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5. 新法人に求められる組織・運営の在り方
     新法人が、これまでに述べてきた使命を果たすためには、業務を効率的かつ効果的に遂行していくことが重要であり、組織整備や業務運営において、以下の点に十分に留意しなければならない。

  (1) 独立行政法人制度の趣旨を踏まえた組織・運営体制の確立
   新法人は、「特殊法人等整理合理化計画」の定めるところに従い、「独立行政法人」として設立されるものである。したがって、新法人の組織・運営体制は、独立行政法人通則法等に定められた独立行政法人制度の趣旨にのっとって構築されなければならない。このことに関して、国及び新法人は、以下の諸点に留意することが必要である。

  1 法人の自主性、自律性の最大限の尊重と中期目標、中期計画に基づいた業務運営
  (a)    独立行政法人制度においては、業務運営に当たって、法人の自主性及び自律性が最大限確保されなければならないとされている。
   法人の業務運営は、主務大臣が策定する中期目標と、これを受けて新法人が主務大臣の認可を受けて作成する中期計画に基づいて行われるものであって、法人の業務運営に対するその他の国の関与は限定されている。また、自らの責任において中期目標及び中期計画を達成するため、法人の内部組織の決定、変更又は改廃更には業務運営上必要な職員数等の決定についても、法人の長の裁量に委ねられている。
  (b)    法人の活動状況が絶えず国民の目に見える透明な組織・運営の確立が求められており、情報の公開はもとより、法人自らが国民に積極的に情報を提供することが必要とされている。
  (c)    責任と権威ある第三者評価機関である「独立行政法人評価委員会」が国により設置され、業務運営の定期的評価の実施が義務付けられている。
  (d)    独立行政法人会計基準及び独立行政法人監査基準にのっとり、適切かつ公正な財務会計処理及び監査の実施が必要とされる。

  2 原子力委員会及び原子力安全委員会の中期目標作成等への関与
   新法人においては、原子力二法人と同様に原子力基本法において「原子力の開発機関」として位置付けられると考えられることから、同法に基づき内閣府に設置されている原子力委員会及び原子力安全委員会が企画、審議、決定する国の原子力利用に関する基本的な政策に沿って、事務及び事業が実施されることが必要である。
   したがって、主務大臣は、新法人の監督に当たって、これまでと同様、原子力委員会の定める原子力長計及び原子力安全委員会の定める原子力安全研究年次計画等の国の原子力利用に関する基本的な政策との整合性を確保することが必要である。
   この点に関しては、両委員会からも意見が表明されているところであり、これを踏まえて、国においては、主務大臣の中期目標の作成等について、両委員会による主務大臣の監督権の行使に対する適切な関与の方法を独立行政法人制度と矛盾のない形で検討すべきである。(参考4)(参考5

  3 主務大臣について
   新法人の主務省及び主務大臣に関して、原子力二法人において複数省の大臣が共に監督してきた業務については、個別法において独立行政法人制度にのっとった形式で業務の共管関係を規定すべきものとされている。

  (2) 経営の基本的考え方
  1 法人全体の統一性を確保するための「強い経営」の必要性
   新法人にあっては、これまで原子力二法人がそれぞれ実施してきた異なる経営・業務運営を必要とする複数の事業を各事業の有機的連携を確保しつつ統一的、一体的に遂行することが必要となり、新法人の長は、それに相応しい経営体制を構築することが求められる。
   旧動力炉・核燃料開発事業団については、動燃改革において、異なった複数の事業を実施するにあたり、「経営の不在」の問題が指摘された。その結果、核燃料サイクル開発機構への改組の際、明確な事業目標の設定、裁量権の拡大等により経営の強化が図られるとともに、旧動燃の基礎的研究部門と商用化段階の開発部門は整理事業として切り離されることとなり、核燃料サイクル開発機構は実用化研究開発のみに特化された法人となった。
   このような経緯に鑑みれば、新法人は、日本原子力研究所が担ってきた基礎・基盤研究等の幅広い事業領域と核燃料サイクル開発機構の実用化を目指した研究開発事業との統合となるため、その経営は、強力なリーダーシップの下、各事業の明確な目標の設定、業務遂行方法の明確化及び柔軟性の確保、迅速な意思決定と行動、適切な現場の裁量権の確立等に十分に配慮した上で、法人全体の経営の統一性を確保するという困難な課題に対応できる「強い経営」及びそれを支える適切な組織体制の構築が必要不可欠である。このような経営の実現によってのみ、新法人は、基礎・基盤研究、プロジェクト研究開発等といった異なる経営・業務運営を必要とする複数の事業を円滑に実施しつつ、同時に法人の経営の統一性と一体性を確保して統合による相乗効果を発揮し、基本理念にいう、総合的で中核的な原子力研究開発機関の役割を果たすことができる。

