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1. 基本認識
  (1)    原子力の研究、開発及び利用の必要性
   我が国が、自国において持続的かつ安定的なエネルギー供給体制を確立することは、二度の石油危機を経て、重要な国家的課題と認識されている。現在でも我が国のエネルギー供給構造は一次エネルギーの約8割を海外に依存する脆弱なものであり、エネルギーの安定供給は、今世紀においても、引き続き極めて重要な政策課題である。現在の主要なエネルギー源は石油や天然ガスなどの化石燃料であるが、その資源の有限性の観点のみならず地球温暖化問題等地球規模の環境保全の観点からも、エネルギー源の化石燃料から非化石燃料への一層の転換が求められている。1997年(平成9年)に採択された京都議定書を受けて我が国が制定した「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10年法律第117号)に基づき定められた「地球温暖化対策に関する基本方針」(平成11年4月9日閣議決定)において、原子力の必要性が明確に位置付けられている。さらに、昨年施行された「エネルギー政策基本法」(平成14年法律第71号)においても、安定供給の確保、環境への適合、その2つの前提の上での市場原理の活用を基本方針としており、非化石エネルギーへの利用の転換を推進すべきものと位置付けられている。
   このように、資源の有効利用やエネルギー・セキュリティの確保、更には地球環境の保全に取り組む観点から、非化石エネルギー源である原子力の研究、開発及び利用を安全確保を徹底した上で着実に進めることが必要不可欠であり、それによって我が国の経済・社会上の課題の解決に資することが極めて重要である。
   また、エネルギー利用以外の分野でも、放射線利用などの原子力の研究開発は、基礎から応用にわたる幅広い科学技術の発展や国民生活の質の向上、新しい産業分野の創出に貢献するものである。

  (2)    原子力二法人の研究開発の実績と評価
   原子力二法人は、原子力委員会や原子力安全委員会の定める計画に沿って、原子力の基礎・基盤研究やプロジェクト研究開発を推進することにより、我が国の原子力の研究、開発及び利用の発展過程において大きな貢献をしてきた。具体的な成果は次のとおりである。

   日本原子力研究所は、原子力の総合研究開発機関として、各種の研究炉・試験炉の建設、運転及びその施設の供用を通じて、我が国初の原子炉の臨界達成、原子力発電の成功など、我が国の原子力エネルギー利用や原子力研究の基盤の確立に大きく貢献した。また、高速増殖炉や新型転換炉の基礎研究の成果等を核燃料サイクル開発機構の前身である動力炉・核燃料開発事業団に移転するとともに、安全性研究等により国内外の原子力安全の確保に寄与してきている。さらに、日本原子力船研究開発事業団を統合(昭和60年)後、原子力船「むつ」の実験航海成功、核融合研究ではトカマク型臨界プラズマ試験装置(JT−60)による臨界プラズマ条件と世界最高のイオン温度達成、高温工学試験研究炉(HTTR)の建設、運転による発電以外への核熱利用の基礎的技術基盤の開発、放射線利用分野における幅広い研究領域の開拓及び産業利用への寄与など、様々な分野において世界的な研究成果をあげ、これを発信してきた。(参考2
   一方、動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉や新型転換炉の開発に取り組むとともに、ウラン探鉱、ウラン濃縮、再処理、プルトニウム燃料加工などの核燃料サイクルを支える幅広い技術開発を担ってきた。その後、同事業団は、「もんじゅ」事故などを契機にその反省の上に立った動燃改革により、高速増殖炉開発、再処理技術開発、高レベル放射性廃棄物処理処分の研究など、核燃料サイクルの確立に特化したプロジェクト研究開発機関として核燃料サイクル開発機構に抜本的に改組(平成10年)され、業務の重点化、効率化が図られた。これまで、高速実験炉「常陽」による高速炉技術基盤の確立、東海再処理施設により総量1000トンの再処理の達成などによる再処理の自主技術の確立、新型転換炉「ふげん」による世界のトップクラスのMOX燃料利用実績、高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性の提示など国際的にも高く評価される枢要な成果を挙げるとともに、遠心法によるウラン濃縮技術などの核燃料サイクル技術の開発成果を民間に移転してきている。(参考3
   このような原子力の研究開発は、長期にわたり公的資金や人材の投入を必要とするものであり、官民の力を結集して推進するため、特殊法人の形態により実施されてきた。
   しかしながら、この特殊法人による活動が結果として、事業の肥大化や非効率的運営、目的達成の遅延による費用の増大、路線の硬直化、組織体質の問題等の言わば負の側面をもたらした面があり、国民の批判を惹起してきた。

