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文化政策部会文化多様性に関する作業部会第1回会合

1 日時: 平成16年6月8日(火曜日) 13時〜
2 場所: 文部科学省 省議室(9F)
3 議題:
(1) 座長の選任
(2) 文化多様性に関する作業部会の設置について
(3) 文化多様性に関する作業部会における検討事項等について
(4) その他

配布資料
  文化政策部会文化多様性に関する作業部会運営規則(案)
  文化審議会について
  文化政策部会の設置について
  文化政策部会文化多様性に関する作業部会の設置について
  文化審議会文化政策部会文化多様性に関する作業部会委員名簿(※名簿へリンク)
  文化審議会組織図(PDF:56KB)
  文化審議会関係法令
  文化審議会運営規則
  文化政策部会運営規則
10   文化政策部会文化多様性に関する作業部会の議事の公開について(案)
11   文化多様性の保護の現状
12   ユネスコ「文化多様性条約」策定に向けた動き
13   文化審議会文化政策部会文化多様性に関する作業部会日程(案)

(参考資料)
根木委員持込み資料
文化審議会答申(平成14年4月)
文化芸術振興基本法(平成13年12月7日公布)
文化芸術の振興に関する基本的な方針(平成14年12月10日閣議決定)(冊子、概要パンフレット)
平成16年度文化庁予算のあらまし
国際文化交流懇談会報告書
無形文化遺産条約
世界遺産条約
文化多様性宣言

<午後1時 開会>
―議事概要―
  事務局による作業部会委員と文化庁関係者、オブザーバーの紹介。
  「文化審議会文化政策部会文化多様性に関する作業部会運営規則」について議論。文化審議会文化政策部会において、この作業部会で決定するという授権がなされていたので、委員が作業部会運営規則を決定。
  運営規則に基づき委員の互選によって、座長として富澤委員を、座長代理として渡邊委員を選出。
  事務局による配布資料の確認、森口審議官による部会設置の趣旨を含めた挨拶。
  「文化政策部会文化多様性に関する作業部会の議事の公開について」諮ったところ、異議はなく、作業部会の決定とされた。

―以下、議事録を公開―
富澤座長 続きまして、この作業部会の議論の進め方についてご説明申し上げます。
 この作業部会は、資料4にありますとおり、グローバル化に伴う文化多様性への影響、我が国の文化政策、多様性確保のための国際的な協力について検討していただくことにしております。
 今後の進め方については、まず、本日は、文化多様性の保護の現状、ユネスコにおける多様性条約の検討状況につきまして、専門家会合に出席されている河野先生からお話をお伺いした後、委員の皆様に自由にご発言をいただくという予定であります。
 第2回以降は、さらに、文化多様性の保護のあり方について検討していただくとともに、本日オブザーバーで参加をいただいております外務省、経済産業省、総務省などの関係省庁あるいは文化芸術関係団体の意見も聞きながら、基本的な考え方をまとめていきたいと考えております。
 では、文化多様性の保護に関する現状について、事務局よりご説明をお願いします。

石原室長 お手元の資料11をごらんいただきたいと思います。「文化多様性の保護に関する現状」というペーパーでございます。
 まず、2.から申し上げますけれども、文化多様性に関する世界宣言というものがございます。平成13年のユネスコ総会におきまして、グローバリゼーションに伴う画一化の危険から世界の多様な文化を守り活かして、異なる文化間の相互理解を深め、世界の平和と安全に結びつけることを目的とする世界宣言が採択されております。
 その世界宣言の中でうたわれております文化多様性とは、1に戻りまして、四角の枠にございますとおり、「時代、地域によって文化のとる形態はさまざまである。人類全体の構成要素であるさまざまな集団や社会個々のアイデンティティーは唯一無比のものであり、また多元主義的である。このことに、文化的多様性が示されている。生物的多様性が自然にとって必要であるのと同様に、文化的多様性は、交流、革新、創造の源として、人類に必要なものである。この意味において、文化的多様性は人類共通の遺産であり、現在及び将来の世代のためにその重要性が認識され、主張されるべきである。」以上のような概念で世界宣言が出ております。
 次いで、翌年、平成14年には、ヨハネスブルグ・サミットにおきまして、フランスのシラク大統領が、「文化的多様性は、言語の急速な消滅、及び製品、法規範、社会構造やライフスタイルの画一化により脅かされている。」として、先に申しました世界宣言をさらに国際約束化に高めることを目指すと表明されたところであります。
 それで、昨年の平成15年10月のユネスコ総会におきましては、文化多様性に関する国際規範の策定手続きを開始するということが決議されたところでございます。
 この決議を受けまして、昨年の12月から専門家会合、これはユネスコ事務局から指名された専門家による会合でございますが、3回開かれておりまして、我が国からは、きょうこちらにお見えの河野九州大学教授がご出席になったところでございます。その専門家会合3回を重ねまして、条約の予備的草案について検討が行われてきたところでございます。
 さらに、ことしの4月に開催されたユネスコの執行委員会におきまして、政府間会合を今後開催するということも決定しております。
 1枚めくっていただきまして、今後の予定ですが、3回行われた専門家会合の結果の報告と、その会合を踏まえて予備的草案がユネスコ事務局から加盟各国に配付されることになっております。早ければ来年秋の次期ユネスコ総会で条約案が事務局から提出される見込みでございます。
 ご参考ですが、今申し上げたような文化多様性に資する国際的な規範といたしまして、無形文化遺産保護条約が成立しております。これは昨年のユネスコ総会で採択されたものでございまして、この中では、慣習、描写、表現、知識、技術、それらに関連する器具、物品、人工物あるいは文化的空間、そういったものの保護を目的とした国際的な協力や援助体制の確立、それから各締約国がとるべき必要な措置などが規定されております。
 次に、この文化的多様性に向けた我が国のこれまでの取組みでございますが、我が国は早くから文化的多様性の問題に認識を持っておりまして、平成12年の九州・沖縄サミット時のG8コミュニケにおきましても、我が国がイニシアティブをとりまして、文化の多様性の確保の重要性がコミュニケの中に明記されることとなっております。今後のユネスコにおける議論においても、文化多様性に関する基本的な考え方を整理した上で、積極的に貢献していくつもりでございます。
 無形文化遺産に関する取組みも例示しておりますが、我が国は各国に先駆けまして無形文化遺産を保護対象とする文化財保護法を昭和25年に整備しておりますし、平成5年には無形文化遺産保護のための信託基金をユネスコに設置して、途上国の無形文化遺産保護に継続的に協力するなど、この分野では、無形文化遺産の重要性を早くから唱えてきた国であるというふうに自負しております。
 次からは、先ほど灰色の表紙の資料の中に収めてございますが、平成15年3月に平山郁夫座長のもと開かれました懇談会からお出しいただいた報告の一部を引用してございます。文化多様性が国際平和、自由な世界の実現のためにいかに重要かということはかねてこの国際文化交流懇談会でも指摘を受けているところでございました。全部は読み上げませんけれども、お目通しをいただければと思います。
 以上でございます。

富澤座長 ただいまの事務局の説明につきましてご質問等あればお出し願いたいと思います。
 私からちょっと1点いいでしょうか。資料11の最後に政府間会合の開催ということを決定されていますが、これのめど、例えば年内とかあるいは来年やるとか、その辺のところはまだ全くわからないのでしょうか。

石原室長 河野先生にご連絡があったのでしょうか。

河野委員 この前、私先週の水曜日にパリから帰ってまいりましたけれども、そのときの3回目の会合のときに、9月の20日から6日間、政府間会合の第1回目を行うということが事務局長からアナウンスされました。

