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2.罰則の強化について

個人/団体 意見
個人 知的財産立国を標榜する以上、知的財産権の侵害行為については厳罰をもって臨む必要がある。
大阪弁護士会 産業財産権等に関しては、知的財産の保護の実効性を確保するという見地から、既に、罰則の引き上げがなされているところである。その趣旨は、著作権法にも当てはまるものであり、基本的には首肯しうるものである。ただし、著作権侵害等は営利的な利欲犯として犯されることが多いことから、基本的には罰金刑等の財産刑の強化によるべきであり、自由刑の引き上げについては、できる限り慎重な対応をすべきである。
日本弁護士連合会 当連合会は、平成18年6月7日付け「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(IPマルチキャスト放送及び罰則・取締り関係)報告書(案)」のうち下記部分について、以下のとおり意見を述べる。

第1.意見を具申する部分
同意見書の「3.罰則の強化について」(31頁乃至45頁)において、著作権侵害罪等の罰金の引上げについて、大要以下のような提言を行っている。
(1)著作権侵害罪の罰則引上げについて
1著作権侵害罪の個人罰則の引上げ
同16年1月の文化審議会著作権分科会報告書において、他の知的財産法における刑罰とのバランスを踏まえた罰則の引上げが指摘されているところ、平成18年通常国会において特許権をはじめとする産業財産権について、罰則を強化する法改正が行われたことから、著作権法においても特許法における刑罰とのバランスを踏まえ、懲役刑及び罰金刑の引上げを行うことが適当である。
2著作権侵害罪の法人罰則の引上げについて
著作権侵害罪の法人罰則等とのバランスを踏まえ、罰金の引上げを行うことが適当である。

(2)秘密保持命令違反罪の法人罰則の引上げについて
産業財産権法における秘密保持命令違反罪の法人罰則が3億円以下の罰金へと引上げられたことから、著作権法の秘密保持命令違反罪についても、法人罰則を引上げることが適当である。

(3)その他の著作権法違反の罰則について
著作権侵害罪及び秘密保持命令違反罪の罰則を引上げることにともない、その他の著作権法違反の罰則(著作権法第119条第1号・第2号、同第120条、同第120条の2第1号乃至第4号、同第122条等)についても、著作権侵害罪とのバランスと各規定の趣旨に照らし合わせるから罰則の引上げの必要性について判断することが適当である。

