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3 補償の必要性について

(1) 権利者が被る経済的不利益

1  補償金制度導入時の権利者が被る経済的不利益に関する考え方

 第30条は、昭和45年の現行法制定時に設けられたものであるが、制定当時は複製手段の開発・普及が余り進んでいなかったことから、無許諾・無償で私的複製を可能とした。その後、平成4年に現在の私的録音録画補償金制度が導入されたが、導入の理由は次のようなものであった。
 これらの実態を踏まえれば、私的録音・録画は、総体として、その量的な側面からも、質的な側面からも、立法当時予定していたような実態を超えて著作者等の利益を害している状態に至っているということができ、さらに今後のデジタル化の進展によっては、著作物等の「通常の利用」にも影響を与えうるような状況も予想されうるところである。このようなことから、現行法立法当時には予測できなかった不利益から著作者等の利益を保護する必要が生じていると考える。(第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書より抜粋)

2 権利者が被る経済的不利益に関する再整理

補償の必要性を考える場合、権利者が被る経済的不利益がなければ補償の必要性がないのは言うまでもない。本小委員会では、平成4年の補償金制度導入時の基本的考え方と現状は何ら変わってはおらず、その考え方を踏襲すべきであるという意見がある一方で、本委員会が補償金制度の廃止を含めた抜本的見直しを行っているところから、改めて考えを整理すべきであるとの意見もあった。

そこで本小委員会では、著作権保護技術の普及という平成4年以降の事情の変化と経済的不利益の問題は別に検討するとして、まず私的録音録画と権利者が被る経済的不利益の関係について改めて整理することとした。

経済的不利益があるという立場の委員については、第10小委員会の見解に意見が集約されるので、特に説明を要しないが、経済的不利益の有無に疑義を持つ委員からは、おおむね次のような意見が出された。
私的録音録画と商品の売上減の因果関係が明確にされていない。また、権利者は複製禁止も求めていない。私的録音録画が可能な商品等を提供するということは、私的録音録画から利益(試聴効果や販売促進効果、音楽・映画等のファン層の拡大)を得られると考えているからであり、経済的不利益があるとはいえない。
購入した音楽CD等からのプレイスシフト(注1)(様々な環境で視聴するための録音録画)や放送のタイムシフト(放送時間とは別の時間に視聴するための録音録画)について経済的不利益があるか疑問である。複製の態様ごとに分析評価したうえで、経済的不利益の有無を考える必要がある。

(注1)  プレイスシフトは自分の購入したCDからの録音についてのみ定義され、他人から借りたCD、レンタルCD、違法複製物・違法配信からの録音については定義されない。

以上のような意見の違いがある中で、経済的不利益の評価について法律的な視点から次のような整理が示された。

 私的録音録画のために権利者の許諾を得る必要があるとすればそこで支払われたであろう使用料相当分が経済的不利益であるとする考え方(補償措置は権利制限の代償)

著作権の基本条約であるベルヌ条約では、著作者に一般的に複製権を認めた上で、一定の厳格な条件の下で(いわゆるスリー・ステップ・テスト)、権利制限を認めているが、我が国の著作権法も基本的にこの考えを踏襲している。

この場合、利用者は、権利制限(第30条)がなければ、本来私的録音録画の都度権利者の許諾を得て、使用料の支払いをしなければならないことになるが、そうなると利用者が不便なため、権利制限を設けたと考えられる(権利者の私益と利用者の私益との調整)。

このような権利制限の代償という立場からは、本来個別に許諾を求めた場合は使用料の支払いが必要だということになるので、一般論としては権利制限された場合は経済的不利益があるということになり、具体的な損失が発生していることまで立証が必要であると言うことにはならない。

この考え方は、第10小委員会の基本的な考え方であるが、この立場では、私的録音録画の形態によって、経済的不利益の濃淡はあるものの、経済的不利益が全くないということにはならないのであって、この不利益の程度が権利者の受忍限度であるかどうかという判断となる。

なお、昭和45年の現行法制定時は、無許諾・無償で私的録音録画ができたが、当時は録音録画機器がそれほど普及しておらず、多少の経済的不利益があったものの、それは権利者の受忍限度内であり補償の必要性が問題にならなかっただけであり、録音録画機器の広く普及している今日とは状況が異なる。

