第1節 「確かな学力」と「豊かな心」を育成し,「生きる力」をはぐくむ学校教育を目指して

2.教育課程の基準の改善に向けて

(1)学習指導要領の見直し

 文部科学省ではこれまで約10年に1度,学習指導要領の改訂を行ってきましたが,教育課程の実施状況を実証的なデータに基づいて継続的に評価・検証するため,平成13年1月から中央教育審議会に教育課程部会を常設し,不断の見直しを進めてきました(図表2-2-2)。
 平成16年12月に公表された国際的な学力調査に見られた我が国の児童生徒の学習状況の課題や,変化する社会の中で子どもたちを取り巻く環境が大きく変化してきている状況を踏まえ,17年2月に文部科学大臣から中央教育審議会に対して,学習指導要領全体の見直しについて審議要請を行いました。
 これを受けて,中央教育審議会教育課程部会では,平成17年4月から学習指導要領の見直しについて検討が行われ,18年2月にはそれまでの検討状況を整理した「審議経過報告」が取りまとめられ,教育内容の改善の基本的方向性が示されました(参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/06021401.htm(※中央教育審議会 諮問・答申・報告等へリンク))。
 「審議経過報告」では,教育課程をめぐる課題について,基礎的・基本的な知識・技能を徹底して身に付けさせ,自ら学び自ら考える力を育成するという現行学習指導要領のねらいは今後も重要であり,その実現のための具体的な手立てを講じることが必要であるとされています。また,子どもの学習や生活については,読解力の低下,学習習慣や学習・職業への意欲の不十分さ,規範意識の低下,体力の低下などの課題があることが指摘されています。
 こうした課題を踏まえ,学習指導要領の見直しに当たっては,子どもの学習や生活の基盤づくりを重視し,その際,「言葉」を重視すること,「体験」を充実することが重要であるとしています。「言葉」の重視については,読み書きだけでなく,読解力やコミュニケーション能力の育成を含めて,国語力をすべての教育活動を通じて育成すること,「体験」の充実については,学校で教えられることを実生活とのかかわりの中で実感を持って身に付けるようにする観点から,自然体験,社会体験,職場体験,文化体験などの機会を充実することが重要であるとしています。
 また,基礎的・基本的な知識・技能の育成(習得型の教育)と自ら学び自ら考える力の育成(探究型の教育)について,両者を対立的にとらえるのではなく,習得と探究の間に知識・技能を活用するという過程を位置付け,重視することによって,基礎的・基本的な知識・技能と自ら学び自ら考える力を総合的に育成することが必要であるとしています。教育内容の改善の方向については,国語力の育成(音読,暗記暗唱,古典に親しむ,読書活動の充実,読解力や論述力の育成など),理数教育の改善(計算力の育成,課題探究・論理的表現力の確立など),小学校段階の英語教育をはじめとした外国語教育の改善などが指摘されています。
 また,子どもの社会的自立の基礎を培うため,「早寝早起き朝ごはん」といった基本的生活習慣,規範意識の確立,芸術やスポーツに親しむ態度の育成が重視されるとともに,適切な性教育,食育の推進が求められています。
 総合的な学習の時間については,課題発見能力や課題解決能力などをはぐくむためにも重要であるとする一方で,「総合的な学習の時間」のねらいの明確化や学習活動などの示し方について検討する必要があると指摘し,学習が効果的に行われるよう,優れた先進事例の情報提供などの支援が必要であるとしています。
 授業時数については,国語力や理数教育について充実が必要であり,全体の見直しの中で,授業時数の在り方についても具体的に検討する必要があるとしています。また,小学校低学年については,幼児教育における保育などの実態を考慮して,在校時間や授業時数の在り方を検討する必要があると指摘しています。
 学校週5日制については,国の仕組みとしてこれを維持すべきという意見が多く示され,学校週5日制の下での土曜日や長期休業日の有効な活用方策について,家庭や地域社会との連携を促進する方向で更に検討する必要があるとしています。
 こうした方向性を踏まえ,平成18年4月からは,学習指導要領の具体的改訂事項に関する審議を進め,19年1月には「第3期教育課程部会の審議の状況について」が取りまとめられ,今後さらに検討が必要な事項が整理されました。今後,教育基本法改正や国会審議などを踏まえた検討を行い,学習指導要領の改訂を行う予定です。
 また,平成18年10月には,学習指導要領に定められている高等学校の必履修科目の未履修の実態が判明しました。これは,高等学校が大学入試に必要な科目に偏った教育課程を編成したことが原因であると考えられます。今後,このような事態が二度と起こらないよう,高等学校の必履修科目の在り方や大学入試の改善等を検討していきます(参照:本章章末)。

図表●2-2-2 教育課程部会の審議状況と今後の課題について

(2)教育課程の実施状況を把握するための取組

 学習指導要領に基づく教育課程の状況を不断に評価・検証し,教育課程の基準の改善等に反映させる観点から,国立教育政策研究所教育課程研究センターなどにおいて,以下のとおり,子どもたちの学力の状況を総合的に把握する取組を行っています(参照:本章第1節1)。

1教育課程実施状況調査

 この調査の目的は,国語,社会・地理歴史・公民,算数・数学,理科,英語などの教科に関して,小学校,中学校,高等学校の各学習指導要領に基づく教育課程の実施状況を通して調査研究し,今後の教育課程の基準の改善等に資することです。
 平成13年度に小学校,中学校で,14、15年度に高等学校において,平成元年に告示された学習指導要領に基づく教育課程の実施状況についての調査を行いました。また,14年度から順次実施されている現行の学習指導要領に基づく教育課程の実施状況については,16年1月〜2月に小学校,中学校の調査を,17年11月に高等学校の調査を実施しました。

2研究指定校による調査

 教育課程実施状況調査のほか,ペーパーテストによる調査では状況を把握しにくい生活,音楽,美術,保健体育,技術・家庭などの教科を含めた研究指定校による調査を実施しています。

3特定の課題に関する調査

 児童生徒の学習の実現状況を総合的に把握するため,教育課程実施状況調査や研究指定校による調査の枠組みでは把握しにくい内容について,特定の課題に関する調査を行っています(平成16年度:国語,算数・数学,17年度:理科,英語,18年度:社会)。
 これらのほか,IEA(国際教育到達度評価学会)の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)やOECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)などの国際的な調査,各教育委員会などが独自に実施している調査,児童生徒や保護者,校長,教員に対する学校教育についての意識調査などを通じて,子どもたちの状況をきめ細かく把握し,課題を明らかにすることとしています。

(3)研究開発学校制度の充実

 文部科学省では,学習指導要領などの教育課程の基準の改善に資する実証的な資料を得るため,現行の基準によらない教育課程の編成・実施を特例的に認め,新しい教育課程や指導方法について実践研究を行う制度(研究開発学校制度)を設けています。これまでの実践研究の成果は,例えば,平成元年の「生活科」の導入や,平成10年の「総合的な学習の時間」の創設に向けた検討に当たって,実証的な資料として生かされてきました。現在,中央教育審議会教育課程部会において学習指導要領の見直しに向けた検討が行われていますが,そこでも研究開発学校における実践的な研究の成果が資料として生かされています(参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenkyu/index.htm(※研究開発学校制度へリンク))。
 平成12年度からは,各学校や地域の課題意識をこれまで以上に教育課程の基準の改善に生かすなどの観点から,研究テーマを学校設置者の主体的な判断で設定できることとしました。毎年多数の申請の中から審査を経て指定を受けた学校が,小中連携や小学校英語などの研究課題に取り組んでいます。

前のページへ

次のページへ