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2 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて

(1) 利用形態ごとの私的録音録画や契約の実態

 小委員会では、私的録音録画に関する権利制限のあり方や補償の必要性を考える前提として、次のように利用形態を分類した上で、特に指摘のあったいくつかの行為類型に関する私的録音録画や契約の実態について、調査し整理した。

1  利用形態の分類

 私的録音
(ア) 購入した音楽CDからの録音
(イ) 他人等から借りた音楽CDからの録音
(ウ) レンタル店から借りた音楽CDからの録音
(エ) 違法複製物からの録音
(オ) 違法配信からの録音
(カ) 適法放送からの録音
(キ) 適法ネット配信からの録音

 私的録画
(ア) 購入したパッケージ商品からの録画(注1)
(イ) 他人等から借りたパッケージ商品からの録画
(ウ) レンタル店から借りたパッケージ商品からの録画
(エ) 違法複製物からの録画
(オ) 違法配信からの録画
(カ) 適法放送からの録画
(キ) 適法ネット配信からの録画

(注1)  映像分野におけるパッケージ商品(市販用又はレンタル用のDVD又はビデオ)については、おおむね複製禁止の著作権保護技術が施されているため、通常の場合には私的録画は不可能である。

2 私的録音録画や契約の実態

A  私的録音録画の実態から権利者に著しい経済的不利益を与えているのではないか等との指摘のあった利用形態

a  違法複製物や違法サイト等(注2)からの私的録音録画
 関係団体が行ったファイル交換実態調査や携帯電話向け違法配信実態調査等から、違法な配信や利用者の複製の実態が報告され、また、正規商品の流通前に音楽や映画が配信され複製される例が紹介されるなど、正規商品等の流通や適法ネット配信等を阻害し権利者に深刻な被害を与えている実態が明らかになった。

(注2)  違法サイト等からの私的録音録画とは、権利者に無断で自動公衆送信された著作物等からの私的録音録画をいう。

b  他人から借りた音楽CDからの私的録音
 「私的録音に関する実態調査」(平成18年 私的録音補償金管理協会)では、音源別の総録音回数比率として、他人から借りた音楽CDから録音(24.3パーセント)は、レンタル店から借りた音楽CDからの録音(28.6パーセント)に次いで多く、その比率は過去に調査した結果(平成9年、平成13年)と比べて大きくなっていることから多くの録音物が作成されている実態が推測される。

B  利用契約の実態から私的録音録画の対価が既に徴収されているのではないかとの指摘があった利用形態

a  適法配信事業者から入手した著作物等の録音物・録画物からの私的録音録画
 適法な音楽配信事業のビジネスモデルを精査した結果、現状としては、

 レコード製作者と配信事業者間の契約は音源供給の契約であり、利用者が支払う配信料の中に録音の対価が含まれているかどうかは曖昧さが残ること

 配信事業者と利用者の配信契約では、ほとんどの場合、利用者の録音録画の条件を定めており、その条件は必ずしも第30条の適用範囲内にとどまっていないが、一定範囲の録音録画を許容するものであること

という実態が分かった。

b  レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音
レンタル事業のビジネスモデルを調査した結果、最初に権利者とレンタル事業者間の貸与使用料を決める際に、著作権等管理事業者である社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC(ジャスラック))の録音使用料を参考に決められた事実は認められるが、

 レコード製作者、実演家及び著作者の契約とも使用料が貸与行為の対価であることは、契約書に明示されており、契約当事者もそのように認識していること

 平成4年の補償金制度導入以後、補償金と関連づけて貸与使用料引き下げの交渉が行われた事実はないこと

 レコード会社からレンタル業界への音楽CDの供給は販売とは違う特別のルートで行われているが、レコード会社からの卸売価格には販売との差異はほとんどないこと

などが分かった。貸与使用料の中にどのような利用に対する対価が含まれているかは、当事者間の意思解釈に係る問題であるが、当事者の認識として、私的録音の対価が含まれていると確認できる材料はなかった。

また、レンタル店と利用者との契約(会員規約)では私的録音に関する条項は一般になく、レンタル業界としては利用者の支払うレンタル料には私的録音の対価は含まれていないとの認識であることが分かった。

c  適法放送のうち有料放送からの録画
 映画会社等と有料放送事業者の契約は、放送の対価であることが明示されていること、また有料放送事業者と視聴者との契約約款(放送法により総務大臣の認可が必要)においても、視聴者から徴収する料金は視聴の対価であることが明示され、視聴者が行う録画に関する記述は一切ないことから、私的録画の対価が含まれていることは確認できなかった。