富澤座長 もうそれが決定されて。

河野委員 決定だと思います。

富澤座長 そうですか、ありがとうございました。
 ほかには何かご質問ございますでしょうか。――それでは、続きまして、今ご発言いただきましたけれども、ユネスコ専門家会合日本代表であります河野委員より、ユネスコ文化多様性条約策定に向けた動きについてご説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

河野委員 ただいまご紹介にあずかりました河野でございます。時間も押しておりますので早速中身に入らせていただきたいと存じます。
 先ほどのご説明にもございましたけれども、昨年の12月、それからことしの3月、それとついこの間の5月の3回、事務局長指名にかかります専門家会議が行われました。何とか条約の体裁をとった予備草案というものがほぼでき上がりまして、7月の中ごろにはユネスコ加盟各国に送付されてくる予定でございます。
 その後、ユネスコの方がWTO等、関連国際機関を回りまして意見聴取をする予定でございます。その後、先ほど申しましたけれども、9月の20日から第1回の専門家会合につなげていくというスケジュールで今後、事が運んでいくことになります。
 それで、かいつまみまして、きょう2枚ほどの簡単なレジュメを用意いたしましたけれども、これまでの会議の経緯と、それと3回目の会議でどういうことになったかということを簡単にご説明申し上げたいと存じます。
 まず、1回目の会議では、基本的には各専門家が意見を交わしたということが中心でございまして、特に具体的な形の残ったものではないわけでございますが、そのときに、ただ各専門家に仕事が割り振られました。私のところには、WTOとの関係について報告しろということがございましたので、比較的淡々と、WTOと新条約とはこういう衝突の可能性があるという報告をいたしました。それは大変批判を受けまして、何もできないということではないかという厳しい批判が他の専門家から向けられました。
 ほかにアメリカの専門家、これは経済学者でございますけれども、グローバル化こそが文化の多様性を促進するという見解の持ち主でございますけれども、彼の見解も大変批判を受けまして、彼個人の独特の議論のスタイルから、間々孤立ぎみでございました。
 それを受けまして、3月の会議では各専門家がドラフティングを寄せる、ドラフティングした起草案を寄せて、それをベースにさらにたたくという作業がございました。
 私のところには、加盟国の権利義務という大変重いところが、フランスの専門家と並んで割り振られまして、私個人は慎重なスタンスから案を作成いたしまして提出いたしました。
 フランスの専門家は、この方は前ユネスコ大使でいらっしゃいまして、カナダと並ぶ条約推進派の先頭を切っておられる方なんでございますけれども、フランスがやりたいと思っていることを全面的に打ち出した試案が出てまいりました。
 それで、私の提出文と、それとフランスの専門家の提出文とを事務局は入れこにするような形で、オプションではなくてうまく組み合わせて出してきたということもございますし、それからアメリカの専門家の議論、アメリカの専門家というのはこの条約にやや距離を置いているというものでございましたけれども、彼の議論のスタイルと、それと権利義務のところにつきましては、私が実は議長をやれと言われましたので、スタンスは、私個人のスタンスはとりにくかったということも、いろいろ相まちまして、基本的には推進派の意見がかなり取り入れられた案文ができ上がりました。
 それを基礎に、今度もう一度3月に集まりまして議論をしたのが3回目の会合でございます。15名の専門家、途中で若干の入れかわりはございましたけれども、総じて条約を推進したい、積極的にこの文化多様性の考え方を前に推し進めたいという基本姿勢が共通しておりまして、私は比較的慎重な意見を述べた方の専門家ではなかったかというふうに考えております。
 抽象的なお話を続けますのもなんでございますので、レジュメの2番の方に入りまして、これは条約の大体の構成を目次化したものでございます。これに基づきましてお話を申し上げたいと存じます。
 まず、全般的な大きな構造でございますけれども、条約の目的と原則、それと文化的な財・サービスの特殊性ということをまず強く打ち出しております。
 それで、その上で国家の権利義務をうたいまして、それに条約の機構をつくり上げて、紛争解決機関をさらに置くという大まかな構造になっております。それにさらに発展途上国向けでございますけれども、国際協力についての大きな章がございまして、そういう大きな構造から成り立っておるわけでございます。
 項目ごとに簡単に、この3回目の会合でほぼまとまったところを次に申し上げたいと存じます。
 まず、(1)でございますが、これはかなりたくさんのことを言っておりますけれども、基本的に文化の多様性を保護し、促進することが極めて重要であるということの再確認、それからその多様性がグローバル化の進行によって危機に瀕しているということをさらにそこでうたうということがございます。
 それから、2番目の「文化的財とサービスの特殊性」ということでございますが、これがこの条約の1つの通奏低音と申しますか、基底をなしてなしておるものでございまして、文化的な財、それからサービス、これはCultural goods and servicesという英文でございますけれども、これは単なる商業的価値とは区別されるべき特殊な地位を持っているということを強調するわけでございます。商業的な価値の高低にかかわらず、文化的な財・サービスは独自の価値体系を持っているということがございます。
 3番目にまいりますと、「他条約との関係」とございますが、これはちょっと後回しにいたしまして、4番目の定義の方に移らせていただきます。
 ここにはかなり多くの号の定義がございますのですが、法律の目から見ますとやや定義として甘いものがかなり並んでいるように感じられます。例えばこの一番大事なCultural goods and servicesというものの定義でございますが、これには極めて広い定義が与えられておりまして、かつ例示リストというようなものが現在のところではいっております。
 この例示リストには、本、フィルム、ビデオ、それから骨董、アンティークまで入っておりまして、あとはパフォーミングアーツ、それからアーカイブとかミュージアムサービスとか、それからストーリーテリングというようなものが入っておりまして、およそ文化の名に属するものはすべて入ってしまうかのごとき、極めて広い定義が置かれております。
 それで、先ほどの無形条約との関係で、ユネスコは伝統的な無形の文化財を保護するための条約を策定いたしましたので、それとの関係を明らかにするべく、伝統的な文化表現というものがこれに入るのかというふうに聞きましたところ、ほとんどの専門家は入ると考えているようでございます。ですから、条約間の調整というものがここで改めて1つ問題となってくるということは言えるかと思います。
 それから、2つ目のCultural Policyでございますが、これもきわめて広い定義が与えられておりまして、参考にされましたのは、1998年に、これもユネスコの主催でございますけれども、文化政策に関する政府間会議がストックホルムで開かれております。そのときに採択されましたストックホルム宣言に、文化政策として挙げられた例示リストがございまして、それをかなり参照にしているということが言えるかと思います。
 したがいまして、この条約が現予備草案の段階ではきわめて広いスコープを用い、かつ加盟国がとりうる文化政策としても相当広いものを念頭に置いて今のところはつくられているということでございます。
 次の、5番目の国家の権利義務でございますが、ここには貿易ルールとの関係で問題が出てき得る条文が幾つか置かれております。
 それで、この国内における国家の権利・義務でございますが、基本的には国家は文化の多様性を保護し、かつ推進するために必要な施策をとり得るということをまずうたっております。その中に規制的措置、レギュラトリーメジャーというのと、それから財政的措置というのが例示で挙げられております。
