12.日本俳優連合

●第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて

 適法配信からのダウンロードについては、現行法下で、俳優の隣接権が及ぶ範囲が一部不透明な部分もあり、また、技術的な面でもコントロール技術が全面的に解決されていない現状では、私的録音録画補償金制度の精神を尊重する意味からも、慎重に取り扱って見直しを進めていただきたい。
 違法配信からのダウンロードは、法の盲点が生じており、法第30条の適用範囲から除外することは、適当と考える。その上で、違法行為助長に対する抑止力として、早急に罰則規定を法定すべきである。

●第3節 補償の必要性について

 文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会で中間整理がなされるのと平行して、総務省情報通信審議会から公開された「いわゆる“コピーワンス”ルールの見直し」についての答申では、1コンテンツに対するリスペクトとその適切な保護、2創造に関与したクリエーターに適正な対価が得られる環境の実現という2点の共通認識のもとに、「ダビング10」というルールが合意され、提言されている。しかし、クリエーター(権利者)、ユーザー(消費者)、メーカーの3者が合意したこの共通認識を、文化庁文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会の場で、メーカー側はあっさりと破棄し、私的録音録画補償金制度の廃止を主張した。「権利者に重大な経済的損失を与えているとは言えない」ということらしい。デジタル録音録画の技術が持っている社会的影響力の大きさと、文化論的意味を、企業の社会的責任としてメーカー側は真摯に考えているのだろうか。
 そもそも、デジタル方式での視聴覚著作物の録音録画は、アナログのそれとは質がまったく違い、オリジナルと変わらない複製ができあがる。これは、造幣局でない一般家庭で真札造りが可能になっているようなものだと言えるのではないだろうか。機器メーカーは、この複製機器を販売して利益をあげているのである。
 この事によって引き起こされる深刻な事態を重くとらえて、私的録音録画補償金制度が作られたはずである。私的録音録画補償金制度のこの原点をもう一度しっかり確認して、議論は行われるべきである。
 現在は、家庭内における私的な複製は零細かつ私的な領域で行われるので、例外的に権利者の許諾なく行う事ができるとされているが、現状では機器の発達によりコンテンツが広範囲に利用され、複製は予想を越えて量的にも質的にも拡大し零細且つ私的な領域を越えている。権利者の経済的利益を侵害しているのは、明らかである。
 欧州各国は2001年以降、携帯オーディオプレイヤーも補償金の課金対象としてきている。日本は何故現状に合わせた対応がとれないのか。補償金の受領額は、欧州は日本の数倍となっている。この差は文化や著作権の考え方、文化の捉え方の成熟度の違いなのか。日本の実演家は他国に較べて蔑ろにされていると言わざるをえないだろう。

●第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について

 現在では、汎用機器であっても、録音録画機能を有するものであれば、高品質で大量の複製を短時間に行えるのが当たり前となっている。こうした現状に即して考えれば、デジタル方式の録音録画に供されるすべての機器・記録媒体は補償金の課金対象とする必要があるのではないか。そして、そうした機器・記録媒体を製造し、利益を手中にするメーカーは、補償金支払い義務者となるべきではないだろうか。
 欧米の主要国では機器の販売で利益が生じる者として、メーカーが支払い義務者になっている。その一方、日本のメーカーは、外国ではその国の補償金制度に則り、補償金を支払っている。外国のクリエーターには補償金を負担し、日本国内のクリエーターには補償金を負担しないというのは、どういう理屈なのだろうか。メーカーは自分たちが儲けて、補償金の支払いは機器を買う消費者ユーザーにまかせ、実演家等クリエーターに悪役を演じさせて満足するつもりなのか。
 ソフトを創り上げるクリエーター、放送事業者と機器を作るメーカーは、これからの音楽や映像といったソフト文化を発展させるための車の両輪である。
 従って、ユーザーに一定の複製の自由を約束する私的録音録画補償金制度は、コンテンツに対するリスペクトと適切な保護を伴うことを前提に、ユーザー利益に合致し、かつメーカーの経済行為を妨げることなく、クリエーターにも適切な対価を補償する制度として、クリエーター・ユーザー・メーカー3者の間の絶妙なバランスをとる文化論的にも優れた制度であり、決して「曖昧な制度」ではない。早急に技術発展の現状に合わせた私的録音録画補償金制度の制度設計が行われ、一日も早く新しい制度の運用が行われることを切望する次第である。
 文化は創り出し、守っていかなければならない。そこに利益が生まれるのなら、皆でその利益を分かち合うべきではないだろうか。それがさらに豊かな文化の国・日本を築く道となるのではないだろうか。

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