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4.次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について

(1)課題の整理

  •  アーカイブ事業の意義について、昨年10月の検討状況の整理では、文化の健全な発展には、文化的所産としての著作物等を幅広く収集・保存しておくことは重要であること、国民ができるだけ幅広く著作物等へのアクセスができるような環境整備が必要である点について指摘がなされている。しかしながら、その一方で、昨年10月の検討状況の整理では、同時に、具体的に望まれるアーカイブ像について見解が統一されていない点についても指摘をしている。
  •  アーカイブの円滑化に関する指摘についても、多数権利者が関わる場合の利用の円滑化や、権利者不明の場合の利用の円滑化についての指摘と同様に、その背景は、大きく2つの流れに分けられると考えられる。
     一つは、保護期間の延長した場合に生じてくる問題としての指摘であり、すなわち、コンテンツのアーカイブを構築するためには、著作物等の複製等が必要となるため、保護期間を死後70年まで延長した場合には、古いコンテンツのアーカイブについて、権利処理が必要となるコンテンツが増え、アーカイブ活動に現在以上に負担がかかる(特に、保護期間が切れたもののみをアーカイブの対象とするような活動の場合には、活動そのものに支障を来す)との指摘である。
     もう一つは、保護期間の延長と関係なく、
    •  デジタル技術の進展で、データ容量や処理速度、送信速度が向上し、コストも安くなったことで、従来大規模施設でしか行えなかったアーカイブが小規模な図書館、機関等でも可能になってきた状況や、
    •  政府の知的財産戦略本部が指摘するように、インターネットを活用して情報を共有する習慣が広まってきている中で、オープン・イノベーションを支える基盤として、政策上の観点からインターネット等を通じて図書館等の蔵書・資料に国民が容易にアクセスできる環境を整備することが重要であるとの認識(注1)
    によって、次代の文化の土台となる文化的所産を保存するという観点よりは、むしろ、インターネット等を通じて多くの者が情報を共有できるようにしようとの意図に基づいてなされた指摘であると思われる。
  •  望まれるアーカイブ像について見解が統一されてこなかった一因としては、このような背景となる問題意識の違いがあるとも考えられ、目指すべきアーカイブ像として、権利者情報のメタデータのデータベース化について議論すべきという見解と、コンテンツの自由な視聴、利用を促進する環境を整備する観点から議論すべきであり、著作者の情報だけではなく、中身に関する情報も付ける方向で検討すべきとの見解に分かれていた。
  •  このため、本小委員会では、まずは、関係者からアーカイブ活動についての取組の現状等を聴取し、それぞれの取組がアーカイブとしてどのような方向を目指しているのか、また、そのアーカイブ活動を実際に行う上での著作権法上の課題を抽出することを試みた。
     その結果、まずは、方向性よりも取組主体の如何によって、大きく著作権法上の課題が異なるのではないかということ、具体的には、コンテンツ提供者が自らのコンテンツを保存しつつ、その提供を行う場合と、市場に置かれたコンテンツを他者が収集・保存等する場合とでは、解決すべき課題の性質が大きく異なるのではないかとの点が指摘できる。一方で、インターネット等を通じて各種のコンテンツに国民が容易にアクセスできる環境を整備することが重要との問題意識に照らした場合には、コンテンツ提供者が自ら構築するアーカイブであっても、図書館等のコンテンツ提供者以外の主体が行うアーカイブであっても、国民が容易にアクセスできるようになるとの面で同様の効果があり、我が国の社会全体の在り方の観点から、公共的な立場で行うべきことと民間に任せる部分とを明確にした上で、課題を検討すべきとの指摘もあった。
     このため、本小委員会では、アーカイブ事業の円滑化方策を検討するに当たっては、これら双方の取組を尊重し、それぞれの役割分担、相互の補完や協調の中で、全体としてアーカイブに望まれる効果が実現されるべきとの基本的な考え方に立ちつつ、コンテンツ提供者自らが行うアーカイブ活動、その他の者が行うアーカイブ活動と、それぞれに分けて著作権法上の課題の検討を行った。
  • (注1) 2008年3月4日「オープン・イノベーションに対応した知財戦略の在り方について」(知的財産戦略本部知的財産による競争力強化専門調査会)2.(2).ア.(ア)1図書館に存在する学術情報等へのアクセスの改善 など