 この規制的措置が何に当たるのかということを今度あえてはっきりと聞いてみたのですが、推進派の専門家のお1人でありますカナダの専門家は、典型的にはクォータを考えているということでございました。
 それから、それとの関係で、加盟国は特に衰弱していると思われる文化的表現については一定のスペースを確保することができる。国内の文化的表現であって衰退をしているものについては一定のスペースをその領域内に確保することができるという条文が置かれました。これもきわめて強くそのクォータを採用することを許すということを示唆する条文でございます。
 今私、衰退しているというふうに申しましたが、英語ではvulnarableという原語をあてておりますが、いま1つはっきりいたしませんので、vulnarableよりもう少し明快な用語の方がいいのではないかという議論をいたしましたところ、やはり賛同する方がおられまして、threatenedとか、危機に瀕したとかいう言葉を主張する方もあったのですが、結局は両案とも生き残る形になっておりまして、ちょっとあいまいな言葉がそこに残りました。
 それから、国際レベルにおける国家の権利・義務でございますが、これは基本的には国際協力のところと関係をするものでございまして、加盟国間で協力体制をつくり上げよう、そういう義務をうたうものでございます。
 ここにおきましては、こことの関係でやや問題となりますのが(10)でございます。Coordinationと書いてございますが、ここで考えられておりますのは、他の国際条約、インタナショナルフォーラーという言い方をしておりますけれども、他の国際条約において、加盟国はこの文化多様性条約の趣旨、目的を常に念頭に置いて共同で行動しなければいけない。必要においてお互いが意見交換をし合う、そういう文言がこのCoordinationという言葉の中に置かれております。
 そこから推測されますのは、WTOの場面におきまして、この文化多様性条約の意義を念頭に置いて、かつ相互に協力をし合いながら交渉するということが念頭に置かれているように感じられます。国際協力とはやや次元を異にいたしますけれども、そういうことがこの中にうたわれることに今のところなってございます。
 それから、6番目の知的所有権でございますが、知的所有権の保護によりまして文化の促進が行われる。アーチストの保護と同時にインセンティブを与えるということをうたうということがほぼ専門家の中で合意されましたけれども、ここでやや微妙な問題が出ましたのは、伝統的な知識とかについての、あるいは伝統的文化表現についての知的所有権的保護を主張いたしました専門家が何人かおられまして、前文でそれが読み込める形で現在の予備草案はでき上がっております。
 7番目の条約の機構でございますが、これは3つの機構から成るという形に今のところなっております。1つ目は締約国総会、それから2つ目が政府間委員会、3つ目が助言委員会というのがございます。
 政府間委員会は世界遺産委員会のように加盟国から選出で選ばれるものでございますけれども、ユニークなのは助言委員会でございまして、これはユネスコの事務局長が専門家を指名するという形になっておりまして、政府間委員会から独立の立場で実質的な中身について助言をするという機関をここに置くことに今のところなっております。
 それから、8番目の紛争解決機関でございますが、かなり詳細な規定が置かれまして、かなり議論をいたしましたけれども、今回の会議、4日間しか会議がなかったのですが、この条約の機構と紛争解決機関についてほぼ2日を費やしまして、詳細な議論をいたしました。
 それで、基本的な構造は4段階でやる。つまり初めに交渉をやります。その後メディエーションというのに移りまして、メディエーションが働かないときには仲裁かあるいはハーグの国際司法裁判所への提訴を考える。それから最後にコンシリエーションというステップを踏んだ紛争解決手段が念頭に置かれることになりました。
 極めて詳細かつ緻密な議論をこの紛争解決機関についてはいたしましたけれども、これは推進派といたしましては明らかに今まで述べてきました国家の権利義務等の具体化に当たりまして、他の国あるいは他の条約との関係でのトラブル、紛争が出ることを既に予期してこういう受け皿をつくっているというふうに考えられます。
 それから、先ほどメンションいたしました9番、10番はちょっとそのままにいたしまして、11番のClearing houseでございますが、これは国際協力をするに当たりまして、発展途上国が自国の文化表現を何とかプロモートしたいと思うときに、先進国からどういうふうな援助の可能性があるかということ等を含めましたいわゆる情報交換の場、マッチメーキングをするというふうに言ってもよろしいかと存じますけれども、そういう場としてこういう、情報を寄せ合って、そこでお互いが助け合う前提を形成するというものでございます。これは私も悪い考えではないと思いましたので積極的に賛成しておりますが、発展途上国からの専門家によれば、余りそれにエキサイトしているという感じではなかったというふうに感じました。
 それから、Cultural capitalについてということですが、この言葉は余り条約には出てこないのです。1カ所だけ出てくるのですけれども、文化経済学を専門家としておられるオーストラリアの専門家の持論でございまして、それが定義に入り、かつ目的のところでうたわれるということになりました。余り一般的に使われない言葉でございますけれども、とりあえず新しい言葉が入っておりますのでご紹介した点でございます。
 それからあと、2つ追加したいと存じますけれども、1つは、先住民のことを特に強調して言及するべきであるという声がかなり強うございまして、消極的な専門家もおりましたけれども、それが出ております。
 それからもう1つは、文化的権利あるいは文化に対する権利、Cultural rightというふうに申しますけれども、それについてもう少し積極的に言うべしという声が上がりましたけれども、そこのところは余り深い議論にはなりませんでしたが、今後また出てくる可能性があるということでございます。
 それで、3番目の方に移らせていただきますけれども、3つの会合を通しまして基本的に言えましたことは、条約推進派、要するに文化の多様性が危機に瀕しているので、それに対してこの条約の枠組みをつくって何とかそれを救わなければいけないという専門家が多数でございました。それに対しまして、グローバル化の観点から、何も規制はしない方がいいのであるという発言に対しましてはかなり厳しい意見が出されたということでございました。
 それで、それとの関係で申しますと、貿易の論理をストレートに出しまして、例えばクォータはいけないとか補助金はどうのという議論をやりましても、議論がきちんとかみ合わないように感じられました。どうも推進派の狙うところは、要するに文化については今国際機関としてきちんと考えるフォーラムがない、それをユネスコにつくりたい。そこで紛争解決機関を設けまして、文化とその多様性についてのケースを積み上げて、そこで独自の存在感ある1つの法体系を築き上げたい。その基礎としてこの条約を策定したいということが強く感じられました。したがいまして、その文化の議論におりていきませんと、貿易の議論だけではきちんとした議論にならないという感じを強くいたしました。
 したがいまして、今後我が国がこの条約の策定、交渉に当たりまして、文化の観点からこれをどう見るのかというところの議論を相当しっかりと持っておく必要があるというふうに感じました。
 抽象的な理念としてこの文化の多様性を促進するということにつきましては、恐らく異論はないものと思われますけれども、これまでの我が国の文化政策、それから今後どうあるべきかという点につきまして、この条約とどういうふうに関連づけていくのかということが極めて重要かというふうに感じまして帰国した次第でございます。
 とりあえず私の報告は以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

