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4. 国内における自然放射性物質に対する規制の考え方
4. 1 我が国における規制の現状
 放射性同位元素による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)及び原子炉等規制法においては、核種の濃度及び数量により規制が行われており、自然放射性物質で規制される核種の濃度は、74ベクレル毎グラムを超えるものとされている。なお、放射線障害防止法では、自然に賦存する放射線を放出する同位元素及びその化合物並びにこれらの含有物で固体状のものについては、370ベクレル毎グラムを超えるものを規制しており、原子炉等規制法においては、固体状の核原料物質について、370ベクレル毎グラムを超えるものを規制している。数量については、原子炉等規制法では、表4に示すとおり、ウラン量の3倍とトリウム量の合計が900グラムを超えるものについて核原料物質として届出が義務付けられている。ウラン及びトリウム以外の元素については、放射線障害防止法により3.7キロベクレル、37キロベクレル、370キロベクレル、3.7メガベクレルまでの4段階に放射性同位元素を分けて、各々の数量を超えた場合に規制対象としている。

表4 原子炉等規制法で規制される核原料物質の濃度及び数量
区分 濃度 数量(重量)
核原料物質
(使用の届出を要しない限度)
74ベクレル毎グラム
固体状370ベクレル毎グラム
ウラン量の3倍たすトリウムの量
900グラム

4. 2 規制の必要性
 土壌や空気中など環境に存在する自然放射線源からの被ばくは、制御が不可能であるか、また制御してもその効果がほとんどない場合がある。このような放射線源について、ICRPにおいては「除外」の対象としている。しかし、自然放射性物質を含む原材料を用いる産業活動や自然放射性物質を含む一般消費財の利用は、制御しうるものであり、作業者や一般公衆の被ばくを伴い、また何らかの利益を生むために選択されたものであることから、人工放射線源の利用と同様に「行為」の範疇に包含される。
 自然放射性物質からの放射線も人工放射線源からのものと同じであるから、自然放射性物質による被ばくも放射線防護を目的とした規制の対象とすべきと考えられる。しかし、自然放射性物質では、放射能は極低レベルのものから有意な被ばくをもたらすレベルまで一般の環境に幅広く分布し、その放射能濃度に大きな幅があり、「放射線による影響がとるに足らないほど小さい線量」の考え方だけに基づいて免除レベル濃度を設定して、それを超えるものをすべて規制するという方法をとることは困難である。また、産業に利用される原材料に含まれる自然放射性物質は、放射性物質として作られたものではなく、その放射性を意図して用いられてはいない。
 さらに、自然放射性物質を含む各種原材料は、過去から長く利用されており、「すでに被ばくの経路が存在している」と考えられるので、「介入」の対象としての要素を持っている。特に、原材料を取り扱う初期過程は人為性が小さいと考えられることから、「介入」の対象としての要素が大きい。ICRPでは、「介入」の対象に対して、規制の規準も「行為」のそれとは異なるものが提案されている。より適切な規制を行うことにより、効果的なリスクの軽減が期待される。
 以上の観点から、自然放射性物質の利用については、その利用形態において、人為性や実際の被ばくの可能性の観点から分類して、それぞれの特性に沿った規制の方法や免除又は介入免除について、被ばく線量に基づいた方法で対応する必要があると考えられる。