  2 定期的かつ重層的な評価の必要性
   新法人は、国民や社会、更には国際社会からも信頼と協力を得ることが極めて重要である。また、その業務運営に当たっては、特殊法人として批判を受けた業務の在り方について、徹底した改革が求められる。このため、新法人は業務遂行上の透明性を確保するとともに、情報を積極的に国民に対して発信し、説明責任を果たすことが必要である。この一環として、新法人は、その活動について外部有識者の意見を含めた自己評価を定期的に実施し、その結果を広く公表することが必要である。国の独立行政法人評価委員会による評価の範囲にもよるが、この新法人による事業の自己評価については、法人全体の全般的評価だけでなく各事業単位の詳細な費用対効果の評価も実施するなど重層的な評価が不可欠であり、新法人は、必要に応じてこのような評価の仕組みを導入することを積極的に検討すべきである。
   なお、評価に際しては、各々の評価の機能の重複を避けるとともに、評価の対象者の事務的負担が過大にならないよう十分な配慮が求められる。

  3 開かれた経営のメカニズムの導入
   1に示した経営を実現するためにも、新法人の長は、大学、産業界等の第三者からの意見を適切に経営に反映する必要があり、例えば、新法人の長直属の経営に関する諮問会議を設置すること等により、外部の関係者との十分な協力の下に経営が行える適切な経営体制を構築することが求められる。
   また、新法人は、業務運営に当たって、中期目標及び中期計画に基づき、国民の関心や社会の動向、大学、産業界等の関係者のニーズを踏まえつつ、限られた資源を「選択」と「集中」により有効に活用することが必要である。そのため、新法人において、研究開発の目標、その内容、成果の得られる時期等、新法人の実施するより具体的な研究開発戦略を、関係者の参画を得つつ、企画し立案する機能を整備することが求められる。

  (3) 業務運営の在り方
  1 研究開発の進め方
   新法人の研究開発業務においては、高い資質と意欲、目的意識を持った研究者及び技術者が中心的な担い手となるので、新法人は、そのような研究者等、特に若手の職員にとって魅力に富んだチャレンジングな事業目標や研究内容を設定するとともに、有為な人材の積極的な登用と業務の評価に基づく適切な処遇を可能とする競争的な研究環境や人事システムを構築することが必要である。
   同時に、新法人は、大学をはじめとする内外の関係機関との積極的な人事交流を促進するなど、人材の流動性を向上させ柔軟なものとすることが肝要である。
   新法人において、このような競争的な研究環境の醸成と人事システムの構築によって、より活力の高い研究開発活動の展開が期待できることから、特に、基礎・基盤研究の分野においてこの点は重要視されるべきである。
   研究開発の成果については、科学技術上の重要度や社会的意義に基づいて的確に評価し、新法人は、その評価結果を踏まえ、常に事業遂行の効率化、重点化、更にはスクラップ・アンド・ビルドに取り組んでいくことが重要である。
   特に、プロジェクト研究開発については、明確に設定された目標を達成するため、一定のスケジュールの範囲内で、チームを組織して実施されるものであるが、その際、新たな発想等を柔軟に取り入れながら、より効率的かつ円滑な実施を目指すといった観点に立って、プロジェクト研究開発の実施チームの構成に当たっては、基礎・基盤研究部門の研究者等を積極的に参加させることが適当である。
   また、プロジェクト研究開発については、社会的必要性等を踏まえ、民間事業者との連携協力のもとに実施することが重要であり、プロジェクトの節目節目には、経済社会の動向やニーズ等を反映させた厳正な評価を定期的に実施し、その結果を踏まえ、次の段階に研究開発を進めるか否かを判断することが必要である。