 権利制限することによって、権利者の許諾を得て行われる事業(販売、配信、放送等)に与えた経済的損失が経済的不利益であるとする考え方(補償措置は新たな権利の付与と同様)

この立場は、私的録音録画は本来無償で自由にできるものであり、補償金制度は権利者に新たな権利を付与するのと同じであるから、権利付与の前提となる経済的損失が具体的に発生していることを立証することが必要であるとの考えに基づく。

考え方の整理は以上のとおりであるが、いずれの考え方に立っても、利用形態によっては、経済的不利益の程度の違いがあるのではないかという観点から、次の点について評価を明確にすべきとの意見がある。
購入した音楽CDからのプレイスシフトのための私的録音
放送番組からのタイムシフトのための私的録画
レンタル事業者から借りた音楽CDからの私的録音

(2) 著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係

1  現行制度について

平成4年の補償金制度の導入以降の新たな要因として、著作権保護技術の普及がある。著作権保護技術は、デジタル化・ネットワーク化の時代になって、元の著作物等と同じ品質の複製物が容易にできることや当該複製物を用いてインターネット配信が容易にできるようになったことから、著作物等の複製やインターネットへの出力等を禁止又は制限するため導入されたものである。

最近では、著作権保護技術は、パッケージ商品、ネット配信、携帯電話等の様々な分野で使用されており、著作権保護技術と契約を組み合わせることによって、有料音楽配信事業など様々な新しいビジネスも生み出している。

この著作権保護技術のうち、複製を制限するものについては、著作権法では技術的保護手段と定義されているが、この技術的保護手段を回避して行われる複製は第30条の適用はないとされ、事実上第30条の適用範囲を縮小しているところである(第30条第1項第2号)。

2 著作権法上の技術的保護手段における権利者の意思と第30条の範囲内の録音録画との関係

本小委員会では、第30条により権利者の許諾なしに私的録音録画ができる範囲が、著作権保護技術により、事実上禁止され又は制限される場合もあることから、著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益との関係を整理した。

まず、著作権法上の技術的保護手段(注2)の定義(第2条第1項第20号)における権利者の意思と第30条の適用範囲内で行われる録音録画との関係である。

(注2)  この技術的保護手段に該当すれば、その手段を回避して行う複製は一般に違法なものとなり、その手段を回避するための装置やプログラムの製造・頒布等は罰則の対象となる。

著作権法上の技術的保護手段は、「権利者の意思」に基づき当該手段が用いられることが要件である。一般にある録音録画制限手段を施したシステムに、権利者が著作物等を提供するということは、当該要件を満たす限りにおいて、著作権法上の技術的保護手段に該当し、権利者は、当該技術的保護手段の下でどのような録音録画が可能かについて一定の予見は可能である(注3)。

(注3)  当該コンテンツに利用されている音楽等の著作物、実演等の権利者については、少なくとも録音録画行為が第30条の範囲内である限りにおいては権利行使ができないので、特段の契約がない限り、権利者の意思の表示はコンテンツホルダー(レコード製作者、映画製作者など)に任されている又は同様であると見るべきであると考える。

ただし、この「権利者の意思」はあくまで一定の著作物等の提供にあたり、利用者が利用可能な範囲を技術的に限定することを意図したものであるので、その範囲における録音録画について、無償利用を認める意思まで含まれているとはいえない。契約モデルによる解決が可能な場合は別として、著作権保護技術の内容等に照らし、経済的不利益の有無を考えていく必要がある。

3  著作権保護技術の範囲内の録音録画と権利者が被る経済的不利益の関係

本小委員会では、上記のただし書きの点について、まず最初に録音録画の可否の観点から次のとおり類型ごとに整理した。

 録音録画禁止の場合

現状でも、著作物の性質上繰り返し視聴する必要性が少ない、ごく少数の複製であっても権利者に大きな被害が生じる可能性があるなどの特別な理由があるもの(例えば劇映画のDVD)については、複製禁止の措置を採用しているが、権利者が複製禁止を選択した場合、そもそも私的録音録画ができないので権利者の不利益も生じていないものと考えられる。