富澤座長 どうもありがとうございました。
 ただいま河野委員より詳しくご説明いただきましたけれども、それに対してご質問等あればお出し願いたいと思います。――それでは、ただいまの河野委員のご説明をもとに少し進めたいと思いますが、まず、佐藤委員、ただいまの河野委員からの説明に関連して、ユネスコに勤務されたり、また、昨年ユネスコにおける無形文化遺産保護条約策定時の政府間会合にご出席になったご経験から、グローバリゼーションと文化多様性の関係などについて、ちょっとご意見、ご知見を伺わせていただければ幸いですが。

佐藤委員 非常に難しい問題ですが、若干保守的な考え方というふうに言われるかもしれないのですけれども、私は条約の推進派に近いです。その理由は、もちろん文化芸術振興基本法でも言っているのですが、自国のアイデンティティーをどこに求めるのか。そのアイデンティティーというものを、自分の国が維持し、守っていく、あるいはつくっていくということは、やはりそれぞれの国の権利じゃないかという気がします。それをうたおうということですから、基本的にはやはりそういうことがあってもいいと思います。
 特に発展途上国は、河野先生もちょっと触れられましたが、私、先週1週間インドにいましたが、グローバライゼーションについてすごい危機感があります。要するに、放っておけば、非常に単純なことを言えばCNNといったTVと、それからデリーにはマクドナルドもできるかできないかという状況らしいですが、そういう状況で、自国が持っている文化というものが知らないうちに、気がついてみると、国民もそういう意識がないうちに平準化していくというか、あるいは均一化していくというか、そういうことになっていってしまうという気持ちが非常に強いという印象を持ちました。
 日本のような国は余りそのことを意識しないままで実は来ているのですが、私はこういう条約というのは、今日時点だけで見ていては間違いが起きると思います。というのは、かなり先まで見通しておかないと、えっ、そんなことが起きたのですかということでは困るので、やはり中長期的に我が国の文化というものを維持、振興し、また他国の文化というものをどうやって守りながら人類の文化遺産というものを共通に持っていくか、維持していくか、そういうことをやはり考えると、何らかの形のものが必要じゃないかという気がします。
 それはなぜかというと、やはり先ほど言われましたように、WTOのメカニズムだけで、文化というものを1つの消費の対象に考えることや、単に生産の面だけで考えるという観点だけでいきますと、儲からないものはもうやめようとかいうことになりますし、最もお金をかけてやってくるものが弱いものを駆逐していく、つまり悪貨は良貨を駆逐するということは十分あり得るわけです。そういうことを考えると、10年、20年たってみたら、あっと気がついてみたらいろんなものがなくなっている。
 だからよく言われるように、言語の問題などが一番深刻に言われております。今世界で6,000種ぐらいの言語がありますが、大体2週間に1つぐらいずつ消えていっていると言われています。それは何もフランス語のように、何千万人も話しているから大丈夫ということではないというのが、恐らくフランスの危機感なんじゃないでしょうか。つまりフランスは、今何千万人いても、周りが変わってしまえば自然に淘汰されていってしまうということを感じているのでしょう。
 そういう意味で、日本語は幸か不幸か、周りが海もあるし、守られているわけですが、やはりそういう観点から私は、何らかのメカニズムというものができてしかるべきだとに思います。
 ただ、今お話がありましたように、これはバランス論の問題で、現在、日本のアニメ作品なんかが非常にブランド商品になっています。あるいは日本の漫画がフランス語に翻訳されて、フランスの本屋さんにもあるというようなことになっていて、そういう貿易関係はいいのかという話はないわけじゃないと思います。ただ、私は、金が儲かる、儲からないという前に、日本政府として、あるいは文化庁として、きちんとした日本の国の文化というものをどう守るかというスタンスを明確にしておいてほしいと思います。
 そのときには、やはり文化というものを単に私的な所有物と考えるのではなく、文化遺産というものの公共的な性質といいますか、それの持っている公共的な側面というものをきちんと認識する必要があると思います。そのためには、国が一定の義務を負って、守っていくということをやらないといけない。放っておいて一般的な消費のマーケットに任せればいいじゃないかという意見も一方でありますが、そういった場合に、その質が本当に保持できるのかということになると、今までの文化政策は、文楽にしても能にしてもそうですが、補助金を与えて守ってきているわけです。その種のものが将来とも市場の力によって守れなくなるようなことではやはり困るので、そういったことをやはり考えて、この条約というものに対応していく必要があるのではないかと考えます。一般論ではありますけれども。
 先ほど河野先生がおっしゃった具体的な問題点では、お金をどうするのですかという、つまり今おっしゃらなかったけれども、こういう機構をつくってものをつくればお金がかかるに決まっています。お金の話はまだ何もないと、まだそこまで考えられていないと考えていいのかということが1つあると思います。
 以上、そんな印象を持ちました。

富澤座長 ありがとうございました。
 河野先生。

河野委員 今ご指摘の財政のところにつきましては、議論はしたのですが、具体的な財政メカニズムについて具体案を得るまでには至らなかったので、そのことを付記するだけにとどめることになりました。
 それで、私は、佐藤理事長とご一緒させていただきました無形条約の交渉のときに、基金をつくるというところの交渉で大変な難航をしたわけです。それこそ、延べにしますと1週間以上基金についてだけ議論したと思いますけれども、その経験もあるので、基金をつくるのはかなり難しいということを私はかなり初めの段階で申しましたら、ちょっと専門家が腰が引けまして、お金が要るけれども、とりあえず今のところはそれを置いておいて、まず、そのお金があることを前提にしたメカニズムを考えようということで今のところは終わっています。
 それから、もう1つ、先ほど飛ばしまして触れませんでした他の条約との関係でございますが、今2つ条文案が並んでおりまして、1つは、他の条約との権利義務にこの条約は影響するものではないと断言している条文と、ただし書きがついておりまして、文化的表現が危機に瀕している場合にはその限りでないというただし書きのついた2案がございました。
 それで、後者は推進派であるフランス等が強く推している条文でございまして、これは今回余りそれを正面に対象として議論をすることはなく、そのまま両案併記になっております。
 以上でございます。

富澤座長 今、河野委員と佐藤委員の両方からお話を伺って、議論の焦点とか、あるいは問題点みたいなものがかなり出てきたわけですけれども、何かご質問あるいはご意見がございましたらどうぞ。

