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3 各国の状況について

第一部 −私的録音・録画及び著作権法制度・運用全般について−

1  ドイツ
 
(1) 補償金の徴収・分配
 
私的録音録画補償金の徴収・分配はZPÜ(私的複製権センター)が行い、GEMAを通じて各管理団体(8団体)に分配される。
(2) 補償金支払義務者
 
個別の製造業者、輸入業者。業者から支払われない場合は販売業者から徴収。
(3) 補償金対象製品
 
デジタル・アナログの記録媒体、デジタル・アナログの録画機器、MP3プレーヤー (PCについては現在製造業者と協議中)。
(4) 補償金の額
 
録画機器・記録媒体ともデジタル・アナログ製品ごとに定額。
(5) 共通目的事業
 
ZPÜは共通目的基金は控除せず、各管理団体が分配額の中で、それぞれ独自の事業を実施。
GEMAの場合、分配総額の5パーセントを社会・文化目的に使用。録音・録画補償金からの支出は1,700万ユーロ。
(6) 返還制度
 
ドイツ国外に輸出される機器・媒体。
消費者からの返還請求に応じる法的義務はない。
(7) DRMとの関係
 
TPMやDRMを考慮することに異論はない。
iTunesの場合、コピー回数に制限はあっても、実際には何回もコピーできる。このため補償金制度は今後も存続の必要あり。
二重課金については、一つは音楽のダウンロードサービス時の複製、もう一つはダウンロード後の複製であり、この分は補償金でのカバーが必要。二重課金には当たらない。
ドイツ、EUのレベルでは、補償金制度存続の方向であると認識している。

2  フランス
 
(1) 制度の概要
 
1985年法により、私的録音録画に関する報酬請求権制度導入。
報酬請求権は著作者、実演家、レコード・ビデオグラム製作者が有する。
(2) 報酬の支払義務者
 
報酬は記録媒体の製造・輸入業者等が、媒体の頒布の際支払う。
支払いを履行しない場合は300,000ユーロの罰金。
(3) 対象製品
 
オーディオテープ、VHSテープ、MD、取り出し可能なオーディオ用メモリ、オーディオ用・データ用CD-R、MP3ウォークマン・Hi-Fi機器内蔵のフラッシュメモリ・ハードディスク、VCR・デコーダー・TVセット内蔵ハードディスク等。
(4) 報酬の額
 
11時間当たりの料率、2保護著作物の複製率(市場調査又は業界情報をもとに算定)、3記録時間(圧縮率を考慮)を乗じて決定。
(5) 報酬の徴収・分配
 
徴収はSORECOP(私的録音報酬徴収分配協会)とCOPIE FRANCE(私的録画報酬徴収分配協会)が製造・輸入業者から毎月の申告により徴収。
SORECOPとCOPIE FRANCEが私的録音、私的録画の報酬をそれぞれ加盟各団体に分配。各団体は独自の方法で各権利者に分配。
2005年の徴収総額は1億5,500万ユーロ
(6) 文化目的事業
 
各団体は分配報酬額の25パーセントを文化目的事業(創作援助活動、生の興行、実演家の育成活動)に使用することが法律上に規定。
例えばフェスティバルの開催、奨学金の支給等の事業を実施。
(7) 報酬請求権制度とDRM
 
消費者はDRMに反対。消費者には自由に複製する権利があると主張。報酬支払いには賛成していない。
権利者団体は、私的複製は消費者の権利ではなく複製権の例外であるとの立場。
DRMの登場によって報酬請求権制度が完全になくなるのではなく、両者が相互に補完する関係で存続すると考えている。

3  オランダ
 
(1) 補償金の対象
 
アナログ記録媒体(オーディオテープ、ビデオテープ)
デジタル記録媒体(MD/Hi−MD、オーディオ・データCD−R等、DVD−R等)
(2) 対象および金額の決定方法
 
権利者側の団体として私的複製協会が指名され、同協会と記録媒体製造業者(輸入業者は監視役として参加)による組織で補償金の対象と額を決定(額は1〜2年で更新)。双方合意しない場合は議長(政府任命)が最終決定。
記録媒体ごとに1時間あたり又は記録容量等により額を決定。
iPod等MP3プレーヤーへの課金は2006年後半に結論の見込み。ハードディスク内蔵DVDレコーダー、PC、フラッシュメモリについては交渉中。
(3) 支払義務者
 
