ここからサイトの主なメニューです

2 DRMの検討と共通目的について

1、  訪問先一覧が示すように、今回の調査は日程も厳しく、訪問する各国政府や機関について、前日の夜に改めて下準備をする余裕も殆んど無く、それだけに、調査に参加され報告書に執筆して下さった各位には、その大変な努力に対して改めて感謝申し上げたい。
 報告書が示すように、著作物等の私的録音・録画についての技術的発展が各国法制に及ぼす影響の大きさには、まさに瞠目するほかはない。のみならず、EUが25の加盟国をもち、各国に対しEU理事会指令が及ぶ結果、加盟国はそれに従うべく法制度を整えることになるが、現象的にはそれが相反するかのような様相を示す法制度をみせる国があるのも興味深い。
 イギリスは、格別の法制度を用意しないようである。イギリスでは、著作物等の私的録音・録画を許容する範囲は狭くそれ以外は著作権侵害行為になるという法制度を採っていることを理由に、改めてEU理事会指令に呼応する措置を採る必要はないとするのに対し、多くの国は、まさに法整備に大童わという様相をみせている。イギリスでは、許容される範囲外における著作物等の録音・録画に対し適切な措置を採っているのであろうか。
 TPMやDRM等の技術的措置が正面から議論されるようになったのも、近時の特徴である。これらの措置を採ることによって複数回の録音・録画を防止し、最終的には報酬請求制度の廃止に至るという見解もあれば、これらと録音・録画に伴う報酬請求制度は併存するという考えもあり、多様性をみせている。これら技術的な録音・録画について制約する装置ないし方法が、現在は広く議論されるのに対し、かつては、いわゆるスマート・カード(デビット・カードの一種)を用いて録音・録画する度毎に報酬が支払われるというアイディアにWIPOは強い関心を示していたが、それにTPMやDRMが取って代わったといってもよいと思う。スマート・カードは一種のプリペイド・カード方式で、カードを機器に挿入することによって機器の録音・録画機能が働き、その利用回数が減少していくという魅力ある方式であったが、今回のWIPOとの会合では、スマート・カード方式の類は、全くその声を聞くことがなかった。時の流れを想起させたのである。
 今回の調査でもっとも心残りであったのは、フランス政府の担当者との会合をもつことができなかったことである。本報告の「フランス」の項の末尾に記載したが、EU理事会指令に応えるべく、これを国内法に具体化するための法案が下院で可決され上院に回付されて審議されているが、法案中にフランス憲法に抵触する規定があるという疑義が述べられ、その審議が難行している途上であるため、フランス政府との接触を持ち得なかった。他日に期するほかはない。
 それにしても、情報伝達手段の開発普及は目覚ましく、それへの対応に訪問国のすべてが大変な努力を払っている。わが国でも、TPM,DRMの検討を含め、対応への努力がより一層求められるのである。

2、  最後に、現行著作権法について示される解釈で、誤解ではないかと思われる事項について触れておきたい。より良き著作権法をもつためには、まず、現行著作権法についての誤解なき解釈の共有がその前提になるからである。
 私的録音・録画補償金からその2割以内を共通目的基金として控除することについての議論がそれである。権利者に給付される私的録音録画補償金は、メーカーの協力を得て権利者のための指定管理団体(私的録音補償金管理協会−SAHRA,私的録画補償金管理協会−SARVH)が徴収するとされ、そこから権利者に分配されることになるが、そのうちの2割以内で政令で定める割合に相当する額(施行令第57条の6で2割とされている)を、いわゆる共通目的に使用するために控除するという制度を著作権法は採っている(第104条の8)。
 この2割の控除について、あるいは、補償金制度に対する消費者の不信の種は、「集められた補償金の2割(04年度は録音録画合計で約7億円)が共通目的事業の名目で管理団体に留保され、権利者に分配されていないことであろう。このような運用は、本制度から論理必然に導かれるものとはいえない。見直しが必要なゆえんである。」とか、「現実の補償金制度については、不完全・近似的な創作促進効果が「共通目的基金」の制度によって、さらにゆがめられている。この制度は、徴収された補償金の20パーセントを権利者に分配せずに、著作権などの保護に関する事業(共通目的事業)に支出されるというものである。共通目的事業として主に著作権制度に関する調査研究が行われている。…その性質からいえば、国が負担すべき公共事業を、権利者のみの負担において行っていることになる。したがって「共通目的基金」の制度は、補償金制度の持つ創作促進効果を減殺するという意味で補償金制度の趣旨をゆがめる制度であるとともに、本来税金で賄うものを権利者だけに負担させるという意味で不公正な制度といわざるをえない。」という批判がなされている。
 しかし、このような批判は、残念乍ら同意することはできないし、また、海外諸国の多くがとる共通目的基金の設定とは、必ずしもその設定趣旨を同じくするものではないことに触れておきたい。
 わが国著作権法では、何故共通目的基金に言及し、しかもそれに、徴収された私的録音録画補償金の2割をあてるとされているのか。
 上記の批判2論は、いずれも基本的には、徴収された補償金の全部が権利者に配分されるべしというのであると思う。著作権者の複製権から補償金請求がなされるものである以上、これはまさに正当な考えであって、異論はない。したがって全部の権利者に配分できるなら、そうすべきであることは当然である。しかし、残念乍ら、その配分を受けるべき権利者の全部を洩れなく確定することができない現実から、その2割をやむを得ずに共通目的基金として控除し、それを著作権及び著作隣接権の保護に関する事業並びに著作物の創作の振興及び普及に資する事業に支出すること、つまり、権利者に対する間接的配分とせざるをえなかったのである。
 たとえば、音楽著作物の著作権者が、それをJASRAC(ジャスラック)に信託的に管理譲渡しているとき、JASRAC(ジャスラック)は、その音楽著作物の利用とその利用者(消費者)を常に正確にその全部を把握しているであろうか。全部を把握することは至難であり、貸レコードについていえば、精々80パーセントまでの把握で満足せざるを得ず、それ以上精度をあげることは可能であるにしても、それに要する費用が多額になり、いわゆるmarket failureに陥ることになる。80パーセントが精々の精度であるというのが、平成4年当時の権利者団体の見解であった。
 このような実態から権利者全員に正確に配分することは断念せざるを得ず、次善の策として、共通目的基金制度を創設して前記のような目的の下にそれを使用することとし、その業務を文化庁長官の監督に服せしめることにしたのである。したがって、将来、著作物の使用者と使用する著作物、それの権利者との対応の把握の精度があがれば、2割が1割に、究極的にはゼロになることも考慮に入れての共通目的基金制度の創設であったのである。諸外国のなかには、外国著作物の使用が多いため外国への使用料送付が多額にのぼることを嫌い、まず国内で共通目的基金制度を設け、その控除額を多めにしているところもあるが、それとは全く趣旨は異なるのである。将来、コピーマート構想に基づく法制度や、かつてみられた着メロにおける補償金の徴収のような形態が普遍的になるときは、わが国における共通目的基金構想も大きく変貌することになる。

前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