(4)法人罰則に係る公訴時効期間の延長について
法人等による侵害行為の悪質性、組織性に鑑み、法人罰則にかかる公訴時効期間の延長を行うことが適当である。

第2.意見の趣旨
当連合会は、上記提言のうち、(1)1及び(3)の懲役刑の上限引上げに関する部分に反対する。

第3.意見の理由
1.罰則上限引上げの必要性が存在しない。
報告書は、上記罰則上限引上げの理由として、近年における知的財産侵害における被害の増加と被害額の高額化をあげている(同報告書33頁)。
しかし、この理由については、以下のような問題点を指摘することができる。
第1に、同報告書に記載されている「著作権における損害賠償額について」と題する一覧表及び「知的財産権侵害事犯の検挙状況(平成12年〜16年)」と題する一覧表をみても、他の知的財産侵害事犯に比べて著作権侵害事犯の検挙数が格別多いわけでもなく(平成16年の著作権侵害事犯の検挙数は、商標法違反が件数において910件、人員で479人であるのに対して、著作権法違反は、件数において315件、人員において159人にすぎない)、被害金額(損害額)も他の知的財産権の侵害に比べて比較的低額にとどまっている(著作権侵害事件は、損害賠償の絶対額において、特許権侵害、意匠権侵害、商標権侵害に次いで4番目であり、一件あたりの平均額においても、特許権侵害、意匠権侵害に次いで3番目である。)。
しかも、著作権侵害事犯の検挙数は、レコード、CD等の海賊版の輸入、譲渡、頒布目的の所持やコンピュータソフトウェアの違法複製、譲渡等のいわゆるデッドコピー事案が大部分を占めており、それ以外の事案で著作権侵害罪が適用され検挙された事案はきわめて少数の事例にとどまると推測される。
第2に、他の統計資料によれば、他刑との併合罪を除けば、著作権侵害行為を含む知的財産侵害行為に対して、実刑判決が下された事案はきわめて少なく、現行法が定める懲役刑の上限ないしそれに近い刑が適用された事例には接したことがない。
第3に、著作権侵害罪の他、著作権法違反行為等の罰則については平成16年の著作権法改正(平成17年1月1日施行)により、懲役刑の上限が3年から5年に引上げられたばかりであり、その効果や弊害が十分に検証されていない段階で、さらなる重罰化を行う理由は存在しない。
また、秘密保持命令違反に関しては、平成16年の著作権法改正で同制度が導入されたばかりであり、現在まで秘密保持命令自体が発せられた例もほとんど存在せず、まして同命令に違反し刑事処罰をされた事例は皆無である。しかるに、同制度の導入にあたって定められた法定刑の上限をさらに引上げる積極的理由は見出し難い。
以上のような状況に鑑みるならば、知的財産権侵害罪の懲役刑の上限を引上げることの必要性はきわめて乏しい。
日本弁護士連合会 2.刑事罰強化の弊害について
(1)著作権侵害の特殊性
我国の著作権法は、無方式主義を採用し、著作物の創作によって著作権が成立するものとしている(著作権法第51条)。
ところが、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法第2条1項1号)と定義されているが、著作物には多様な表現形式が存在し、その創作性についても、各々の著作物の性質や内容に応じて必ずしも一様ではない。
このことは、著作権侵害をめぐる民事訴訟でも、しばしば対象の著作物性が争いとなり、かつこの点に関し裁判所の判断が分かれる事案が多いことからも明らかである。
かような事例は、著作権侵害にかかる民事訴訟や刑事訴訟でも常々見受けられるところであるが、その典型的な事例のひとつとして、しばしば問題となる応用美術の著作物性に関する係争に見ることができる(山形地判平成13年9月26日判時1763号212頁、仙台高判平成14年7月9日判時1813号150頁「ファービー人形事件」等)。
さらに、著作権法を構成する個々の支分権(著作権法第21条乃至第28条)及び著作者人格権(同第18条乃至第20条)の権利範囲及びこれに対する例外規定や著作権の制限(同第30条乃至第50条)の規定が各々妥当する範囲についても、解釈上多岐にわたる争点があり、判例等によって解釈が確定していない論点も数多く存在する。
また、著作権・著作者人格権の帰属主体である著作者概念も相対的であり(著作権法第2条1項2号、同第15条、同第16条等)、さらに著作権の全部又は一部の譲渡等による移転についても、登録が対抗要件とされているにすぎないため(同第77条第1項第1号)、特許権等に比べて権利の帰属に関する公示も不十分である。
このように、一般通常人の知見において、対象が著作権法で保護される著作物であり、自己の行為が著作権法に違反するか否かを判別することが困難な事案が数多く存在するにもかかわらず、かような事案について刑事処罰を行うことそのものが、法的安定性を害する結果となるばかりか、罪刑法定主義の見地からも望ましいことではない。
まして、刑事処罰の上限を特許法等と同様に10年以下の懲役に引上げるとすれば、上限に近い量刑が相当とされる事案においては法定もしくは酌量の減刑を行っても、なお、執行猶予の要件を満たすことは困難である。そこで、保護の外延があいまいな著作権の侵害に対して、かような重い法定刑が科されるおそれがあるとすれば、後発創作行為者に対して心理的な萎縮効果を及ぼし、かえって自由な創作活動を阻害することにもなりかねない。

(2)著作権侵害行為の防止における刑事処罰の謙抑性
そもそも、知的財産権侵害に対しては、その侵害者に対し差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求等の民事上の請求権を行使することによって、その侵害行為の停止、予防とこれによって生じた被害の回復をはかることができる性質のものである。
特に、近時、知的財産権に対する保護強化の要請を受け、知的財産権各法の度重なる改正により、侵害立証や損害額の算定及び立証に関する規定の強化・拡充が行われ、上記のような民事的救済手段による知的財産権侵害の防止がはかられることが容易になりつつある。
また、従前より、知的財産法の分野での規定の趣旨が不明確であるため、確立された解釈が存在しない論点について、侵害訴訟において判例が示した解釈にもとづき、当事者間のルールが確立され、これにもとづいて知的財産権の保護と適正な利用の調整が行われてきたのである。
これに対して、知的財産権侵害に対する刑事処罰規定を必要以上に強化することは、権利者の自助努力による紛争の解決よりも国家による刑罰権の行使を優先する傾向を助長し、かえって規制緩和と個人の創意工夫を基調とする経済の活性化を阻害するおそれがある。
知的財産権の保護とともに、その適正な活用を促進し「世界最先端の知財立国」(知的財産推進計画2006)のために、今なすべきことは、安易な刑事処罰の強化による国家主導のルール作りではなく、当事者主義の原理にもとづき、民事訴訟を活性化し、そこで示された裁判所の判断にもとづく権利者と利用者との間の自主的なルール形成を促進することである。

