8.日本音楽著作権協会

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総論

 著作権法第30条1項の私的複製は、個人的又は家庭内で行われる複製が極めて零細な利用であることを大前提としたものである。そして、その後の録音録画機器の高性能化と普及が著作者の正当な利益を脅かしかねない状況になったことから、ベルヌ条約のいわゆる「スリー・ステップ・テスト」の要請を満たしながら、消費者、機器又は記録媒体の製造又は輸入を業とする者(以下「製造業者等」という。)、権利者の利益のバランスを保つために設けられたのが補償金制度である。
 当協会は、消費者の利便性を確保しつつ、三者の利益のバランスを保つため、補償金制度を引き続き維持し、適正に機能させることが最適であると考えており、今後この問題を文化政策にかかる重要課題として早急に解決すべく、文化庁が牽引的役割を果たすことを強く要望する。

 1990年代半ば以降、パソコンを使って音楽CDをCD-Rやハードディスクに複製(私的録音)することができるようになるとともに、iPodをはじめとする大容量のデジタル録音機器が次々と開発され、その普及に伴い私的録音が著しく増大した。また、私的録画の分野においても、ハードディスクを内蔵したデジタル録画機器が普及したことにより、私的録画が大量に行われるようになった。このように私的録音録画の総体が急激に増え、1992年の私的録音録画補償金制度(以下「補償金制度」という。)制定当時から既に権利者の受忍限度を超えていた私的録音録画の総体が爆発的な勢いでさらに増大したにもかかわらず、ハードディスクや新たなデジタル録音録画機器・記録媒体が補償金の支払対象として指定されないことで、国内外の権利者に対して適正な対価が還元されない状況が続いている。

 2005年の法制問題小委員会の検討においては、製造業者等がDRM(Digital Rights Management)の発達により補償金制度は不要になったと強く主張したことなどから、既に目覚しい勢いで普及し始めていた携帯用オーディオ・レコーダー等の追加指定は見送られた。
 当協会はかねてから、DRMによる解決は現時点では時期尚早であると主張してきた。それは、DRMに対応していない録音源・録画源や機器等が既に大量に出回っている現実がある一方、著作権を適切に管理することが可能で、かつ、利便性やコストの面で消費者に受け入れられるようなDRMは今もって存在しているとはいえないからである。しかも、DRMが機能しているといわれている音楽配信事業でさえ、「DRMフリー」と称する楽曲販売が増加する状況にあるなかで、近い将来、DRMが補償金制度に代替するとは到底考えられない。

 消費者は、補償金の支払対象となっていない様々な機器等(パソコン、携帯用オーディオ・レコーダー、HDD内蔵型録画機、データ用CD-R、携帯電話、カーナビゲーション等)にかつては想像できなかったほど高速且つ大量に音楽や映像などを複製して、あらゆる場所で楽しんでいる。また、製造業者等も、大容量の多種多様な録音録画機器を販売して多大な収益を得ている。本来であれば、消費者や製造業者等とともに権利者も私的録音録画の実態に見合った利益を享受することにより、三者の利益のバランスが確保されるはずであるにもかかわらず、権利者だけが置き去りにされているのが現状である。

 以下、項目ごとに具体的な意見を記述する。

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「104ページ〜106ページ 第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて 2(1)2a 違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画」

 違法な録音源・録画源から録音・録画した複製物が適法となるとは考えられないことから、そのことが法律上明らかになることについては賛成する。
 ただし、当該利用行為が著作権法第30条の適用外となった後における違法複製を把握するための方法や、その撲滅・防止の具体的な方法については慎重な検討を要することから、今後の本小委員会の議論において充分な配慮をいただきたい。

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「108ページ〜109ページ 第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて 2(2)2a 適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画」

 適法に配信された録音源・録画源からの私的録音録画を著作権法第30条の適用範囲から除外することについては、慎重に検討すべきである。
 まず、当協会が従来から指摘している通り、配信事業者に対して当協会が許諾している利用は、消費者の受信端末へのデータの複製までであり、消費者がそのデータを別の機器(例えば携帯用オーディオ・レコーダー)へ複製する行為までは含まれていない。したがって、現状において二重徴収との指摘は事実に反する。また、「中間整理」では、権利者が配信事業者との契約を通して「利用者の録音録画を管理することが可能」(107頁)としている。しかし、利用者が行う私的録音録画を管理するためには配信事業者の協力が必須であるにもかかわらず、配信事業者の管理責任が法律上明確でないため、仮に事業者が協力を拒否した場合には、十分な管理が行えない可能性がある。

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「110ページ〜112ページ 第3節 補償の必要性について 1 権利者が被る経済的不利益」

 技術の発達により、量的にも質的にも制度導入時とは比較にならないほど私的録音録画の実態が拡大した一方で、補償金制度が十分に機能していない現状において、権利者が被っている経済的不利益は、制度導入時において既に超えていた受忍限度を大きく超えるものであることは疑うべくもない。

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「113ページ〜122ページ 第3節 補償の必要性について 2 著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係」

