11.日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター

●『該当ページ及び項目名』全体

 デジタル技術の著しい進歩に伴い、デジタル方式による音楽や映像の複製機能を訴求した製品は、制度導入時に比べて遥かに多岐にわたる。それらの機器が普及することに伴って、それらの機器を製造販売するものは順調な利益を上げるとともに、制度導入時に比べれば、それらの機器を利用した私的複製の利便性は格段に向上し、私的複製全体のボリュームも飛躍的に拡大している。

 しかし一方で、制度による補償はそうした実態を反映したボリュームにはなっていない。その理由の最たるものは、複製に使用される機器の実態が、制度が対象機器として想定していたような機器から、想定していなかった機器へと遷移しており、それらの機器が対象機器として指定されずに経過している点である。私的録音録画に現に使用されている主要な機器が、補償金制度の対象機器として指定されない状態が生じたまま、利用者の利便性と権利者の保護との調整を図るべき制度は空洞化の一途を辿っている。

 そのような背景から、約1年半余にわたる議論を経て報告された本中間整理において、かかる状況を打開するための具体的な施策が明確に示されるに至らなかったことについては極めて残念でならない。しかし一方で、仮に補償が必要な場合との前提で議論された制度の設計については、細部にわたる議論が行われ、おぼろげな今後の制度のあり方について垣間見えてきているようにも感じられ、その方向に向けて議論を加速するべきである。

●『該当ページ及び項目名』32ページ 3 具体的機器及び記録媒体

 現行制度が対象とする機器、媒体の一覧をまとめた表であるが、録音の対象となっている機器のうち、DAT、DCCなどはすでに市場に存在していないに等しい機器であって、MDについても今後同様の展開が予想される。権利者が、実際の私的録音録画に使用されているHDD内蔵の一体型機器や、汎用性のあるパソコンなどを対象にするよう求めていることを、「対象機器・媒体の拡大」と表現されることがあるが、これは大きな誤りであって、むしろ、実態に合わせた「遷移」と理解するべきである。

●『該当ページ及び項目名』77ページ〜外国における私的複製の取扱いと私的録音録画補償金制度の現状について

 わが国と同様の補償金制度を導入している国で、これまでに制度を縮小、廃止した国はいまだかつて存在していない。音楽や映像をこれまで通り身近に楽しむことができる環境を維持する一方で、権利者の被る不利益をこれ以上拡大させないために、一刻も早く、私的録音録画補償金制度を私的録音録画の実態に即した実効性あるものに再構築して維持すべきである。

●『該当ページ及び項目名』104ページ〜第7章第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて2 第30条の適用範囲から除外することが適当と考えられる利用形態 2 検討結果 a 違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画

 違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画を第30条の適用範囲にとどめた場合は、補償金で対応することになるが、実態調査等で明らかな被害実態に照らせば、極めて莫大な補償金を想定しなければならず、現実的ではない。

 また第30条の適用範囲からはずすことにより、違法状態が蔓延するような事態とならぬよう留意すべきである。

●『該当ページ及び項目名』108ページ〜第7章第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて2 第30条の適用範囲から除外することが適当と考えられる利用形態 2 検討結果 a 適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画

 適法配信事業者から入手した著作物からの私的録音録画を第30条の適用範囲からはずす場合は、配信事業者が配信の対価に含めて徴収する私的複製の対価について、その金額の明確化や、権利者へ衡平な分配が行われることを実現させるための関係者間のルール作りが前提となる。

 また最近は配信後の私的複製を制限しないビジネスモデルも登場し、権利者が市場の動向等からそのビジネスモデルを選択せざるを得ないような場合、権利者が配信から生ずる複製の許容範囲やその対価について選択権をまったく行使できない状態が想定し得る。その場合には、権利者の複製に関する裁量権が、市場の動向や配信事業者のビジネス上の判断に事実上委ねられるような形になることから、「配信後の私的複製を制限しない場合」については、30条の適用範囲から除外すべきではない。