 録音録画回数等に一定の制限があるものの、その範囲内の録音録画は認める場合

一般的に、私的録音録画により著作物等を楽しむという社会現象は、確立された社会慣行であり、アのような特殊な例を除き、一定の範囲内で私的録音録画を認めることは、権利者も支持、許容するものである。このことから、現状の著作権保護技術は、録音録画を制限するというよりも、一定回数の録音録画は可能とすることによって、通常の利用者の30条の範囲内での私的録音録画の機会は確保しつつ、デジタル録音録画された高品質の複製物が私的領域外へ流出するのを制限するという意味が強いとする意見が多い。現行法でも複製物を使用しない者の複製を禁止し、私的複製に作成した複製物の頒布を目的外使用として原則禁止としている。このことから、現状における多くの著作権保護技術は、この現行法の仕組みを物理的に担保するものという捉え方も可能である。

補償金制度は、私的録音録画が一定の範囲内で自由にできることを前提に、その補償措置として存在しているから、著作権保護技術が私的録音録画を制限する程度などによっては補償すべき不利益は生じないとする考え方が成り立つ。上記イにおいて、どのような場合に権利者の経済的不利益が生じ、どのような場合に生じないかが問題となるが、これについては意見が分かれている。関係者の意見を整理すると次のとおりである。

イ-1  著作権保護技術の現状では通常の利用者が必要とする第30条の範囲内の録音録画はできるので、(1)の基準に戻って権利者の経済的不利益及び補償の必要性は判断すべきであるという意見

著作権保護技術は録音録画回数等の上限を決めるものであり、利用者は通常必要とする範囲の録音録画を第30条に基づき行うことができるので、オーバーライド契約により私的録音録画の対価を徴収できる場合は別として、補償措置が不要であるという議論に直ちにつながるものではない。また、現状では権利者が主体的に、かつ自由に著作権保護技術を選択できる場合は少ないので、著作権保護技術が施されていれば、直ちに権利者はその範囲内の録音録画から補償を求めるべきでないとするのは不適切である。

イ-2  権利者は提供された著作物等がどのような範囲で録音録画されるかを承知の上(著作権保護技術の内容により想定できる)で提供しているので、重大な経済的不利益はなく、補償の必要性はないとする意見

著作物等が暗号化されたうえで録音録画されているパッケージ商品、デジタル放送、ネット配信サービスなどは、著作権保護技術により利用者の録音録画が想定されており、また当該信号等は権利者の意思に従い付されているので、録音録画の制限回数に係わらず権利者に重大な不利益は与えていない。

以上のとおり、著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係については、意見の相違が見られるところである。

ただし、仮にイ-1の見解に立ち、現状における著作権保護技術の適用状況では経済的不利益があり、かつ補償の必要性があると判断できるとしても、著作権保護技術は権利者を含む関係者の要望等を踏まえ機器の製造業者等が開発していることも事実であり、その開発過程に権利者がどのように関与していたか等の評価の問題はあるものの、著作権保護技術の内容や当該技術と契約の組み合せ方法などのあり方次第では、補償が不要になる場合があることに大きな反対はないところである。

(3) 補償の必要性の有無

著作権保護技術が施されている場合には補償の必要性がないという意見があることは(2)3イ-2のとおりである。

ただし、仮に著作権保護技術の評価について(2)3イ-1の見解に立ったうえで、(1)2で整理された権利者が被る経済的不利益に関する二つの考え方を前提に補償の必要性を検証、評価すると次のとおりとなる。

A  経済的不利益に対する利用形態ごとの評価

購入した音楽CDからのプレイスシフトのための録音や放送番組からのタイムシフトのための録画については、(1)2アの立場からは、権利者の了解なしに録音録画が行われていることから、程度の問題はさておき、何らかの経済的不利益はあることになる。一方、(1)2イの立場からは、購入したものが手元にあるので、同じ商品を更に購入するとは考えにくい、タイムシフトにより別の時間に視聴したからといって、録音録画物が視聴者の手元に残らない限り放送番組等の二次利用に支障ができるとは考えにくいなどの指摘があり、私的録音録画と正規品の販売・配信等との因果関係が充分立証されていないという意見があった。

また、他人から借りた音楽CDからの私的録音については、借りた者は音楽CDを購入する必要はなくなること、また他人(特定者)に当該録音物が譲渡されても同様である(音楽CD購入の代替手段)(注4)ことから、当該録音物を所有した人が全て正規品を購入するとは考えられないが、私的録音ができない状況を想定すれば、正規品の購入等に影響を与えるのは明らかであり、立場の違いにかかわらず、権利者が被る経済的不利益はあると考えられるとする意見が多かった。なお、このことは、レンタル料金には私的録音の対価は含まれていないという認識に立てば、レンタル業者から借りた音楽CDの場合も同様である。また図書館等から借りた場合も同様である。