小寺委員 先ほど河野さんからWTOという話が出てまいりましたので、その観点から問題状況に関する私なりの理解を申し上げたいと思います。
 WTO協定と申しますのは、ご案内のように物品とサービス、それから知的財産権、これらの分野についての包括的な国際協定でございます。先ほどCultural goods、Cultural servicesというようなお言葉が出ましたけれども、これはまさにそれに対応しているわけであります。
 WTOの前身がGATTです。GATTというのは国際機関の名前であると同時に条約の名前でございまして、対象は物品だけでありました。その段階でGATTが目指していましたのは、自由で無差別の貿易ということであります。
 本日、文化多様性というものは、これは原則として望ましいという、恐らくそういう点については意見の一致があるのだろうと思いますが、他のフォーラムにまいりまして、貿易はできるだけ自由であることが望ましい、そういうふうに申し上げれば、この点についても恐らく、原則論としてそんなことはないというようなことをおっしゃる方はない。したがって、実はこの原則と原則をどのように調整するのかという点が恐らく最大の問題なんだろう、このように思います。
 それで、先ほど佐藤さんが、すべては消費されるものというように考えるのはおかしいだろうとおっしゃったのですけれども、GATTの中にも、その点はもう明確に認識をされておりまして、自由で無差別な貿易という内容でございますけれども、この自由で無差別な貿易の例外として、例えば映像フィルムについては特別な扱いが規定されていますし、それから完全にGATTの例外となっておりますのは、美術的、歴史的または考古学的価値のある国宝を保護するための措置で、これには完全にGATTが適用されない、こういうことになっているわけであります。GATTもやはり、貿易の論理というものが文化の分野にすべてを覆うものではないという点は認識をしている、このように言えると思います。
 ところが、このGATTがWTOという形で展開してきましたところ、条約の規律が非常に強くなったわけでございます。つまり従来は、条約というのは国内法と違いまして、各国でどのように理解をし、そして実施していくのかということで、各国ごとに相当にバリエーションがあったわけであります。例えばGATTの時代であれば、農産品について言えば、ほとんどGATTの枠外ということで、農産品については適用されない、こういう状況がございましたし、また、さまざまな、客観的に見ればおかしいというような措置も許されていたわけであります。
 ところが、1995年にWTOという形で改組されまして、そこで非常にきつい形になりました。それがきつい形になったと申しますのは、問題が起こればWTOの紛争解決手続きに訴えを起こす。その訴えを起こせば自動的に結論が出る、こういう仕組みになったわけでございます。
 条約には、ほとんどの場合、本日、先ほど河野さんから紛争解決手続き、いわば日本の裁判に当たるわけでありますけれども、そういう仕組みがあるのでございますが、国際社会ではそれは使われないというのが一般的な状況であります。ところがWTOだけは、アメリカ、EUが、そしてさらには日本が、率先してそれを使い始めたわけであります。
 そうなりますと、1つの条文が思わぬところに意味を持ってくるというようなことが現実に起こります。例えば、日本の例で申し上げますと、焼酎とウオツカが同じものか同じものじゃないかという紛争がございまして、つまり焼酎とウオツカで酒税が違うという取り扱いが酒税について行われていたのですね。焼酎とウオツカはともに蒸留酒であります。それで、アメリカ、カナダ、EUがその酒税の率をウオツカと違うことについて、これはWTO違反である、なぜならば同じものについて異なる取扱いをしておると主張したのです。
 日本政府は当初、そんなことは考えていなかったわけです。ウオツカと焼酎が同じものだなんということはですね。ところが、WTOの紛争処理手続きに行きますと、ウオツカと焼酎は同じものだ、こういう判断が出まして、日本政府も数年かけて酒税の税率を同じにするという措置をとったわけであります。
 そういうWTOの状況のなかで、大きな問題として出てまいりましたのは、本日問題になっているのは文化でございますが、これ以外に環境でございますね。つまり環境を保護するための政策というものが自由無差別との観点でどう評価されるか。例えば我が国でも、燃費のいい車については、車に対する税金を軽減しております。これは省エネ、引いては環境保護という観点から軽減したわけでございますけれども、そのことが果たしてWTOに照らして許されるかどうか、こういう問題が起こってくるわけでございます。この場合も、燃費のいい車はどういう車かというと、小さな車が燃費がいいわけですから、結果的に日本車の保護になってしまう、こういう問題点が出てくるわけであります。
 この種の問題はいろんな分野に実はございます。文化以外に環境とか、労働問題、それから先ほど申し上げた知的財産権も一部それに関係するのでございますけれども、あとは競争政策とか、防衛政策とか、いろんな分野にこの問題が波及してくるわけであります。
 そこで、原則のレベルでは環境政策をとることは各国の主権的な事項であるということ、さらには文化的な政策をとるのは各国の主権的な事項である、この点について原則上は一致があるわけでございますけれども、しかし具体的な場面になってきたときに、どういう形で貿易の論理と、例えば文化なり労働基準なり環境なりの論理をどう仕切っていくのかということが大きな問題になってきたというわけであります。
 文化についてもWTOの紛争処理手続きに何件か訴えられております。1件はカナダの雑誌のケースでございます。これはアメリカの雑誌がどんどんカナダに入ってくる。その結果、カナダではアメリカ文化に汚染されるということで、カナダがアメリカの雑誌に特別な制限を課したわけであります。このこともアメリカから訴えられまして、カナダは見事に負けた、こういうことであります。
 先ほどから問題になっておりますオーディオビジュアルとか映像はサービスという観点から、アメリカが自由化を強く要求し、それに対してフランスが抵抗をし、現在のところは、フランスは、その分については自由無差別な取り扱いを約束をしていません。これはGATTの世界ではなくてサービス貿易の世界、つまり新たに95年にでき上がった世界ですので、そこは一応例外として除外されているわけですけれども、交渉が続いていきますとどんどんアメリカに押し込まれていく、こういう危険性がやはりあるということを恐らくフランスは相当強く意識しているのだろうと思います。
 したがいまして、原則レベルでは、その価値自身については問題がないわけでございますけれども、どこでどのように仕切るか。文化の問題と貿易の問題を完全に世界が違うものだというように考えるのも1つでございますが、もう1つは、文化の問題については完全なコマーシャルグッズの世界とはやや違う、だけど貿易の論理も進入しているというような、そんなような、要するに多少程度を変えた仕切りができれば、それはそれでいいわけであります。例えば環境措置についても、1国の環境措置、各国の国内で行う環境措置であれば、これは問題ないのでございますけれども、例えば公海、海の中に生存するウミガメやイルカを保護するというような措置についてアメリカ政府は非常に積極的な対応をしているわけでありますが、そういうことについて果たしてどういう場合にアメリカがそういう措置をとることができるか。
 エビをとるとウミガメが一緒にとれるわけですね。そこでアメリカがやっておりますのは、ウミガメを保護するために、ウミガメを保護するような方法でとったエビは輸入は認めるけれども、そうでないものについては輸入を認めない、こういう政策をとっておりまして、これについてマレーシア、パキスタン、インドネシアというような国がWTOに訴えたわけでございます。
 この場合は、やはり環境価値は重要であって、その種の問題について言えば、国際的な合意が、いろいろ細かい議論はあるのでございますが、国際的な合意ができればまずそれは問題ない、それについては要するにGATTの外にしましょうというような結論が出ています。恐らくカナダ、フランスにとってみれば、ユネスコの場である種の合意をつくって、大きな部分をWTO協定の例外として扱ってもらえるという合意を取り付け、WTO協定上の問題をクリアにしたいのだろうと、このように推測するわけです。
 そこで日本としてこれに対してどういう措置をとればいいのかということですが、これは原則レベルでは何の問題もないわけでありますが、この仕切りのところでございます。つまり、先ほど河野さんからおっしゃったような、クォータとか、クォータというのは輸入制限をしてもいい、つまり輸入数量制限をしてもいいということでございます。輸入数量制限をしてもいいということは、これは自由無差別な貿易という仕組みからは反するわけです。また、国内に入ったときに、国内の文化的なものと外国の文化的なものとの間に差別を行ってもいい、これもまた自由無差別に反するわけですね。
 だから、文化多様性を守るためであればあらゆる措置をとってもいいというような形にするのか、もしくはそういう措置をとるにはある種の条件づけをする。例えば先ほどブルネラブルというようなことをおっしゃいましたけれども、そういう条件づけをするような方策が望ましいのかというあたり、これが恐らく1つ大きな論点になるのだろうと思います。
 もう1つ大きな論点は、この種の条約をつくる場合に、日本が何をやりたいかがよく見えないということがございます。よく日本政府がやるのは、ヨーロッパ諸国とアメリカが対立していると、その真ん中をとって両者の歩み寄りを図るというような案を提案するというようなアプローチですが、今回もそういうアプローチで行くのか、それとも文化について我が国はこう考えるというような積極的な意見を述べていくのか。
 この問題はまさに我が国の、一方ではこの種の文化の言わば増進ということと同時に、いわゆるCulturalgoodsとかCulturalservicesというようなものについて、どういう形で輸出をしたいのか、またそのためにどういう体制が望ましいというように考えていくのか、こういう点を今後明確化していく必要があるのだろう、このように私は考えます。
 ちょっと長くなって失礼しましたけれども、以上でございます。

富澤座長 ありがとうございました。
 まさに今小寺委員がおっしゃったことがあれなんでしょうけれども、渡邊委員は文化財の国際協力に携わってこられたご経験も長いわけですけれども、この点についてはどういうご意見でございますか。

