多言語主義の促進及び使用並びにサイバースペースへの普遍的アクセスに関する勧告

多言語主義の促進及び使用並びにサイバースペースへの普遍的アクセスに関する勧告(仮訳)

総会は、
 世界人権宣言及び世界的に認知されたその他の法律文書において宣明された人権及び基本的自由[1]の完全な遵守を約束し、また、市民的及び政治的権利に関する国際規約及び経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約という1966年の2つの国際規約に留意し、
 「情報通信分野における並びにこの分野において国連教育科学文化機関の総会で採択された関連決議及び同分野に関する国連総会決議の関連部分の実施における、ユネスコの中心的かつ重要な役割」[2]を認識し、
 ユネスコ憲章前文が「文化の広い普及並びに正義、自由及び平和のための人類の教育は、人間の尊厳に欠くことのできないものであり、かつ、すべての国民が相互の援助及び相互の関心の精神をもって果たさなければならない神聖な義務である。」と確認していることを想起し、
 さらには、ユネスコ憲章第一条が「言語及び表象による思想の自由な交流を促進するために必要な国際協定」[3]の勧告をユネスコの目的の一つとして挙げていることを想起し、
 第31回ユネスコ総会で採択された文化多様性に関する世界宣言、とりわけその第5条、第6条及び第8条に具体的に示された原則を確認し、
 多言語主義の促進及びサイバースペースにおける情報への普遍的アクセスに関するユネスコ総会決議[4]を参照し、
 新たな情報通信技術(ICT)の発展は言語及び映像による思想の自由な交流を増進する機会を提供するが、同時に、世界規模の情報社会への万人の参加を確保するという挑戦を提示することも確信し、
 世界規模の情報ネットワークにおける言語の多様性及びサイバースペースにおける情報への普遍的アクセスは現代の論議の核心であり、かつ、知識を基盤とした社会の発展における決定要因となり得ることに留意し、
 情報への普遍的アクセスの促進を助長するため、知的財産権に関する国際条約及び国際協定を考慮し、
 とりわけ開発途上国について、情報を持たざる者のための新たな技術の習得及び実用における能力の開発の必要性を認め、
 基礎教育と識字がサイバースペースへの普遍的アクセスの必要条件であることを認識し、
 経済発展水準の格差がサイバースペースへのアクセスの可能性に影響すること、また、現在の不均整を正し及び相互の信頼と理解の環境を創り出すためには特定の政策と連帯の増進が必要であることを考慮し、
 この勧告を採択する。

I 多言語のコンテンツ及びシステムの開発

1 地方の、国の、地域的な及び国際的な段階において公共部門、民間部門及び市民社会は、あらゆる文化の自己表現及び先住民族言語を含むあらゆる言語によるサイバースペースへのアクセスを確保するため、デジタル形式による教育的、文化的及び科学的なコンテンツの創作、処理及びこれらへのアクセスを奨励することにより、インターネット上での言語障壁を軽減し及び人間の相互作用を促進するため、必要な資源の提供に努め、かつ、必要な措置をとるべきである。
2 加盟国及び国際機関は、インターネット上での地域固有の及び先住民族のコンテンツの製作のための人材育成を奨励し及び支援すべきである。
3 加盟国は、サイバースペースにおける言語の存続という重大な問題に関して、サイバースペースにおける母国語を含む言語教育の促進を目指した適切な国内政策を策定すべきである。また、加盟国は、言語教育に関する自由にアクセス可能な電子形式の教材の開発を促進し及びこの分野における人的能力を強化するため、開発途上国に対する国際支援及び援助を強化し及び拡大すべきである。
4 加盟国、国際機関及び情報通信技術産業は、広範な多言語能力を伴うオペレーティング・システム、検索エンジン、ウェブ・ブラウザ、オンライン辞書及び専門用語集について、共同参加による研究開発及び地域への適用を奨励すべきである。また、これらの者は、著作者の翻訳権を十分に尊重しつつ、万人にアクセス可能な自動翻訳サービス、多言語情報検索、要約/抄録作成及び音声理解等を実行する高度処理言語システムに関する国際協調による取組みを支援すべきである。
5 ユネスコは、他の国際機関と協調し、言語情報処理における技術革新を含めた多言語主義、多言語リソース、アプリケーションに関する既存の政策、規則、技術的勧告及び最善の実施事例について、共同オンライン観測所を設立すべきである。