(2)コンテンツ提供者が自ら行うアーカイブ活動に関する課題

  •  現在、コンテンツ提供者が、自らアーカイブを構築する取組が進められており、例えば、放送番組の分野についてはNHKアーカイブス、ソフトウェアの分野においてゲームアーカイブス等、音楽の分野ではレコードについて歴史的音盤のアーカイブ事業、書籍の分野でのオンデマンド復刻出版などの取組が進められている。
     また、文化的所産を保存する目的としてのアーカイブそのものとは異なる場合もあるが、インターネット等を通じた情報アクセスを可能としているという意味ではデジタルアーカイブと同様の効果を有するものとして、音楽、映像コンテンツ、書籍や漫画のネットワーク配信などの取組も普及、定着してきている。
  •  関係者からのヒアリングによれば、これらの取組を実施するに当たっては、著作権等の権利処理が大きな障害となっているとの実態は、特に指摘されなかった。この原因は、おそらく、これらの取組がコンテンツ提供者が自ら製作したコンテンツを二次利用しているに過ぎないことや、ビジネスの一環として行われている側面もあることから、権利者情報の把握や、権利者との再度の利用許諾の交渉等の面で要する手間やコストについて問題視されることが比較的少ないことによるものと考えられる。
     このような観点からすると、コンテンツ提供者が自ら行う取組に関する課題は、コンテンツの二次利用に関する問題と同じであると捉えられ、その場合には、多数権利者が関わる場合の利用の円滑化や、権利者不明の場合の利用の円滑化の場合と同様の視点で、円滑化方策を考えることができると思われる。
  •  なお、上記(1)との繰り返しになるが、別途の課題としては、ヒアリングの中で、コンテンツ提供者が行う取組は、コンテンツ流通ビジネスの一環として行われる側面もあり、利用者のコスト負担等によって支えられなければ情報生成のサイクルの維持が困難となることや、図書館等の公共主体が行うアーカイブ活動でも重複してコンテンツ提供が行われ得ること、このために、相互の役割分担、利害調整、あるいは提携協調について検討が必要になることについて指摘がなされている。

(3)コンテンツ提供者以外が行うアーカイブ活動の円滑化(アーカイブワーキングチーム報告)

  •  コンテンツ提供者とは異なる立場で行うアーカイブ活動については、アーカイブ事業の円滑化方策を議論する足がかりとして、ひとまず、創作者や提供者とは異なる立場で著作物等の収集・保存を行う施設として代表的な存在である図書館等(注2)に焦点を当て、具体の制度について検討した。
     検討に当っては、図書館等が、貴重な資料の体系的な保存、あるいは国民の情報アクセスの保障等の公益的な観点から行うアーカイブ事業について、円滑に進めることができるようにすることは重要であるとの認識の下、一方で、権利者保護の観点と民間のコンテンツ流通ビジネスへの影響への配慮は必要であるため、両者のバランスをとることに配意した。
  • (注2) ここでいう「図書館等」とは、著作権法第31条で規定する「図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの」とする。
     なお、コンテンツ提供者とは異なる立場でアーカイブ活動を行っているものとしては、その他に、放送法の規定に基づき放送番組を収集する財団法人放送番組センター・放送ライブラリーや、貴重な資料としての映画フィルムを収集する独立行政法人国立美術館・東京国立近代美術館・フィルムセンターがあるが、これらは、放送事業者や映画製作会社から任意にコンテンツの提供を受けて実施しており、コンテンツ提供者が自ら行うアーカイブ活動に比較的近い形での活動と捉え得る面もあると思われる。