渡邊委員 文化財の方で国際協力、国際関係というのは年々強くなってきているわけです。特に日本もこの10年来というのでしょうか、積極的にやっている。ただ、我々の世界で、何かWTOにかかるような問題というのは今までは何ら意識してなかったと思います。大体国内的なこととしてやってきたものが、だんだん国際的な枠組みの中に入るような、あるいは枠組みがつくられてきたということで、世界的枠組みと言えば世界遺産条約などがその典型的な事例であるということです。
 それで、文化の多様性というような、こういう言葉が我々文化財の世界で盛んに使われ、また強く意識されるようになった、あるいは文化財保護行政の中で、その分限の中で使われるようになったのもやはりこの十数年のことだと思っています。それにはやはり世界遺産条約というのが大きな力を果たしたということでございます。
 文化財の世界で1つの世界的な枠組みをつくられたということでありますが、そうしますと当然そこにできてくるのは統一的基準です。基準なしで枠組みはできませんので、そこからさまざまなというか、1つの大きな文化的問題が出てきたわけです。
 大体、世界的な枠組みというのは、文化の方に関しましてもやはりヨーロッパが先導するというのが、これが定まりの形になっております。世界遺産条約もそのとおりでございます。それで、そこで出てきている基準というのは、やはりヨーロッパ的なもの、ヨーロッパの伝統、歴史に則った基準、物の価値観の基準が出てくるというわけでございますが、そこで1つのテーゼ、アンチテーゼというような形で出てきたのが日本の木の文化でありました。
 1972年に世界遺産条約ができて、それから20年間、日本はこの条約の約定国にはならなかったわけです。私はその辺の事情はよくわかりませんが、しかし20年たって約定国に入って、そして法隆寺の建物を世界遺産として登録するということになったわけですが、このときに問題になりましたのが、法隆寺というと個別的になりますけれども、木の文化、そういう建造物が本来的な価値を、西洋的な物の見方、例えば価値を持っているのだろうかというのに対する疑念でありました。
 ご存じのように日本の木の文化、建物というのは、テキシン組み立てといいまして、これはばらばらに分解して修理される、場合によっては移動もできるし、また再建築されることができる。このギンジシステムというのは全く西洋の石の建物とは異なるわけでございます。また土の、煉瓦積みのものとも異なるわけでございます。そういうことで、日本のそういうばらばらにして組み立てし直すということに対して、ヨーロッパの価値観からすると、本当の価値が維持されているのかどうかということに対する疑念が出てきたというわけです。
 そこではその問題を一応克服したから法隆寺の五重塔その他のものが指定になったということでありますけれども、この克服問題をさらにもう少し厳格に固定していかなければいけないということで、平成7年に奈良で奈良会議と俗に言っておりますが、文化財のオーセンテシティーの会議というのが行われた。これは文化庁の肝いりであったわけでございますが、これは大変世界的に評価された会議でございまして、そこでまとめられた宣言文は奈良のアーカイブとして今でも多分世界で通用し、多くの方々がこれを引用するということになってきました。
 そこで認識された、あるいは合意されたものというのは、文化財の価値というのはその文化財が所属する文化の文脈によって理解されるということでございました。今まで西洋的な物の見方から疑念されていたものについても、それぞれの文化の枠組みの中でその価値というのは判断されるのだというところに来たわけでございます。これは大きな価値観の転換であります。いわゆる評価の軸に関して、1つではなくて幾つかの軸を立てることが可能であるというわけでございます。ここから文化の多様性というのが改めて強く認識され得るようになったと思っております。
 考えてみますと、日本の文化財保護行政というのも、何をやっているのかというと、主として最初は物を残すという、歴史の証拠を残していくという、歴史の記憶を残すといいましょうか、あるいはこれはユネスコと全く同じような文言になりますけれども、創造性の証ということです。昔は芸術の規範となるというようなもので表現されておりました。それは言うなれば創造性の証ということで、物の見方というのはユネスコの言っているところのものとそれほど変わるものではないのですが、戦後だんだん行政が進むに従って、改めてその無形文化遺産、無形文化財というものを日本は1つ概念をつくって、それを行政対象とするというようなことになって、新しい文化行政の領域ができてきたと思っております。
 さらにもう1つ、近年におきましては、これも世界遺産委員会の1つの政策的課題との連動といいますか、と言っていいと思いますが、やはり環境的な問題についても踏み込むようになった。それの1つがいわゆる棚田の指定であります。
 最近、文化財行政というのは環境省あるいは農水省の政策分野の関係というのは少しずつ深くなってきております。今環境問題と言われておりましたけれども、環境という問題も単純に排気ガス云々ではなくて、日本の文化をつくり出したその環境、あるいは日本の文化の象徴としての環境というものをどのように残し得るのかというところまで日本の文化財行政というのは進んできたのだと思います。
 これもかねては、それはする必要はない、行き過ぎである、難しいからやめた方がいいというような批判もありましたけれども、一応文化財の方では、政策会議でしたか、ありまして、そういうことも一応承認され、そのような動きを今とっているわけでございます。
 したがいまして、文化の多様性というのは、国内的にまず意識されていかなければいけない問題でありますけれども、近年、世界遺産委員会などで承認されて、これは佐藤國雄委員も出席なされて条約の策定に貢献なされたわけですが、無形の文化財というものが世界遺産条約、条約として成り立ってくるということになりますと、また1つ大きな国内問題を抱えることになるであろうと思っております。
 世界遺産条約の前に傑作宣言というような、これは松浦事務局長、ユネスコの事務局長が主導して行ったわけですが、その結果について、皆様ご存じのように各国に思惑の違いがあって、全く結果としてはばらばらなものが提示されました。日本は能を出したわけです。本当のところは、ユネスコが狙ったものは、フォークロア、いわゆる民俗的なものを恐らく求めたと思いますが、我が国の場合はそれをあえて避けた。なぜ避けたのかといいますと、よく文化財というのは地域のあるいは文化のアイデンティティーをつくり出すものであるということが言われますけれども、特に無形の遺産、特に民俗の遺産というものは、かえって美術工芸品的なもの、芸術的なものより、より強く地域共同体と結びついて成立し、そして受け継がれてきたものであります。従って、その地域文化としての無形文化財に上下の別をつけるということは非常に困難であって、これは学会では本来みな同等であるという認識をするのが一般でございます。そういうところに行政が入り込んで上下をつけるということになりかねないというのが、言うなれば世界遺産条約及び無形の問題であります。だから国によっては、場合によってはこれが少数民族の問題、位置づけの問題とも関連して、かなり国内的にはそれぞれの国々における思惑というのはかなり違っているであろうと思っております。
 我々の方で、まずそれは国内問題としてどうコンセンサスをつくっていくのかということが大切なわけでありますが、今この条約の中でどのような形で我々はそれを意識していかなきゃいけないのかということになると、少し私もまだ自分の中ではっきりした映像を持っておりません。これから皆さん方の議論を参考にしながら考えなきゃいけないと思いますが、ただ国際条約にこの文化財の問題が深く絡んでくる、しかも今WTOとの関係について、その問題が避けることができない問題として出てくるといったときに、じゃどこの時点でその接点が出てくるのかということでございます。
 文化というのはそう簡単に線引きができるものではありませんので、それを個別的にしていきますと、言うなれば一種教条的な問題になってきますし、また文化といえば必ず常にその周辺領域がありますので、はみ出してしまうわけです。これは本来捉えどころのないものが文化の性格であろうと思っておりますので、その辺を日本のこの作業が一体どこを目指して、何を意識していくのかということ、その辺が私にとっては今悩みの種で、悩みだけ申し上げても結論が出ないのでありますが、実際この条約の会議にかかわったことですので、私もいささか気が重くなるというようなところでございまして、国内的には文化の多様性というのは明確に意識して今文化行政は進んでいる、国際的にもそういう関係にある。側面的に西洋的な物の見方から、より多元的な物の見方、価値観に向かって皆さんが進んでいる。文化の多様性は意識の問題ですが、これを強く意識しますと、いわゆる何々のアイデンティティー、国のアイデンティティーとか民族のアイデンティティーとかいうことを強く意識しますと、これは一種の文化障壁をつくりだしてしまうおそれがあるわけです。
 そこのところを我々は非常に懸念しておりまして、いかに文化の対立、いわゆる障壁というものを乗り越えて、調和に向かっていくにはどうしたらいいかというところは一番の問題であり、悩みどころだろうと思っております。これが我々の文化財の世界の現状であるというふうに思っております。お考えいただければ結構かと思います。
 以上でございます。

