高等教育における修学及び資格証書の承認に関する勧告

高等教育における修学及び資格証書の承認に関する勧告(仮訳)

1993年11月13日 第27回ユネスコ総会採択

前文

 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の総会は、1993年10月25日から同年11月16日までパリにおいてその第27回会期として会合し、
 憲章が、「この機関の目的は、教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献することである」と規定していることを想起し、
 教育は、人権の一であるとの事実、並びに高等教育は、知識の追求及び向上に有用であり、特に豊かな文化的及び科学的財産を構成するとの事実を認め、
 知識が人類の共同の遺産の一部を成す普遍的なものであること並びにすべての個人に対して知識を習得し及び学習を行うための機会を一層与えるための手段が探求されなければならないことを考慮し、
 世界における既存の文化及び高等教育制度の多様性は、保存し、促進し及び助長しなければならない特別の資源であることを認識し、
 高等教育が、知識の急速な拡大及び国際化により並びに科学者及び大学関係者の間において確立している連携及び連帯により、国際的な広がりを持ちつつあること、また、学生、研究者、教員及び専門家の移動の拡大を通じて世界的な規模で一層広範に教育資源の利用が行われることが、高等教育の国際的な広がりに不可欠であることを考慮し、
 高等教育の制度又は機関についての組織又は機能を決定する法律、規則、慣行及び伝統の多様性並びに職業への従事を規律する憲法上、法律上及び規則上の要件及び制度の多様性にかんがみ、高等教育への入学、その継続及び修了並びに職業への従事の準備のためには、与えられた資格証書のみではなく、履修した修学課程並びに習得した技能、知識及び経験についても考慮を払うような能力評価の政策を実施することが重要であることを考慮し、
 人の移動の増大並びに思想、知識及び科学的又は技術的経験の交換の手段として、更に、究極的にはすべての場所における高等教育の質の向上を促進するために、高等教育における修学及び資格証書がすべての権限のある当局又は機関によって相互に承認される必要に留意し、
 この承認は、また、次の事項を促進することを考慮し、
  高等教育によって利益を受けることができる人の数の全体的な増加
  教育又は訓練に利用することができる手段のすべての国による最大限の活用及び人的資源の開発
  教員、学生、研究者及び専門家の移動の拡大
  外国において訓練又は教育を受けた者であって、修学又は職業への従事を希望するものが直面する困難の軽減
  諸文化及び諸国民の間における友好関係及び理解の促進並びにこれらの多様性の相互尊重
 国際連合教育科学文化機関の支援の下で既に採択された、高等教育における修学及び資格証書の承認に関する6の地域的な条約がこの分野における国際協力の価値を証明していること並びに総会が定めた究極的な目的に近づくためにこれらの条約が普遍的な基準を設定する文書によって補足されるべきであることを考慮して、
 1993年11月13日にこの勧告を採択する。

I 定義

1 この勧告の適用上、各国が自国の国内における行政上の制度及び法律において使用している定義にかかわらず、
(a)「高等教育」とは、中等教育後の段階におけるすべての種類の修学、訓練又は研究のための訓練であって、各国の権限のある当局によって高等教育機関として認可された大学その他の教育機関が提供するものをいう。
(b)「高等教育における資格証書」とは、高等教育機関又は他の適切な当局が与えるすべての卒業証書、学位その他の資格証書であって、その所持者が修学課程を良好に修了したことを証明し、かつ、その所持者に対し、修学を更に高度な段階へ継続するための又は特別の準備を必要としない職業に従事するための資格を与えるものをいう。
(c)「部分的修学」とは、高等教育における修学の第1段階又は一層進んだ段階における課程の評価され及び認証された全体として共通性を有するいずれかの一部分であって、それ自体は完結した課程ではないが、知識又は技能の顕著な習得と同等に取り扱うことができるものをいう。
(d)「中等教育」とは、初等教育又は基礎教育に続くすべての種類の修学であって、高等教育への入学の前提条件であるものをいう。
(e)外国の高等教育における資格証書の「承認」とは、関係国の権限のある当局(政府のものであるか非政府のものであるかを問わない。)が当該資格証書を、その所持者が当該国において与えられる同等の資格証書の所持者と同じ条件で考慮される資格を有していること及び承認の範囲に応じ、高等教育における修学への入学若しくはその継続、研究への参加又は試験の合格若しくは特別の準備を要しない職業への従事に当たり同等に考慮されるための資格を有していることを証明するものと認めることをいう。
(f)高等教育における修学のための外国の中等教育における修了証書の「承認」とは、関係国の権限のある当局が当該修了証書を、その所持者が当該国において与えられる同等の資格証書又は修了証書の所持者と同じ条件で当該国の高等教育機関への入学について考慮される資格を有することを証明するものと認めることをいう。
(g)外国の高等教育における部分的修学の資格証書又は修了証書の「承認」とは、関係国の権限のある当局が、これらの証書を、その所持者が、当該国において与えられる同等の資格証書又は修了証書の所持者と同じ条件で高等教育及び研究の機関における修学の継続について考慮される資格を有することを証明するものと認めることをいう。
(h)職業に従事するための外国の高等教育における資格証書の「承認」とは、関係国の権限のある当局が、関係国において効力を有する法律上及び職業上の規則又は手続に抵触しない範囲において、その資格証書の所持者に対し、当該職業に従事するための職業上の準備を認めることをいう。ただし、その所持者が、当該職業の準備を行い及び資格証書を取得した国において、同一の職業に従事する資格を有することを条件とする。もっとも、このような承認は、外国の資格証書の所持者に対して、関係国の権限のある政府又は職業に係る当局が課する当該職業への従事のための他の条件に従う義務を免除するものではない。
2 資格証書又は修了証書の承認は、資格証書又は修了証書が与えられた国において考慮される権利よりも広範な権利を他の国において付与するものではない。

