.司法救済ワーキングチーム4 特許法からのアプローチ(1)特許法101条の趣旨・概要 特許法におけるいわゆる直接侵害とは、特許権者に無断で特許発明を業として実施することをいう(68条・2条3項各号)。一方、特許法におけるいわゆる間接侵害とは、直接侵害の予備的・幇助的行為のうち、直接侵害を誘発する蓋然性の高い行為として101条に規定されたものをいう。具体的には、特許発明の実施にのみ用いられる物の生産・譲渡等する行為(1号・3号)及び、発明の実施に用いられる物でその発明の課題の解決に不可欠なものを情を知りつつ生産・譲渡等する行為(2号・4号)が間接侵害として規制されている。特許法が間接侵害を規制している趣旨は、直接侵害に該当しない行為であっても、例えば専用部品の提供行為のように、直接侵害を惹起する危険性の高い行為を規制することで直接侵害が生じることを事前に防止し、特許権の実効性を高めるという点にある。間接侵害が成立すれば、差止め・損害賠償等の民事上の救済の他、刑事罰の適用も受けることになる(196条)。
特許法に間接侵害規定が導入されたのは昭和34年法による。昭和34年法では、発明の実施にのみ用いる物(=専用品)の提供行為が専ら規制の対象となっていた(旧特許法101条1号・2号)。立法検討過程では、アメリカの寄与侵害のように、規制対象を専用品に限定することなく侵害に不可欠な物品まで広げる代わりに、行為者の侵害発生への認識を要求するという案も検討されていたが(121)、行為者の主観的認識を立証することに困難があることから、主観的認識を要件としない代わりに規制対象品を専用品に限定するということで解決をみた。 (121)特許庁編『工業所有権制度改正審議会答申説明書』 108頁(発明協会・1957年)。立法検討過程では主にアメリカ法が参考にされ、アメリカ法における積極的誘引行為(active inducement of infringement)や寄与侵害(contributory infringement)の規制の導入が検討されていた。 (122)なお、裁判例では、 101条における「発明の実施にのみ使用する物」の解釈について、対象物品が単に特許発明の本来の用途以外の用途に使用される抽象的ないし試験的な可能性があるというだけでは足りず、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的であると認められる用途がある場合に特許発明の実施「にのみ」用いられる物品とはいえず、間接侵害が否定されるとしている(東京地判昭和56年2月25日無体集13巻1号139頁〈一眼レフカメラ事件〉、大阪地判平成12年10月24日判タ1081号241頁〈製パン器事件〉)。 (123)特許庁総務部総務課制度改正審議室編『平成 14年・産業財産権法の解説』(発明協会・2002年)。 (124)アメリカ特許法( 1952年法)は、271条(c)において、「何人も、特許された機械、製造物、組み合わせ、もしくは混合物の構成部分、または特許された方法を実施するために使用する物質もしくは装置であって当該発明の不可欠な部分を構成するものを、それが当該特許を侵害して使用するための特別に製造されたものであること、又は、特別に変形されたものであって実質的な非侵害の用途に適した汎用品または流通商品でないことを知りながら、合衆国内で販売の申込みをし、もしくは販売し、又は合衆国内にこれらを輸入する者は、寄与侵害者としての責任を負う」と規定する。 ドイツ特許法( 1981年法)10条は、第1項において、「特許権は、全ての第三者が、特許権者の許諾を得ずして、本法施行の地域内において、特許発明を実施する権限を有しない者に対して、特許発明の本質的要素に関する手段を、特許発明の実施のために用いられることを知っているか、もしくは特許発明の実施に適しており、かつ実施のために用いられることを予定していることが明らかな状況の下において、供給し、又は供給することを申し出ることを禁止する効力を有する」とし、間接侵害の一般的成立要件を規定する。続いて、第2項において、「1項の規定は、その手段が取引される必需品である場合においては適用されない。ただし、提供者が提供を受ける者に対して第9条第2文によって禁止された行為(特許権の直接侵害のこと)を行わしめた場合はこの限りでない」とする。 (125)「発明による課題の解決に不可欠な物品」とは、請求項に記載された発明の構成要素の他、発明の実施に使用される道具、原料なども含まれる(前掲『平成 14年・産業財産権法の解説』27頁)。 (126)「知りながら」とは、実際に知っていることであり、過失により知らなかった場合は対象外である。自ら供給する部品等が複数の用途を有する場合に、それらが供給先においてどのように使われるかについてまで注意義務を負わせることは、部品等の供給者に酷であり、取引の安全を著しく阻害するおそれがあるというのがその理由である (前掲『平成 14年・産業財産権法の解説』31頁)。 (3)特許法101条と著作権法112条の解釈
特許法は、100条において、「特許権者が自己の特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求できる」と規定し、101条において、侵害の予備的・幇助的行為のうち特に重要なものを「侵害とみなす」と規定する。このことから、特許法は、侵害の教唆者・幇助者は原則として「特許権を侵害する者」に当たらないという理解を前提としつつ、他方で専用品の提供など、侵害を惹起する蓋然性の極めて高い特定の行為に差止めを認めるべく、これらの行為を行った者を特に100条の「特許権を侵害する者」として取り扱うこととされている。したがって、逆に言えば、特許権侵害の教唆者・幇助者であっても、特許法101条で捕捉できない場合には、特許法上、差止めによる救済を認めることは困難であり、不法行為法によって対処するしかないことになる(民法719条2項)。
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