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著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第5回)議事録・配付資料

1. 日時
平成19年7月9日(月曜日)14時〜16時

2. 場所
三田共用会議所 講堂

3. 出席者
(委員)
上野、梶原、金、久保田、佐々木(正)、椎名、渋谷、瀬尾、津田、常世田、都倉、野村、生野、平田、松尾、三田の各委員
(文化庁)
吉田長官官房審議官,甲野著作権課長,亀岡国際課長 ほか関係者

4. 議事次第
(1)  開会
(2)  著作物の利用円滑化方策について
1 権利者の所在不明の場合の利用
2 権利者が複数存在する場合の利用
(3)  閉会

5. 配付資料
資料1   権利の集中管理等の現状について
資料2 コンテンツ・ポータルサイトの概要について(PDF:492KB)会員一覧
資料3 裁定制度の現状について
資料4 権利者不明の場合等の利用円滑化方策についての米英での議論について(今村先生ご報告資料)
資料5 複数の権利者が存在する場合の利用について
資料6 今後の議論の進め方について

参考資料1   ヒアリング等で出された主な意見の整理(第4回後更新版)
参考資料2 第4回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会議事録
(※(第4回)議事録・配付資料へリンク)

6. 議事内容
【野村主査代理】 それでは、定刻が参りまして御出席予定の委員の方がほぼおそろいでございますので、ただいまから、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会第5回を開催いたします。本日は御多忙の中、御出席頂きましてまことにありがとうございます。
 本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を見ますと、特段非公開とする必要はないと思われますので、既に傍聴者の方には入場して頂いておりますが、特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査代理】 どうもありがとうございました。それでは、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴頂くことにしたいと思います。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 それでは、お手元の議事次第の下半分に並んでいる配付資料一覧を御覧下さい。本日、資料として6点、参考資料として2点をお配りしております。本日は、著作物等の利用の円滑化方策が議題ということで、それぞれの検討課題に応じまして、その現状を説明する資料を配付させて頂いております。
 資料1が権利の集中管理等の現状について、資料2が上下2段に分かれている資料でございましてコンテンツポータルサイトについて、資料3が裁定制度について、資料4が権利者不明の場合の利用円滑化方策についての米英での議論について、資料5が複数の権利者が存在する場合の利用について、資料6が今後の議論の進め方についてでございます。
 それから参考資料2点は、参考資料1が前回の資料に前回出された意見を付け加えたもの、それから参考資料2は前回の議事録となってございます。
 過不足等ございましたら事務局まで御連絡下さい。

【野村主査代理】 よろしいでしょうか。それでは早速議事に入りたいと思います。
 本日は、小委員会の検討課題のうち利用の円滑化方策について議論を進めたいと思います。まず最初に、1権利者の所在不明の場合の利用について議論をして頂いて、その次に2権利者が複数存在する場合の利用について議論をお願いしたいと考えております。
 まず、事務局から配付資料の説明をお願いいたします。

【川瀬著作物流通推進室長】 それでは、お手元の資料1、2及び3について簡単に御説明をしたいと思います。
 まず資料1でございますが、権利の集中管理等の現状についてということで、簡単な1枚のメモを御用意させて頂きました。まず、著作権の集中管理につきましては、著作権等管理事業法という法律に基づく一定の規制がございます。それ以外の集中管理については基本的には規制がないということになっております。まず、その規制がある著作権等管理事業法に基づく集中管理ですが、これはいわゆる信託、代理、取次に基づくいわゆる一任型管理といいまして、権利行使を委託するわけですが、その際に、使用料の額の決定も含めて一切を事業者に任せるという形でございます。それに対しまして、次の丸の、著作権等管理事業によらない集中管理でございますけれども、これはいわゆる媒介による管理と、あとは先ほど言いました信託、代理、取次に基づくいわゆる非一任型管理といいまして、権利行使の委託はするけれども、使用料の額の決定権については自己に残しておくという性質の管理でございます。
 その一任型管理につきましては、別紙の次の表を見て頂きますと、これはもう説明するまでもないわけでございますが、現在、登録制度を実施しておりまして、比較的、新規参入が容易な形になっています。次のページの最後のものは、著作権等管理事業法のもとで業務を実施している団体とその取扱高について記載した資料でございます。
 一方、最初のページに戻って頂きまして、いわゆる媒介ないし非一任型管理でございますが、これは幾つかの分野がございます。例えば1の翻訳出版ですけれども、いわゆる翻訳エージェンシーと呼ばれる事業者は、主に媒介または代理で業務をやっておられるところが多いのですが、例えば外国の文芸作家の代理人と日本の翻訳出版にかかわる出版社との仲介の中で、その利用窓口になっておられるという実態がございます。また、美術、実演等についてもそういった一任型、非一任型管理の実態がございます。
 最後の団体間のルールに基づいた個別許諾による方法につきましては、これは権利者団体と利用者団体が団体間で基本的なルールを取り決めまして、それに基づいて個別の処理を行うというケースでございまして、ここにも書いてありますように、例えば日本俳優協会では、歌舞伎俳優の映像や写真の利用について、利用者との間で、同協会が一定のルールを作っておりますので、それに基づいて個別に処理がされているというような実態がございます。
 それから資料2でございますが、これはいわゆるコンテンツ・ポータルサイトといいまして、様々な著作物の情報をデータベース化して、一般の利用者や流通事業者等に情報を提供するという1つの試みでございまして、既に実施されているところでございます。まず2ページを見て頂きますでしょうか。その下のところにあるコンテンツ・ポータルサイト整備の背景でございますが、いわゆるコンテンツの利用者のための総合的な情報提供基盤整備が我が国では乏しく、利用しようにも目的のコンテンツにたどり着けないという指摘、それから利用しようにも、どこの誰とコンタクトして良いか分からないというような指摘、それから保有するコンテンツ情報を発信したいが、広く告知できる場がないというような要望がありまして、それがポータルサイトの整備の背景になったわけでございます。
 次のページを開いて頂きますと、そういうような要望を受けまして、政府の知的財産推進計画2005というところで、このコンテンツ・ポータルサイトの整備を推進するというような提言もなされまして、経団連が中心になってこれを推進してきたということでございます。
 そのコンテンツ・ポータルサイトにつきましては、様々なコンテンツホルダーがコンテンツの情報をお持ちなわけですけれども、それをコンテンツ・ポータルサイトに集中化をする。この集中もコンテンツ・ポータルサイトにあるデータベースに情報を集中する場合、ないしはそれぞれのコンテンツホルダないしは構成するような団体でお持ちの情報とリンクをして、分散型で見るというような両方を含んでいるわけですが、そういうことによって情報を提供していくということでございます。
 次のページの4を開いて頂きますと、コンテンツ・ポータルサイトといいましても、その機能が当面は限定されておりまして、上に書いてありますように、国内外におけるジャパン・コンテンツの情報発信、信頼の置ける事業者に対するコンテンツホルダの連絡先の紹介ということで、例えばこのシステムを通じて権利処理ができるというようなところまでは想定しておりません。
 コンテンツ・ポータルサイト運営協議会というものができておりまして、コンテンツホルダーや経団連会員企業といった方々にお集まり頂いて、その協議会ができているということでございまして、後ろから2枚目から最後にかけてですが、こういうようなコンテンツホルダー、それから権利者団体といった多様な方が会員になっておられるということでございます。
 あとは細かい点でございますので、説明は省略させて頂きます。
 それから資料3でございますけれども、これは裁定制度についての概要でございます。裁定制度といいますのは、著作権者が不明の場合に相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないというような場合に、文化庁長官の裁定を受けて、文化庁長官が定める額の補償金を供託することによりまして著作物を合法的に利用できるという制度でございます。
 別紙1という横長のものを見て頂きますと、最近、話題になっております著作権者不明等の場合の裁定につきましてはその左側でございまして、他のいわゆる裁定制度というものについては、著作権者と協議不調の場合の放送の裁定、それから著作権者と協議不調の場合の商業用レコードへの録音等の裁定、それから、これはほとんど今は実効性がないのですけれども、万国著作権条約の特例法第5条に基づく翻案権の7年強制許諾というような4つの種類のフローがあるということでございます。
 それから裁定の実績につきましては別紙2ですが、御覧のとおり、平成11年から裁定件数は増えていないにもかかわらず、対象著作物数が非常に多くなっております。これは国立国会図書館が所蔵資料のアーカイブ化を進めておられまして、それに基づく裁定がありますので、申請1件に対して非常に多くの著作物の利用を求めているということになっております。そのため、統計的には裁定件数に対し著作物の数が多くなるということになっております。
 それから元に戻って頂きまして、最初の1ページですけれども、他人の著作物を利用する場合に具体的にどういうフローチャートになるかといいますと、まず、他人の著作物を著作権が働くような形で利用したいという場合に、文化庁に相談があるわけでございまして、それから著作権者を探す相当な努力をして頂くということで、ここにもありますように、名前からの調査、利用者を通じた調査、一般または関係者への協力要請、専門家への照会ということで、通常の人が権利者を探すような方法で探して頂きます。その過程の中で権利者が見つかった場合には、これは通常の取引と同じように許諾を得て利用する。著作権者が見つからない場合には裁定を申請しまして、文化庁長官が利用の可否を決定するわけですけれども、その際に補償金の額を文化審議会に諮問しまして、答申を得て決定をする。それで利用者が最寄りの供託所に補償金を供託して著作物を利用するという形になります。なお、最後ですけれども、標準処理期間については3カ月、手数料については1件1万3,000円です。これは著作物ごとではなく、申請1件について1万3,000円ということで、申請1件の中で、例えば多くの著作物が利用される場合でも1万3,000円ということになります。
 なお、現行法では著作物の利用に関しては権利者不明の裁定制度がございますけれども、著作隣接権については、現在ないということでございまして、条約上の問題があるとの指摘のあるところから、今後、条約上の問題をクリアしながらどうするのかということについても検討して頂くと理解しております。
 以上でございます。

【野村主査代理】 どうもありがとうございました。
 それでは、本日、これに続きまして、明治大学情報コミュニケーション学部専任講師の今村哲也氏にお越し頂いておりますので、アメリカ、イギリスにおける著作者不明時の著作物利用のための法制度について御報告を頂きたいと思います。それではよろしくお願いいたします。