(注4)  「私的録音に関する実態調査」(平成18年 私的録音補償金管理協会)では、デジタル録音の理由を聞いたところ、主要な録音理由3つの1つに「CDや市販の録音済みMD又はテープを買うより安くてすむから」(43.6パーセント)がある。また、他人やレンタル業者から借りた音楽CDの録音録画が私的録音録画全体に占める割合については、2(1)2Abを参照。

録画については、タイムシフト録画以外に、保存目的の録画実態も多く、両者は区別し難いこと(注5)、映像作品はごく少数の録音録画でも権利者に与える不利益が大きいといわれていること、映画や放送番組の録画は二次利用に影響があると考えられること(注6)等の指摘もある。録画物の保存(ライブラリー化等)や他人(特定者)への録画物の譲渡については、経済的不利益があるということでおおむね了承を得た。

(注5)  「デジタル録画機器の利用実態に関する調査」(平成18年 私的録画補償金管理協会)では、放送番組をデジタル録画する理由を聞いたところ、回答者の81.9パーセントが「興味ある番組やその一部を保存するため」としている。
(注6)  映画は、もともとマルチユースのコンテンツであるが、放送番組は、二次利用が余り行われていないのではないかという指摘がある。確かに放送番組の二次利用については、映画に比べて遅れているといわれていたが、コンテンツの流通促進という我が国の知的財産戦略の一環で、今後は増加すると考えられる。具体的には、再放送、パッケージ商品化等であるが、ネット利用についても、放送時に視聴できなかった番組を、放送後一定期間有料でネット視聴できるサービスなどが考えられており、実施に向けて準備中の放送局もある。

B  経済的不利益に対する全体的な評価

以上の点から、(1)2アの立場からは詳細な検討をするまでもなく経済的不利益があることになるが、(1)2イの立場であっても、仮にプレイスシフトやタイムシフトの録音録画が与えている経済的不利益が充分立証されていないとしても、利用者が行う私的録音録画は、一般的に特定の利用形態に限定されるわけではなく、例えば他人から借りた音楽CDからの録音などの形態や録画物の保存、更には他人(特定者)への録音物・録画物の譲渡が存在することは否定できないことから、一人の利用者の行う私的録音録画の全体に着目すれば、経済的不利益を生じさせていることについてはおおむね共通理解があると考えられる。

なお、前述のとおり録音録画が可能な商品を提供しているのは権利者が私的録音録画により利益を得られると考えているからではないかという意見もあるが、私的録音録画問題はもともと録音録画の禁止によって解決しようとするものではないこと、私的録音録画は権利制限により行われるものでありそこから得られる利益があるとしても一般的にそれは権利者が意図して求めたものではないこと、仮に利益があるとしても一方で販促効果のためには視聴さえできればいいのであり録音録画まで必要ないのではないか等の意見もあるところであり、その評価は事実上困難であることなどから、私的録音録画からの利益は否定できないかもしれないが、権利者が被る経済的不利益を上回るものではないとの意見が多かった。

C  権利者の受忍限度と補償の必要性

以上のとおり、立場の違いにかかわらず、権利者が被る経済的不利益はあるということになったとしても、その不利益が権利者の受忍限度を超えていなければ補償の必要性はあるとはいえないことになる。この受忍限度については改めて基準を定めるのは困難であり、補償金制度を導入した平成4年当時と比べて私的録音録画の総体又はプレイスシフトやタイムシフトを除く私的録音録画の量がどのように推移したか、また品質面での変化はどうかなどを総合的に評価して判断する必要がある。また、先進諸国における評価も参考となると思われる。

なお、この場合、購入した音楽CDからのプレイスシフトや放送番組のタイムシフトのための録音録画については、経済的不利益が相対的に低いということに異論は少なく、これらの点は、補償金の額の設定に当たって考慮事項とすることが考えられる。

(4) 著作権保護技術により補償の必要性がなくなる場合の試案

(2)3で言及したとおり、著作権保護技術の内容や当該技術と契約の組み合わせ方法などのあり方次第では、補償が不要になる場合があることに大きな反対はないところである。