(2) 第30条の適用範囲から除外するのが適当と考えられる利用形態

1  権利者に著しい経済的不利益を生じさせ、著作物等の通常の利用を妨げる利用形態

A  権利者の経済的利益に重大な影響がある利用形態と第30条の適用範囲の見直し

現行法制定当時の第30条は、使用目的が私的使用であること、著作物等の複製物を使用する者が複製することを条件として、無許諾の複製を認めていたが、その後昭和59年には、高速ダビング機器等の公衆が使用する目的の自動複製機器を用いて行う私的複製、平成11年には、技術的保護手段が施されている著作物等を回避の事実を知りながら行う私的複製について、第30条の適用範囲から除外し、権利者の許諾が必要な行為とした。

これらの行為が第30条から除外されたのは、いずれの行為についても権利者の経済的利益を不当に害し、通常の利用を妨げる行為と考えられたからであるが、複製技術の開発・普及に伴い、立法当初想定していなかった複製の実態が生じた場合は、第30条の適用範囲も見直しの対象になるのは当然のことと考えられる。

また、このことは、著作権保護の基本条約であるベルヌ条約において、著作者は著作物の複製を許諾する排他的権利(複製権)を享有するとした上で、スリー・ステップ・テスト(特別な場合、著作物の通常の利用を妨げない場合、かつ著作者の正当な利益を不当に害しない場合)の条件を満たした場合に限り、権利制限を認めていることとも合致する。

B  検討結果

a  違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画
1  第30条の適用範囲からの除外
 この利用形態については、前述の利用実態を踏まえれば、

 ベルヌ条約のスリー・ステップ・テストに照らして考えてみても、通常の流通を妨げる利用形態であり、権利者側としては容認できる利用形態ではないこと

 利用秩序の変更を伴うが、違法サイト等からの複製が違法であるという秩序は利用者にも受け入れられやすいこと

 個々の利用者に対する権利行使は困難な場合が多いが、録音録画を違法とすることにより、違法サイト等の利用が抑制されるなど、違法サイト等の対策により効果があると思われること

 効果的な違法対策が行なわれ違法サイト等が減少すれば、録音録画実態も減少することから、違法状態が放置されることにはならないこと

などから、第30条の適用を除外することが適当であることがおおむね了承された。

2  第30条の適用範囲から除外する場合の条件
 違法サイト等であることを知らないで利用した者についてまで権利侵害にするのは行き過ぎではないか、あるいは権利侵害といっても個々の利用行為ごとに見れば権利者に与えている被害は軽微なものではないかなどの指摘があり、利用者保護の観点から、次の点について法律上の手当が必要であるとされた。

 第30条から除外する行為について、例えば、違法サイト等と承知の上で(「情を知って」)録音録画する場合や(注3)、明らかな違法録音録画物からの録音録画に限定する(注4)など、適用除外する範囲について一定の条件を課すこと
 なお、権利者側は、法の運用を容易にするため、例えば、利用者が違法サイトと適法サイトを容易に識別できるよう、識別マークをサイトに付けるなど運用上の工夫が必要と考えられること

(注3)  現行法では、技術的保護手段を回避して私的複製をする場合は第30条の適用を除外しているが、回避の事実を知りながら行う複製に限定している(第30条第1項第2号参照)
(注4)  ドイツ著作権法に例がある。規定は次のとおり。
第53条  私的及びその他の自己の使用のための複製
自然人が、私的使用のために、支持物には係わらず著作物を少量複製することは、その複製が直接的であるか又は間接的であるかを問わず営利を目的としない場合であって、その複製のために明らかに違法に製作された原本が用いられないものと認められるときは、許される。(後略)

 第30条から除外する行為は、「複製」一般ではなく、権利者の不利益が顕在化している「録音録画」に限定すること

 第30条の適用がない私的目的の複製については、犯罪としては軽微なものとして従来から罰則の適用を除外しているので(第119条第1項)、本件についても同様とすること

3  第30条の範囲から除外することについての慎重な意見
 なお、これに対して、次のような慎重な意見があった。

 違法対策としては、海賊版の作成や著作物等の送信可能化又は自動公衆送信の違法性を追求すれば十分であり、適法・違法の区別も難しい多様な情報が流通しているインターネットの状況を考えれば、ダウンロードまで違法とするのは行き過ぎではないか。

 権利者が利用者に対し本当に権利行使できるかという疑念が残るが、今の状況を放置しておくわけにはいかないので、例えば「著作物の通常利用を妨げるものであってはならず、かつ著作者の正当な利益を不当に害するものであってはならない」との但書を加え、個別の事案に即して違法性を判断するのも一案ではないか(注5)。

(注5)  現行法の権利制限規定では、学校その他の教育機関における複製(第35条)、試験問題としての複製等(第36条)などに同様の例がある。また、私的複製関係では、フランス著作権法に例がある。規定は次のとおり。
122-5条1項  著作物が公表された場合には、著作者は、次の各号に掲げることを禁止することができない。
(1)
(2) 複写する者の私的使用に厳密に当てられる複写又は複製であって、集団的使用を意図されないもの。ただし、原著作物が創作された目的と同一の目的のために使用されることを意図される美術の著作物の複写及び122-6-1条に規定する条件において作成される保全コピー以外のソフトウェアの複写並びに電子データベースの複写又は複製を除く。
122-5条4項  本条に列挙された例外は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害するものであってはならない。

b  他人から借りた音楽CDからの私的録音
 この利用形態については、関係団体の調査等から、大量の私的録音が行われていることは認められるが、私的領域で行われる録音行為について、利用者との契約により管理をすることは事実上不可能であり、仮に第30条の適用範囲から除外しても違法状態が放置されるだけであることから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が大勢であった。