II 目的及び措置

一般的措置
3 加盟国は、高等教育における資格証書の一層広範な承認を達成するためにとる措置を検討するに当たり、この勧告に定める原則を自国の領域内において実行するために必要なすべての立法その他の措置をとることにより、次の諸規定を適用すべきである。
4 高等教育における修学、卒業証書及び学位の承認に関する地域的な条約の締約国でない加盟国は、このような条約の締約国となること及びこのような条約の適用のための地域的な委員会の活動の強化に貢献するためにあらゆる努力を払うことを奨励されるべきである。
5 加盟国は、政府のものであるか非政府のものであるかを問わず、関係する当局、機関及び組織、特に高等教育機関、学位等認定機関、職能組織並びに他の教育の機関及び団体にこの勧告を周知すべきである。
6 すべての加盟国及び既に1又は2以上の地域的な条約の締約国である非加盟国は、この勧告の規定を検討し及び実施するための措置をとるべきである。
7 加盟国は、国際連合教育科学文化機関の総会が定めた期限及び様式により、同機関の総会に対し、この勧告を適用するに当たって実施した行動、とった措置及びこれらによって達成した成果についての報告を提出すべきである。

国内の政策及び措置
8 加盟国は、その制度の枠組みにおいて、かつ、憲法、法律及び規則の規定に従い、関係する権限のある当局に対し、他の加盟国において与えられた、高等教育への入学に必要な中等教育の修了証書その他の卒業証書の所持者が、自国民に適用されるすべての入学についての要件に従うことを条件として、自国の領域内にある高等教育機関において修学できるように、当該証書に対して1(f)に定義する承認を与えることを奨励するために実行可能なすべての措置をとるべきである。もっとも、高等教育機関への入学について、定員上の制約、入学試験における合格、教育に係る言語についての適当な知識その他の事項を条件とすることは妨げない。
9 加盟国は、その制度の枠組みにおいて、かつ、憲法、法律及び規則の規定に従い、関係する権限のある当局に対し、他の加盟国において与えられた高等教育における資格証書の所持者が、自国民に適用されるすべての入学についての要件に従うことを条件として、自国の高等教育機関において修学、訓練又は研究のための訓練を更に継続できるように、当該資格証書に対して1(e)に定義する承認を与えることを奨励するために実行可能なすべての措置をとるべきである。加盟国は、また、高等教育の継続のために、1(g)に定義する他の加盟国の高等教育機関における部分的修学の承認のための手続を定める措置をとるべきである。外国において与えられた資格証書を修学の継続のために評価するに当たっては、当局は、ある段階を修了した者が他の国に移動するときに次の段階へ継続することができるようにするために、当該資格証書が与えられた国における修学の段階を考慮すべきである。もっとも、修学の継続のための高等教育機関への入学について、定員上の制約、入学試験における合格、教育に係る言語についての適当な知識その他の事項を条件とすることは妨げない。
10 加盟国は、自国の制度の枠組みにおいて、かつ、憲法、法律及び規則の規定に従い、1(h)に定義する職業への従事のための高等教育段階における準備の承認を容易にするために実行可能なすべての措置をとるべきである。そのためには、人々が訓練を受け又は既に従事した職業に従事することを可能とすることを目的とし、かつ、利用可能な人的資源を最大限に活用し及び社会のすべての構成員を完全にその社会に統合するために、高等教育機関、職能団体、政府機関、経営者団体等のすべての関係団体と協力して、外国において与えられた技能及び資格証書の客観的な評価を図る政策を促進すべきである。
11 8から10 までに規定するすべての目的のために資格証書の評価の手続を定めるに当たり、権限のある当局及び関係機関は、制度、学習形態、教育内容及び教育方法(遠隔教育その他の非伝統的な高等教育の形態を含む。)に係る幅広い多様性を考慮に入れるべきである。外国の資格証書の同等性を評価するに当たっては、当局は、また、当該資格証書の所持者が当該資格証書を与えられた国において享受したと考えられる権利を考慮に入れるべきである。
12 加盟国は、国内の機関を設立し、又は既存の機関を指定し及び必要な場合には強化し並びにこれらの機関の機能を助長することにより、これらの機関がこの勧告の適用に関する問題を調整し、及び地域的な条約の適用のための既存の委員会と協力することができるようにすべきである。この勧告の目的の達成及び規定の適用には、各国内の極めて多様な当局間の努力の緊密な協力及び調整を要するので、政府のものであるか非政府のものであるかを問わず、関係するすべての当局、特に高等教育機関、学位等認定機関、職能組織並びに他の教育の機関及び団体は、協力することを奨励されるべきである。
13 各加盟国の高等教育機関は、この勧告に定める原則に即し、資格証書の評価に関して可能な限り共通の又は同等の政策を確立するために、互いに協力し及び国内の機関と協力すべきである。
14 加盟国は、自国の制度の枠組みにおいて、かつ、憲法、法律及び規則の規定に従い、外国における修学の後に帰国した者であって、修学の継続又は職業への従事を希望するものが直面する困難を軽減し、これによってこれらの者の母国の生活への再統合が関係する個人及び社会にとって最も有益な形で達成されるように、実行可能なすべての措置をとるべきである。このため、特に、帰国者の資格証書についての評価及び承認に関する決定が不当に遅れることのないようにすべての関係者の相互の合意により措置をとるものとする。加盟国は、個人又は機関の間において意見の相違が生じた場合に、個人が能力又は技能に関する書類その他の証明を提示することができる仕組みの確立を奨励すべきである。
15 加盟国は、自国の制度の枠組みにおいて、かつ、憲法、法律及び規則の規定に従い、書面による修学の証明を提出できない難民又は避難民について、これらの者が高等教育を通じて習得した技能又は能力を公平かつ迅速に評価するための手続を整備するために実行可能なすべての措置をとるべきである。
16 ある国の領域内にある高等教育機関が直接にも間接にもその国の権限の下にはなく、別個の独立した当局の下にある場合においては、その国の当局は、当該機関がこの勧告の規定を実施できるように、この勧告文を当該関係機関に送付すべきである。
17 承認を受ける資格は、国籍又は法的地位に影響されるべきではない。