4. 3 自然放射性物質を含む物質の分類とその対応
 自然放射性物質を含む物質は、前節で述べたように分類して、それぞれの規制の対応策を考える必要があるが、表5にその分類と対応案を示す。
 表中の検討を要する事例は、文献調査及び比較的多く自然放射性物質を含むものとして考えられるものについて実態調査したものを例として記載したものである。
 表5の区分1は、規制に馴染まないもの及び規制しても放射線障害防止の効果が低いもので「除外」の対象とする。
 区分2は、過去の行為(鉱山の残土及び産業利用による残渣等)による長期的な被ばくは、「行為」として管理されていなかったため、「介入」の対象とすべきものである。
 区分3に属するエネルギー生産等一般産業における原料となる物質に含まれる自然放射性物質の濃度は、一般にBSS免除レベルよりも十分低く、産業活動自体は「行為」の対象ではない。これらの産業利用の過程で生成されるもの(石炭灰及び缶石等)は、放射性物質を含むことを意図しないで生成されたものであり、その生成は選択されたものではなく、また、生成されるものの物量及び放射能濃度は様々であることから、区分3も「介入」の対象とすべきである。ただし、これらの産業利用の過程で生成されるものを処分したり、再利用したりする場合は、区分4,5に含まれ、また、一般消費財として使用される場合は区分6となる。
 区分4における現在操業中の鉱山及び産業利用からの残渣の処分は、それらによる被ばく線量が有意に高められる場合は、基本的には「行為」に係るものとみなされる。しかし、これらの残渣は放射性物質を含むものとして認識されていないことが多く、またその放射能濃度には大きな幅があり、人工放射線源のように免除レベルを設定して規制するのは困難である。さらに、これらの残渣は過去の活動によるものと同様の処理を行っている場合も多く、処分においては区別が困難となる場合もあり、「介入」の対象としての要素もある。
 区分5の採掘、産業用原材料を用いた産業活動も、人工放射線源の利用と同様に、被ばくが有意に高められる場合は、「行為」と見なされる。ただし、これらの原材料に含まれる自然放射性物質は、放射性物質として作られたものではなく、放射性物質を含むものとして認識しないで用いられていることが多く、またその放射能濃度には大きな幅がある。これら産業利用及び採掘は、放射線の規制の歴史よりも長く、すでに被ばくの経路が存在すると考えられ、これらの原材料を処理する初期過程における被ばくは、区分4と同様に「介入」の対象としての一面も持っている。
 ICRP Publ.82によると、商品における「介入」の免除規準として年間およそ1ミリシーベルトが提案されている。1ミリシーベルト 毎年は、「行為」に対する線量拘束値の値としても提案されているので、「行為」と「介入」の両面を持つ、区分4、5の対象の物質に対する規制免除の線量規準については、この「介入」の免除のための1ミリシーベルト 毎年が適切であると考えられる。
 区分4及び5で取り扱う自然放射性物質を含む物質については、一般にその取扱量が大量であり、また、放射能濃度の部分的な変動があることや、物質の産出国や産地の鉱脈、坑道等の違いによっても変動することから、実際に濃度を測定して判断することは、現実に困難であるか、非常に大きな費用の発生が予想される。これらの物質については、免除レベルを設定するのではなく、物質中の放射能濃度の平均値がある一定値を超える可能性のある物質をあらかじめ特定し、この特定された物質を取り扱う場合に実際の作業者や公衆の被ばく線量の評価を行って、その結果1ミリシーベルト 毎年の線量規準を超える場合に放射線防護上の適切な管理を求めることが適当と考える。ここで、物質を特定するための一定値は、BSS免除レベルやRP-122の免除レベルなどを参考にすべきである。
 区分6の一般消費財の使用については、基本的に「行為」に相当し、人工放射性物質と同じ扱いをすることが考えられる。しかし、これらに含まれる放射能濃度には大きな幅があることや、放射線を意図して使用していないものもあること、さらに、これまで規制対象となっていないために広く普及していることから、一律にBSS免除レベルを適用するのではなく、合理的かつ適切な規制を行うことが重要である。そこでBSS免除レベルの濃度かつ放射能が超えるものについては、商品ごとに利用者の被ばくが一般公衆に対する線量拘束値の最大値である1ミリシーベルト 毎年(ICRPPubl.82)を下回ることを確認した上で、自然放射性物質が含まれていることの表示や使用者への情報提供など諸外国で採用されている人工放射線源の規制における型式承認に相当する合理化された規制を行うことが適切であると考える。
 区分7は、放射線を放出する性質等を意図して利用するために精製された核燃料物質やラジウム線源など放射線源として使用するものであり、人工放射線源と同様の規制となる。

