第1節 「確かな学力」と「豊かな心」を育成し,「生きる力」をはぐくむ学校教育を目指して

 これからの子どもたちに求められるのは,1知識や技能に加え,自分で課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する力などの「確かな学力」や,2他人を思いやる心や感動する心などの「豊かな人間性」,3たくましく生きるための「健康・体力」などの「生きる力」を身に付けることです(図表2-2-1)。

図表●2-2-1 生きる力の概念図

1.学習指導要領のねらいの実現に向けて

(1)子どもたちの学力の現状

 子どもたちに確かな学力や豊かな心を育てたい。こうした願いを実現するために,各学校においても,教育内容や教育方法の充実改善が積極的に進められています。習熟度別指導など個に応じた指導も多くの学校で取り入れられてきています。
 一方,平成16年12月に公表された国際学力調査の結果によると,我が国の成績は,読解力が低下傾向にあるなど,世界のトップレベルとはいえない状況です。さらに,これらの調査からは,学習意欲や学習習慣に課題があることも示されています。
 また,国立教育政策研究所が平成17年4月に公表した小中学校教育課程実施状況調査の結果によると,学力の低下傾向に若干の歯止めがかかったと思われますが,国語の記述式問題,中学校数学,学習意欲や学習習慣などの点において,国際学力調査の結果と類似した課題が引き続き見受けられます。

生徒の学習到達度調査(PISA2003)(経済協力開発機構(OECD))

○調査の特徴
  • 知識や技能を実生活の場面で活用する力に関する調査
○対象学年
  • 高校1年生を対象
○結果のポイント
  • 我が国の学力は,数学的リテラシー,科学的リテラシー,問題解決能力が1位グループであるなど,全体として国際的に見て上位
  • ただし,読解力がOECD平均と同程度であるなど低下傾向にあり,世界トップレベルとはいえない状況
  • 授業を受ける姿勢は良いが,学ぶ内容に興味がある生徒が少ない,学校以外の勉強時間が短いなど,学習意欲や学習習慣に課題

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003)(国際教育到達度評価学会)

○調査の特徴
  • 学校のカリキュラムで学んだ知識や技能等の習得状況に関する調査
○対象学年
  • 小学4年生,中学2年生を対象
○結果のポイント
  • 我が国の児童生徒の学力は,全体として国際的に見て上位
  • ただし,小学校理科,中学校数学は前回より得点が低下
  • 数学・理科について,勉強は楽しいと思う,得意な教科であると思う生徒が少ない,宿題をする時間が短いなど,学習意欲や学習習慣に課題
  • テレビやビデオを見る時間が長く,家の手伝いをする時間が短い

平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査の結果(国立教育政策研究所)

○対象学年
  • 小学5年生〜中学3年生を対象
○調査結果のポイント
  • 同一問題において,正答率が前回(平成14年実施)を上回る問題数の割合が4割以上であるのに対して,下回る問題数の割合が2割以下である。
  • 前回との比較において国語の「記述式」の正答率が下回っていることや,前々回(平成6〜8年実施)との比較において中学校数学の正答率が下回っていることに加え,学習意欲や学習習慣が必ずしも十分でないことなど,国際学力調査の結果と類似した課題がある。

平成16年度特定の課題に関する調査(国語,算数・数学)(国立教育政策研究所)

○調査の特徴
  • 国語については漢字,長文記述,算数・数学については,数学的に考える力,計算に関する力を調査
○対象学年
  • 小学校4年生〜中学校3年生を対象
○調査結果のポイント
  • 全体として,学年進行に伴い定着している状況が見られる。
  • 漢字の読み書きは学年進行に伴い定着している状況。長文記述は段落の構成や論の一貫性に課題
  • 数学的に考える力では,日常事象の考察に算数・数学を生かすことや論理的に考えることに課題。計算に関する力では,具体的な場面を設けた問題では正答率が上昇

(2)学習指導要領のねらい

1学習指導要領について

 平成14年4月から全国の小・中・高等学校において順次実施されている現行学習指導要領は,完全学校週5日制の下,各学校が「特色ある教育」を展開し,子どもたちに基礎的・基本的な内容を身に付けさせ,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむことをねらいとしています。その特色は以下のとおりです。

(ア)教育内容の厳選

 教育内容を厳選することにより生じた時間的・精神的な余裕(ゆとり)を活用し,子ども一人一人の理解や習熟の程度などに応じたきめ細かな指導や,体験的・問題解決的な学習を行い,基礎・基本の確実な定着を図るとともに,学ぶ意欲や思考力,判断力,表現力なども育成します。

(イ)選択学習の幅の拡大

 中・高等学校では,選択学習の幅を拡大し,生徒の興味・関心,能力・適性,進路希望などに応じて,各分野について深く高度に学べるようにし,個性の一層の伸長を図ります。

(ウ)学習指導要領の「基準性」

 共通に指導すべき教育内容の厳選と選択の幅の拡大により,学習指導要領の「基準性」が一層明確になっており,各学校の判断により,児童生徒の理解の状況などに応じた指導が一層可能になっています。