原則として、製造業者と輸入業者が補償金の支払義務者。
(4) 分配
 
私的複製協会から各団体に記録媒体ごとに定められた分配割合により分配される。
分配は四半期ごとに行われる。
2005年徴収額総額は、26,807,108ユーロ。
(5) 返還請求制度
 
返還請求制度はない。ただし、記録媒体が専門的使用であるとして、私的複製協会と契約がある場合は支払いを免れる。
(6) 共通目的事業
 
私的複製協会の委員会決定により、15パーセントを文化的事業に支出。毎年600〜700のプロジェクトが対象になる。
プロジェクトの選定は各分野専門家による諮問委員会で決定。
(7) DRMとの関係
 
DRMは発展の初期にあり、現時点では課金制度に大きな影響を与える状況ではない。
権利者側も、DRMに対する評価について共通した見解は確立していない。
現在は過渡期にあり、私的複製はDRMと補償金制度が相互補完的になるのかを含め、EUで議論されているところである。

4  オーストリア
 
(1) 補償金の対象
 
放送又は商業目的で録音録画された著作物の複製に適した未記録の録音録画媒体又は複製の用に供される他の録音録画媒体が補償金の対象。
デジタル・アナログのオーディオ記録媒体とデジタル・アナログのビデオ記録媒体
メモリカード・ハードディスク(MP3プレーヤー等)
DVDレコーダー内蔵のハードディスク
(2) 補償金額
 
徴収団体であるAustro−Mechana(音楽録音権管理団体)と連邦商工会議所(輸入業者団体を含め)の協議によって決定。
2005年の徴収額総額は17,627,000ユーロ。
(3) 支払義務者
 
補償金の支払義務者は、国内で記録媒体を最初に商業有償流通に供したもの、すなわち、製造業者及び輸入業者。なお、輸入業者が捕捉できない場合に備え、卸売・小売業者に保証人としての支払義務が課せられている。
(4) 徴収・分配
 
補償金は徴収団体が個々の製造業者、輸入業者と契約して徴収。契約の有無で補償金単価が異なる(「契約あり」は「なし」に比べて1/3低額)。
各権利者団体の分配比率は、権利者団体間の交渉により決定。決まらないときは仲裁で決定。記録媒体ごとに各団体への分配比率が決められる(比率は適宜見直し)。
各権利者団体は共通目的事業使用分を除き、それぞれのルールで分配。
(5) 共通目的事業への利用
 
徴収した補償金の50パーセントを共通目的事業に使用。外国にも支払いが必要なため、半分を共通目的事業に使うとの政治的側面がある。
著作権は社会的・文化的側面を持つ特殊な財産と考えられ、使用された著作物全体をとらえて、今後の創作活動の促進をはかる等、共通の目的に使用し、これにより権利者全体に配分するという考え方である。
事業内容や使用の割合は各権利者団体が裁量権を持ち、毎年の事業を国に報告する。
(6) 返還請求制度
 
輸出の場合及び権利者とライセンス契約がある場合は、補償金は返還される。
技術的保護手段が適用されていればライセンス契約があるとみなされ、返還請求が可能となるが、一定範囲内で私的複製できる場合は返還対象とはならない。
(7) その他
 
補償金制度が技術的手段に代わるかについては問題が多い。すべての権利者が保護手段を使えるわけではなく、権利者の同意を得た複製の場合でも事前にそれを調べるのは困難。
技術的保護手段に保護されない著作物が複製される場合の問題は解決されない。

5  ヨーロッパ連合(EU)
 
(1) EUの構成と権限
 
EUは1991年のマーストリヒト条約で成立(1993年設立条約発効)、現在25カ国で構成。
主要機関は理事会、委員会、ヨーロッパ議会、裁判所があり、理事会(構成国代表により形成)は最高意思決定機関として加盟国間の利害対立を調整し、全体の利益を図る。その意思決定である指令(Directive)加盟国政府と国民を拘束する。
(2) 1988年と1995年のグリーンペーパー
 
