究開発の意義は大きい。
 しかしながら、研究開発の企画・運営等については、上述のとおり、研究開発着手時の研究開発の計画の練り上げ、電源系の課題に対する対応、研究開発の責任体制等が不十分であったため、技術実証機による飛行実証試験を実施するという当初の目的の達成には至らなかった。
 成層圏プラットフォームの実用化を目指すには、今回の評価の指摘事項の解決に取り組むことが必要である。今回の研究開発から得た多くの貴重なデータ及び経験・ノウハウについては、今後の研究開発に活かせるようにまとまった形で継承することが期待される。
 今後の進め方については、この点を踏まえつつ、まずは技術実証機に向けて成層圏の環境を考慮した再生型燃料電池等の要素的な研究開発に、十分な資源配分を行うなどの注力をすることが重要である。その研究開発に目処が付いた段階で、実用化を目指した将来構想の検討についても考慮の上、再度専門家による徹底したフィージビリティ・スタディを行い、研究開発のあり方を判断するべきである。

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