3.他の知的財産権侵害行為に対する刑事処罰規定との均衡論について報告書は、前記のような刑罰強化の必要性とともに、他の知的財産権侵害等に関する刑事処罰の上限規定が平成18年の改正によって引上げられたこととの均衡をはかるうえからも、著作権侵害に関する罰則規定の上限引上げの必要があると報告している。
しかし、そもそも平成18年の意匠法等の一部を改正する法律案にもとづき、特許法、実用新案法、意匠法、商標法等における個人侵害行為にかかる懲役刑の上限の引上げ自体が、かような刑事罰強化の必要性もなく、かつその弊害が大きいにもかかわらず、立法過程で十分に検討されることなく行われたものであって、かような改正自体が相当であるとはいえない(この点については、当連合会の2006年3月16日付「知的財産権侵害に関する懲役刑の上限引上げに対する意見書」において指摘したところである。)。
よって、著作権法において、他の知的財産権法における刑事罰規定の上限の引上げとの均衡をはかるために同様の改正を行うことは、何ら必要性がないだけではなく、かえって過誤の上に過誤を重ねる結果となる。
よって、他の知的財産権侵害に対する刑罰規定との不均衡は、著作権法における著作権等個人侵害行為の懲役刑の上限を引上げることについての理由にはならない。

4.まとめ
以上のように、著作権等の侵害行為に対する刑事処罰規定の強化とりわけ個人処罰規定の懲役刑の上限を引上げることは、その必要性が認められないだけでなく、上記のように種々の弊害を生ずるおそれがある。
よって、当連合会は、意見の趣旨記載のように、本意見書の提言に反対するものである。
個人 報告書案44P〜45P

罰則の強化に賛成です。デジタルネットワークの発達により著作権が容易に侵害されてしまうのが現状です。
知的財産権の侵害には厳罰をもって臨むべきです。
それ以外、防止する手だては無いと考えます。
個人 報告書(案)3.1(1)○1(ア)(1)には、

近年、パソコンやインターネットの普及など、情報化の急速な進展により、誰もが簡単に著作物を無断利用できる状況になっており、著作権侵害の可能性が格段に増加してきていることから、自然人への懲役刑及び罰金刑並びに法人への罰金刑を引き上げる等の改正を行うとともに、懲役刑及び罰金刑を併科できることとした。

とあるが、過去の罰則強化に効果はあったのか?無意味な罰則強化とならないよう、その効果を根拠となる資料とともに示してほしい。

また、国会ではその審議をインターネット中継し後日VoD配信しているが、著作権課の見解では、これは一般に著作権法40条2項の適用対象ではなく、発言者の許諾が必要である。国会に不本意に証人喚問されたものなどが国会を告訴した場合、国会も権利侵害者として刑事罰を受けることになるのか?そういう利用も、将来は厳罰化の対象なのか?

さらに、サーチエンジンのキャッシュ等については、

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会審議の経過3.デジタル対応について「デジタル対応ワーキングチーム検討報告の概要(※文化審議会 諮問・答申へリンク)にも、

(1)機器利用時・通信過程における一時的固定について
複製権を及ぼすべきではない範囲について,(a)著作権法上の「複製」の定義から除外する,(b)著作権法上の「複製」であるとした上で権利制限規定を設ける,(c)「黙示の許諾」,「権利の濫用」等の解釈による司法判断に委ねる,という3つの方向性が考えられる。

とあるとおりで、(a)(b)の方向をとれば現在は「違法」であり、また(c)の方向をとった場合の司法判断の結果によっても、刑事罰の対象となる可能性があると思われるが、そういう認識でいいのか?そういう利用も、将来の厳罰化の対象なのか?

また、同概要には

しかし,これら〜の要件から外れる一時的固定(複製)であっても,権利を及ぼすべきではないケースもあると考えられることなどから,今後の技術動向を見極める必要があるため,現時点では緊急に立法的措置を行うべきとの結論には至らなかった。今後も慎重に検討を行い,平成19(2007)年を目途に結論を得るべきものとした。

とあるが、今後の技術動向でまたあらたな利用形態がでてきたとき、それが罰則の対象となるかどうかさらにまた何年もかけて文化審議会で議論して合法もしくは合法化すべきとの結論がでるまで、日本ではその技術に関する研究開発が事実上不可能となり、厳罰化によりそれが一層加速するように思われるが、そういう認識でいいのか?