【明治大学(今村)】 明治大学情報コミュニケーション学部の今村と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 ここでは権利者不明の場合等の利用円滑化方策についての米英での議論について御報告いたしますが、時間の関係上、詳細は配付しました資料、後掲の参考文献等に譲ることといたしまして、ここでは米英の議論の大枠について御紹介差し上げていきたいと思います。
 まずは米国のほうの議論でございますが、権利者不明著作物、いわゆるorphan worksと呼ばれる一連の著作物に関しまして、米国の現行法制度のもとでも、例えば図書館あるいは文書資料館における著作物の利用に関する規定や、一定の場合の強制使用許諾に関する規定、善意侵害に対する法定賠償の減免に関する規定など、権利者不明著作物を利用する場合にも活用し得る幾つかの制度は存在してございます。しかしながら、1998年の著作権保護期間延長が合憲であることを確認した連邦最高裁判所のいわゆるEldred判決を背景として、権利者不明著作物に対する懸念や著作物の利用者に過大な負担が生じるのではないかという意識が高まる中で、これらの既存の規定では、権利者不明著作物の問題を解決するには限界があるのではないかと認識されるようになりました。そうした中で、2005年1月に至って、上院法務委員会のHatch上院議員及びLeahy上院議員の依頼によって米国著作権局が調査を開始し、2006年1月に権利者不明著作物に関する著作権局長報告書(Report on Orphan works)が提出されるに至りました。
 著作権局の報告書でございますが、まず、権利者不明著作物の問題は現実的な問題であること、一方で権利者不明著作物の問題を数値化したり、または包括的に説明することは困難であること、これを認めた上で、現行の著作権法で対応可能な部分もあるけれども、多くの場合はそうではないこと、そして現在の問題に対して意義のある解決を行うためには新たな立法が必要であるというぐあいに結論づけてございます。
 その上で、著作権局の報告書が勧告した法律案では、まず、真摯に合理的な調査を行ったが著作権者の所在を特定できない場合であること、かつ、可能な限りにおいて合理的な著作者、著作権者の表示を行ったことを利用者が証明した場合、著作権者が後に出現して著作権侵害の請求を行ったとしても、本来、受けられる救済(損害賠償金、差止命令)が制限されること、これを内容としております。
 著作権局が提案した法案は、具体的には以下のとおりで、ここは省略しますが、このような形で提案がなされたということでございます。
 このような著作権局の報告を受けまして、上下両院の小委員会において、それぞれ2006年3月8日、8月6日に公聴会が開催されてございます。他方で、2006年の会期では著作権局の勧告に基本的に沿いつつも、幾つかの点で内容が相違する法案がLamar Smith下院議員より提出されてございます。これはH.R.5439とH.R.6052と呼ばれます。ただ、いずれも業界団体などの反対によって最終的には取り下げられているというのが現状でございます。両法案を提出したLamar Smith下院議員は、H.R.6052について2007年度会期中に再提出する意向を示しているということでございましたが、著作権者側の団体が強硬に反対していることや、2008年の大統領選挙に向けて他の案件が優先されるであろうという見通しから、可決の見込みは立っていないというものでございます。
 次に、英国での議論を御紹介いたしたいと思います。権利者不明著作物に関連する問題について、英国の現行法(CDPA)で、実のところ、全く取り扱われていないというわけではございません。1988年CDPAでは、著作者の身元が合理的な調査によっても確認できない場合や、身元が知られていない著作物を適法に利用できる場合について定める規定など、幾つかの関連規定が存在してございます。しかし、近時に民間団体あるいは英国政府内からも、これらの既存の規定では不十分であるという認識がございまして、権利者不明著作物をめぐる政府レベルでの動きが加速しているというのが現状でございます。とりわけて、先般、英国財務省がアンドリュー・ガワーズ氏(Financial Timesの元編集長)に委託し作成させて、2006年12月に最終答申が公表されたGowers Review of Intellectual Property(以下Gowers Reviewという)では、権利者不明著作物についても政府が採るべき具体的な対応が提言されてございます。なお、Gowers Reviewは知的財産権制度全般を対象とした報告書となってございまして、権利者不明著作物の部分については、別途British Screen Advisory Council(以下、BSACという)に調査を委託し、BSACからCopyright and Orphan Worksと題するGowers Reviewに向けた準備報告書が提出されてございまして、そこでは更に具体的かつ詳細な提言がこの問題に対して加えられております。
 まず、この準備報告書のBSAC報告書のほうでは、権利者不明著作物に関してどのような対応を提案しているかと申しますと、これは権利の例外という形で規定を設けることを提言してございます。すなわち、権利の例外アプローチということになります。ここでは詳細は省略いたしますが、報告書ではかなりこの規定のあり方について具体的に述べてございます。さきに述べました米国著作権局による侵害アプローチないし救済制限アプローチを基礎とした提言内容と比較すると、おおむね以下のような表となると思います。まず、例外アプローチと救済制限アプローチ、それぞれBSACの報告書の提案と米国著作権局の提案となりますが、権利者の捜索が必要なのかという点では両者ともに必要ということになり、権利者捜索の程度については、BSAC報告書は最大限の努力という言葉遣いをしております。この最大限の努力という言葉の意味ですけれども、その者が絶対的な基準に対して最善を尽くしたのかということを判断するものではございません。そうではなくて、その者が達するべき基準は、慎重で断固とした、かつ合理的な人がその者の立場で行うであろう努力ということであるとされております。
 一方、米国著作権局提案のほうでございますが、真摯で合理的な調査が必要だということを述べているわけですが、この真摯で合理的な調査というものは、著作権局の報告書では、ケース・バイ・ケースで一般的な基準というものは立法できない、すなわちケース・バイ・ケースでなければならないということで、権利者、利用者による自主的ガイドラインの創設こそを期待しています。なお、後にLamar Smith下院議員から提出されて既に取り下げられてございますH.R.5439の法案のほうでは、少なくとも著作権局の保有する情報の調査を要するなど、基準の明確化というものが試みられております。
 次に、利用者の行為、実際に権利者不明著作物を利用した利用者の行為がどう取り扱われるかという点でございますが、権利の例外アプローチでいきますと非侵害ということになり、侵害アプローチでいくと、基本的には侵害ということになります。権利者への支払い手続でございますが、BSACの報告書の提案では、著作権局審判所の手続を経て決定するということ、これに対して著作権局の提案ですが、これはあくまで利用者がまず著作権者を特定し、両者が利用許諾について任意に合意し得る制度とすることを主とするわけでございますが、最終的には裁判所における訴訟によってこの手続が担保されていることになります。
 緩和条件、すなわち一定のなすべきことを利用者がした場合の支払額ということですが、BSAC報告書の提案ですと、合理的なロイヤルティ額ということになり、米国著作権局の侵害アプローチのほうでいきますと、合理的な補償額という言い方になっております。
 差し止めの可否ですが、BSAC報告書のアプローチですと、非侵害のために基本的には不可ということになります。米国著作権局提案のほうだと、一定の場合には制限されますが基本的には可能であるということになります。
 最後に国際条約との関係でございますが、例外アプローチを提案するBSAC報告書がどのように述べているのかと申しますと、権利者不明著作物について権利の例外を認めることは、ベルヌ条約等に規定されてございますスリーステップテストにも適合し得るという考え方を議論しているのに対し、一方で、著作権局の提案のほうも救済制限アプローチというものは、これは米国著作権局の報告書の考え方ではございますが、権利の例外を認めるよりも、国際条約に適合的であるという考えを述べてございます。
 他方、英国の議論、最終的に財務省が委託してGowers氏に作成させたGowers Reviewのほうでございますけれども、この準備報告書であるBSAC報告書の提言内容をそのまま引き写して述べているわけではなく、権利者不明著作物の定義及び課題、権利者不明著作物による新たな価値の創出の可能性、そして米国での議論について解説した上で、より現実的な3つの提言をまとめてございます。
 その3つの具体的な提言でございますが、第1は、欧州委員会に対し、ディレクティブ2001年29号、すなわち情報社会における著作権及び関連権指令を改正して、権利者不明著作物についての改正条文を提案すること。第2は、英国特許庁、これは2007年4月2日より英国知的財産庁に改称されてございますが、著作権使用料徴収団体や権利者団体、アーカイブ団体等と協議し、権利者不明著作物の例外が適用されるための合理的な調査の要素に関する明確なガイドラインを発行すべきであること等を提言し、第3に、英国知的財産庁が自ら、あるいは既存データベース保有者と共同して2008年までに任意の著作権登録システムを構築すべきこと、これらを提案してございます。
 まず第1の提言で言及されているEC情報社会指令、これは情報化社会における著作権や関連権ないし著作隣接権の調和に関する指令でございますが、その第5条でこれらの権利の例外と制限規定について規定しているわけです。Gowers Reviewでは、BSAC報告書における例外アプローチを報告書内で紹介した上で、そのような例外は情報社会指令のもとでの英国の義務と整合しないであろうとしておりますが、その理由として、指令第5条は許される例外について規定しているけれども、権利者不明著作物の商業的な利用に関する例外については想定されていないと思われると述べてございます。現在、EU加盟国から権利者不明著作物についての条文を提案させるという動きがあるようでございまして、Gowers Reviewでは、英国政府は、そのような例外を許容するよう当該指令を改正するために加盟国と作業を行うべきであるとし、かかる例外規定では、利用者が合理的な調査を行い、かつ、可能な場合には表示を行うことを条件として、真正の権利者不明著作物の利用を認めるものとするべきだと提案してございます。
 次に、Gowers Reviewにおける第2と第3の提言内容でございますが、これらは互いに関連したものです。Gowers Reviewは、権利者不明著作物に対する1つの重要なポイントが、利用者による合理的な調査の条件を明らかにしていくことであると示唆しておりますが、そのために、英国知的財産庁が中心となり、権利者団体、使用料徴収団体、図書館、アーカイブ団体らと合理的な調査の要素を定める明確なガイドラインを作成するべきであるとしております。他方で、音楽、文芸、美術の分野により参照するべきデータベースや文献、連絡するべき権利者団体等は異なるものでございまして、そのために、合理的な調査のガイドラインは著作物のメディアによって相違することになるわけでございますが、それでも多くの場合には、創作者の死亡日時や権利移転後の権利者に関する情報が検索のパラメータ、要素として利用されることになることから、そうした検索を促進するために、ベルヌ条約の無方式主義に抵触しないような任意の登録システムを構築するべきことを提案しているわけでございます。
 以上、簡単ではありますが、私の報告を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

