3.日本国際映画著作権協会

はじめに

MPAは、国際市場における不公平且つ制限的な市場取引と関税障壁を排除するためにメンバー社を代表して各国に働きかけをおこなっています。また、MPAは、日本を含む世界中の70の国と地域において、映画などの著作権侵害においては当事国の法律にのっとって、メンバー社の著作物である映画を保護するべく著作権侵害プログラムの阻止活動に鋭意取り組んでいます。したがって、私たちは日本の著作権法が、有効な立法上のインフラストラクチャを提供し続けることを保証するために、貴文化審議会著作権分科会私的録音録画問題小委員会の提案の意義深い見識にしたがって、世界スタンダードと一致することにより、私たちのメンバー社の保護にも十分なり得ると考えます。
MPAは私たちのメンバー社にとって、日本がきわめて重要な市場であり、日本の著作権法の私的利用のための複製に関する重要な修正に必要な意見を述べさせていただくことに、まず感謝いたします。

「私的利用の範囲」からの除外

著作権法第23条1項)の下では、権利者に許諾を得ずにアップロードした映画は、法的にも明確に違法とされています。しかしながら、これをダウンロードして楽しむ行為については私的利用目的の複製とされ、著作権法第30条のもとではどんな法的責任も発生しません。
インターネットの普及およびデジタル複製技術の目覚しい進歩が実現している現状において、かかる媒体及び機器が存在しなかった時代に規定された現行著作権法第30条は、大幅な改正を余儀なくされているといえます。
わが国が加盟しているベルヌ条約及びWIPO著作権条約も、複製権の独占性を排除する国内法の制定については、かかる制限が(1)著作物の通常の利用を妨げず、かつ(2)著作者の正当な利益を不当に害さない場合に限ることを明記しています。新作映画が映画館で公開されると、わずか数日のうちに権利者に無断で当該映画がインターネット上のファイル交換・共有サイトなどにアップされ、万人がこれを無償でダウンロードできる状態に置かれます。このような行為は正に著作物の通常の利用を妨げるばかりでなく、劇場公開後に予定されているDVD等の発売にも大きく影響を与え、全体では製作資金回収にも悪影響を及ぼすことになります。経済的な損失ばかりではありません。製作者や権利者に無断で付された不適切な和訳や不自然なトリミング、粗雑な色合いなどが、作品本来の品質を著しく傷つけています。また音楽の世界においても、無数の違法サイトがアップされ著作権者に何ら対価が払われることなくダウンロードされ、利用されています。デジタル複製機器及び媒体を利用したこのような現状の複製行為は、上記条約が規定する違法な行為であるということは明白であります。
ビデオショップからDVDを万引きして映画を視聴する行為も、違法サイトからダウンロードして視聴する行為も、まさにコンテンツを「盗む」行為です。前者は、法定刑として懲役10年という重罪が予定されている犯罪行為であるのに対し、後者は、コンテンツを視聴するという同じ結果を実現できているのに関わらず、著作権法第30条によって許される行為である、という考えは、法のバランスを根底から破壊するものであり、到底認めることはできません。
知的財産立国を目指すわが国が、コンテンツの「不適正な利用範囲の放置」を許すことは、コンテンツの制作及び利用に関係するクリエーター、製作会社、販売会社その他の関係各社及び個人の新たなる創作意欲に対しても、計り知れないほど悪影響を及ぼすものでありますし、同時に多額の損害を齎すものであります。
このような中で最も重要なことは「法」意識の確立であります。即ち、「物」のみならず「コンテンツ」を盗む行為も「盗む」行為に変わりがない、という意識を明確にすることです。その意味で、今回、違法サイトからのダウンロードを法30条の適用外とする意見が出たことは評価できます。但し、委員会の多数意見として「罰則の適用を除外」する考えについては賛成できません。「家庭内又は極めて個人的な環境下でのダウンロード行為」であることから、法のエンフォースメントという観点では実効性の確保が難しいという点はあります。だからといって、『「盗む」行為が「盗まない」行為になる』ということにはなりません。「盗む」行為である以上、罰則の適用も確保すべきです。罰則があることにより、法意識が高まることは説明するまでありません。委員会の意見として、「私的録音録画により音楽・映像等を楽しむのは社会に定着した現象であり、このような利用者のニーズを尊重し、円滑な利用を妨げないよう配慮すべきである」という点がありますが、法30条により許される複製行為は、「適法な放送、適法に取引された著作物等からのタイムシフティング及びプレイスシフティング等による視聴」という極めて限定した場合に限るべきであり、『利用者のニーズがあるから、「盗む」ことは許される』というような理解や結論は一切あってはなりません。
MPAは、日本でも権利者の許諾のないダウンロードは犯罪と定めることが肝要であると考えています。デジタル技術を利用した複製の場合、極めて複製が容易であり、かつ品質が損なわれることなく容易に再拡散されることを考えれば、現状の広義における法30条1項の私的利用範囲は不適切であり、条約が予定するスリー・ステップ・テストの要件を満たさない可能性が極めて高いものであると考えます。

正当な報酬

デジタル技術の進歩は一方において適法なる著作物の利用及び管理についても十分な役割を果たします。利用者は著作権者側が構築するDRM(デジタル管理システム)にしたがって、適法にかつ、簡単に著作物の利用を行うことができるのであり、利用者側のニーズに十分に対応できるものであります。その意味では利用者側のニーズを考慮し、無断で複製する行為を敢えて法30条の制度として保護する必要性はないといえます。
更に、私的録音録画補償金制度に関しまして、現行の制度は複製の実態から生じる権利者の保護になっていないと考えます。デジタル機器を使った複製行為がDRMにより管理可能な状況である今日、一方において無断複製行為を法30条の適用外に置き、かつ刑事罰もある行為とするかたわら、適法に行われる複製行為については複製行為の回数を管理することにより、個別の課金ができる時代であります。現行の補償金制度では著作権者に対する真の損害回復は実現されていないと言わざるを得ません。例えば、他人から借りた音楽CDからの私的録音についても、これは法30条の適用外とすべきでありましょう。当該音楽CDを聴きたい者は、自分でレンタルするか、または購入することが望ましいのであり、他人が借りたCDを複製する行為(又貸複製)は明らかに保護の適用外すべきでありましょう。このようなことを許すこと自体「許される複製行為」の枠を無意味に拡大するばかりであり、真の著作権者の保護、ひいては利用者の保護にはならないのではないでしょうか。

結論

ファイル共有ソフトにおける侵害行為がますます深刻化している現状を踏まえ、法30条が著作権侵害物をダウンロードする行為を正当化する法律上の手段として利用され、よって無断アップロード(送信可能化を含む。)の禁止を阻害する結果ともなる抜け穴として利用されることを塞ぐことは、必須のことであるとMPAは信じております。私共と致しましては、既に提案させていただきました通り、法30条に「著作物の通常の利用を妨げずかつ著作者の利益を害さない範囲」という文言を追加することにより、法30条に関する修正を行うことを望みます。
以上の意見が貴グループにとって有益なものであることを願いますと共に、この度、意見書提出の機会を戴きましたことを感謝申し上げます。また今後の検討過程において更なる意見表明の機会がありましたら幸甚です。

以上

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