以上のような例を考えるに、権利侵害に対する刑事罰は、その適用基準が曖昧にすぎると思われる。

いっそ、米国著作権法のようにフェアユース条項を導入し、非営利や研究開発等には著作権は緩くし、権利侵害は民事に任せてしまったほうが、よくはないのか?
社団法人日本レコード協会 著作権侵害罪に係る罰則強化等に賛成する。デジタル化・ネットワーク化の進展により、著作権侵害による権利者の被害が瞬時に、かつ広範囲に及ぶこととなったにもかかわらず、権利者の救済は依然として不十分と言わざるを得ない状況にある。知的財産権の保護強化がわが国の重要政策となっている中、著作権者等の権利を守るとともに、著作権侵害行為の抑止力を高めるには、特許法等における刑罰とのバランスなどを踏まえ、著作権侵害罪に係る罰則強化等を図ることが必要である。
日本知的財産協会デジタルコンテンツ委員会 著作権侵害の抑止的効果の向上、他の知的財産法とのバランスの観点から、著作権法における罰則を特許法、商標法と同程度に引き上げることに異論ありません。
個人 (報告書案44〜45ページ)

インターネットの普及により、エンタテインメント・コンテンツを始めとする知的財産権を利用したビジネスが活発化する一方、権利侵害行為も横行している。わが国が知的財産立国を標榜する以上、権利害行為については、よりいっそうの厳罰化を検討すべきである。

特に著作権侵害については、米国で実施されている法定損害(statutorydamage)の導入なども検討の余地があると考える。
日本商品化権協会 他の産業財産権とのバランスから罰則の強化について賛成。同時に著作権に関する広報と罰則強化の周知を徹底願いたい。又、強化された罰則が司法の場で厳しく適用されるよう望む。
個人 1.問題の所在
(1)現状について
(33ページ)

平成16年に著作権法が改定されており(施行は平成17年)、重罰化が為されたばかりである。この改定の結果、著作権侵害がどう抑止されたのか(侵害事件が減少したのか否か)を調べようにも、まだ期間がさほど経っていない状況である。現に報告書(案)に掲載された「知的財産権侵害事犯の検挙状況」(33ページ)ですら平成17年のデータを含んでいない。
特に平成16年改定では自由刑・罰金刑の併科が可能となったところであり、これの効果を見るには当面の実態調査が必要となろう。

充分な実態調査が行なわれていない現状においては、重罰化によってどの程度効果が期待できるのか全く判断できない。そもそも重罰化で著作権侵害が抑止できるのかすら疑わしいところ、その効果を全く見ようとしないのでは重罰化の正当性も疑わしくなる。
38ページの「罰則の引き上げの変遷について」を見ても判るとおり、罰則引き上げは数年ずつ置いて実施されている。

ただ刑罰を重くするだけが能ではない。今回は時期尚早であるから重罰化を見送るべきである。
個人 1.問題の所在
(3)諸外国の情勢について
(43ページ)

仮に他の知的財産権法に合わせて著作権法でも重罰化を行なった場合、諸外国と比べて日本の刑罰が突出して重くなることになる。
現時点での比較では、自由刑についてはイギリスが突出しているものの、それ以外の国の中では日本は重い部類に入る。
また、罰金についてはアメリカ・フランスが突出しているものの、他の国と比べて日本は決して軽くはない(上下限の規定のない国が多いため単純比較はできないが)。
現状から更に刑罰を重くする必要があるのか。私は無いと思う。

平成16年改定で重罰化がなされたばかりでもある。
これの効果を判断できる時期にはない。最低でも3年ほどの期間を置き、先般の重罰化の効果をきちんと評価してから次を考えるべきではないか。すなわち今の時期に再度重罰化を行なうのは時期尚早と考える。
報告書(案)を見る限り、刑罰による侵害抑止効果を示すデータは全く示されていない。まずはより詳細な実態調査を行なうべきであり(件数を調べるだけでは不足だ)、重罰化の効果に確信が持てるようになってから議論に入るべきである。

ただ刑罰を重くすれば侵害が減るというほど世の中は単純ではないのだ。
著作権侵害事例の中には、正規流通が阻害されていることが原因で起こっているものもあることを知るべきである。権利者による集中管理の不備など、先に手をつけるべきことは多い。

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