【野村主査代理】 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明への質疑応答を含めまして、権利者の所在不明の場合の利用の円滑化について議論をしたいと思います。なお、前回はあまり議論ができませんでしたので、参考資料1の項目立てのあり方、個々の意見の是非等についてもあわせて御意見を頂ければと思っております。参考資料1については、1の過去の著作物の利用の円滑化方策についてというところで、(1)総論がございますが、具体的には(4)までの間で特に御意見ございましたら、あわせてお出し頂ければと思います。
 梶原委員、どうぞ。

【梶原委員】 この裁定制度でちょっと御質問があるんですけれども、この1件というのはどういう単位なのかなということが疑問なのですが、例えば放送番組で考えた場合、1番組のことが1件なのか、それとも利用ごとなのか。
 それともう1つは、裁定制度の申請者ですけれども、これは利用する人が申請するのか、それとも、例えば放送番組だと、通常音楽以外は放送事業者が大体権利処理をして相手方に提供する、あるいは海外の事業者に提供するということですけれども、その場合に放送事業者が申請するというのは可能なんでしょうか。

【川瀬著作物流通推進室長】 申請件数は、当該利用行為に、一連の利用行為といいますか、一連の利用行為に複数の著作物の利用行為、例えばデータベース化して、複製し、送信可能化をし、送信をして、そこから複製物を作るというような一連の流れがあるビジネスモデルだとすれば、それが1件ということになりまして、その中で、例えば仮に多数の著作物を利用するという場合にも、一応私どもとしては1件に勘定しております。そういう意味で、国立国会図書館の例を見て頂くと分かりますように、国立国会図書館の例はいわゆるアーカイブ化で、相手先の複製までは入りませんが、基本的には複製して送信可能化し、送信するという行為は、それも1件と考えております。
 それから第2番目の質問ですけれども、基本的には利用行為者が利用者ということでして、多分、今まで他人がある利用者の利用行為について権利処理をするために裁定の申請をするというのは例がないと思います。ただし、契約実態としてはそういうことはよくあることですので、今、直ちにいいか悪いかというのは判断できませんけれども、私どもとしては、そういう利用形態は良くあるということは理解しておりますので、できるだけ利用実態に沿った制度の運用をしていきたいと思います。

【野村主査代理】 他に御発言いかがでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】 2点質問しますが、どなたでもよろしいからお答え頂ければと思います。
 よくインターネットで外国の大学の図書館等が自由に閲覧できると言われておりまして、確かに見られるところがあるんです。もちろん、シェークスピアを読むというのは別に問題ないのですが、大学の蔵書の中にまだ保護期間が生きているような著作物がある場合、及びその著作物の中にはその著作者の没年が分からないようなものも多数あるだろうと思います。そういうものの処理を現実的にどのようにやっているのか、どなたか御存じの方がいらっしゃったら教えて頂きたいと思います。
 日本ではまだそういう大学図書館の公開というようなことが進んでいないと聞いておりますが、それは何か日本だけの特殊な事情なのか、あるいは著作権法が関わっているのかどうかということです。
 それからもう1点、今の御報告の中にも営利目的という言葉が出てまいりました。私はこれからその日本の裁定制度を改善していくということを考えたときに、営利目的と非営利というもので線を引けるかなと思っていたんですけれども、おとといですか、新聞に、Googleが慶応大学の図書館の蔵書を全部アーカイブして検索できるようにするということが報じられておりました。私の考え方としては、大学の図書館というのは非営利だろうと思っていたんですけれども、Googleとくっつくと、Googleはそれでお金もうけするわけです。そうするとこういう線引きはどうなるか、これをまた外国でどう線引きをしているんだろうか。どなたか実態にお詳しい方、文化庁さんでも結構ですけれども、お答え頂ければと思います。

【野村主査代理】 文化庁のほうから何かございますか。他に委員の中から御発言ございますでしょうか。特に今の段階で三田委員からの御質問について何か情報をお持ちの方がございましたらお願いいたします。
 特にないようでしたら、これは宿題ということでお願いします。事務局ということでは必ずしもありませんが。

【黒沼著作権調査官】 すみません、次回の小委員会の議題がアーカイブ関係などになりますので、そこまでにもし調べられるものがあれば、努力はしてみたいと思います。

【野村主査代理】 そういうことでよろしいでしょうか。他に御発言いかがでしょうか。金委員、どうぞ。

【金委員】 コンテンツポータルのところで、諸外国の例としてフランスの例と韓国の例が紹介されていますが、両国におけるコンテンツポータル構築後の効果について分析したレポート等の情報はありますでしょうか。

【野村主査代理】 これは事務局いかがでしょうか。

【川瀬著作物流通推進室長】 外国の情報ということですか。

【金委員】 はい。日本では経団連が中心になってコンテンツポータルを構築・運営する案が実行の段階にきているとのことですが、その際に参考例としてフランスと韓国の例が出されました。私の質問は、フランスや韓国において、コンテンツポータルというのがコンテンツ流通の活性化にどのような貢献をしたのか、といったことについて調べたレポート等はあるのかという質問です。

【川瀬著作物流通推進室長】 申しわけございません、私どもは経団連さんから聞いている範囲でしか了解をしておりませんので、特別にそういうものが研究されているかどうかというのは把握しておりません。ただ、日本のコンテンツ・ポータルサイトにつきましても、当然日本のコンテンツを海外に紹介していく、その先にはいわゆる流通、取引という問題があるわけでして、スタートは当然日本語版からやっていますけれども、これは当然外国語で紹介をしていくということを視野に入れておりますので、反対にそういう諸外国のことを参考にしながら、日本の場合においても、例えば英語版とかフランス語版を作って紹介していくという計画が進んでいるということは事実でございます。

【野村主査代理】 椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】 コンテンツに関する情報を集約することによって、コンテンツ流通の促進を図るということがコンテンツ・ポータルサイトの趣旨であると思うのですが、コンテンツの流通を促進するというところからちょっと離れていても、コンテンツに関する例えば権利者情報であるとか、例えば実演家であればどういう実演家が参加しているというのは、そのコンテンツの価値を高めるという意味でも非常に重要な視点だと思っているんです。放送番組でいえば、権利者情報という意味で言うと、例えば局制作番組である、外部番組であるということで、権利の態様とか契約の態様とかいうことでは、権利者としての位置付けが変わってくるんですが、あくまでコンテンツに紐付けられたメタ情報ということで、そういうものをきちんと蓄積していくことによって流通も促進するし、またコンテンツ情報によって利用が進むということもあり得るわけです。だから、利用の促進という観点に加えて、やはりコンテンツを使い捨てにしないという意味でもメタデータをきちんと蓄積するようなルールづくりが必要なのではないかと思いますので、その点申し上げます。

【野村主査代理】 ありがとうございます。他に御意見いかがでしょうか。今日の御説明だけでなく、先ほど申し上げましたけれども、参考資料1の主な意見の整理ということで配付されているところの1(1)から(4)までの間でも御意見ございましたら御発言お願いします。
 それでは久保田委員、どうぞ。

【久保田委員】 今の椎名さんの意見にもう1つ更に加えたいといいますか、権利執行、エンフォースメントができない権利保護とか権利ビジネスはあり得ないと思うのですが、そういう意味ではポータルサイトが諸外国において、少なくとも著作権の帰属なりライセンスなりが諸外国の裁判所において権利の帰属が明確に分かるというような機能がないとすると、基本的には、商売の端緒にはなっても、安定したビジネスにはならないのではないか。また、実際の我々の協会の活動を見ても、権利侵害を受けたときにきちんと執行ができたときには、逆にライセンスを買いに来るところはたくさんある。これはうちの協会の会員会社で大手ですけれども、アメリカできちんと権利執行を行ったところ、ライセンスをきちんと買いに来た。こういうことから考えますと、やはり一番最初にフェアなビジネスを立ち上げるためにも権利執行が確実にできるというのが非常に重要になってくる。こういうポータルサイトとか、それぞれその他権利の情報をどこかに固めて配信することができれば、権利執行ができる状況になり、諸外国の法制度においてどの程度の蓋然性があると著作権の帰属やライセンスについて各裁判所が認定してくれるのか。これは著作権の場合には、自分が生み出したといってもこれを証明するのは至難の業だということから考えても、国やこれに準じる機関がこういうポータルサイトについて、認証するというような意味も含めてポータルサイトの構築というのを考えなければいけないのではないかと思っています。

【野村主査代理】 他の方、いかがでしょうか。渋谷委員、どうぞ。

【渋谷委員】 著作権者不明の場合の裁定制度に関連する質問なんですけれども、特に先ほど御報告になった明治大学の今村さんに伺いたいのですが、我が国の裁定制度と、御紹介になった英米の制度というか、これからの構想されている制度なんですが、我が国の場合は、文化庁が絡んでくるというところが英米の構想されている制度とは異なる点なんでしょうか。いずれの制度であっても、とにかく著作権者を探すということはやらなくてはいけないわけで、ここまでは日米英いずれも同じなんですが、日本の場合は文化庁の裁定が必要であるということですが、英米はこれはどうなっていますか。行政庁とかそういうものが絡んでいるんでしょうか。

【明治大学(今村)】 ただいまの御質問なんですけれども、基本的に、最終的に何らかの権利者が登場することによってトラブルが生じる場合には、英米のほうの制度でも国家機関なり著作権審判所というものが登場してくるわけでございますが、日本の制度は事前に裁定を経ないと侵害になる、何もしなければ当然侵害になる。そういった意味では、事前の手続として国家機関である文化庁等の手続が必要になるという意味では、随分違うのではないかと思います。