  2 原子力安全規制に対する協力活動における「透明性」、「中立性」と「独立性」への配慮
   原子力安全規制行政庁、原子力安全委員会等が行う安全規制に関する活動に対する国民の信頼を確保するためには、当該活動が原子力の推進活動から適切に分離独立していることが必要であるとされている。
   このような観点から、規制行政庁等が必要とする科学的データの提供や原子力事故の原因究明のための調査等、規制行政庁等から直接要請を受けて行う活動についても、同様に原子力の推進活動から適切に分離独立していることが求められてきたところである。
   従来、日本原子力研究所が、そのような要請に応えて活動してきたと評価されている。新法人においても、このような経緯を踏まえ、規制行政庁、原子力安全委員会等の要請に基づいて実施される安全研究の成果を踏まえた技術支援等は、例えば、新法人内部の独立したセンター的な組織を活動の中核とするなど、新法人の原子力推進部門とは別の組織形態とし、業務の「透明性」、「中立性」の確保の要請に対して特段の配慮を行いつつ実施することが必要である。

  3 産業界及び大学等との連携強化のためのシステムとルールの構築
   産業界との連携に関して、新法人は、共同研究、技術移転、技術協力等を効率的に行うためのシステム及びルールを検討し、相互の人事交流等産業界との連携協力を円滑に進めるなど積極的に連携を強化すべきである。
   例えば、新法人内部において研究課題の設定や研究内容に対して、定期的に実務レベルでの産業界との意見交換の場を設けるなど産業界の意見を反映させるための枠組みを整備し、産業界のニーズを適切に反映させることが考えられる。
   大学等との連携に関しては、大学等の関係者の意見を反映させる枠組みを整備することにより、大学等に対して基盤施設の活用による研究機会を提供するなど、大学の教育研究に積極的に協力するとともに、大学等の新法人の研究への参加や共同研究の一層の拡大が期待される。
   研究成果の普及とその活用の促進に関して、新法人において、研究情報の体系的収集、発信機能を強化し、研究情報の国内外における流通を促進し、研究成果の社会への還元を図ることが重要である。その具体的方策として、新法人が取得した特許等の知的財産を広く産業界の活用に供することができることを可能とする方策について検討する必要がある。

  4 人文社会科学の専門家の知見の活用
   多様な原子力の国際課題に適切に対応するため、国際対応業務にあっては、技術的知識や経験を有する国際政治に関する専門家等との連携・協力を図ることや関係国際機関との情報交流等の連携の強化を図ることが重要である。また、国民の理解増進の観点から、原子力の幅広い社会的側面を考慮すると、広報業務にあっては人文社会科学者等の専門家との連携・協力を図ることなどが効果的である。
   今後、原子力を社会の中に一層定着させていくため、国際関係や社会的受容の面においては、原子力技術の専門家による対応だけでは限界があり、業務運営に当たっては、内外の人文社会科学系を含む広範な分野の専門家等との連携及びこうした専門家等の参画が可能な体制の構築が必要である。

  5 原子力施設の安全確保の徹底と核物質防護体制の確立等
   新法人は、原子力事業者として、その保有する原子力施設や核物質等について、厳格な安全確保及び核物質防護に係る体制を確立・維持するとともに、新法人に対する保障措置等の核不拡散に係る活動に適切に対応することが必要である。

  6 新法人に対する安心感・信頼感の醸成と立地地域との共生
   新法人は、事業の実施に当たっては、事業内容、研究開発の意義・成果、安全確保への取組等について、ネガティブな情報も含めて、責任を持って分かりやすく徹底して説明することにより、国民や立地地域の理解を得るための取組を組織的、積極的に展開し、新法人の活動に対する安心感・信頼感の醸成に努める必要がある。
   特に、立地地域においては、意思決定中枢と研究開発の現場との間の責任体制の明確化を図るなどにより、原子力事業者としての責任体制を対外的に明確化し、情報公開及び公表を徹底すること等によって、地域住民の信頼を確保することが必要である。なお、その際、非公開とするものは、核不拡散、核物質防護及び知的財産権の保護等の観点から必要最小限のものに限定する必要がある。
   また、新法人が、その能力を活用して、立地地域の大学、企業等との間で連携協力活動を展開し、共同研究や技術移転を通じて、地域における科学技術や経済の発展に寄与することは極めて重要である。このような新法人と立地地域との関係においては、国の適切な関与も必要である。


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