1 国会図書館における所蔵資料のデジタル化について

  •  国立国会図書館(以下、「国会図書館」という。)では国立国会図書館法により納本制度が設けられており、日本の官庁出版物、民間出版物を網羅的に収集しているが、これらの収集資料は、国会議員のための立法補佐業務の基盤となると同時に、蓄積保存され、現在及び将来の国民の利用に供される(注3)ことをその役割としており、資料自体の保存が大きな目的となっている。
     国会図書館の資料の保存状態については、「国立国会図書館所蔵和図書(1950〜1999年刊)の劣化に関する調査研究(平成17・18年度調査研究)」(平成20年3月)によれば、本文紙が酸性紙で紙の物理的強度が低下している資料については、大量脱酸性化処理には不向きであり、マイクロ化等の媒体変換が必要となるが、その割合は、10年ごとに各400点(計200点)のサンプル調査で、50年代5割、60年代2割、70年代0.5割であり、印刷物資料の劣化が激しい状態にある。そのため、これまでも保存のためにマイクロフィルムやマイクロフィッシュに複製を行ってきているが、これらのマイクロ資料についても長期保存により傷がつく場合がある他、マイクロフィルム自体の保管スペースも拡張していかなければならない状況である。
  •  現行法では、国会図書館を含む図書館等が行う複製に関して、著作権法第31条第2号で、「保存のため必要がある場合」であれば、権利者の許諾なく行うことが認められている。保存のための複製については、かつては、

     「貸出し、閲覧等の業務を行うためには、資料の適切な保存が図られる必要があり、そのため、既に所蔵している資料についての複製が認められるものであって、例えば、欠損・汚損部分の補完、損傷しやすい古書・稀覯本の保存などの必要がある場合に複製を行うことができるものとしているものである。従って、例えば図書を一冊購入して、貸出し、閲覧又は他の図書館等への提供を目的として、その図書の多数の複製物を作成することが許容されるものでないことはいうまでもない。なお、所蔵資料のマイクロ化についても、このような意義を有する場合に限り認められるものと解すべきであり、すべてのマイクロ化が本号にいう保存のための複製に該当することとなるものではない。」

    と厳格に解していた(注4)。この点について、技術の発達等の社会の変化に応じ、許容される範囲が拡大していると考えられるのか、検討を行った。
  •  まず、図書館資料をデジタル方式により複製すること(以下、「デジタル化」という)は、現に資料の傷みが激しく保存のために必要があれば、第31条第2号によって認められる。同様の理由でマイクロ化したものを、さらに媒体変換してデジタル化することについても、基本的には現行法の趣旨を逸脱するものではないと考えられる。
     次に、国会図書館に納本された書籍等を将来にわたる保存のためにデジタル化することについては、第31条第2号の解釈で可能な部分もあると考えられるが、納本後直ちにデジタル化することが認められるか必ずしも明らかではない。
     この点、将来の国民の利用に供するために資料を保存するという、国会図書館の役割を考えれば、資料の傷みが激しくなる前に良好な状態でデジタル化され、保存されることが当然、期待される。今日においては、デジタル化することが、原資料自体を文化財として保存すること、また資料に掲載された情報を保存することのいずれの面から見ても有用であると考えられるのであり、著作権法上も国会図書館が、納本された資料について直ちにデジタル方式により複製できることを明確にすることが適当である(注5)。
  • (注3) 「国立国会図書館の役割について」(PDFファイル)(※国立国会図書館ホームページへリンク)平成18年2月10日記者発表資料
  • (注4) 昭和51年9月「著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書」第2章2
  • (注5) デジタル化の方式について、例えば、テキストの方式であれば、文献を本文中にある語句で検索することも可能になり、資料検索に有効ではないかとの意見がある一方、電子出版の元となるデータを作成することに相当することとなるため、権利者や民間の流通ビジネスへの影響があるのではないかとの指摘があった。そこで、まずは国会図書館において、既に著作権が消滅した資料を用いて、検索可能なデータベースを作成し、その効果や影響を検証しながら、関係者間で協議を進めることが適当である。