【渋谷委員】 そうではないかと思ってお聞きしていたんですが、我が国の裁定制度について何か問題があるとすれば、あるいは文化庁が絡んでくるところに問題があるということになるのかなと思ったんです。この資料3によると、標準処理期間が3カ月というわけですけれども、審議会を開いて答申をもらわなくてはいけないというので、そのための時間が随分かかるのだろうと思うのですが、ここの点が裁定制度を利用しにくいというところなんでしょうか。そのあたり、利用者の声を伺いたいと思うのです。つまり、相当な努力を払って著作権者を探すということはどうしてもやらなくてはならない手続なわけで、それは誰がやってもこの負担を負わなくてはいけないのですけれども、我が国の場合は、審議会の答申を得る、その代わり、文化庁のいわば代位許諾をもらっているわけですから、その後、権利侵害の責任を問われる恐れは一切ない。その代わり、補償金は事前に供託しておかなくてはいけないということになるわけです。英米の制度の場合ですと、その点、法的な安全性というのが少し損なわれるところがあって、それは一長一短だろうと思います。
 そういうことで一長一短はあるのですが、一体何が我が国の裁定制度の最大の問題点なのでしょうか。あるいはポータルサイトなどを整備して著作権者を探す実際的なインフラというのですか、その整備が不足しているところが最大の問題なのか、それとも文化庁の介入を必要とするところが問題なのか、そのあたりを教えて頂きたいのですけれども。

【野村主査代理】 では最初に事務局のほうからお願いします。

【川瀬著作物流通推進室長】 最近、裁定制度の運用において、申請者にどの程度まで権利者を探して頂くかというような基準について大きく緩和したことは、御了解頂いているのではないかと思います。私がいろいろとお話を聞く限りにおいては、1つは、今、先生御指摘の期間があるということで、標準処理期間は3カ月ですけれども、やはり一番時間がかかるのは審議会に諮問して答申を得るという過程の中で、具体的に言いますと、文化審議会著作権分科会の使用料部会というものを開催して、そこで検討して頂きますけれども、それに伴う時間がかかるということで、ある程度日数が必要だというのが第1点でございます。
 もう1つ、私どもに寄せられている意見としては、手数料が1件1万3,000円かかるわけですけれども、それが申請者にとっては非常に負担だというような声も私どものほうには寄せられております。私が知る限りにおいてはその2つが大きな理由だと考えております。

【野村主査代理】 今村先生のほうから何かございますか。特に著作権者を探すという、今、大分日本も楽になったというお話なんですけれども、その辺の違いとか、英米と日本とであるのであれば、その点も御発言頂ければと思います。

【明治大学(今村)】 まだ英米についてはこれから制度を法案を提出して作るというところなのでございますが、その制度を前提として考えた場合には、とりあえず、そういった何ら手続を経なくても、相当な努力あるいは真摯で合理的な調査を行った上で権利者の著作物とおぼしきものを使用しているという場合にも、一応、権利者が出てきたときでも何らかの救済がなされるわけで、日本の場合にはそれがないという点で随分違うと。だから、先ほどの繰り返しになりますが、その点が随分違うのではないかと思います。

【野村主査代理】 よろしいですか。他に。金委員、どうぞ。

【金委員】 今村先生に質問をしたいのですが、イギリスのGowersレポートの中で3つの提言がなされた。その中で3つ目の任意の著作権登録システムの構築というのがおそらく一番の目玉だと思うのですが、その時に、登録を促すためのインセンティブを高めるために何らかの制度的な措置がレポートの中で提言されているのか、お伺いしたいのですが。

【明治大学(今村)】 そのインセンティブを高めるための具体的な措置については、Gowers Reviewのほうには特に書かれていないということになっております。

【野村主査代理】 よろしいでしょうか。梶原委員、どうぞ。

【梶原委員】 先ほど、裁定制度を利用する立場からというお話がありましたので、ちょっとお話ししたいと思いますが、基本的には期間の問題とか、先ほど御質問しましたけれども手数料の問題、それと、手引きを見ますと、実際の利用者しか申請できないといった問題。それともう1つは、例えばドラマ番組などを考えますと、原作の方とか脚本の方というのは不明になるということはあまりありませんが、やはり実演家である俳優さんの場合、出ていらっしゃる人数も多いし、そういったことで全く連絡先も分からないというケースが多いということで、やはり隣接権の部分がこの裁定制度にはないということも、なかなか利用できない大きな理由の1つかなと思っています。

【野村主査代理】 他に。三田委員、どうぞ。

【三田委員】 何か議論があまり進んでいかないようなんですが、ずっと気になっていたことなんですけれども、この裁定制度というもので裁定を申請する者に、線引きは難しいのですけれども、やはり大きな違いがある2種類のものがあるだろうと思います。1つは、例えば映画のプロダクションが潰れて解散しているような場合、それと過去の名作をDVD化しようとしたときに、配給会社にも一部権利があるでしょうけれども、作ったプロダクションが完全になくなっておりますと、全く分からなくなるわけです。先日も裁定制度のサイトをのぞいてみましたら、武智鉄二の『白日夢』というのが出ておりまして、こういう作品はDVD化したらある程度は売れるだろうと思われますので、裁定で1万3,000円払う。それからリンクを張るときに2万円かかるわけです。それから会議が開かれて供託金が幾らかと。幾らになったか知りませんけれども、何万円かは払っているわけです。そうやって払っても、DVDが売れたら元が取れるというものでありますから、こういうものは利用できるわけであります。
 それとは別に、前年度、膨大な件数の裁定制度が利用されておりますけれども、これはほとんどが国会図書館だろうと思います。国会図書館の場合は、例えば明治時代に発刊された書籍をアーカイブする。このアーカイブも各図書館ごとにいろいろなアーカイブの仕方が考えられると思いますけれども、もう本がぼろぼろになっているので、とりあえず写真に撮って保存するんだと。新聞なんかはマイクロフィルムになっておりますけれども、それと同じようにデジタル写真に撮って、図書館に来た人はそれを画面で見るという方法があります。しかし、そういうものがいったんできましたら、インターネットで誰でも利用、閲覧できるということにしても、特に問題はない。図書館に行って見れるものならばネットで繋いで見てもいいわけです。しかし、そうすると、不特定多数の方に情報が流出していくということになります。
 これで、そのことによって損害を被る人がいるんだろうかと考えますと、明治時代の人でも、実はいます。例えば高浜虚子さん、あと2年ぐらい、要するに死後50年の保護期間が残っております。高浜虚子といえば明治時代の方であります。ですから、明治時代に発刊されたもの全てがもはや著作権フリーにしても構わないかというと、そうは言えないだろうと思いますけれども、しかし、発行後相当期間経ったもの、発行して何十年か経っているものについては、その著作者の没年が分かっておりましたら、死後50年だからフリーだと。我々が提案しているように70年にして下さいということですと、70年まで待たなければいけないとか、没年によって議論ができるわけですけれども、何年にお亡くなりになったのか全く分からない著者というのは、明治時代の刊行物の中にはかなり多いだろうということが考えられます。
 そういうものに対して、全てこれを裁定制度にするということになりますと、もちろん、これを全部ひっくるめて申請は1回だけでいいということでありますから、全部ひっくるめて1万3,000円払えばいいのかなと思いますけれども、この裁定制度の資料3に書かれておりますように、著作権者を探す相当な努力が必要であるということになりますと、1冊ずつ名前から調査を始め、相当の努力を払わないといけないということであります。この相当な努力という言葉だけだと、努力すればいいということになるんですけれども、実際問題、図書館の職員の方でありますと、大卒の研究者を目指すような方でありますので、その方の賃金とかそういうものを考える、例えば東大卒の職員の方が1時間かけて相当な努力を払うと、お金にすると相当な金額になってしまうわけです。そこまで考えると、この相当な努力というのも大変なトランザクションコストがかかるということになっております。
 従来の裁定制度の考え方というのは、著作者を守るということが前提でありまして、ですから、できるだけ高いハードルを設定して、相当な努力を払って頂く。それができない人は利用できないという形で門を狭めていたわけでありますけれども、しかし、例えば明治時代の刊行物を国会図書館でデジタル化するというような場合、多くの著作者は、それはやって欲しい、死んだ人にとって自分が出した本が永遠に残るのであれば、それは大変名誉なことであると考えるはずであります。
 現在、50年の保護期間の中で実際に著作物から何らかの利益が出ている人、これは文藝家協会でも御遺族の方の著作権管理をやっておりますけれども、文藝家協会に準会員という制度がありまして、約1,000名弱の方々が登録をされております。これは入会金不要ですけれども、年会費が3,000円ほどかかります。ですから、そこに登録されている人は3,000円払っても元が取れるというぐらいの方々だろうと思います。それから、現に死後何年ということではなくて、御遺族の方で年収が100万円以上ある方というのが60名以上おられます。ですから、そういう方の御意向を無視して、全部を例えば権利制限にするとか、一挙に裁定で著作権フリーにしてしまうというのは難しいかと思いますけれども、しかし、そういう方は文藝家協会に登録をされておりますので、これからつくられるポータルサイトあるいは我々が今早急に作ろうとしておりますデータベースに、これだけの御遺族が現に収入を得ているんだということをきちんと表示いたしましたら、それが一種の登録になるだろうと思うのです。そうしますと、こういうものを見て頂いて、これだけの方はまだ著作者死後何十年経っても一定の収入が得られているんだということで、こういう方々については許諾を求める必要がありますけれども、そういうところに登録されていない人というのは、大部分の方が、もはや経済的な利益は求めていないという人々であります。多くの方が経済的利益を求めていないのに、相当な努力を払って著作者を探すというのは、これははっきり言って無駄ではないかなとも思われます。
 そこで、例えば映画をDVD化するとか、大きな利益が得られるものは別として、国会図書館や公共図書館、大学図書館等が著作物をデジタル化するというような、営利を目的としないような、先ほど言ったGoogleが慶応大学の図書館を利用するということになると、また話がややこしくなるのですけれども、こういう問題がクリアできれば、営利を目的としないようなアーカイブについては、この裁定制度を大幅に緩和するということをやっても、大きな反対意見は出てこないのではないでしょうか。その相当な努力というのは何かといえば、例えば文藝家協会のホームページを見る。そして名前をチェックしてそこに名前が出ていないということと、それから今、著作権情報センターでインターネットにこういう裁定を申し込んでいるということが表示されます。あれも2万円かかるんですけれども、そんなものは500円ぐらいにしてしまって、それから裁定制度の今の1万3,000円というのも、発行後相当年数が経った書籍のアーカイブとか、そういうものに限定した上で1,000円ぐらいにするとか、そういう形で利用者に負担のないようなものにする。なぜかといいますと、こういうものというのは裁定制度に関して一々議論する必要はないんです。みんな同じことをやっているわけですから、簡単なガイドラインを作れば全部自動的に処理できるものであります。一々会議を開く必要のないものであります。そういうガイドラインをちゃんと作れば、申し込めばすぐ対応できる、何カ月も待たされるのでなくて、自動的に対応できるというようなシステムができないのかなと。相当な努力というのは、そのポータルサイトなりデータベースなりを見て名前を確認しましたということで十分ではないかなと思われます。
 こういうシステムを作った上で、外国との条約上何か問題が生じるのか、それから思いがけないところで何か大きな問題が起こるかなということを、皆さんの御意見をお伺いしたいなと思います。