関連情報の開発及び交換による国際協力
18 加盟国は、自国の領域内にある認可された高等教育機関の最新の一覧表を作成すること、他の加盟国との間で互いにこの一覧表を定期的に通報し合うことその他の措置により、可能な場合には地域網と協力して情報の交換を改善すべきである。このため、各国においてこの勧告に関する事項を担当する国内の機関は、強化され、並びに当該一覧表を作成し及び特定の承認に係る問題について他の機関に通報する任務が与えられることができる。
19 加盟国は、高等教育における修学の質を保証するために、評価又は認定を行う機関その他の仕組みの設立を奨励すべきであり、かつ、これらの仕組み又は機関の間の国際協力を奨励すべきである。
20 加盟国は、履修科目、履修単位又は資格証書の比較を容易にするために、これらを評価するための関連情報の交換又は相互の理解及び解釈を調和させるための、評価基準及び各国の高等教育に関する専門用語の比較研究等の措置によって、権限のある当局、団体及び機関を通じて互いに協力すべきである。

2国間又は多数国間の取極
21 加盟国は、この勧告の目的を達成し及び漸進的な適用を促進するため、2国間、多数国間その他の取極によって国際的に措置をとるべきである。
22 加盟国は、修学又は資格証書の広範な承認を達成するため、2国間若しくは多数国間の取極又はその他の相互に連携する取決め等の措置によって、高等教育機関の間の国際協力を奨励すべきである。
23 高等教育における修学、卒業証書及び学位の承認に関する条約の適用について責任を有する委員会は、適当な場合には、国又は機関の間の2国間その他の取極の作成を奨励し及び強化するため、これらの取極の目録を作成し及びその一層の周知を行うことについて協力すべきである。
24 この勧告の規定は、加盟国の権限の下にあるすべての高等教育機関(自国の領域外にあるものを含む。)において行われる修学及びこれらの高等教育機関により与えられる資格証書に適用されるべきである。ただし、自国の権限のある当局及び当該機関が置かれている国の権限のある当局の双方が、当該資格証書をそれぞれの国の高等教育制度の下にある機関によって与えられるものと同様の方法で承認することを条件とする。

 以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、パリで開催されて1993年11月16日に閉会を宣言されたその第27回会期において、正当に採択した勧告の真正な本文である。

 以上の証拠として、我々は、署名した。

 総会議長
 アーメド・サレー・サヤド
 事務局長
 フェデリコ・マヨール

お問合せ先

国際統括官付