富澤座長 ありがとうございました。
 では、第1回目の会合ですので全員の皆様にご意見を伺いたいと思うのですけれども、根木委員、コンテンツ産業の振興などを含めて、経済と文化というこのかかわりをどういうふうにお考えになっているのか、ちょっとご意見を伺います。

根木委員 きょうはこんなシビアなお話になるのかどうかわからなかったものですから、私としましては、現在の文化政策において、多様性ということについて、これまでどのようなスタンスで来ており、現在どうあるのかという点をお話させていただこうと思い、きのうの夜急遽、私の書いた拙い本を切り張りをいたしましてご提示申し上げております。横長の資料をごらん下さい。
 しばしばこれまで、いろんな方がいろんなところでおっしゃっておられたのですけれども、我が国の文化政策の背景にはどういった方向性がこれまで見られたかといいますと、欧米の近代文明を普遍的な原理としてこれを受入れる、と同時に、それに反発するような個性化を一方で主張するという、両者のせめぎ合いではなかったかと思われます。
 後で申し上げますように、日本文化の成り立ちそのものが外来文化を受入れてそれを自家薬籠中のものにしながら独自の文化をつくってきたという歴史的経緯があるわけです。そういったことから、一概に文化ナショナリズムだけに徹するわけにはいかないだろうし、かといって日本独自の文化というものをある程度ガードする必要性もある、とりわけ文化財においてはしかりではなかろうかと思われるわけです。
 結論的に言いますと、1ページ目の右の方に書いていますように、普遍化の方向と個性化の方向の両者の調和均衡ではなかろうか。結果としてはそういうことに帰着するではなかろうかと思われます。そして最近において、そのような個性化の方向が顕著に見られるようになったのは、80年代以降の地域文化の振興に絡めての、「文化の時代」、「地方の時代」が云々され、文化行政が進展しはじめてからではなかろうかと思われるわけです。
 それまで東京中心の文化が余りに地方を席巻していましたが、それに対して地方は地方で地域文化の独自性、自律性ということを強く意識するようになった。これは言うなれば国内における文化の多様性ということについての認識が深まり始めた端緒ではなかろうかと思われます。
 このことは、2ページ目の次のところに書いてありますように、日本文化の形成過程との関連が極めて強いのではなかろうか。そして、これは時間的な流れという縦の系列と空間的な広がりという横の展開の両面から言えるだろうと思います。
 縦の系列では、先ほど申し上げましたように、我が国の文化というのは、これまで文化の受容と形成の過程において、国が開かれたとき、鎖国の状態のとき、それぞれに応じて、受容中心のとき、独自の文化を形成したときという大雑把な区分ができます。それの繰り返しがこれまでずっとなされて来たのではなかろうかといえます。
 もう1つの地理的・空間的な広がりということに関しては、まず我が国は歴史上室町時代の中期に至るまで、都のみが文化の中心地であり、地方は文化果つるところというのが一般的な認識ではなかったか。それが戦国時代を経て江戸時代に入り、ある程度地域の文化的な中心というものが拡散化していった。ところが、明治以降、またもや首都である東京中心になっていった。そのようなパターンが見られるわけであります。
 そういったことから、まず、文化形成の歴史的なダイナミズムという観点から考えますと、2ページ目の下の方に書いておりますように、近世以前には中国、そして明治以降には欧米が文化的中央とみなされた。そして我が国は、みずから文化的地方と観念する傾向が強かったのではなかろうか。こういったことのために、今後の我が国の文化政策の方向性の一つとしては、そういった文化的なコンプレックスを克服する、あるいはそういった状況をある程度是正する、そして日本独自の文化を育んでいく、こういう姿勢が必要なのではなかろうかと思われるわけです。
 ただ、文化の受容はこれまで我が国のお家芸でありまして、これを捨て去るとまさに戦時中の独善と偏見に陥ることになりますので、文化の受容にも一定の配慮を払いながら、なおかつ創造の面にも力を注いで、それを国際的評価に値するような方向に持っていく。言うは易く行うことは非常に難しいでしょうけれども、これが一つの方向性としてあるべき姿ではなかろうかと思われます。
 もう1つの日本文化の地理的な展開との関係で言いますと、国内における文化的中央と文化的地方の格差の是正ということ、換言すれば文化の均てんといったことに帰着するわけですが、それだけにとどまらず、それをベースにしながら地域文化の振興が図られること、つまり地域文化の自律性ないしは固有性の発揮ないしその発信というところに持っていく必要があるのではないか。各地域とも80年代以降大体そういう方向で進んでいるやに見受けられますし、それがまた国内における文化的多様性にも資するゆえんであろうかと思われます。
 次の4ページをめくっていただきたいのですけれども、これまで文化庁を中心とする国の文化政策は、文化の振興と普及、文化財の保存と活用、国語、著作権、宗務行政に要約されておりました。しかし、近年においてはいろんな周辺領域が文化政策の対象領域として含まれるようになってきました。逆に言いますと、他の政策領域が文化に接近をしてきたということであります。
 4ページをごらんいただきたいのですが、その最たるものの1つは国際文化交流であり、今1つは、産業経済と文化との問題、そして情報化社会と文化との問題、それからまた観光と文化の問題であります。そして、これらは同時に文化的多様性との関連で考慮すべき事柄といえます。
 情報化社会と文化との関連について一言申しますと、情報化の進展に伴って芸術文化活動はこれからかなり変わっていくのではなかろうかと思われます。
 それはどういうことかといいますと、芸術文化活動というものは、大体一般的に言いますと、その主体とそれを享受する客体と、両者をつなぐ場という3つの構造から成り立っていると考えられます。そして、その外側には、それらをサポートする支援者がいるわけです。マルチメディアが普及いたしますと、この主体と客体との関係が相対化していく。そして場所性もあいまい化していく。それによってまた支援の対象も不分明化していく。こういう蓋然性が非常に高いのではなかろうか。同時にまた、プロとアマの区別も非常に不明瞭化していく。そして現在地域の参加型文化活動に見られると、同じような構造がプロの芸術活動にも一般化していく。こういったことも予想されるのではなかろうか。
 さらに、新たなジャンルの創造であるとか、新しい演出や展示の方法なども、どんどん開発されていくでしょう。それやこれや考えますと、芸術文化そのものについての変容が身近に迫っているともいえるわけであります。
 そういったことから、特に情報と、それが影響し、またその背景に横たわる経済との関連性ということを、これから文化政策においても十分に考慮していく必要があるだろうと思われます。
 以上は、文化政策をめぐる一般的状況ですが、先般制定されました実定法である文化芸術振興基本法において、多様性について言及したくだりがありますので、これについてご認識いただきたいと思い、縦長のもので線を引いたものを提示させていただいております。
 文化芸術振興基本法は、前文と、特に第2条の基本理念が重要なポイントになろうかと思います。
 前文の多様性についての言及は、次のとおりです。7ページの左上の、四角の中の線を引いた部分、これは前文の第1段落ですけれども、ここにありますように、文化芸術は、多様性を受入れることができる心豊かな社会を形成するものであり、世界の平和に寄与するものである。そしてそれぞれの国やそれぞれの時代における国民共通のよりどころとして重要な意味を持つ。また、自己認識の基点となり、文化的な伝統を尊重する心を育てる。そして、心豊かな活力ある社会の形成にとって極めて重要な意義を持つ。こういう文言が高らかにうたわれております。