●『該当ページ及び項目名』110ページ〜第7章第3節 補償の必要性について 1 権利者が被る経済的不利益

 補償金は権利制限の代償措置である。したがって、111ページ、アの「私的録音録画のために権利者の許諾を得る必要があるとすればそこで支払われたであろう使用料相当分を経済的不利益とする考え方」が妥当である。

●『該当ページ及び項目名』114ページ〜第7章第3節 補償の必要性について 2 著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係 (3)著作権保護技術の範囲内の録音録画と権利者が被る経済的不利益の関係

 著作権保護技術による複製制限の程度によって権利者の被る不利益が変動することに異論はないが、イ-2に述べられている「著作権保護技術により複製に一定の制限がある場合、権利者は予見可能であるので補償の必要がない」との考え方は明らかに間違っている。

 その根拠としては、音楽CDについて、SCMSという著作権保護技術による複製制限を付与されているにも関わらず、それを録音する機器、媒体が従来から補償金の対象となってきたことが挙げられるが、そもそも現状施されている著作権保護技術は、利用者の利便性に配慮する観点から「私的複製の規模を超えて複製が行われることを防止する」ことを目的として複製を制限するものであって、補償金の対象となる領域まで制限するものではない。また、技術的保護手段による複製制限の範囲内で行われる複製が予見可能であるということと、そこで権利者の経済的不利益が生じるか生じないかということとは何の因果関係もなく、完全な論理の飛躍である。著作権保護技術と権利者の被る経済的不利益の関係を見る場合に問題となるのは、暗号化の有無や、複製制限が施されていること自体ではなく、どの程度の複製制限が付されているかという点にある。

●『該当ページ及び項目名』116ページ〜第7章第3節 補償の必要性について 3 補償の必要性の有無 (1)経済的不利益に対する利用形態ごとの評価 (2)経済的不利益に対する全体的な評価 (3)権利者の受忍限度と補償の必要性

 権利者の不利益とはならないとの意見のあるタイムシフトやプレイスシフトについては、それらが私的録音録画の全てではなく、第30条の適用範囲で議論された様々な態様の私的録音録画が混然として行われていることから、補償金制度全体のボリュームを検討する際に配慮すべき事項とはなっても、権利者の不利益すべてを否定する根拠とはなり得ない。

 また、補償金制度導入時に比べて、デジタル技術の著しい進歩に伴い、デジタル方式による音楽や映像の複製機能を訴求した製品は、制度導入時に比べて遥かに多岐にわたり、それらの機器が普及することに伴って、制度導入時に比べれば、それらの機器を利用した私的複製の利便性は格段に向上し、私的複製全体のボリュームも飛躍的に拡大して、権利者の被る不利益も拡大し受忍限度をはるかに超えていると解される。このことは小委員会に報告された様々な実態調査等の結果により、すでに明白である。

●『該当ページ及び項目名』119ページ〜第7章第3節 補償の必要性について 4 著作権保護技術により補償の必要性がなくなる場合の試案

 ここに述べられている、ア、イ、ウのうち、アとウについては補償の必要性がなくなる可能性のある部分として理解できるが、イの「著作権保護技術の内容について権利者の選択権が行使できるようなり、そのような実態が普及したときは補償の必要がない」との考え方を採用することについては反対である。

 配信に関わるハードウエアからソフトウエアに至るまで、関連するプラットフォームの全てを独占的に保有する立場の配信事業者があるような場合に、権利者は一律の配信対価や著作権保護技術の採用に同意することを求められ、市場動向等から権利者がこれに同意せざるを得ないような事例も存在している。このような場合に、権利者が配信に同意したことをもって、その著作権保護技術の内容について選択権を行使したと拡大解釈された場合は、著作権保護技術に関する権利者の裁量権が、市場の動向や配信事業者のビジネス上の判断に事実上委ねられるような形になる懸念があり、補償の必要性がなくなるとは考えられない。