2 国会図書館でデジタル化された資料の利用について

  •  国会図書館でデジタル化された資料の利用については、書籍等の原資料であれば行うことができる利用については、デジタル化された資料についても同程度の利用が可能となるような制度が望ましい。ただし、デジタル技術の発達によって、あらゆる者が著作物等の複製や加工等を行うことが可能となっており、国会図書館でデジタル化された資料の利用の在り方次第では、著作権者等の利益が脅かされる可能性があることは否定できない(注6)。そこで、国会図書館でデジタル化された資料の利用については、著作権者等の利益が損なわれないようにする仕組みを様々な局面に応じて取り入れることが必要である。
     また、現状のコンテンツビジネス(例えば、書籍・雑誌媒体の出版や、ネットワークを利用した出版が特に関係が深い)を阻害することがないよう配慮が必要である。特に今後は、省資源の観点から印刷物に代わって電子媒体(パッケージ又はネットワーク配信)による出版が増加することも予想されるとの指摘(注7)や、ネットワークを通じたコンテンツの提供により在庫コストが軽減される結果、書籍の絶版という概念がなくなる可能性があるとの指摘もあるため、デジタル化された資料の利用については、十分な検討が必要である。
  • (注6) 他方、技術の発達は著作物等の利用方法をきめ細かくコントロールすることも可能ではあるともいえる(例えば技術的保護手段や、利用者・利用期間・利用方法等の限定等)。
  • (注7) 平成10年5月に総務省により公表された「情報通信による地球環境保全のための政策提言(答申)」によれば、CO2(二酸化炭素)排出削減効果を有する情報通信システムとして、電子出版や電子新聞が紙使用(製造・流通)の削減、紙廃棄物の削減の効果があるものとして例示されている(第3章 地球温暖化問題に対する情報通信の活用 2 情報通信システムのCO2(二酸化炭素)排出削減効果)。

a 国会図書館内の利用について

1)閲覧

 現行法では、図書館資料の原資料を閲覧させることについては、そもそも権利が及ばず、CDやDVDを館内視聴させることについては、非営利・無料の演奏、上映等として権利が制限されている(第38条第1項)。書籍等をデジタル化したものを端末機器の画面に映して閲覧させる場合も上映と同様に考えられ、権利者の許諾なく行うことができる。
 また、国会図書館の東京本館、関西館、国際子ども図書館の間でデータを送信し、受信館において来館者に端末機器で視聴させるとすれば、それは公衆に対して直接受信させることを目的としたものではないと考えられるため公衆送信には当らず、(その過程に複製が介在しない、いわゆるストリーミング形式のようなものであれば)上記の上映と同様である。
 なお、デジタル化された資料は、技術的には館内の複数の端末機器を用いて同時に複数の図書館利用者に対して閲覧させることもできる。そこで、デジタル化された資料は、原資料の代替物であると考えて、同時に同一のデジタル化された資料にアクセスができる人数は、国会図書館が所蔵する原資料の部数に限定する等の措置が考えられる。

2)コピーサービス

 現行法では、デジタル化された資料からのコピーサービスについても、原資料と同様に、図書館利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する場合には、権利者の許諾なく行うことができる。
 なお、複製の方式については、実務上、書籍等の場合、紙への印刷によっているが、この点について規定上何らの限定もしておらず(注8)、デジタル化された資料からデジタル方式で複製物を作成して提供することについては、たとえ一部分であっても多様な目的での利用も可能になるという懸念が著作権者や出版者から示されている。このことについては、当面、関係者により具体的な解決策を協議することが適当である。

  • (注8) 図書館資料として録音物が所蔵されている場合、著作物の一部分をテープに複製して提供することはあり得る。

b 国会図書館以外での利用について

1)他の図書館等において閲覧できるようにすること

 国会図書館以外の図書館等で、国会図書館においてデジタル化を行った資料を閲覧するためには、1DVD等にデータを入れ、郵送等で他の図書館に送る、2メール等を使ってデータを送信する、3インターネットを活用してアクセスに応じてデータを送信する、のいずれかによることが考えられる。これらについては、1の場合には複製権が、23の場合は複製権及び公衆送信権が働くこととなり、現行法上は、権利者の許諾なく行うことはできない。
 一方、図書館間では相互貸借(国立国会図書館法第21条、図書館法第3条第4号)により、ある図書館において所蔵していない資料については、国会図書館や近隣の図書館から一時的に借り受けて利用者の要望に応えている(注9)。国会図書館でデジタル化した資料については、他の図書館で利用できなくするとすれば、法令で努力義務が課されている相互貸借を行うことができなくなることになる。
 そもそも原資料が傷むことを防ぐためにデジタル化を行い、デジタル化された資料によって閲覧やコピーサービスを行うことを目的としているのであれば、他の図書館に貸し出す場合も、デジタル化された資料を利用することも考えられてよい。
 ただし、デジタル化された資料であるために、その利用方法が無限に広がる可能性があり、提供するためのシステムや借り入れる側の管理体制を整える必要がある(例えば、1の場合であればDVD等に技術的保護手段を講じることや、23の場合であれば閲覧させる端末機器に複製物が残らないようなシステムを整備すること等が考えられる)。また、権利制限の下で利用を図るのであれば、ベルヌ条約や著作権に関する世界知的所有権機関条約との関係から、通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合でなければならないので、市場に流通し、一般に入手可能なものを館外に提供したり提示したりすることはできないと考えるべきである。
 以上のような点を踏まえ、国会図書館でデジタル化された資料を他の図書館等で閲覧する具体的な方法について、引き続き関係者間で協議を行うこととする。

