.司法救済ワーキングチーム3 外国法からのアプローチ(1)ドイツ法
ドイツ著作権法には、同法97条に差止め及び不作為請求権並びに損害賠償請求権に関する規定が定められている。
フランス知的財産法典には、我が国著作権法112条のような差止請求権を定めた明文の規定は見られない。そのため、いわゆる「間接侵害」に関しても民事救済の一般原則が参照されることになる。
アメリカ著作権法は、著作権法106条から121条に規定する排他的権利を侵害した者を著作権の侵害者と規定する(501条(a))。一方、著作権法には、特許法における積極的誘引行為や寄与侵害行為を規制する条文は直接には存在しない(113)。しかし判例法上、一定の要件の下で、直接の侵害者以外の者に対する侵害責任が肯定されている。すなわち、「代位責任(vicarious liability)」と「寄与侵害(contributory infringement)」の法理である。 (113)アメリカ特許法(1952年法)は、271条(b)において、「何人も、積極的に特許侵害を誘引した者は侵害者としての責を負う」と規定する。また、271条(c)において、「何人も、特許された機械、製造物、組み合わせ、もしくは混合物の構成部分、または特許された方法を実施するために使用する物質もしくは装置であって当該発明の不可欠な部分を構成するものを、それが当該特許を侵害して使用するための特別に製造されたものであること、又は、特別に変形されたものであって実質的な非侵害の用途に適した汎用品または流通商品でないことを知りながら、合衆国内で販売の申込みをし、もしくは販売し、又は合衆国内にこれらを輸入する者は、寄与侵害者としての責任を負う」と規定する。 (114)Shapiro , Bernstein & Co., v. H.L.Green Cp., 316 F.2d 304 ( 2d Cir.1963)では、被告から営業のライセンスを得てレコード店を経営していた者が海賊版レコードを販売していたという事案で、被告がレコード店の総売上高の10%ないし12%をライセンス料として徴収しており、ライセンスの合意に基づきレコード店を指揮監督し得る立場にあったことを理由として、代位責任を肯定した。 (115)> 著作権法上の「寄与侵害」には、特許法における侵害の積極的誘引(271条(b))と侵害に不可欠な物品の提供(271条(c))の双方が含まれている。寄与侵害に該当する「重要な関与」とは、典型的には、直接侵害のための敷地や設備を提供することである。例えば、Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259(9th Cir. 1966))は、フリーマーケットの店舗で海賊版が販売されていたという事案で、ブースの場所、施設、駐車場、広告を提供している者は重要な寄与があるとし、侵害品の販売につき警察から警告を受けていることから侵害の認識もあったとして、寄与侵害の成立が肯定されている。 (116)Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417 (1984)では、Sonyの家庭用ビデオテープレコーダー(VTR)が、一般消費者の違法な録画行為を誘発しているとして、差止め・損害賠償が請求されたが、VTRが実質的に非侵害用途に利用し得ることを理由として、寄与侵害が否定された。 (4)イギリス法
イギリス1988年著作権法(CDPA1988)は、著作権者の排他的権利を規定し(16条1項(a)〜(f))、これら権利の対象となる行為を著作権者に無断で行うこと、ないし他人がそれを行うことに許諾を与えること(119)(a person who, without the licence of the copyright owner,does, or authorizes another to do, any of the acts restricted by the copyright)を「一次侵害(primary infringement)」としている(16条2項)。一次侵害は著作権者の排他権の内容となる行為を著作権者の許諾を得ずに行うものであるため、行為者の侵害の認識の有無に関わらず、差止めによる救済が可能である。 (117)A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004(9th Cir.2001)では、中央管理型P2Pファイル交換ソフトの提供業者の行為が寄与侵害になるかどうかが争われた。被告は、Sony判決を援用し、ユーザー間で違法なファイル交換がなされるかもしれないという程度の認識では寄与責任を問うのに不十分だと争ったが、裁判所は、具体的な侵害物がシステム上で利用可能となっているのを知りつつ、これを除去し得るのに放置していた場合には寄与侵害が成立し得るとした(代位責任も肯定されている)。一方、非中央管理型P2Pファイル交換ソフトの提供業者の寄与侵害が問題となった事案で、下級審(MGM Studios, Inc. v. Grokster Ltd., 380 F.3d 1154 (9th Cir. 2004)は侵害を否定したが、ごく最近出された最高裁判決(2005 U.S. LEXIS 5212(U.S. June 27, 2005))は、「著作権侵害のために機器を使用することを促す目的を持って機器を頒布する者は、第三者による侵害行為の結果に対して責任を負う」と結論した上で、控訴審判決を取り消し、事件を差し戻した。 (118)A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004, at 1027 (9th Cir.2001). (119) 「他人に著作権侵害の許諾を与える行為」とは、「直接の侵害者の行為を制御するための一定の権限を有する者(a grantor who has some degree of actual or apparent right to control the relevant actions of the grantee)の行為」をいう。 (120)対象となる物品は、打ち抜き型や鋳型など、特定の著作物の複製に用いられるものに限定される。複写機やテープレコーダーなどの汎用品は含まない。
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