●『該当ページ及び項目名』123ページ〜第7章第4節 補償措置の方法について 1 補償金制度による対応

 権利者への補償措置は、補償金制度により対応することが適当である。

 補償金制度は、私的領域におけるユーザーの利便性の確保と、権利者の保護との間を調整する方法として今もって優れた方法であり、かつリーズナブルな制度であると考える。また、私的な複製に供される機器、媒体を販売することで利益を上げる機器等の製造業者等が関与しない制度設計はあり得ないことから、アの「録音録画機器・記録媒体の提供という行為に着目した制度設計」とすることが妥当である。

●『該当ページ及び項目名』124ページ〜第7章第4節 補償措置の方法について 1 権利者と録音源・録画源提供者との契約による対応

 アからエまでの問題点が述べられている通り、現実性のある選択肢ではないと思われる。また小委員会においても、これを積極的に支持しようとする意見はなかった。

●『該当ページ及び項目名』126ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 1 対象機器・記録媒体の範囲

 129ページのアに示されているように、「録音録画機能が附属機能かどうかにかかわらず著作物等の録音録画が行われる可能性のある機器は原則として対象にすべきであるという考え方」を採るべきである。

 現行制度においては、実際に私的録音録画に供されているにもかかわらず、制度上の制約から対象とはならない機器、記録媒体が数多く存在しており、そうした機器や媒体に使用実態が遷移したことにより、制度そのものが空洞化し、また不公平が生じる結果ともなっている。補償されるべき録音や録画に供される機器や媒体は本来変遷していくものであることから、制度導入時に考えられた機器の類型等により取り扱いを変えることの正当性はもはやない。

 ただし、パソコンなど多目的な汎用的機器については、補償金額の決定のプロセスにおいて、実態調査等による私的録音録画への関与割合に応じて補償金額を按分するなどの配慮を行うことが望ましい。

 また仮に今回はパソコンが見送られるような場合にも、パソコン用のCD−R/RWについては、音楽CDを複製する媒体として利用される実態が顕著であり、その影響も大きいことから制度の対象とすることが望ましいと考える。またこの場合、パソコンと同様に、補償金額の決定プロセスにおいて、一定の配慮を行うことが望ましい。

 また132ページに、「第3節2(3)イ-2の立場からは、著作権保護技術が使用されている録画源(例えばデジタル放送)を録画する機器及び記録媒体については、対象機器等にはならないとすべきである」とのメーカー委員の主張が記載されているが、この主張は誤っている。

 対象機器等にすべきではないと主張する理由として「著作権保護技術により複製に一定の制限がある場合、権利者は予見可能であるので補償の必要がない」ことをあげているが、この考え方は、音楽CDについて、SCMSという著作権保護技術による複製制限を付与されているにも関わらず、それを録音する機器、媒体が一貫して補償金の対象となってきた事実と全く整合しない。

 そもそも現状施されている著作権保護技術は、利用者の利便性に配慮する観点から「私的複製の規模を超えて複製が行われることを防止する」ことを目的として複製を制限するものであって、補償金の対象となる領域まで制限するものではない。

 また、技術的保護手段による複製制限の範囲内で行われる複製が予見可能であるということと、そこで権利者の経済的不利益が生じるか生じないかということとは何の因果関係もなく、完全な論理の飛躍である。

 著作権保護技術と権利者の被る経済的不利益の関係を見る場合に問題となるのは、暗号化の有無や、複製制限が施されていること自体ではなく、どの程度の複製制限が付されているかという点にある。

 総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」において行われた、デジタル放送に係る「コピーワンスル−ル」の見直し(緩和)に際しては、本中間整理57ページに第4次中間答申が引用されている如く、コンテンツへのリスペクトがいわれ、その中でコンテンツの創造に関与したクリエーターが適切な対価を得られることが前提であるとし、さらには私的録音録画小委員会等に対して「クリエーターに適切な対価を還元していくための制度やルールのあり方について、消費者の利便性確保とのバランスに常に配慮しつつ更に検討を進め、可能な限り早期に、具体策がまとめられることを期待する。」と明言されている。よって、コピーワンスの緩和に係る合意は、利便性の確保と権利の保護とのバランスについて、あくまでも私的録画補償金制度による補償機能で解決することを前提として成立したものであるが、メーカー委員が、中間答申策定時にはなんらの反論も行わずに当該合意に参加しておきながら、この小委員会において、それを覆すような意見を述べていることについては極めて遺憾である。