【野村主査代理】 それでは椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】 梶原委員のおっしゃっていた実演家に関する裁定制度が必要だということ、ヒアリングのときもおっしゃっていたんですが、その際に、たしか梶原委員は、権利者の所在が不明である場合と権利者が不明である場合の2つを挙げられていたと思うのです。そのときに僕も申し上げたのですが、コンテンツホルダーさんが権利者が不明という場合に、誰も権利者を知ることはできない。少なくともコンテンツホルダーさんのほうで権利者を捕捉していなければ権利処理はできないわけですから、それで裁定制度を求めるのはいかにも虫が良過ぎるのではないですかということを申し上げました。
 それで、今日は権利者の所在が不明な場合ということでおっしゃったんですが、この前もこれについても申し上げたのですが、権利者の所在が不明な場合には、実際、コンテンツホルダーさんと権利者団体の間でやり取りをして、権利者団体側でその権利者の所在を解明するような努力をしていますよね。そういうことの積み重ねで権利処理というのは今までされてきていると思うので、一気に実演家の権利を制限するという手法で権利制限をお求めになるよりも、実際の現実のスキームの中で解決できることなのではないかと思うのです。また、その一歩手前のやり方として、例えばコンテンツホルダーさんサイドで不明権利者の救済基金を作るとかという話もありましたし、一気に権利制限を伴う制度改正というところにコンテンツホルダーさんから発議されるというのは、ちょっと納得がいかないところだと思います。

【野村主査代理】 では梶原委員どうぞ。

【梶原委員】 別に権利制限をしてくれと言っているわけではなくて、その裁定制度の中で、今、著作者しかないので、隣接権者もというお話を申し上げています。
 それと、その不明の方については、これまでCPRAさんの中で何とか一緒になって処理ができていた部分はありますが、この4月からCPRAさんも管理事業者として一任型の管理をはっきりしたいということで、不明者については対応できないというお話なので、こういったお話を申し上げている次第です。

【野村主査代理】 では先に椎名委員。

【椎名委員】 CPRAは管理事業者としての管理事業登録を行ったわけですから、管理事業については委任者の権利しか扱わない、それは当たり前のことですが、別にCPRAだけではなくて、様々な権利者団体とNHKさんがすでにやられていますね。そういう中で権利者団体の努力を仰いできたということもありますから、そこでいきなり権利制限まで行く必要はなくて、コンテンツホルダーさん側のシステムとしてそういうことを考えていくこともできるのではないですかということを申し上げたまでです。

【野村主査代理】 生野委員、どうぞ。

【生野委員】 この小委員会でももう触れている事項ですが、平成17年の契約流通小委員会で、実演家に関する裁定制度の議論が行われた際、整理としては、実演家等保護条約との関係で整理すべき問題点が多く、国際条約に照らして制度改正ができるのかどうかについては、非常に問題が多いというところで認識しており、この解釈自体は多分変わってないと思います。事務局に質問なんですが、新たにまた詳細をこれから検討するということでしょうか。著作隣接権に関する裁定制度に関してですが。

【川瀬著作物流通推進室長】 隣接権条約の解釈については、WIPOが出版されている隣接権条約の逐条解説といったものもありまして、その中で、いわゆる強制許諾については非常に限定的な解釈しか認めていないということで、権利者不明の裁定に特化して言及しているわけではありません。したがって、隣接権条約だけの解釈で見ると問題があるということですけれども、その報告書にも書いてありますように、例えばWIPOの新条約では、ベルヌ並みにいわゆるスリーステップテストに方針が変更されていますし、それからイギリスのように実演についての裁定制度があり、かつ、それについて条約違反だというような国際的な議論が生じているという現状もございませんので、17年の契約小委員会の中では、時間もありませんでしたので、そういうところまでにしておりますけれども、本当に制度的に対応が無理なのかどうかというのは、更に検討してみてはどうかとは思っております。

【野村主査代理】 よろしいでしょうか。他に御意見いかがでしょうか。それでは瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】 今の裁定制度についてなんですが、これは過去の著作物の保護と利用に関する委員会なのですが、私が感じますこの裁定というのは、過去のものも当然なんですが、これからに非常に影響を及ぼすような制度の話なのかなと思っております。というのは、裁定制度というのが今まで特別なもの、どうしようもなくなってしまったときに使えるための制度であった。それが今、ずっと議論、英米の話をしても、日常の中で、もうちょっと困り度が低いときにでも使えるようにしなくてはいけないのではないかという議論が起きているのではないかなという気がいたします。つまり、裁定制度のあり方、どういうような裁定制度が必要なのかということについて、やはり今考えるべきなのかなということを考えています。
 これからも、ということを考えると、非常に多くの著作物を非常に多くの著作者が大量の利用者に流していく時代になったという前提に立って、先ほどのデータベースとかいろいろなことが出てきていると思うのです。どちらがいいかどうかは別ですけれども、私は、今後権利者自体が自分の所在をはっきりさせていく必要性があるのではないかと思っています。ですので、自分がここにいる、自分が物を作ったということをはっきりさせる、例えば氏名表示、データベース登録など、そういうアクションを行ったときに、それを調べるのが利用者の義務でもあり、きちんと調べた上で、対価を支払って使う、こういう形が将来的に、要するにたくさんの著作物がある時代の流通かなと思っているんです。
 ただ、その中でどうしても分からないものがで出てきてしまった場合、その場合に一時的に、例えば裁定にしても、先ほど三田さんもおっしゃいましたけれども、著作者が自分を知らせようとすることをしていない場合には、比較的容易に使えるシステムがあって、ただその代わり、使ってしまったら、その裁定が終わってしまったら終わりではなくて、後で、いや、あれは私のだったと申し立てたときに、そこで、アメリカでも無茶苦茶なことは言えないけれども、相当金額が支払われるとか、例えばこの供託金にしても、国庫金となってどう使われるか分からないのではなくて、その分野の共通目的基金になるとか、そういうことは、何か新しいことを考えていく中で必要なのかなと感じています。
 ただ、そういう点、安易にと言ってはいけませんけれども、非常に緩やかな裁定制度を作ると、条約の問題がまず第一にあって、それともう1つは人格権の問題が非常に重要になると思います。使えることに関しては使えても私はいいのではないかなとも思いますけれども、改変をしたりそういうことに対して著作者というのは非常にナーバスですし、それは止めて欲しいということがあるので、そこら辺の問題もしっかりセットにしながら、次の世代の裁定がどうあるべきかというのを皆さんで考えていくと、きっとそれほど権利者も、絶対に使ってはならない、分からないのは相当厳しくないと絶対使うのは嫌だということは、私はないのではないかなという気がいたします。ですので、過去だけではなく、未来と橋渡すような話になりますけれども、裁定制度がキーポイントですので、ぜひそのありようの部分から皆さんの御意見の中で御議論頂いたらいいのではないかと思います。以上です。

【野村主査代理】 久保田委員どうぞ。

【久保田委員】 見つからない場合の裁定の申請とか、この辺は非常に簡単になると思います。私自身、自分の経験で言いますと、ファミコン20周年のときにこの裁定を受けようと思ってやってみたんですが、補償金の金額を決定するための委員会などで、短い期間に果たして著作物に値段がつけられるのだろうかということも含めて、とても時間も手間もかかることがわかりました。また今の三田先生の御意見では、著作者を知らない人だから、その著作物の価値や利用状況について知らない人はどのような金額でこういった利用をしたいと要求できないわけでありまして、そうすると、例えば発表後20年経ったゲームソフトについてはAランク、10年のものはBランク、Cランクといいたランク別の対応が一律に決めてあって、その中だったら、三田先生がおっしゃったように、金額面を含め裁定が非常に短い期間ですむ気がするのですけれども、実際、補償金の額を決定する委員会も、3カ月とか半年に1回ぐらいでしか開催されないと聞いていますが、先生はその辺はいかがお考えですか。

【野村主査代理】 それでは三田委員から。

【三田委員】 例えば、アーカイブのようなものについては、もうゼロでいいわけです。例えば昔の文学でいえば、昔の作品を復刻したいというような要望が出版社にあるだろうと思います。つまり、文庫本にも全集にもなっていないけれどもそういう名作があるので、書籍の形にしたいというようなものであります。書籍の印税率というのは一定でありますので、もう10パーセントと決まっております。むしろ、文藝家協会で管理をやっておりますと、8パーセントにまけてくれとかそういう要望があります。これは一律に全部10パーセントにしてしまいますと、多分、独占禁止法に抵触しますので、これはそれなりに応じるということをやっておりますけれども、最大10パーセントでありますので、行方不明、御遺族も分からないというような著作物を復刻するというときは、それに相応するお金を積み立てて頂くということで良いのではないかと思います。
 そういうふうに、文学の場合は非常に状況が単純でありますので、利用者と著作者の代表がワーキンググループを作って、一種のガイドラインを作る。ガイドラインを利用者の皆様に見て頂いて、御納得頂ければ、それに従って事務処理は自動的にできるような形にすればいいのではないかと思います。ただ、映画とかゲームのようなもので、何かそこで思いがけないクレームがつくことがあるのかなということは私には分からないので、全てのものにそういうガイドラインだけで対応するということは現実的かどうかということについては皆様の御意見を伺いたいと思います。