  • (注9) 国立国会図書館が貸し出した資料は借り受けた図書館の館内でしか閲覧できないこととされているが、いわゆる公共図書館間では、借り受けた資料を図書館利用者に貸し出すことも認めている。
2)他の図書館等の利用者に対するコピーサービス

 現行法では、図書館利用者に対するコピーサービスについては、当該図書館の図書館資料を用いて行うこととされているため、国会図書館から他の図書館等が借り受けた資料について図書館利用者がコピーサービスを希望する場合については、当該図書館利用者が国会図書館に別途申し込むこととなっている。
 今後、国会図書館でデジタル化された資料について、他の図書館等を通じてコピーサービスの希望がある場合、効果的な提供手段としてどのようなものが考えられるか、関係者間で協議を行うことが適当である。

3 国会図書館以外の図書館等での所蔵資料のデジタル化について

 国会図書館以外の図書館等であっても、現行法上認められている「保存のため必要な場合」(第31条第2号)に該当するのであれば、その所蔵する資料を複製することができる。例えば、損傷、紛失の防止等のためにマイクロ化をしたのであれば、同様の目的の範囲でそれをデジタル化することも不可能でないと考えられる。
 また、例えば、記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により、SPレコード、5インチフロッピーディスク、ベータビデオのように、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となり、事実上閲覧が不可能となってしまう事態が生じていることから、新しいメディアに媒体を移し替えて保存する必要があるが、そのためにデジタル化をすることについて、第31条第2号の規定の解釈として不可能ではないと考えられる(注10)。
 このように、国会図書館以外の図書館等においても、蔵書をデジタル化する場面は考えられるが、デジタル化された資料を館外に提供したり提示したりすることについては、国会図書館でデジタル化された資料と同様に、関係者間の協議によって議論を続けることが必要である。

  • (注10) その場合、「当該著作物について新形式の複製物が存在する場合は除くべきではないか」との指摘もあるが、1個の図書館資料から1個の複製物を作成する(利用可能なものをさらに増製しない)のであれば経済的な利益を害することにはならないと考えてよいと思われ、また、「入手の困難性に関して判断基準を明確にする必要があるのではないか」との指摘に対しては、再生機器等が完全になくならないまでも、今後の生産中止が決まっている等、将来において現在の再生手段が使えなくなることが客観的に分かればよいと考えてよいと思われる。また、その際、元の資料(原資料)については、破棄することが必要であるとする考え方もあるが、それは、痛んだ資料の保存のためという目的であれば複数の複製物を同時に利用者に提供することは想定されていないからということであって、元の資料と増製された資料が同様に図書館利用者の利用に供されることがないのであれば、破棄を必須とする必要はないと考えられる。

4 おわりに

 図書館等におけるアーカイブ事業の円滑化方策としては、ひとまず国会図書館において納本された後にデジタル化できるよう、法的な措置を講じることが必要である。
 一方、デジタル化された資料の利用方法や、国会図書館以外での図書館でのデジタル化については、デジタル技術は多様な可能性をもっている反面、著作権者の利益を損なうおそれがあるため、民間のコンテンツビジネスの展開にも留意するとともに今後の図書館の在り方も視野に入れながら、例えば技術的保護手段やDRMの活用、簡便な契約方式の開発、補償措置を考慮した権利制限の導入、出版ビジネスと競合しない仕組みを取り入れることにより、図書館資料が適切かつ円滑に利用できるよう、引き続き関係者の間で様々な方策を検討することが必要である。
 その際、図書館利用者へのサービスを現状より低下させないよう、図書館関係者が中心となって計画を立て、関係者間での協議を進めることが必要である。そして、関係者の間での検討の結果、法的な措置が必要であれば、可能な部分から立法等の措置を講じていくことが適当である。