(エ)個に応じた指導の充実

 学習指導要領に示す内容が十分身に付いていない子どもには,繰り返し指導などにより,基礎・基本を確実に習得できるようにしています。また,既に十分習得できている子どもには,習った内容についての理解をより深めたり,更に進んだ内容について学んだりすることを可能としています。

(オ)「総合的な学習の時間」

 (1)で述べた子どもたちの学力の現状を踏まえ,「総合的な学習の時間」では,国際理解,情報,環境,福祉・健康等の教科横断的・総合的な課題などについて,自然体験や社会体験などの体験的な学習,問題解決的な学習を行い,子どもたちに,(1)体験を通じて,学校などで学んだ知識の定着,(2)知識や技能を相互に関連付け,総合的に働くようにする「知の総合化」,(3)思考力,判断力,表現力,問題解決能力などの育成,(4)調べ方やまとめ方,発表の仕方等を身に付けさせることなどを目指しています。この時間は,各学校が独自に教育目標・内容を設定し,創意工夫を生かした学習活動を実施するところに特色があります。

2目標に準拠した評価の重視

 学習指導要領の下での評価については,子ども一人一人の学習状況を適切に評価し,それを次の指導の改善に生かす観点から,学習指導要領に示す目標に照らしてどの程度の力が身に付いているかを見る評価(いわゆる絶対評価)を重視して実施しています。

(3)学習指導要領の一部改正

 平成15年10月に,中央教育審議会は「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」文部科学大臣に答申を行いました。文部科学省は,この答申を踏まえ,「確かな学力」を育成し,「生きる力」をはぐくむという学習指導要領の更なる定着を進め,そのねらいの一層の実現を図るために,同年12月に学習指導要領の一部改正を行いました。一部改正の主な内容は以下のとおりです。

  • 1学習指導要領の基準性を踏まえた指導の一層の充実
     学習指導要領に示している内容の確実な定着を図るための指導を十全に行った上で,学校で特に必要がある場合には,学習指導要領に示していない内容も必要に応じて指導できることを明確化
  • 2「総合的な学習の時間」の一層の充実
    • 「総合的な学習の時間」のねらいとして,各教科等で身に付けた知識や技能などを相互に関連付け,総合的に働くようにすることを規定
    • 各学校において「総合的な学習の時間」の目標や内容を定める必要があることを規定
  • 3個に応じた指導の一層の充実
     習熟度別指導や発展的・補充的な学習などを取り入れた指導など,個に応じた指導を柔軟かつ多様に導入できることを明確化

(4)学習指導要領のねらいの実現のための施策

 文部科学省では,各学校や教育委員会における取組を支援する観点から,平成18年度において,以下のような施策を総合的に実施しています。

1学力向上アクションプラン

 「確かな学力」の向上に向けた取組を支援するため,(ア)個に応じた指導の充実,(イ)学習意欲や学びの質の向上,(ウ)個性・能力の伸長,(エ)国語力・英語力の増進などの柱からなる総合的な施策を推進しています。
 「個に応じた指導の充実」に関する主な施策としては,推進校において学習意欲の向上や思考力・判断力・表現力の育成などに関する実践研究を行い,その成果を広く普及させる「学力向上拠点形成事業」などを行っています。
 また,「学習意欲や学びの質の向上」を図る観点からは,理数教育に積極的に取り組む地方公共団体の提案に基づき,モデル地域を指定し,学校を核として地域の教育資源を総合的に組み合わせて活用するなどの取組を推進する「理数大好きモデル地域事業」や,「総合的な学習の時間」の全体計画の工夫改善や学習状況を適切に評価するための手法などに関する実践研究等を行う「総合的な学習の時間の推進に関する事業」,学校の教科等において培った様々な力を競い高め合う全国的規模の大会に対して支援を行う「学びんピック」などを行っています(参照:http://manabinpick.mext.go.jp(※学びんピックホームページへリンク))。
 さらに,「個性・能力の伸長」を図る観点からは,理科,数学,英語など特定の分野における卓越した人材の育成に資する研究開発を行う「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」や「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)」を行っています。このほか,「国語力・英語力の向上」を図る観点から,すべての知的活動の基盤となる国語力の向上のためモデル地域を指定する「国語力向上モデル事業」や,現行の教育課程の下で実施される,小学校の英語活動に係る指導方法の改善・向上等の優れた取組を支援する「小学校英語活動地域サポート事業」などを実施しています。

2教育の質を確保するための条件整備

 各学校において「確かな学力」を向上させる取組を行うためには,各種の条件整備も重要です。そのため,40人学級の実現や習熟度別少人数指導の実施などを目的として,これまで7次にわたって公立義務教育諸学校教職員定数改善計画を実施してきています。また,委嘱事業を活用するなどして,各教育委員会における教員評価システムの改善・充実を推進しています(参照:本章第3節)。

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