【野村主査代理】 他に御意見いかがでしょうか。それでは都倉委員。

【都倉委員】 日本という社会は、どちらかというと、私たちはここまでであとはお任せしますという物の考え方、お上にお任せするみたいなところがあると思うのですけれども、権利者も利用者も、我々が1つ絶対に最後に覚えておかなければいけないのは、やはり自己責任みたいなもの、これはもう必ずどこかに1つの尺度として持っていなければいけないと思うのです。ですから、我々権利者でも、例えば我々が登録している権利者団体に、音楽の場合、作品届というのを出しますね、4小節ぐらいのメロディを書いて。これは最低の自分の権利主張の義務であり、歴史に残るような名作でしたら、我々の生年月日がちゃんとそこには書いてあるわけですから。権利者は、最低のそういう義務をするけれども、今度は利用者も利用するという、例えばアメリカみたいな法律社会の場合は、プロがたくさんいますね。例えばイギリスにおいても、ある弁護士事務所では、アーカイブディビジョンとまでは言いませんけれども、自分たちが、ある事業者が利用しなければならない作品という場合には、必ずその権利関係を自己資金で、これは非常にコマーシャルな、お金を生むような、先ほど三田先生のおっしゃらなかった、そっちの分野にもちろん属するわけですけれども、やはり自分で調べる能力はある。
 例えば、最近でいうとYouTubeみたいなのは、最低よりもっともっと確信犯的なものがありますけれども、YouTubeの発明者と、その回りに先ほどどなたかがおっしゃったGoogleというのがついているわけでして、あるとき僕は話を聞く機会があったのですけれども、まさにGoogleというのは確信犯であって、YouTubeという1つのアイデアというものは、そんなにあまり深く考えてないような若い子が2人来たんです。話を聞いていると、ああなるほど、いい発想だなと。我々は単に掲示板をつくりたいと。しかしそこで我々が、例えば日本はどういうことをするかというと、17団体がYouTubeに対して、お願いですからこういうことはやらないで下さいと請願書を出すわけです。バイアコムというアメリカの会社は、即、その1カ月後ぐらいに1,200億という訴訟をするのです。
 ですから、そのような官に頼らない民同士の1つの自己責任において決着をつけるみたいな思想がある国と、それから我々日本みたいな、ある程度おとなしいといいますか、和をもって貴しとなすという社会と、やはりおのずから違いがあるのですが、さっき瀬尾委員もおっしゃったように、これから未来ということを考え始めますと、やはりどことの自己責任というものを1つ勘案したら、やはり権利者と利用者という、そういう裁定制度の方式というのを僕は先に考えないと、やはりちょっとどこかおかしくなるのではないかと思います。

【野村主査代理】 ありがとうございました。金委員どうぞ。

【金委員】 今までの裁定制度の件で議論されているのは、著作者が不明な場合が中心に議論されたと思うのですが、裁定制度は潜在的には共同著作物の権利行使においても適用する可能性があると考えられます。共同著作物の場合は、一部の権利者による許諾を拒否するホールドアウト行為やその恐れによって、著作物の流通・利用が妨げられる可能性があります。例えば、1つの作品において10人の著作者がかかわった場合に、9人が権利許諾に同意したとしても、残りの1人が同意しないと著作物の利用が実現しなくなります。今日の資料の中で、共同著作物の最後のページの参考のところに、日本の場合は共同著作物の権利の行使において、デフォルトとして全員の合意が必要であるということが書かれています。その括弧の中に、ただし、正当な理由がない限り合意の成立を妨げることはできないと書かれています。後ほど、議論されるかもしれませんが、私の質問は、1つ目、ここでいう正当な理由とはどういったケースが想定されるのかということと、2つ目に、著作物の利用・流通を促進する趣旨で極端なホールドアップというリスクの存在によって利用者の利益が大きく阻害されるケースが発生しうると思いますが、これに対する行政側の役割はどういったものがあるかについてお伺いできればと思います。

【野村主査代理】 共同著作物の部分についてはこの後のほうで議論をお願いしていますので、それ以外の部分で何か事務局のほうでお答えになるところはありますか。

【黒沼著作権調査官】 後ほどまた資料5を御説明するときに、中であわせて触れさせて頂きます。

【野村主査代理】 それでは、一応ほぼ御議論頂いたかと思いますので、権利者不明の場合の利用円滑化方策はこの程度にしまして、続いて、複数の権利者が存在する場合の利用円滑化方策についてということで、事務局からまず御説明をお願いしたいと思います。

【黒沼著作権調査官】 それでは、資料5に基づきまして御説明させて頂きます。
 まず参考資料1の4ページを御覧頂ければと思いますけれども、こちらは前回までのヒアリング等を受けての検討課題の整理のペーパーでございますけれども、(5)のところで、権利者が複数存在する場合の利用についてということで幾つか御意見を頂いていたわけでございます。大体、一言でまとめて申しますと、複数の権利者が存在すると、そのうちの一部の方の許諾が得られなくて利用できない場合があるので、対策が必要だということでございましたけれども、その関係で、今現状はどうなっているのかということを整理したのが資料5でございます。
 複数の権利者が存在する場合と一口で申しましても、実際には複数のパターンがございまして、それを分けて御議論頂いたほうが対策を検討する上で参考になるのではないかと思いまして、1から3までに大きくパターンを分けさせて頂きました。1つ目は、共同著作物・共同実演などが典型でございますけれども、1つの権利が複数の人の共有になっている場合というものでございます。例といたしましては、1つ目が2人以上の者が共同して創作した場合、もしくは2人以上の者が共同して実演した場合などの、共同著作物や共同実演の場合でございます。2つ目が、もともとは共同著作物ではなかったけれども、それが相続や契約によって複数の者に承継・譲渡されたといった場合には、1つの権利が複数の者の共有になる、こういう場合がございます。
 それで2番目でございますけれども、今度は1つの著作物に複数の権利があるという場合の1つのパターンですけれども、原作に基づきまして一定の創作を行ったというような場合には、原著作物に関する権利と、それから二次創作を行った者の権利がそれぞれ別個に存在しますので、こういった場合には1つの著作物に複数の権利があるということになります。
 それから3番目のパターンですけれども、今度は複数の著作物でコンテンツが構成されているというようなものがあるかと思います。例といたしまして1番目に挙げてありますのは、映像コンテンツに脚本、音楽、美術、実演、様々それぞれ権利があるわけでございますけれども、こういったものがあるかと思います。
 一番上のものは関係者間のそれぞれの合意等があって1つのコンテンツが作られる場合が多いと思いますけれども、2番目の場合は、関係者間の関係がない場合ということでございまして、写真や映画の背景にポスターなどが写り込んでいたという場合には、このポスターにも著作権がある場合がございますので、そういった場合には1つのコンテンツの中で複数の権利が出てきてしまうというものでございます。
 それから、今まで著作権法に基づく権利だけに限って述べておりましたけれども、今のようなものの他に、肖像権などの著作権関係以外の権利を含んでいる場合もあろうかと思います。
 今まで、こういった形で1から3までパターン分けしましたけれども、中にはこれが重畳的に出てくるような場合もあるかと思います。映像コンテンツの中に音楽がありまして、それが原作に基づいて編曲されている場合ですとか、更にそのもとが共同著作だった場合とか、いろいろなパターンがそれぞれ重複して出てくるかと思います。
 次のページをめくって頂きますと、1.の、1つの権利が共有になっている場合にどのような対応策が準備されているのかという御紹介でございます。著作権に関しましても、民法264条の規定によりまして、共有物についての所有権の規定が準用されているわけでございます。ただで、著作物の一体性ですとか、著作権の一体的行使の観点から、民法の共有の規定に特例が設けられておりまして、具体的には、下の部分の表の上から3つ目でございますけれども、持ち分の譲渡ですとか質権の設定をするときには、民法の場合は持ち分の譲渡は自由ということになっておるわけですけれども、著作権法では特例になっておりまして、全員の同意が必要、ただし、正当な理由がない限り同意の成立を妨げることができないこととなっております。その1つ下になりまして、権利の行使ですけれども、こちらも著作権の場合には全員の合意が必要ということになっておりまして、正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができないとなっております。正当な理由とはどういうものかということで先ほど御質問がございましたけれども、例えば権利行使ですと、例えば当事者間にトラブルがある相手に持分を譲渡しようとしているとか、そういったような場合には、残りの共有者が困る場合もございますので、そういった取引に支障が起きるような場合などが一般には正当な理由があると考えられていると承知しております。若干、そういった特例があるということでございます。
 1つ飛ばしましたけれども、表の一番上の人格権の部分で、こちらは財産権ではございませんけれども、著作者人格権の行使についても全員の合意が必要となっておりまして、こちらも信義に反して合意の成立を妨げることができないということになっております。
 1ページめくって頂きまして、若干補足でございますけれども、共同著作物と先ほど何も言わずに言ってしまいましたけれども、どういうものかと申しますと、2人以上の人が共同して創作した著作物であって、各人の寄与を分離して個別に利用することはできないものということになっていまして、補足でございます。また、一番下ですが著作隣接権についても同様の仕組みが設けられているということでございます。それ以降については御参考でございます。適宜、時間があるときに御覧頂ければと思います。
 以上でございます。

【野村主査代理】 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御説明に基づいて、参考資料1も御利用頂いた上で、自由に御議論頂きたいと思いますけれども。
 久保田委員、どうぞ。

【久保田委員】 共同著作物の場合、権利行使のときは保存行為ですから、これは単独でもできるというところだけを確認したいのですけれども、それでよろしいでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 すみません、資料5の表の中の説明を省略してしまいましたけれども、差し止めですとか損害賠償ですとかそういったものはもちろん単独請求が可能ということになっております。

【久保田委員】 刑事手続も同じですか。

【黒沼著作権調査官】 刑事手続とは、告訴の関係ということですか。

【久保田委員】 はい。

【黒沼著作権調査官】 それぞれできることになっております。

【野村主査代理】 梶原委員、どうぞ。

【梶原委員】 この共有にかかわる規定なんですけれども、この一番最初のページの1以外の2、3についても次のページの共有著作権にかかわる制度のところの規定で読んでいいんでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 現行制度が想定しておりますのは、1の部分を想定して立案されたものであると承知しております。