【参考】諸外国の図書館に関する著作権法の規定例

1ドイツ(注11)

  • 第52b条 公共の図書館、博物館及び記録保存所の閲覧用電子端末における著作物の再生
     公表された著作物で、直接的であるか間接的であるかを問わず経済的又は営利の目的を追求せず公衆に利用可能な図書館、博物館又は記録保存所において所蔵されるものは、契約の定めに反しない限り、専ら各々の施設の構内において、調査及び私的研究を目的として独自に設置された閲覧用電子端末において、当該目的のために提供することが許される。一の著作物について、その設置された閲覧用電子端末で同時に提供される部数は、原則として、その施設における所蔵数を超えてはならない。その提供行為に対しては、相当なる報酬が支払われるものとする。この請求権は、集中管理団体によってのみ行使することができる。
  • 第53a条 注文に基づくコピー送付
    • (1) 郵便又はファックス送付の方法により、公共図書館が、新聞及び雑誌において発行されている編集構成物の少量並びに発行された著作物の小部分を、個別の注文に基づき複製しかつ送達することは、その注文者による使用が第53条に基づき許されるものと認められるときは、許される。その他の電子的形態による複製と送達は、それが非商業的な目的を追求することのために正当とされる限り、専ら文字記号のファイルとして、かつ、授業の解説のため又は学術的研究の目的のために、許される。その他の電子的形態による複製と送達は、更に、公衆の構成員が自らの選択に係る場所と時間において、その編集構成物又は著作物の小部分へアクセスすることが、契約の合意による相当な条件の下で可能でないことが自明な場合に限り、許される。
    • (2) この複製と送達に関しては、著作者に対して、相当なる補償金が支払われるものとする。この請求権は、集中管理団体によってのみ行使することができる。
  • (注11) 「情報社会における著作権の規整に関する第二の法律」(2007年10月31日)による改正後のドイツ著作権法(本山雅弘著「ドイツ著作権法改正(第二バスケット)〔前編〕〔後編〕」(2008年2月、4月、社団法人著作権情報センター コピライトno.562, 564)より)

2アメリカ(注12)

  • 第108条 排他的権利の制限:図書館および文書資料館による複製
    • (c) 本条に基づく複製権は、コピーまたはレコードが損傷を受け、変質し、紛失し、または盗難にあい、または現在著作物が収録されている形式が古くなり、かつ、以下の条件をみたす場合には、かかるコピーまたはレコードと交換することのみを目的として増製した発行著作物のコピーまたはレコード3部に適用される。
      • (1) 図書館または文書資料館が、相当な努力の後、公正な価格で未使用の代替物で入手できないと判断し、かつ、
      • (2) デジタル形式で複製されたコピーまたはレコードが、合法的にかかるコピーを占有する図書館または文書資料館の施設外で、デジタル形式にて公に利用可能になっていない場合。
        本節において、形式が古くなったときとは、当該形式で保存された著作物を覚知するに必要な機械または装置がもはや製造されずまたは商業的市場において合理的に入手可能でなくなった場合をいう。
  • (注12) 駒田泰士・本山雅弘共訳「外国著作権法令集(29)-アメリカ編-」(平成12年7月、社団法人著作権情報センター)

3カナダ(注13)

図書館、資料館及び博物館
所蔵物、資料館及び保全

  • 第30.1条 図書館、文書保管所、美術館
    • (1) 図書館、文書保管所、若しくは美術館、又は図書館、文書保管所、若しくは美術館の権限の下で行う者が、その永久収集物又は他の図書館、文書保管所若しくは美術館の永久収集物の維持又は管理のために、その永久収集物のうちの著作物又はその他の素材を、公表されているか否かに関わらず複製することは、以下の場合には著作権侵害にはならない。
      • (a) 原作品が稀少若しくは未発行であり、かつ、
        • 1)劣化、損傷、若しくは紛失し、又は
        • 2)劣化、損傷、若しくは紛失のおそれがある場合
      • (b) 原作品の状態若しくは原作品を維持するための大気条件のために、原作品を見たり、触れたり、聴いたりすることができない場合に、敷地内で利用する目的のとき
      • (c) 原作品が現在では時代遅れとなった方式であり、又は原作品を利用するのに必要な技術が利用できない場合、代替的な方式によるとき
      • (d) 内部で記録維持及び目録を作成する目的のとき
      • (e) 保険の目的又は警察の捜査の場合、又は
      • (f) 修復のために必要な場合
    • (3) 第1項に基づき複製物を作成するために中間複製物を作成しなければならない場合、その複製物を作成した者は、必要がなくなり次第、中間複製物を破棄しなければならない。