II ネットワークとサービスへのアクセスの促進

6 加盟国及び国際機関は、インターネットへの普遍的アクセスを世界人権宣言第19条及び第27条に定義される人権の実現を推進する手段として認識し及び支援すべきである。
7 加盟国及び国際機関は、市民権と市民社会へ権限を委譲する過程を強化するための適切な政策の採択を通じた公益サービスとして、かつ、開発途上国においては、地方の共同体の必要を十分考慮しつつ、そのような政策の適切な実施及び支援を奨励することにより、インターネットへのアクセスを促進すべきである。
8 とりわけ加盟国及び国際機関は、地方の、国の、地域的な及び国際的な段階において、公益サービスや教育機関、恵まれない人々及び障害のある人々の必要に特別に考慮した手頃な電気通信及びインターネット経費により、インターネットへの普遍的アクセスを促進する仕組みを確立すべきである。この目的に向けて、投資を奨励する公共部門と民間のパートナーシップ並びにICTの使用に対する財政的障壁(例えば、情報機器、ソフトウェア、サービスに対する税金や関税)の低減を含むこの分野における新たな奨励措置を策定すべきである。
9 加盟国は、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)に対し、学校、高等教育機関、博物館、公文書館、公立図書館等の公共施設におけるインターネット・アクセスについて、サイバースペースへの普遍的アクセスに向けた過渡的措置として優遇料金の提供を検討するよう促すべきである。
10 加盟国は、地域社会計画や情報通信技術の現地指導者及び助言者の育成促進を含め、地域社会へのアクセスを容易にし、社会のあらゆるレベルに達するような情報戦略及びモデルの開発を奨励すべきである。インターネット・サービスへのアクセスの経費を削減する手段として、公共サービス機関間のICTに関する協力を支援するという戦略をとるべきである。
11 開発途上国における私的な及び非営利のISPのトラフィックを結合する国内インターネット・ピアリングポイントと開発途上国又は先進工業国を問わず他国におけるピアリングポイントの間で、国際協調の精神で交渉による費用分担に基づく相互の接続を奨励すべきである。
12 地域機関及び協議の場は、自由競争の環境において世界規模のネットワーク内で各国を接続するために大容量地域バックボーンの供給された地域間及び地域内ネットワークの確立を奨励すべきである。
13 国際連合の協調的な取組みにより、開発途上国におけるオープンソース技術並びに政策策定及び能力開発を含む社会経済的発展におけるICT関連ネットワーク及びサービスの利用に関する情報及び経験共有を促進すべきである。
14 加盟国及び国際機関は、多言語ドメイン名を含むドメイン名の管理に関し、適切な協力関係を促進すべきである。