【野村主査代理】 御意見いかがでしょうか。

【都倉委員】 ちょっとこれは僕も勉強不足ですけれども、これは共有著作物ですが、結合著作物という概念、端的に、もし何か明確なディフィニションがあれば説明して頂けますか。
 僕のアンダースタンディングでは、この両極にあるもので、やはり一つ一つが、例えば作詞・作曲だったらそれが1つ独立しているというような解釈でよろしいんでしたでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 共同著作物の場合は、本当にそれぞれ分離することができないものでございまして、例えば良く例として挙げられるものは、歌詞と楽曲については、一般的には1つのものとして捉えられることが多いわけでございますけれども、実際には曲だけで使うこともできますし、歌詞だけで独立に使われる部分もある、こういうものは共有著作物とは言わないとされております。

【野村主査代理】 御意見いかがでしょうか。では金委員どうぞ。

【金委員】 すみません、素朴な疑問なんですが、この問題について、また今の報告を受けてどういうことを議論すれば良いでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 すみません、説明が言葉足らずでしたが、参考資料1が前回まで出された意見を列挙したものでございますけれども、こちらの中でも、4ページの1番目ですとか2番目でいろいろな仕組みの検討が必要だという御提言を頂いたわけでございます。それに対しまして資料5では、現状の制度でどこまでカバーされているのを、現状の説明として御紹介させて頂いたものでございます。ですので、御議論頂く内容といたしましては、例えばこの現状の制度で足りないのであればこういう対策が必要ではないかとか、前回以前に出されていた議論に更に煮詰めて頂きますとか、そういった形の御議論を頂ければとは思っております。

【野村主査代理】 それは基本的に著作権法に特別の規定があって、それ以外は民法の規定が適用されるということになっているわけです。民法の共有というのも、複数の人間が1個のものについて権利を持っているという場合について、民法の中で、民法の世界でもいろいろ議論があるところなんですけれども、今のそういう構造の中で、例えば著作権法の中にもう少し今ある以上の規定を入れたほうがいいという意見があれば、そういう意見もあわせて頂ければということだと思います。

【金委員】 これは特許でいえばパテントプールのようなものだと思います。つまり、1つの技術の中に複数の技術要素がインプットとして含まれる。その技術要素を利用するためには関連する複数のライセンサーから許諾を得ないと技術の利用が出来なくなってしまう。そこで特許の世界では民間の自立的で集合的な権利許諾システムとしてパテントプールというのが形成され、それによってライセンシングと関連した取引費用、またはホールドアップのリスクを大幅に削減することを可能にするもので、こうし民間主導の取組みの場合は、特許の世界では近年よくみられる現象ですが、著作権の場合、それに類似するものとして集中権利管理機構があります。英語ではコピーライトプールと呼ばれるものです。そこで、お聞きしたいのですが、現行の日本の制度の下では民間の自立的で集合的な権利管理システムに任せているというような状態で、これに対して例えば強制実施権等といった、ある意味では強引とも言える強制的な政策介入というのは政府としてあまり考えていないという認識でよろしいでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 今後、どのように議論が発展していくかというのは、またこの場で御議論頂いてからのお話だと思っておりますけれども、ただ、補足的に、昨年の法制問題小委員会で共有についていろいろ議論がされたときには、今の現行の共有の規定について、全員の合意ではなくて、持ち分比率に応じて合意を形成していったらどうかとか、そういったものが検討課題に上ったわけでございますけれども、法制問題小委員会の議論の中では、関係者からお話を伺ったりする中で、実際には共有になっている場合のほとんどは、もともと契約関係があるような場合ですとか、もともとが複数者で集まってビジネスを開始しようとか、そういった関係がある場合がほとんどだったということででございまして、今のところは、民民の力で解決できる場合が多いのではないかという御議論があったと承知しております。

【野村主査代理】 どなたか他に御発言ございますか。では上野委員、お願いします。

【上野委員】 共有著作権の問題が、保護期間延長に絡んで出てくる背景といたしましては、たしかに保護期間が延長された場合、著作者の相続人たる共有著作権者の数が増えることが多くなり、これによって共有著作権者のうち一人でも反対すれば著作権法65条に基づき原則として著作権の行使ができないことになり、著作物の利用が阻害されてしまうのではないかという懸念があるのだと思います。
 著作権法65条の趣旨については様々に論じられておりまして、起草者によりますと「共有著作物の創作意図」であるとか「著作権の一体的行使」などと述べられております。たしかに共同著作物であれば、共同の創作意図がありますので、共有著作権の個別行使を認めないというルールを正当化できようかと思うのでありますけれども、ただ、この規定というのは共同著作物の場合のみならず、共有著作権一般に適用される規定であります。したがいまして、共同著作物ではないけれども著作権が共有されているという場合にも共有著作権者全員の同意がなければ原則として著作権の行使ができないということになるわけであります。この点をどのように説明するかということが大きな問題になってまいります。そしてこのようなルールが著作物の利用の妨げになるといわれると、確かにそういう側面があるかもしれません。そのような観点から、同条を改正して持分割合による多数決原理を導入するといった立法案もみられるところであります。
 ただ、先ほど金委員からも御指摘がありましたけれども、同条3項にいう「正当な理由」というものの解釈によって、ある程度解釈論として対応できる可能性もあるように思われます。つまり、「正当な理由」があるかどうかを判断する際、その共有著作権者が同時に共同著作者である場合、すなわち著作者であり著作権者でもあるという場合なのか、それとも著作者ではないけれども共有著作権者であるという場合なのか、によって、「正当な理由」があるかどうかという判断は異なってきていいのではないか。すなわち、著作者である共有著作権者であれば合意等を拒絶することをより許容しても構わないと解釈するという可能性はあってもいいのではないかと思います。
 もっとも、そういう場合でも現実にはなかなか「正当な理由」が肯定されないというのであれば、つまりこの規定は問題だということになるのであれば、やはり立法論的にも何らかの検討を行わなければならないということになるのかもしれません。
 そうなりますと、共同著作物でない場合も含めて共有著作権一般に民法とは異なるルールを設けるということが妥当なのかどうかということが、そもそも問題とならざるを得ないのではないかと思います。
 ただ、この点に関しましては、所有権というものと著作権というものとが有する性質が異なるという観点から説明できるかも知れないというように考えております。つまり、著作権というのは基本的には禁止権であると考えられます。例えば「複製権」と申しましても、複製することができる権利、すなわち複製を行うことが法的に保障される権利などではなく、単に他人が無断で複製する行為を禁止できる権利、すなわち禁止権に過ぎないというものであります。そうだといたしますと、共有著作権の場合でも、たとえ自分以外にも共有著作権を持っている者がおりましても、自分が禁止権である共有著作権を持っている以上、他の共有著作者が権利行使することを原則として禁止できるということになります。そのように考えますと、著作権法65条の規定というのは禁止権構成から当然に出てくる帰結なのかもしれません。
 ただ、いずれにいたしましても、結局のところ、著作権というものにそういう禁止権としての性質をどれほど認めるべきなのか、報酬請求権では足りないのか、といった点がやはり問題として残らざるを得ないのではないかと思います。

【野村主査代理】 他にいかがでしょうか。では梶原委員どうぞ。

【梶原委員】 放送番組の話ばかりで申しわけありませんが、放送番組については、資料5の最初のページの3番目の最初の丸ということで、この中で、どなたかが拒否された場合、放送番組のコンテンツは流通しないわけですけれども、先ほどから椎名委員からも言われていますが、権利者の権利を制限するということは大変難しいことだと思います。であれば、一番最初の資料1で説明がありましたけれども、やはり権利の集中管理をより進めることによって、やはりこういったことがなくなってくるのかなと思います。現状では、音楽についてはかなり100パーセント近い権利の集中化が進んでいるわけですけれども、その他の分野を見てみると、この集中管理があまり進んでいない。たくさん管理事業者はいらっしゃるわけですけれども、ただ、管理されている著作者の数あるいは著作物の数がまだまだ少ないのが実態です。権利の集中管理をより一層進めて頂くことによって、コンテンツがなかなか流通しないといった問題も1つ解決していくのかなと思っています。

【野村主査代理】 それでは三田委員、どうぞ。

【三田委員】 この小委員会というのは、過去の著作物について保護期間を50年から70年にした場合にどんな問題が生じるかということを中心に進めてきましたので、ヒアリングの中で反対意見の1つの理由として、50年を70年にしたら相続人が多数に分かれて大変面倒であるというような御意見が出てきたのではないかと思っております。しかし、現実的に文藝家協会で御遺族の方の管理をやる場合は、相続によって経済権が共有されるということはありますけれども、必ず代表者を設定して頂いて、代表者一任型の管理をやる、教材らの場合にはもちろん自動的に許諾を出すわけでありますし、映画の原作等の人格権にかかわるような問題についても、奥様がいらっしゃったら奥様というような形で、代表者の方に御意見を伺うということで十分に対応しております。JASRAC(ジャスラック)なんかの場合にもほぼ完全に対応できていると思われます。
 ですから、問題となるのは、そういうところに登録あるいは表示されていない、いわゆる行方不明のオーファンワークについて、相当な努力をして著作権者を探したら、何人かの相続人がいてややこしいことになっていた。すると、その一人一人に許諾を求めなければならないので、その相当な努力というのは大変な努力を必要とするというようなケースも起こるのではないかという漠然とした不安がこういう形で問題として提起されているのだろうと思います。しかし現実的には、そういうややこしくなるケースはレアでありますし、それから先ほど私が言いましたように、相当の努力にかえてデータベース等に登録されてあるものを確認するということだけで裁定制度ができるような簡略化したシステムができましたらば、この漠然とした不安というのはほとんど解消するだろうと考えられます。
 それとは全く別に、今、複数の著作者ということで、ネットなどで問題になっている問題があります。例えば『電車男』のようなもので、誰かが2ちゃんねるみたいなところでこんなことあるんだと言ったら、いろいろな人が意見を言って、主たるコンテンツを作っている人がその意見に影響されながら何か一定のコンテンツを作ったような場合、すると、意見を言ったいろいろな人が共同の著作者になるのかどうか。これはネット社会が進んでいきましたら、そういうものがたくさん出てくるだろうということは十分に予想されます。これについては今後の課題として考えるべきですが、その著作物が50年経った後なんて今から考えてもしかたがないので、とりあえずの問題というのは、50年が70年になったときにどんな問題が生じるかといった状況の中では、権利者が複数存在するということで大きな問題が生じることはないのではないかと私は思っております。そうではないという方がいらっしゃったら、御意見を賜りたいと思います。