  (3)    原子力をとりまく環境の変化
   海外における米国スリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所事故や旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所事故にとどまらず、国内においても、高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故、東海再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故、(株)ジェー・シー・オー ウラン加工工場臨界事故などが相次いだことと、これらの事故に対する関係者の不適切な対応により、原子力の安全性や原子力に携わる関係者に対する国民の信頼感は大きく損なわれた。この結果、国民の原子力に対するかつての期待感は低下し、原子力に対する不安感、不信感が国民意識の中に醸成され、その支持の基盤が揺らぐこととなった。さらに、昨年8月以降に明らかとなった東京電力(株)の検査に係る不正等により、原子力関係者に対する国民の信頼を一層失わせることとなった。このほか、本年1月の名古屋高等裁判所金沢支部における「もんじゅ」の原子炉設置許可処分を無効とする判決があり、現在上訴中であるが、このような二審判決を受けた議論において、高速増殖炉開発の必要性、「もんじゅ」の位置付け及び安全性等に関して、国等がより一層地域住民をはじめとする国民への説明責任を果たすことが必要との指摘がなされている。
   また、原子力に関する人材育成を主として担ってきた大学においては、その保有する研究炉の廃止、運転停止や将来の休止が明らかになるなど、大学における原子力研究教育基盤が弱体化する傾向が現われてきており、このままでは将来の原子力分野での人材養成確保に支障をきたすおそれがあるとの懸念が広がってきている。
   一方、国際的な動きとして、次世代原子力システムについて、米国が提唱した第四世代原子力システムに関する研究協力など国際協力により開発を進めようとの動きが現われてきている。また、G8を中心とした核兵器余剰プルトニウムの処理問題に加え、イラク、北朝鮮問題や2001年(平成13年)9月の米国における同時多発テロを契機に、核不拡散、原子力セキュリティ強化の重要性について活発な国際的議論が展開されている。
   また、前述のように原子力を取り巻く社会的環境は大変厳しいものの、原子力分野からいくつかの新しい技術革新の芽が出てきていること、CO2削減のための原子力エネルギーへの強い期待があること、アジアの経済発展を受けたアジア地域における原子力開発利用の進展等を考慮すれば、我が国として原子力の研究開発を社会から信頼される形で着実に進めなければならないと考えられる。

  (4)    新法人設立の意義
   前述の原子力を取り巻く環境の変化を含めた諸情勢は決して容易な状況ではないが、これを踏まえると、今後の原子力の研究、開発及び利用を推進するに当たっては、何よりも我が国の国民や国際社会の理解と支持を得た上で、原子力基本法の精神に立脚し原子力平和利用に徹すること及び安全確保に万全を期すことが必要不可欠な基礎であり、新法人はそのための先導役を果たすことが期待される。したがって、本会議としては、この原子力二法人の統合を原子力の研究、開発及び利用を推進する上で必要不可欠な原子力に対する国民の信頼を回復する転換点とし、我が国の原子力開発を再び活性化させるとともに、前述の特殊法人による研究開発の負の側面を解消し、職員の一人一人が高いモラルをもって職務に取り組むことにより、国民の信頼を得て、新たな発展を目指す重要な機会と積極的に捉えるべきであると考える。
   原子力二法人の統合によって、基礎・基盤研究とプロジェクト研究開発の間の連携・融合・統合等の大きな効果が発揮されると考えられる。人材の交流やそれぞれの成果のフィードバックを行うこと等による研究開発の一層の効率化、スピードアップが期待されるとともに、研究開発の目標について、多様で幅広い選択肢を視野に入れ、柔軟性と迅速性を満たす研究開発の進め方を実現できる可能性が格段に高まると期待される。
   また、既存の研究開発事業の整理合理化、重点化・効率化による研究資源の有効活用の一層の推進により、今まで実現できなかった総合的な研究開発体制の実現による効率的な業務遂行が可能となる。
   さらに、原子力二法人の統合により、原子力の研究、開発及び利用にあたり必要不可欠となる原子力分野の人材育成、研究開発施設の供用、国の政策に対する技術的支援等の面でも、より充実した活動が展開されるものと期待される。
   このような意味で、この原子力二法人の統合は、我が国の原子力研究開発の再構築のため建設的かつ有意義なものでなければならない。今般の原子力二法人の統合が、このような改革をなし得る絶好の、そして最後の機会であるという不退転の決意をもってこれに臨むことを関係者に期待する。


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