III パブリック・ドメイン・コンテンツの開発

15 加盟国は、現代の民主社会における市民に関連した情報を含む公文書及び政府保有記録に対し、機密性、私生活、国家安全保障の問題及びそのような情報の使用に適用される範囲における知的財産権につき十分考慮しつつ、普遍的なオンライン・アクセスの権利を認め及び法制化すべきである。国際機関は、各国が自国の社会又は経済状況に関する基本的データへのアクセスを有する権利を承認し及び普及すべきである。
16 加盟国及び国際機関は、パブリック・ドメインにおける情報及び知識の貯蔵を識別し、かつ、促進し、その貯蔵に万人がアクセスできるようにすべきであり、また、これによって創造性及び利用者の開発に資する学習環境を形成すべきである。この目的のために、パブリック・ドメイン情報の保存及びデジタル化に十分な資金を提供すべきである。
17 加盟国及び国際機関は、地理的な、経済的な、社会的な又は文化的な差別なくパブリック・ドメイン情報の普遍的アクセスを確保するため、公益及び私益の両面を尊重する協力のための取決めを奨励すべきである。
18 加盟国及び国際機関は、情報の交換、可搬性、相互運用性に対する技術的な、かつ、方法論的な基準の作成並びに世界規模の情報ネットワーク上のパブリック・ドメイン情報のオンライン・アクセス可能性を含む公開された、アクセス可能なソリューションを促進すべきである。
19 加盟国及び国際機関は、ICTの実施と利用に関する信頼を普及し、かつ、構築することを含め、ICTリテラシーを推進し及び促進すべきである。ICTに関する技能訓練と組合せた公開された、統合された、かつ、異文化間の教育を含む、情報社会のための「人的資本」の開発は極めて重要である。ICT訓練は技術的能力のみに限定せず、倫理的原則及び価値の意識をも含むべきである。
20 国際連合における機関間の協力は、とりわけ開発途上国及び不遇な立場にある地域社会のため、開発計画を通じて生み出される大量の情報の中から、普遍的にアクセス可能な一連の知識を構築する目的で強化されるべきである。
21 ユネスコは、他の関係政府間機関と密接に協調し、パブリック・ドメイン情報の生成及びオンラインによる普及に関する法令、規定、政策の国際目録の編集に着手すべきである。
22 表現の自由を十分に尊重した上で、情報の生産者、ユーザー、サービス・プロバイダにおいて、最善の実施事例及び自発的で、自主規制され、職業的な、かつ、倫理的な指針の策定及び採択を促進すべきである。

IV 権利者の利益と公益との公正な均衡の再確認

23 加盟国は、全ての利害関係者と密接に協調し、国際著作権及び著作隣接権条約で具体的に述べられている著作者、著作権及び著作隣接権保有者の利益と公益との公正な均衡を十分に考慮しつつ、国内著作権法の更新及びサイバースペースへの当該適用に着手すべきである。
24 加盟国及び国際機関は、適宜、権利者並びに著作権及び著作隣接権保護の制限及び例外の合法な受益者に対し、著作権に関する世界知的所有権機関条約及び実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約で規定されているとおり、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に、そのような制限及び例外が適用されることを確保するよう奨励すべきである。
25 加盟国及び国際機関は、技術革新の進展、国際条約及び協定の下での著作権並びに著作隣接権保護の枠組みの中でその進展が情報へのアクセスに及ぼす潜在的な影響に対し、慎重な注意を払うべきである。
  総会は、加盟国に対し、この勧告で述べられた諸規範及び諸原則を各国の領域及び管轄区域内で実施するために必要なあらゆる法的又はその他の手段をとることにより、上記の条項を適用するよう勧告する。
  総会は、加盟国に対し、インターネット上での多言語主義の使用、ネットワークとサービスの開発、インターネット上でのパブリック・ドメイン情報の拡大、知的財産権の問題を含むICT政策、戦略、社会的基盤に関する公共及び民間事業の担当機関及び部局の注意をこの勧告に向けさせるよう勧告する。
  総会は、加盟国に対し、この勧告を実施するために自国がとった行動について、総会の決定する期日及び方法で総会に報告することを勧告する。