【野村主査代理】 久保田委員、どうぞ。

【久保田委員】 ちょっと意地悪な質問なんですけれども、頭になる人を決めておいて、他の人が裁判所に訴えた。多分、規定内部の中では、契約があれば債務不履行みたいなことなんでしょうけれども、ちゃんと裁判を受ける権利として、別の相続を受けた人が裁判所に訴えるということになる可能性というのは、ないことはないと思うのですけれども、そういうことっていうのは、裁判制度からいえば、当然決めてあっても起こり得るわけですよね。

【三田委員】 それは民事の一般の財産、例えば親が死んでその土地を兄弟で分割して、それをマンションにするのか、そのままにしておくのかとか、そういうところで経済的な問題として起こることだろうと思います。それに関しては、確かに相続に関していろいろ問題が起こるということがありますけれども、それは文芸著作物であるかどうかとは関係のない問題ですし、主に経済権の問題でありますので、著作権でそれに対して何か特別の配慮を払うことはないのではないかと思います。ただ、質問されたついでに答えておりますが、皆無ではない。それは人格権が絡む場合がレアケースであるけれどもあり得るということですね。
 というのは、日本の文学作品の中には私小説と言われるものがありまして、奥さんのことを書いたり子供のことを書いたり、非常にプライバシーを暴くようなことを書いた作品があります。書いた人が生きていて、家族が存続している間、問題にならなかったものが、著作者が亡くなったときに問題になるケースがあります。そのときに、金銭的な相続が奥さんとお子さんに分かれているということがありますし、非常にレアなケースでありますけれども、その奥さんが後妻さんで、お子さんとは血のつながりがないというような状況の中で、プライバシーが暴かれるのがその後妻さんの場合、前妻である場合、子供である場合によって、精神的な損害、こんなことを書かれた、これがまだ本になっているのは困るということと、しかしこれを本にすればお金が入ってくるんだといったときに、自分に痛みがない人はお金が入ってくればいいのではないかと。でも、自分のことが書かれている人は痛みがあるわけです。利害関係と精神的な苦痛がもつれ合って話がこじれることがないわけではないということは申し上げておきます。

【野村主査代理】 平田委員、どうぞ。

【平田委員】 先回も申し上げたように、確かに三田先生おっしゃるように、日本ではあまりそういうケースはこれまでなかったんだろうと思いますが、おそらく主たる著作権継承者が大体判断をして、それで大丈夫だったと思うのですが、それは1つの、日本の遺族があまり権利を主張してこなかっただけのことであって、今後、海外では、私たちは海外の作品を上演することが演劇の場合は多いですので、多くそういう上演拒否というケースがこれまでもありましたので、そのことは繰り返し申し上げておきますが、決して今後もそうであるかどうかの保証はちょっとないのではないか。ですから、これは別に何か空想で心配しているわけではないということです。
 もう1つ、ここから申し上げることは、劇作家はどちらかというと表現者の中では、この次から述べることに関しては少数派なので、あまり強く主張するつもりはないのですが、これも繰り返し申し上げてきましたように、戯曲は改変されて上演されるケースが非常に多いので、集中管理が非常にしにくい。強制許諾というのはそのまま使うということがやはり前提になると思います。一番分かりやすい例で、これもヒアリングのときに申し上げましたが、高校演劇、約3,000の高校が加盟していると思いますけれども、これは改変をして上演せざるを得ない。高校演劇の場合は教育目的ということで、本来は無償なんですけれども、その分、本来は戯曲を全部買ってもらわなくてはいけないのですが、そういうことはできなくて、コピーをする。コピーをすることを許す代わりに、先ほどの資料でいいますと資料1の(2)のように団体間のルールに基づいた個別許諾ということを行っており、高校演劇の場合には私たちの作品を使うときに1上演当たり5,000円を支払うということになっております。しかし、その上演許可は作家が個別に出しております。なぜなら、ものすごい改変をするので、その改変を一々許諾するかどうかは個人で判断するしかないからです。もし集中管理をすることになりますと、亡くなった作家の作品は高校演劇では上演できないということにおそらくなると思います。
 ですから、これは先ほども申し上げたように、レアケースといえば、全体からいえばものすごいレアケースでありますけれども、3,000の高校がかかわっている問題です。ですから、もしこれが集中管理とか強制許諾という方向になるならば、この辺の救済措置はお考え頂く必要があるのではないかと思います。

【野村主査代理】 他にいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 三田委員にちょっとお伺いしたいんですけれども、著作者が死んで相続のときに、遺産分割で1人だけが著作権を相続するというケースもありますか。それともほとんど共同相続でそのまま共有ですか。

【三田委員】 1人だけが代表して著作権を相続するケースというのはあります。というのは、著作権、実際にお金がどんどん入ってくるような方というのはレアケースでありますので、むしろややこしい。何か忘れたころに出版社から何だかんだ言ってくるのはややこしいというので、誰か1人の人にまとめて相続させるというケースも大変多いのではないかと思います。それから著作権使用料は要らないという人もおります。ですから、これから作るわけですけれども、データベースを作って、意思表示のシステムをやって、お金は要らないという人とか、著作権のない人も含めていろいろなケースがあるんだということは表示して、利用者に対応していきたいと思います。
 我々が今議論していることは、著作権を守りながら、なおかつ利用者の方々に負担をかけないように、なるべく利便性を高めていくということのために議論をしているわけであります。今、言われたようなレアケースのものについてはどうするかというのは、我々でそれなりに考えて、精いっぱい対応するということでやっていくしかないかなと思います。
 それから劇作家の方はちょっと立場が特有、別であるということは我々も十分に理解しておりますので、この問題についてはまた我々と平田さんで議論を深めていくということを永遠にやり続けるしかないかなと思っております。平田さんが所属している組織とは別に日本演劇協会というのがあって、これは我々の仲間なんです。ですから、劇作家の中でも意見の対立があるということは事実でありますので、これは我々の問題として更に議論を深めていきたいと思いますけれども、そのことで利用者に御不便をおかけすることがないように、我々の中で話し合いを続けていきたいと考えております。

【野村主査代理】 どうもありがとうございました。それでは常世田委員どうぞ。

【常世田委員】 先ほど、三田さんが若干お話しになったと思うのですけれども、非営利のものについては裁定などについても少し緩くすべきだという御意見だったと思うのですが、ここで議論されているのは、ほとんどが経済的な損失を生むという経済的な問題として議論されることが多いと思うのです。それと、今、三田さんが非営利の場合は別だろうとおっしゃったのですが、私はそれよりもっと重要なことが1つあると思うのです。
 それは、例えば基本的人権が十分に保障されていないという障害を持った方たちについてのことなんですが、例えば視覚障害を持った方たちについてはこういう墨字といいますけれども、一般的な印刷物はそのままでは著作物として享受できないわけでありますので、一般的に録音テープなどに媒体変換をするわけであります。媒体変換しないと読めないわけであります。ただ、これは行為としてはコピーになってしまうので、著作権上の問題になるわけでありますけれども、ここで、著作者がどこにいるのか分からない、あるいは複数著作者になって反対する方がいるということになると、これはもう知る権利が奪われていると考えることもできるわけであります。ですから、非営利というような問題よりも更に深刻な問題、根本的な問題だと言えると思います。
 ですから、保護期間が延びて裁定問題あるいは複数著作権の可能性が増えてくると、以前、ヒアリングでも国会図書館から報告がありましたように、明らかに許諾が取れない事例が増えてくることは確かでありますので、法制問題小委員会のほうで、今、図書館における権利制限のことを議論しているわけでありますけれども、もしそちらのほうでの権利制限が可能でないとすると、やはりこの裁定の問題については、知る権利ということに関して問題があるだろうと思います。先ほどの上野委員がおっしゃっていたように、禁止の程度というものをどこに考えるかというような問題とかかわってくるのかなと思っております。

【野村主査代理】 どうもありがとうございました。それでは久保田委員、どうぞ。

【久保田委員】 それは、権利制限と分けて考えるのではなくて、まず知る権利があって制限規定の及ばないところをどうするんだということですか。今回の改正で視覚障害者の人に37条において対応されて、公衆送信がオーケーになりましたよね。そういう手当て以外に、もともと媒体変換などの物理的な置き換えなり置換ができないことで情報のアクセシビリティーが向上できないということをどう考えるんだということなのですか。それとも今後、ハンディキャップのある人々のために制限規定を広げることによって対応するべきかということですか。これは多分次元が異なる問題だと思うのです。

【常世田委員】 実際問題として、今、権利制限を行っているのは、障害者関係の施設で媒体変換する場合だけなんです。ところが実際にそこだけでは、とてもではないですけれども、障害を持った方たちの知る権利を保障するどころではない。つまり、一般的に出版されている一般的な本だけで言ってもそれが媒体変換されている率というのは本当に微々たるものですから、具体的にいえば、権利制限の対象になっているのは公共図書館です。一般的な街にある図書館で許諾なしで媒体変換できるようにするというのも今回の権利制限のテーマになっているわけです。それがクリアされたとしても、まだまだ難しいというレベルなんですが、せめてそういう問題があるところで、この裁定が今お話ししたような部分については別扱いするというような検討があってもいいのではないかなということなんです。

【野村主査代理】 他に御発言いかがでしょうか。
 それでは、特に御発言がないようでしたら、ほぼ定刻がまいりましたので、本日はここまでにしたいと思いますが、次回はアーカイブ事業の円滑化方策と意思表示システムの利用に伴う法的課題について御議論をお願いしたいと思っております。
 それでは、事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 本日はありがとうございました。
 資料6、今後の日程のお話でございますけれども、次回につきましては、主査代理から御紹介ございましたとおり、アーカイブ関係もしくは意思表示システム関係の議題につきまして、7月27日(金曜日)の10時から12時、場所は本日と同じ三田共用会議所、こちらでお願いしたいと思っております。
 それから第7回ですが、前回再調整させて頂きたいと申し上げましたけれども、9月3日(月曜日)の14時から16時で開催日時を変更させて頂きました。この回は、保護期間の延長の問題や戦時加算の取り扱いについて御議論頂ければと思っております。
 以上でございます。よろしくお願いします。

【野村主査代理】 それでは、本日はこれで文化審議会の著作権分科会の第5回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせて頂きます。本日はどうもありがとうございました。

─了─

(文化庁著作権課)


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