4韓国(注14)

  • 第28条 図書館等における複製等
    • (1) 図書館及び読書振興法による図書館及び図書、文書、記録その他の資料(以下「図書等」という。)を公衆の利用に供する施設のうち、大統領令の定める施設(当該施設の長を含み、以下「図書館等」とする。)は、次の各号のいずれかに該当する場合は、その図書館等に保管された図書等(第1号の場合は、第3項の規定により当該図書館等が複製し、又は伝送を受けた図書等を含む。)を使用して著作物を複製することができる。但し、第1号及び第3号の場合には、デジタル形態で複製することができない。
      1. 調査、研究を目的とする利用者の要求に応じて公表された図書等の一部の複製物を1人1部に限り提供する場合
      2. 図書等のそれ自体の保存のために必要な場合
      3. 他の図書館等の要求に応じて絶版その他これに準ずる事由により入手が困難な図書等の複製物を保存用として提供する場合
    • (2) 図書館等は、コンピュータ等情報処理能力を備えた装置(以下「コンピュータ等」という。)を利用して、利用者がその図書館等のなかで閲覧することができるように保管された図書等を複製し、又は伝送することができる。この場合において、同時に閲覧することのできる利用者の数は、その図書館等が保管する図書等の部数又は著作権その他この法律により保護される権利を有する者から利用許諾を受けた図書等の部数を超えることができない。
    • (3) 図書館等は、コンピュータ等を利用して、利用者が他の図書館等のなかで閲覧することができるように保管されている図書等を複製し、又は伝送することができる。但し、その全部又は一部が販売用として発行された図書等は、その発行日から5年を経過していない場合は、この限りでない。
    • (4) 図書館等は、第1項第2号の規定による図書等の複製及び第2項及び第3項の規定による図書等の複製をするに際し、その図書等がデジタル形態で販売されている場合には、その図書等をデジタル形態で複製することができない。
    • (5) 図書館等は、第1項第1号の規定によりデジタル形態の図書等を複製する場合、及び第3項の規定により図書等を他の図書館等のなかで閲覧することができるように複製し、若しくは伝送する場合は、文化観光部長官が定めて告示した基準による補償金を著作財産権者に支給し、又は供託しなければならない。但し、国、地方自治団体又は高等教育法第2条の規定による学校を著作財産権者とする図書等(その全部又は一部が販売用として発行された図書等を除く。)の場合は、この限りでない。補償金の支給の方法、手続等に関して必要な事項については、大統領令で定める。
    • (6) 第1項ないし第3項の規定により図書等をデジタル形態で複製し、又は伝送する場合において、図書館等は、著作権その他この法律により保護される権利の侵害を防止するために複製防止装置等大統領令の定める必要な措置を講じなければならない。
  • (注14) 金亮完訳「外国著作権法令集(35)-韓国編-」(平成18年4月、社団法人著作権情報センター)

5中国(注15)

  • 第7条 図書館、文書館、記念館、博物館、美術館等は、著作権者の許可なく、デジタルサービスを通じて館内利用者に、館内で保持する合法に出版されデジタル化された作品や陳列・保存が必要でデジタル化された作品を提供できる。但し、デジタル化に報酬を伴わず、利用者から直接的にも間接的にも金銭を受け取らない場合かつ当事者間で別の約定がない場合でなければならない。
     前段で規定された陳列・保存のためにデジタル化することができる作品とは、破損もしくは破損寸前のもの、入手できないもしくは入手することが困難なもの又は(プレミアがついて)市場においては購入することができないものもしくは高価すぎて購入することが困難なものとする。