付録

用語の定義
この勧告において、
(a)「バックボーン」とは、他の容量の小さいネットワークを結びつける大容量ネットワークのことである。
(b)「著作権の制限及び例外」とは、著作権及び著作隣接権関連法における条項であり、著作物又は著作隣接権の対象物の利用に関して著作者又は他の権利者の権利を制限するものである。このような制限及び例外の主な形態は、強制許諾、法定許諾及び公正使用である。
(c)「サイバースペース」とは、世界規模の情報基盤に関連するデジタル又は電子通信のための仮想空間のことである。
(d)「ドメイン名」とは、インターネット・アドレスに与えられる名前であり、利用者のインターネット・リソースへのアクセスを容易にするもの( 例、http://www.unesco.orgにおける"unesco.org"の部分)である。
(e)「高度処理言語システム」とは、現代のコンピューターの高速計算データ検索及び操作能力に、より抽象的で巧妙な論証技術と、一つの言語内又は言語を越えて人間同士のコミュニケーションにおいて意味として含まれてはいるが必ずしも明示的に述べられていないニュアンスの理解を組合せ、これによって、人間のコミュニケーションを高度に模擬実験できるようにしたものである。
(f)「インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)」とは、インターネット・アクセス・サービスの供給者である。
(g)「相互運用性」とは、異なる製造者の供給する異なる機械上で、ソフトウェア及びハードウェアがデータを共有できる能力のことである。
(h)「オープンソース技術」とは、オープンソースという前提に基づいた技術である。オープンソースとはオープン・ソース・イニシアティブ(OSI)の発行する認証規格で、あるコンピューター・プログラムのソースコード(元の形態又はプログラミング言語におけるプログラム指令)を一般大衆に無料で入手可能にさせることを示すものである。
(i)「ピアリング」とは、二つ又はそれ以上のISP間の関係のことであり、これらのISPが相互に直接リンクを作り、インターネット・バックボーンを使用する代わりに、このリンク上で互いにパケットを直接転送することを認めることである。ピアリングに二つ以上のISPが関わっている場合、そのうちのいずれかのISPに向けられた全てのトラフィックはまずピアリングポイントという中央交換点に送られ、それから最終送信先に転送される。
(j)「可搬性」とは、特定の機械又はハードウェアを必要とすることなく、様々なコンピューターでソフトウェアを使用することができる能力のことである。
(k)「パブリック・ドメイン情報」とは、公然と入手可能な情報であり、かつ、これを使用しても法的権利の侵害又は守秘義務の違反は一切問われないものである。つまり一方では、例えば、国内法又は国際法による保護が与えられていない、あるいは保護期限が切れたといった理由によるものであり、あらゆる著作物又は関連権利の対象物が一切の許可なく誰にでも利用できる領域を指す。また、一方では、政府又は国際機関によって作成され及び自主的に入手可能とされた公的データ及び公式情報を指す。
(l)「検索エンジン」とは、指定されたキーワードから文書を探索し、キーワードの見つかった文書の場所を突き止める、あるいは検索するアプリケーション・ソフトのことである。
(m)「サイバースペースへの普遍的アクセス」とは、全ての市民が情報基盤(特にインターネット)、集団及び個人としての人類の発展に不可欠な情報と知識に対し、公正かつ手頃にアクセスできることである。
(n)「ウェブ・ブラウザ」とは、ワールド・ワイド・ウェブのページを探し出し、表示するアプリケーション・ソフトのことである。

  以上は、パリで開催され、2003年10月17日閉会したユネスコ第32回総会によって正式に採択された勧告の真正な原本である。

  以上に基づき、2003年11月21日我々は署名を付す。

  総会議長
  ミカエル・アビオラ・オメレワ
  事務局長
  松浦 晃一郎

脚注
[1]1948年の世界人権宣言第19条及び第27条、市民的及び政治的権利に関する国際規約第27条、1966年の経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、民族的又は種族的、宗教的及び言語的少数者に属する者の権利に関する国連宣言(1992年12月18日国連総会決議47/135)、1997年に出された基礎的通信及び情報サービスへの普遍的アクセスに関するACC声明、2000年国連ミレニアム宣言第25条。
[2]国連総会決議35/201(1980年12月16日第97回総会)。
[3]第1条2(a)項。
[4]決議29C/28第2.A(h)項、決議29C/36、決議30C/37、決議30C/41、決議31C/33。


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