 補償措置が不要となるのは、著作権保護技術によって消費者の私的録音録画がすべて禁止される場合に限られる。著作権保護技術によって複製回数を制限したとしても、それは単に私的録音録画の範囲を超えた複製を防止するに過ぎないのであって、補償の必要性がなくなるわけではない。
 また、著作権保護技術が導入されたとしても、一部でも複製が許容されれば総体としてみた複製の量は膨大なものになると考えられ、権利者の受忍限度を超えることになり、補償措置が必要となる。(中間整理p.111「ア」及びp.115「イ−1」)。

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「123ページ〜125ページ 第4節 補償措置の方法について」

 製造業者等の一定の責任の下で、消費者が文化を享受する機会を確保しつつ、権利者の経済的不利益を解消する、との観点から、「録音録画機器・記録媒体の提供という行為に着目した制度設計」に基づき、補償金制度によって解決を図ることが最も適切であると考える。

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「126ページ〜133ページ 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 1 対象機器・記録媒体の範囲」

 今後も、大容量且つ多機能な機器等が次々に登場することが予想される。このため、「専用・汎用」、「録音・録画」といった区別を廃止し、私的録音録画に供される機器・記録媒体は原則としてすべて補償の対象とする制度にすべきである。
 特に、p.131「c…(中略)…どの機能が主要な機能といえないもの(例 現在のパソコン)」や「d 録音録画機能を附属機能として組み込んだ機器(例えば携帯電話、録音機能付カーナビゲーション)」等については、録音録画機能を当該製品の重要な要素として前面に打ち出して宣伝され販売されていること、私的録音される楽曲数もMDに比べて爆発的に増えていること(中間整理p.19)から、それらが補償金の支払対象にならないのであれば、今回の見直しによっても引き続き制度の形骸化には歯止めがかからないものと懸念される。

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「133ページ〜135ページ 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 2 対象機器・記録媒体の決定方法」

 「法令で定める基準に照らして、公的な「評価機関」の審議を経て、文化庁長官が定める」との方向性に賛成する。
 また、対象機器や補償金の額の決定には、何よりも迅速性が求められる。「評価機関」における検討はもちろんのこと、その前段で行われる当事者の協議から額の決定までの一連のプロセスに期限を設定することによって、補償金制度の実効性を確保するよう法律で措置されることを強く要望する。
 なお、「評価機関」は、消費者・製造業者・権利者の三者の利益バランスを調整するという補償金制度の目的を踏まえ、フランスの制度(中間整理p.84)を参考に構成人数や人選、議決要件等について最大限、配慮していただきたい。

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「135ページ〜137ページ 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 3 補償金の支払義務者」

 支払義務者は製造業者等とすべきである。
 再三述べているとおり、消費者が録音録画できる機器を次々に発売し多大な利益を得ている製造業者等が、三者の中で最も大きな利益を得ていることから、利益バランスの確保のために支払い義務を負うべきである。
 なお、我が国の製造業者等は、彼らの製品の輸出先国である我が国以外の文化先進諸国においては補償金を支払っているのであり、なぜ我が国の文化の保護には反対するのか理解できない。こうした製造業者等の対応は、我が国の文化を軽視するものといわざるを得ず、製造業者等は、わが国においても文化先進諸国と同様積極的に役割を果たすべきであると考える。

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「138ページ〜139ページ 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 4 補償金額の決定方法」

 補償金の額に関しては、中間整理p.134で提案されている「評価機関」を補償金の額の決定にも関与させることを要望する。
 また、補償金の額の決定にも迅速性が求められることから、対象機器・記録媒体の決定方法と同様、一連のプロセスに期限を設定することによって、補償金制度の実効性を確保するよう立法による対応を強く要望する。
 なお、「著作権保護技術の影響度を補償金に反映できるようにすべきであることに異論はなかった」「プレイスシフト、タイムシフトなどの要素は補償金額の決定にあたって反映させるべきであるとすることについておおむね異論はなかった」との記述があるが、その前提となるそれぞれの用語の定義についての十分な検討が行われておらず、現時点で減額ありきのように記述されるのは問題があると考える(中間整理p.111)。

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「140ページ〜141ページ 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 6 共通目的事業のあり方」

 共通目的事業は今後も継続すべきである。
 私的録音録画は、個人的又は家庭内で行われるという性質上、私的録音録画補償金を100パーセント正確に分配することは困難である。従って、共通目的事業の必要性は現在においても失われておらず、すべての権利者に対し間接的に分配するという措置は引き続き有用であると考える。

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「141ページ〜142ページ 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について 7 補償金制度の広報のあり方」

 補償金管理協会の広報活動を法的に義務付けることには問題があると考える。
 組織の性格上、業務費用には余裕がなく、例えば利用実態の調査など優先すべき支出案件がほかにも存在するものと考えられる。
 補償金制度によって消費者・製造業者等・権利者の三者がそれぞれ恩恵を受けていることに鑑みれば、三者がそれぞれ、あるいは連名で、自発的に広報活動を行うことが、補償金制度への理解を深める近道であると考える。

以上

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