表5 自然放射性物質を含む物質の分類と対応案
区分 検討を要する事例アスタリスク8 除外、行為、介入の区別 法令による規制 対応の方法 対応のための線量の目安/規準
鉱物、鉱石等に含まれる自然放射性物質の比率を高める処理をしていないもの
(区分2、3、4、5、6を除く)
庭石、研究・教育用鉱物サンプル、博物館所有の鉱物サンプル、工事現場や河原などから出た鉱石など 除外 対象外
過去に廃棄された自然放射性物質を含む残渣 チタン工場等から廃棄された残渣、不法投棄された残渣など 介入 対象外 対策レベルh 今後の検討 (1〜10ミリシーベルト 毎年)
産業で生成される灰、缶石など
(原材料として取り扱う物質は免除レベル濃度以下のもの)
石炭灰(フライアッシュを含む)、ガス田・油田の缶石、製鉄での鉱滓など 介入 対象外 対策レベル 今後の検討 (1〜10ミリシーベルト 毎年)
現在操業中の鉱山の残土、産業利用の残渣(処分) モナザイト、バストネサイト(研磨材)、ジルコン、タンタライト、リン鉱石、サマリウム、ウラン鉱石、トリウム鉱石、チタン鉱石、石炭灰(フライアッシュを含む)、その他一般消費財の原料など 行為/介入アスタリスク9 対象
一定濃度を超える可能性のあるものを特定する
特定物質の利用のうち、作業者または一般公衆が受ける線量に応じ放射線防護上の適切な管理を求める。
1ミリシーベルト 毎
(これを超えたら規制するか、介入するかを検討)
産業用原材料
(製造、エネルギー生産、採掘)
(区分7を除く)
行為/介入アスタリスク9 対象 区分4と同様 1ミリシーベルト 毎
(同上)
一般消費財
(使用)
温泉浴素、健康器具、寝具、衣類、塗料、マントル、自動車用触媒、耐火物、研磨材、肥料、湯の花など 行為 商品ごとに対象とするか否かを検討 基本的にBSS免除レベルを適用 10マイクロシーベルト 毎
型式承認に相当する制度を検討 1ミリシーベルト 毎
放射線を放出する性質等を意図して利用するために精製された核燃料物質や放射線源として使用するもの 核燃料物質(ウラン、トリウム)、ラジウムなど 行為 対象 BSS免除レベルを適用 10マイクロシーベルト 毎
ラドン 規制下にあるラジウム線源から発生するラドン 行為 対象 BSS免除レベルを適用
核原料物質鉱山における職業環境のラドン 行為 鉱山保安法の対象
住居、一般職業環境におけるラドンで上欄を除く 介入 対象外 対策レベル 今後の検討
アスタリスク8 ここにあげた事例は、文献調査及び自然放射性物質が比較的多く含まれていると考えられるものを実態調査したものについて記載したものである。なお、物質や鉱物の産地、種類、物量等により、自然放射性物質の含有量は異なってくることから、区分4及び区分5については、一定濃度を超える可能性のあるものを特定し、さらに放射線防護の必要があるものについては、適切な管理を求めることとなる。
アスタリスク9 基本的には行為であるが、行為と介入の両面を持ち、原材料を取り扱う初期過程は、介入の対象の要素が大きい。
アスタリスク10 区分7及び区分8は、今回の基本部会において規制免除に関して検討対象としていない。

   区分8のラドンについては、一般住居及び職場に関する調査の展開を待って、対策レベルを検討することが適切である。
 なお、区分7及び区分8は、今回の基本部会において規制免除に関して検討対象としていない。
 自然放射性物質に対する「介入」及びその免除レベルの規定は、その放射能濃度及び取扱量に大きな幅があり、人工放射性物質のように一定の濃度及び放射能レベルとすることは現実的ではない。そこで、「行為」に対する免除の線量規準である年間10マイクロシーベルトから「介入」に対する免除の線量規準である年間1ミリシーベルトの間で対象となる被ばくを検討すべきである。その際、線量評価に必要となる被ばくシナリオや被ばく経路の選定には客観性や妥当性が確保されていることが必要で、適切なガイダンスに基づいた線量評価を行うことが求められる。
 このことから、区分1、2、3については、法令による規制の対象とはならないが、区分4、5、6については、新たに法令による規制が必要であると考えられる。

h 対策レベル:用語解説(付録1)を参照


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