2  音楽・映像等のビジネスモデルの現状から契約により私的録音録画の対価が既に徴収されている又はその可能性がある利用形態(契約モデルによる解決)

A  著作権保護技術の普及やビジネスモデルの新たな展開と第30条の適用範囲の見直し

第30条が制定された理由の一つとして、閉鎖的な範囲で行われる行為であり、権利者の権利行使が事実上できないことがあげられているが、録音録画の場合、最近においては著作権保護技術と契約の組み合わせ等により、利用者のプライバシーを損なうことなく、権利者の利益を確保できるようになってきた。もっとも、関係権利者が利用者と直接契約することは難しい現状では、全ての利用形態についてこのような契約が可能になってきたわけではないが、現状においても利用形態によっては、権利者が著作物等の提供者(例えば配信事業者)と契約をし、この契約内容に基づき、当該提供者と利用者が契約を結ぶことにより、利用者の録音録画を管理することが可能である。

このように、著作物等の提供者が利用者の録音録画行為も想定し、一定の管理下においてこれを許容しているような場合であれば、著作物等の提供者との契約により録音録画の対価を確保することは可能であり、仮に第30条の適用範囲から除外したとしても、利用秩序に混乱は生じないと考えられる。
 なお、将来において、著作権保護技術の普及やビジネスモデルの展開により、さらに権利者の選択肢の拡大等により、状況が変化した場合には、改めて第30条の適用範囲の見直しをすることも必要である。

なお、文化審議会著作権分科会報告書(平成18年1月)では、第30条以下の権利制限規定が定めている自由利用の態様や範囲を契約により「オーバーライド」する(ひっくり返す)ことが可能かどうか等について、

 オーバーライド契約は、契約自由の原則に基づき原則として有効であること

 実際の判断は、制限規定の趣旨、ビジネス上の合理性、不正競争又は不当な競争制限を防止する観点等など総合的に見て個別に判断することが必要であること

等の見解をまとめ、権利制限規定を維持しつつ、契約によって対象行為の対価を徴収することは、原則として認められるとした。

また、同報告書では、オーバーライド契約に基づく私的録音録画の対価と補償金の二重取りの懸念が指摘されているところであり、第30条の適用範囲を上記のように見直すことは、このような懸念を解消する意味もあることに留意すべきである。

B  検討結果

a  適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画
1  第30条の適用範囲からの除外
 前述した利用実態から、配信事業者の一定の管理の下で私的録音録画が許容されており、また、それに伴う対価には私的録音録画の対価も含まれうるとすれば、契約による解決に委ねる趣旨から第30条から除外するのが適当であるという意見が大勢であった。

2  第30条の適用範囲から除外する場合の条件
現状では、利用者と権利者が録音録画について直接契約することは、取引コスト等の関係でまだ事実上困難であり、現状では権利者は配信事業者との契約により、録音録画に対する対価を確保する必要があることになるが、配信事業者が利用者の録音録画行為について一定の管理責任を負っているような事業形態に限定して第30条の適用を除外すべきである。利用者の録音録画について配信事業者に一定の管理責任がないような形態まで第30条の適用を除外した場合、利用者が直接権利者と契約できない現状では、違法状態が放置されるだけになり問題がある。

具体的な配信事業については、様々な類型が考えられるが、適法な事業であることを前提とし、営利性の有無、有償・無償の別、配信事業者と利用者との配信契約の有無等を参酌しつつ、要件を決める必要がある。

b  レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音、適法放送のうち有料放送からの私的録画
これらの利用形態については、前述のとおり、私的録音録画の対価が徴収されている実態は確認できなかった。仮に第30条の適用範囲から除外するとしても、レンタル事業者は配信事業者等と異なり自らが著作権保護技術を施すことができず、利用者の私的録音を管理することができないこと、また、有料放送事業者については、多種多様な著作物等を利用するという特殊性や映画等のコンテンツの調達に支障が出ることなどから、権利者とレンタル事業者や有料放送事業者との契約を改定した上で、利用者から私的録音録画の対価を徴収するという契約体系に移行するという新たな利用秩序の形成は困難であり、結果として違法状態が放置される状況を生み出すだけであることから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が多かった。

なお、現状において私的録音録画の対価が徴収されていることは確認できなかったが、ビジネスモデルの現状から、関係者は認識していないかもしれないが、現実には当該対価が事実上徴収されているのではないかという意見があった。

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