●『該当ページ及び項目名』133ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 2 対象機器・記録媒体の決定方法

 対象機器、記録媒体の決定にあたっては、技術の変遷や多機能化に対応でき、かつ迅速に指定が行われるような仕組みが必要である。ここで整理されているように、公的な「評価機関」の審議による場合には、委員構成の公平性や審議過程の透明性が担保されることが重要であり、その議決方法を明確化した上で、一定期間が経過しても結論が得られないような余地を排除すべきである。

●『該当ページ及び項目名』135ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 3 補償金の支払義務者

 メーカー等を支払い義務者とするべきである。

 補償金制度を導入している国のうち、わが国を除く全ての国がメーカー、輸入事業者を支払い義務者と定めている。私的領域において行われる複製の受益者は一義的には複製を行うユーザーであるが、いっぽうメーカー等も、複製手段を提供することにより利益を上げていることから、複製を行わなかったユーザーへの返還制度が機能しにくいといった現行制度の問題点を解決するためにも、メーカーを支払い義務者とするべきである。

 私的複製に関連して、補償金制度と表裏の関係にあるといえる「コピーワンスの緩和」を検討した総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」においては、コピーワンスを緩和することの前提として、コンテンツへのリスペクトと、コンテンツの流通の成果をクリエーターに適正に還元することを理念として掲げて議論を重ねた結果、緩和を実現した経緯を持つ。私的領域におけるコンテンツ流通の最大の受益者であるメーカー等が、その成果のクリエーターへの還元について、進んで分担しようとする姿勢を持たない限り、私的領域における複製に関する問題は本質的に解決しないものと考える。

●『該当ページ及び項目名』138ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 4 補償金額の決定方法

 補償金額は、対象となる機器や媒体の実態調査等に基づく私的録音録画への関与割合や、利用の態様、著作権保護技術の影響等を加味して決定されるべきである。

 また現行制度では、補償金額の決定において、対象機器・媒体の価格に比率を乗じて算出する方式を採っているが、昨今のオープン価格の導入や、発売後の価格の下落が著しいことから、商品の価格が下がれば補償する金額が下がるという矛盾を持っており、現行の「定率制」ではなく「定額制」に改めるべきであると考える。また現行の決定方法においては、権利者とメーカーが交渉を行って決定する形をとるが、交渉が難航する結果、いつまでも結論が得られないなどのこともあり、前出の評価機関などの場において、その議決方法を明確化した上で、一定期間が経過しても結論が得られないような余地を排除すべきである。

 また、パソコンやパソコン用のCD−R/RWなど多目的な汎用的機器、媒体については、補償金額の決定のプロセスにおいて、実態調査等による私的録音録画への関与割合に応じて補償金額を按分するなどの配慮を行うことが望ましい。

●『該当ページ及び項目名』139ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 5 私的録音録画補償金管理協会

 録音と録画をひとつの管理協会で管理することが妥当であると考える。

 音楽と映像に関わる機器が汎用性を帯びてきている昨今、録音専用機器、録画専用機器にカテゴライズできない製品も増えてきていることから、録音と録画を分離して管理することの合理性は失われつつある。

●『該当ページ及び項目名』140ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 6 共通目的事業のあり方

 現状の比率、目的で維持することが妥当と考える。

 共通目的事業は、全ての権利者が特定できないことから「間接的な分配」としての意味合いを持っている。その点から見れば、必ずしも権利者のみを対象として使われていないとの批判もあるが、権利者の辺縁にいる新人クリエーターに対する助成など、広義に権利者全体の利益に使われることは、この制度の社会的な意義に照らせば趣旨に合致していると思われる。

 また事業の透明性をより確保する意味から、事業内容の公開などを義務付けるなどの措置は必要である。

●『該当ページ及び項目名』141ページ〜第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 7 補償金制度の広報のあり方

 この制度の優れている点について広報をすることは、消費者、メーカー、権利者のいずれにとっても有意義なことであると考える。

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