EUは1993年の条約発効前のEC共同体のときより著作権問題に関心を持ち、EC委員会は1988年に「著作権に関するグリーンペーパー:技術の挑戦─速やかな対応を求める著作権問題」を発表している。
その後のデジタル技術の発展により、EC委員会の提案は1995年の「情報社会における著作権および関連権」と題するEU委員会のグリーンペーパーに如実に反映されている。
(3) 2001年の理事会指令
 
1995年のグリーンペーパーを受け、2001年2月に議会は「情報社会における著作権及び関連する権利の一定側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及び理事会指令」を可決、これがEU指令と呼ばれるものである。
(4) 加盟各国へ質問調査表送付
 
EUは指令が公にされた後、EU域内市場に指令が与える影響の検討し、困難が生じた場合の明確化や指令適用によるあらゆる問題にかかわる協議会の組織化のため、加盟各国に20項目の質問表を送付した(回答期限は2005年3月まで。修正ある場合は2006年1月まで)。
(5) ロードマップの提示
 
EU委員会の質問表にはロードマップが添付され、それには主たる問題はなにか、主たる政策目的はなにか、政策の選択はどうか、その選択により生じる影響はどうか、情報・データにはどういうものがあるか、相談に与かる関係者や専門家の態様、相談する段階等に触れるものである。
ロードマップには「私的複製のための公正な補償;著作権課金改正」とのタイトルのプロポーザルを2006年秋に予定していると述べている。
(6) 各加盟国からの回答
 
EU事務局は回答を課金の対象となる製品の範囲、課金の額と課金の支払義務者、課金の徴収、分配、共通目的事業への使用についてまとめることにしている。
(7) 連絡委員会とその他
 
指令では加盟国の代表で構成する連絡委員会の設置を決めており、域内市場に与える影響の検討と困難な問題があればそれを浮き彫りにすることを任務としている。
 
委員会は2006年6月開催が予定され、技術に関するフォーラムでDRMに焦点をあて、問題点の討議が行われる。
課金制度をEUとして統一するか否かについては、EUとしては権利者がなにを選択するかが第一と考えている。
EU理事会は2006年6月7日に加盟国に課金(報酬)制度について改めて10項目の質問表を送付、EU内の私的録音・録画制度についてbottom-upのアプローチで見解を徴収、委員会のプロポーザル等を作成したいと考えている。

6  世界知的所有権機関(WIPO)
 
(1) ベルヌ条約との関係
 
私的録音録画補償金制度はベルヌ条約9条に位置づけられる。著作者の正当な利益を不当に害する事情がある場合には、適切な補償措置の導入によりスリーステップテストが満たされる。
デジタル技術の進展等にどう対応するかが課題となっている。
(2) 補償金の額の決定
 
多くの国で権利者側と支払い側とで交渉する方法を採用しているが、決まらない場合は仲裁(調停)など、方法は各国様々である。
各国でどのように額を決めるべきかをWIPOとして奨励する立場にはない。
(3) 支払義務者
 
製造業者、輸入業者としている国が多い。
支払いがなかった場合の制裁は国により異なる。国際ルールも存在しない。
(4) 共通目的事業について
 
徴収団体の支出割合について国際的に共通のルールはない。各国内法によるべき。
徴収した補償金を実際に使用された著作物のすべての権利者に分配することは困難。その分をアートの促進といった共通目的に使うことは正当化できる。
(5) DRMについて
 
DRMは、アクセスコントロールや支払いを合法に可能になしうる側面がある一方、非常に高価である。改善され、広く使われれば柔軟に使われるだろうが、現在は広く適用されていない状況である。
(6) DRMと補償金との関係
 
WIPOとしてはDRMが適用されても、補償金制度を止めるのではなく、補償金の額を下げる方法が現実的と考える。補償金制度・DRMのどちらかに偏りすぎるのは不適切(両者は二律背反するものであってはならない)。現在の補償金制度をめぐる問題は、産業の問題だけではない重要な問題。各国の動きを注意深く見てゆかねばと考えている。
(7) DRMの相互運用性
 
技術分野のスタンダードを作るのは重要だが、DRMの相互運用性は著作権の分野ではあまり話し合われていない。
ただし、技術のどの部分を捉えるべきかが問題である。スタンダードをつくるといっても、自由市場競争の原理を踏まえなければならず、課題は多い。

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