第1節 「確かな学力」と「豊かな心」を育成し,「生きる力」をはぐくむ学校教育を目指して

3.全国学力・学習状況調査について

(1)実施に至る背景

 我が国の児童生徒の学力に関しては,平成16年末に公表された国際学力調査(PISA2003及びTIMSS2003)の結果において,全体として国際的に見て上位にあるものの,読解力などが低下傾向にあり,また,児童生徒の学習意欲や生活習慣などについては,諸外国に比べ「勉強が楽しいと思う児童生徒の割合」が低く,「宿題をする時間」が短いなどの課題があることが分かっています。さらに,17年4月に公表した小中学校を対象とした教育課程実施状況調査では,特に国語の記述式問題や中学校数学などに課題があることなどが明らかになっています。
 このような中,平成17年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」については,「確かな学力」の向上を図るための方策として,「全国的な学力調査の実施」について言及しました。また,同年10月の中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」も,教育結果の検証と質の保証の観点から,「子どもたちの学習到達度・理解度についての全国的な学力調査を実施することが適当」と提言し,全国的な学力調査の実施の方向性を示しました。
 この答申は,義務教育の構造改革の基本方向として,1目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行った上で,2プロセスについては市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに,3教育の結果の検証を国の責任で行うことが必要と述べています。すなわち,PDCAサイクル(Plan(目標)―Do(実施)―Check(検証・評価)―Action(実行・改善))に基づいて義務教育の質を保証することが求められています。このうち特に,義務教育の目標の実現状況の評価と検証については,今後,国として力を注いでいくことが必要とされています。
 文部科学省では,これらの提言を受けて平成19年度から「全国学力・学習状況調査」を実施することとし,17年11月に「全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議」を設置しました。会議では,約5か月間で12回にわたる精力的な審議を重ね,18年4月に報告書を取りまとめましたが,文部科学省では,この結論を踏まえ,同年6月に「平成19年度全国学力・学習状況調査」に関する実施要領(文部科学事務次官決定)を策定し,各都道府県教育委員会に通知しました。

(2)実施の概要

 「全国学力・学習状況調査」は,義務教育における各学校段階の最終学年における到達度を把握するため,小学校第6学年,中学校第3学年の原則として全児童生徒を対象に実施します。特定の学年のすべての児童生徒を対象に実施する学力調査としては43年ぶりです。初年度の調査実施日は平成19年4月24日で,20年度以降は毎年4月第4火曜日に実施することとしています。
 調査の第一の目的は,全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより,国として教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ることです。また,もう一つの目的は,各教育委員会,学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題をきめ細かく把握・分析し,その改善を図ることです(図表2-2-3)。

図表●2-2-3 全国学力・学習状況調査の概要

(3)調査問題について

 教科に関する調査においては,対象学年の国語,算数(数学)について,それぞれ,1身に付けておかなければ後の学習内容に影響を及ぼす内容や,実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能など(主として「知識」に関する問題)と,2知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や,様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などに関する内容(主として「活用」に関する問題)に区分して出題します。
 出題形式については,選択式,短答式のほか,記述式の問題も一定割合で導入します。こうした調査問題の作成は,国立教育政策研究所が担当しています。調査実施後には,各学校における指導改善や児童生徒自身の学習改善・学習意欲の向上に役立てるため,調査問題や採点基準,出題のねらいなどを公開することとしています。これらは,子どもたちに身に付けさせたい力について,国としての具体的なメッセージを示すことになると考えます。
 調査では,「全国学力・学習状況調査」という名称が示すとおり,ペーパーテストで測定できる学力の状況のみならず,児童生徒の学習意欲や関心などの学力の一要素を把握したり,学校における指導方法に関する取組や学校における人的・物的な教育条件の整備の状況等を聞くための質問紙調査を併せて行います。これら質問紙調査については,児童生徒の学習意欲や学習方法等に関する調査結果,児童生徒の学習環境や生活の諸側面等と学力との相関関係の分析,学校における教育条件の整備状況等と学力との相関関係を分析する予定です。また,教育委員会や学校に対しても調査結果を提供し,それぞれにおける改善に資することとしています。
 調査の実施に当たっては,その効率的な実施や教育委員会及び学校の負担軽減の観点から,調査事業の一部,具体的には,調査問題の発送・回収,調査結果の採点・集計,教育委員会や学校等への調査結果の提供作業などを民間機関に委託して行います(図表2-2-4)。

図表●2-2-4 出題の内容例:予備調査より

(4)結果の取扱い

 調査結果のうち,国全体の状況,各都道府県ごとの公立学校全体の状況などについては公表します。また,各教育委員会には,域内の全体の状況やその設置管理する個々の学校の状況に関する資料を,各学校には,学校全体,各学級や各児童生徒の状況に関する資料などを提供します。個々の児童生徒に対しても,学習改善や学習意欲の向上につなげるという観点を考慮しつつ,学校を通じて調査結果を提供します。各教育委員会や各学校には,調査結果を効果的に活用し,その教育施策や指導を改善することが期待されています。
 前述のとおり,この調査は,学力や学習環境等の状況をきめ細かく把握し,教育施策や指導の改善につなげることを目的とするものであり,市町村間,学校間の序列化や過度の競争をあおるものではありません。
 このため,調査結果の公表に当たっては,都道府県が域内の個々の市町村名を明らかにして結果を公表しないこと,市町村がその設置管理する個々の学校名を明らかにして結果を公表しないことを求めています。教育委員会や学校等には,数値によって示された結果を単純に比較するのではなく,自らの調査結果を解釈し,学習環境など様々な状況との相関も含め,その特徴や課題について十分に把握した上で,保護者や地域住民に対しても適切に説明しながら,今後の教育施策や指導の改善に活用していくことが求められています。
 文部科学省では,「全国学力・学習状況調査」の実施を一つの大きな契機として,地域において教育行政を担当する各教育委員会や各学校とともに,児童生徒の学力の現状を把握し,分析し,評価し,検証し,改善するというサイクルを確かなものにしながら,教育の機会均等の保証と義務教育の質の向上に取り組んでいきます。

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