 この前文を、よくよく分析をしてみますと、文化芸術の役割に関して、文化芸術の本質にかかわる側面と、効用にかかわる側面の両面が混在しております。効用面というのは、文化経済学者などが言ういわゆる外部性としてとらえてよろしいかと思いますが、特にその効用面において多様性について言及していると解していいのではなかろうかと思います。
 左下の部分の、(2)「文化芸術の役割―効用の面―」というところで、先ほど読み上げました前文を、さらに「基本方針」において敷衍して言及したくだりがあります。左下の3のところをごらんください。
 「質の高い経済活動の実現」という表現で、文化のあり方は経済活動に多大な影響を与えるとともに、文化そのものが新たな需要や高い付加価値を生み出し、多くの産業の発展に寄与し得るものであるということを述べております。
 それから5のところでは、「世界平和の礎」ということで、文化の交流を通じて、各国、各民族が互いの文化を理解し、尊重し、多様な文化を認め合うことにより、国境や言語、民族を超えて人々の心が結びつけられ、世界平和の礎が築かれる、としております。
 このように、「基本方針」の中にそれが詳しい言及として盛り込まれております。
 右の方は、「基本方針」より前に策定されました文化審議会の2002年答申で、この中にも、さらに詳しく言及した文言が書かれておりますが、これは省略をさせていただきます。
 1枚めくっていただいた8ページ目以下は、第2条の基本理念の中の多様性にかかわる条項です。
まず、第3項では、国民が居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、またはこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならないとしております。基本方針でもさらにこれを敷衍して、全国各地でさまざまなすぐれた文化芸術活動が行われるよう、国民がその居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、またはこれを創造することができるような環境の整備を図るとしております。いずれも前段において文化芸術創造享受権を規定しているのですが、これを受けて特に後段において国民がその居住する地域にかかわらず等しく、ということで、地域における文化芸術活動についての条件整備を明確にうたったものです。これはひいては文化的多様性、特に国内における文化的多様性に結びつく1つの考えを表したものではなかろうかと思われます。
 右下の(4)の第4項の「我が国及び世界文化芸術の発展」のくだりも多様性にかかわるものと考えられます。条文の中では「文化芸術活動が活発に行われるような環境を醸成することを旨として文化芸術の発展が図られ、ひいては世界の文化芸術の発展に資するものであるよう考慮されなければならない。」と表現されており、基本方針でもほぼ同様の文言となっております。我が国において文化芸術活動が活発に行われるような環境の醸成を旨とした文化芸術活動の発展を図ることと、それによる世界の文化芸術の発展に資するという、両面が中に含まれており、いわばそれは一国の文化の頂点の伸張と、それによる他国との差異性を特に念頭に置いた規定であろうと思います。これは後で触れます第7項とも絡んでおります。第7項は、我が国の文化芸術の世界への発信という、ややナショナリスティックなニュアンスで書かれております。第4項はこれと裏腹の関係にあるわけです。ただ第7項は発信という作用面でとらえたもの、本項はもっと一般的なと申しますか、我が国の文化芸術の発展がひいては世界の文化芸術の発展に資するという相関関係でとらえたものというように、両条文を一応区分して理解するのが適当ではなかろうかと思います。
 次の第5項、(5)に当たりますけれども、多様な文化芸術の保護・発展ということで、文化の多様性−特に国内を中心に考えておりますが−に関して直接言及した条文であると言えます。
 9ページの右上の方をごらんください。ここでいう多様な文化芸術という言葉の中には、2つの意味が含まれていると解されます。
 1つは、いわゆる文化の多様性の観点から、あらゆる文化芸術を相対化してとらえ、その価値を同等とみなしつつ、空間的な広がりの中における各種の文化芸術に着目しようとするものです。我が国の文化芸術で空間的な広がりの中で展開しているのは地域の文化芸術であろうかと思います。ところが、これについては第6項で規定されています。したがって、地域の文化芸術は一応本項からは除かれるととりあえずは理解していいのではなかろうか。
 いま1つが、時間的な流れの中で蓄積されてきた文化芸術で、これは文化財して観念してよろしいかと思います。そして、この項は主としてこの文化財としての文化芸術に主眼を置いた規定と考えられるわけであります。本項は、直接的にはこれについての規定であると言えようかと思います。
 次の第6項ですが、ここでは「各地域の特色ある文化芸術の発展」について規定されております。9ページの左下の方をごらんいただきたいのですけれども、1つは地域の人々により主体的に文化芸術活動が行われるよう配慮するということと、もう1つは、各地域の歴史、風土等を反映した特色ある文化芸術の発展を図るということについての規定でありまして、先に述べましたとおり、空間的な広がりの中における地域文化の振興ということ、言葉をかえますと、地域文化の多様性ということに関して述べている条文と考えられます。
 最後に、9ページの右下になりますが、第7項の「我が国の文化芸術の世界への発信」があります。ここでも、我が国の文化芸術が国際場裏において展開されるための基盤整備を行うべきであるということが書かれているわけでありますが、これは、言葉をかえますと、我が国の文化芸術を国際水準にまで持っていく、そういった強い意志がここにあらわれております。それはまた逆に言いますと、日本の文化芸術を発信するという、一面保護主義に通ずるような、条文とも理解できるわけであります。以上が文化芸術振興基本法における文化の多様性とかかわってくる条文ではなかろうかと考えられます。文化政策の観点から、これまでの文化政策のスタンスと実定法の規定を踏まえた上で、文化の多様性に関して、貿易の側面をはじめ、先ほど来いろいろお話が出ております事柄について今後議論を深めていただいたらどうかと思い、とりあえず、以上のことを説明申し上げた次第であります。

富澤座長 ありがとうございました。
 きょうは皆様方からそれぞれのご経験に基づいた貴重なお話を伺うことができたのですけれども、時間がいっぱいになっちゃいまして、さらに突っ込んだ議論はできませんでした。不手際をお許し願いたいと思いますけれども、相反する2つの原則をどうやって折り合いをつけていくかというところにあるのだろうと思います。きょうのところは時間の関係でこの辺で終わりにさせていただいて、次回、2回目以降の会合について事務局よりご説明願いたいと思います。

石原室長 お手元の資料13をごらんいただきたいと思います。
 2回目は、7月7日午後3時30分から2時間、文部科学省、この建物の10階の2という会議室を用意してございます。3回目以降は、詳しい時間と場所は未定でございますが、それぞれ午後に、7月21日、8月4日、8月27日を想定しております。さらに予備日として9月13日を考えております。
 以上が今後の開催日程でございます。

富澤座長 ただいまの事務局のご説明について何かご質問あるいはご意見ございますでしょうか。――それでは、文化審議会文化政策部会の文化多様性に関する作業部会の第1回会合をこれをもって終了したいと思います。
 大変ありがとうございました。

午後2時59分閉会



(文化庁長官官房国際課国際文化交流室)

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