この点について、今後社会がどのように変化するか予想できないところであり、例えば補償の必要性がなくなる時期を定めることはできないが、補償の必要性がなくなる試案として次のような整理が提案されている。

 著作権保護技術の効果により私的録音録画の量が減少し、一定の水準を下回ったとき(→私的録音録画が著作権保護技術によって厳しく制限されれば、権利者の不利益も少なくなるため)

具体的にいえば、通常の利用者が必要とする第30条の範囲内の録音録画回数を厳しく制限する著作権保護技術が広く普及した場合である。この回数は、具体的に何回と特定しにくいが、例えば権利者に対する不利益の度合いが比較的少ないといわれる購入した音楽CDのプレイスシフトのための録音、又は放送番組のタイムシフトのための録画に必要とされる回数が一つの目安になると思われる。

なお、この場合は、例えば権利者の代表と機器等の製造業者の協議により、個々の権利者の意思とは関わりなく、厳しい制限が課された著作権保護技術が導入されることが一般化されることを想定しているが、現実には、社会全体がこのような状況になる可能性は少ないのではないかと考えられる。

 著作権保護技術の内容について権利者の選択肢が広がり、コンテンツごとに関係権利者の総意として権利者側が選択権を行使できるようになり、そのような実態が普及したとき(→権利者がその意思に基づき私的録音録画をコントロールできる場合には、その結果として生じた録音録画は権利者にとって不利益を生じさせないため)

アの場合と異なり、個々の権利者が自由に録音録画回数等を決められるか、又はアのような厳しい録音録画制限を含むいくつかの選択肢の中から自由に選択できる著作権保護技術が普及した場合である。

一般的に、権利者は第30条で権利行使が制限されていることから、著作権保護技術の内容を認める権利者の意思というのは、無償で著作物等の利用を認める意思と同じであるとは言えない。しかし、個々の権利者の中には、私的録音録画の効果を積極的に認めようとする人、権利制限だから録音録画されるのはやむをえないと思う人、技術的に可能であれば私的録音録画を制限したいと思う人など様々な考えを持った人がいると思われる。現状の著作権保護技術は権利者の中にもこうした多様な考えを持つ人がいるにもかかわらず、様々な理由から、選択肢を持てないようになっている。したがって、著作権保護技術によって用意された選択肢の中から、個々の権利者が厳しい利用制限を選択肢できるにもかかわらずしなかった場合については、それを選んだ権利者に経済的不利益が生じるかもしれないが、それは権利者の受忍限度内であり重大なものではなく、補償の必要性があるとまではいえないのではないかと考えられる。

ただし、この場合において、その選択肢が設定された経緯や過程(例えば権利者側が関与していたかどうか)、技術の内容(例えば権利者側が求める選択肢であるかどうか)等によって、その評価は変わる可能性がある。

なお、権利者の総意というのは、コンテンツホルダーである権利者だけの意思でなく、そこに含まれている他の権利者の意思も含めての意思という意味である。コンテンツホルダーである権利者が他の著作物等の権利者の意思も代表して行使しているということであれば関係権利者の総意といえる。

 著作権保護技術と契約の組み合わせにより、利用者の便を損なうことなく個別徴収が可能となり、そのような実態が普及したとき(→録音録画の対価を確保できる状況となるため)

著作物等の提供者等と利用者の契約によって処理されるのが主要な形態となり、それによって経済的利益を確保できるようになった場合である。この場合、契約の形態によっては、第30条の適用そのものを除外しても、利用の円滑化を阻害しないと考えられる場合もあると考えられる。

なお、これらの考え方については、次のような意見があった。
アとイの場合
権利制限(第30条)により私的録音録画が行われれば原則として補償の必要性がある。
イの場合
CCCD(コピーコントロールCD)の例のように、厳しい利用制限の選択肢があるとしても、市場がこの方法を受け入れなければ、そうした選択ができないこと、また著作物等の提供者の優越的地位により、権利者に自由な選択権が確保されない場合も想定されるので、権利者の意思にのみ補償の要否を委ねるのは問題である。

また、上記のアからウの状況はある日突然実現するわけではなく、社会全体が徐々に変化していき、その状況が定着することより実現することになる。仮に現状では著作権保護技術と補償金制度が併存する状況にあったとしても、著作権保護技術の影響度を補償金額に反映させることや、場合によっては対象機器等の特定に反映することについては、おおむね異論のないものと思われる。

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