大衆の文化生活への参加及び寄与を促進する勧告

大衆の文化生活への参加及び寄与を促進する勧告(仮訳)

1976年11月26日 第19回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関の総会は、1976年10月26日から11月30日までナイロビにおいてその第19回会期として会合し、
 世界人権宣言第27条の規定が「すべての人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を享受し並びに科学的進歩及びその恩恵を共有する権利を有する。」と述べていることを想起し、
 ユネスコ憲章が、その前文において、文化の広い普及並びに正義、自由及び平和のための人類の教育が人間の尊厳に欠くことのできないものであると述べていることを想起し、
 ユネスコ総会が、1966年11月4日にその第14回会期において採択した国際的文化協力の原則に関する宣言、特に、「各文化は、尊重され、かっ、維持されなければならない尊厳及び価値を有する。」と述べている第1条及び国際文化協力の目的の1が「すべての人が知識に接し、諸国民の芸術及び文学を享受し、世界のすべての地方において達成された科学の分野における進歩及びその結果として生ずる恩恵を共有し並びに文化生活の充実に寄与することを可能にすることにある。」と述べている第4条の規定並びに欧州安全保障協力会議の参加国が「諸国民間の平和及び理解を増進すること並びに人種、性、言語及び宗教の区別なく人間性を精神的に向上させることに寄与することを希求して、」特に、すべての人によるそれぞれの文化の成果への接近を促進することを目的とする旨を規定する同会議の最終文書を想起し、
 文化的発展が、総合的発展を補足し及び規制するのみではなく、進歩の真の手段であることを考慮し、
 (a)文化が社会生活に不可欠な一部であり、したがつて、文化政策が総合的な国の政策という広範な観点から促えられなければならず、また、文化とは、本質的には、個人が創造活動に参加し及び協力することによって生ずる社会的現象であること、
 (b)今日、文化が人間生活の重要な要素及び人類の進歩の主要な要因の一となりつつあり、また、この進歩には、社会のすべての構成員の十分な、かつ、調和のとれた発展及び各自の創造力の自由な行使を基礎とした社会の精神的な潜在力の不断の成長を確保することが不可欠の前提となること、並びに
 (c)文化は、選ばれた者が大衆に利用させるために生産し、収集し若しくは保存し又は豊かな過去及び遺産を有する人々がその他の人々に、歴史が後者に与えなかつたひな形として提供する作品及び知識の単なる集積ではないこと並びに文化が芸術作品及び人文学への接近に限定されるものでなく、同時に、知識の取得、生活様式上の要求及び伝達の必要でもあること
を考慮し、
 自由な選択に基づく種々の文化活動への最も多くの人々及び団体による参加が個人の基本的な人間の価値及び尊厳の発展に不可欠であること並びに大衆の文化的価値への接近が、これらの人々に文化の恩恵を享受させるだけでなく、文化生活全体及び文化的発展の過程に積極的に参加させることができる社会的及び経済的条件が整備された場合に限つて確保することができることを考慮し、
 文化への接近及び文化生活への参加が、一方が他方に影響を与えること、即ち、接近が文化生活への参加を促進し、参加が文化生活に対し真の意味を付与することによって文化への接近を拡大することができることから明らかなとおり、同一物の二の補完的側面であり、参加を伴わない単なる接近は、必然的に文化的発展の目的を達成することができないことを考慮し、
 文化活動が、しばしば、極く一部の人口のみを対象としていること並びに現存の組織及び使用される手段が、不十分な教育、低い生活水準、貧弱な住宅条件並びに経済的及び社会的な一般的な従属状態のために著しく脆弱な立場にある人々の要求を必ずしも満たしていないことに留意し、
 現実と公表された理想、宣言された意図、若しくは計画又は期待される成果との間にしばしば大きな相違があることに留意し、
 大衆による文化生活への参加に関する政策の目的、内容及び方法を定めることが不可欠であり、かつ、急務であるにもかかわらず、加盟国における社会的及び経済的事情と政治的事情との間に相違があることにかんがみ、考えられる解決策が、すべての国について同一ではあり得ないことを考慮し、
 加盟国の主権の尊重、他国の内政に対する不干渉、権利の平等及び民族自決の権利の諸原則を再確認し、
 国際連合憲章、ユネスコ憲章、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに国際的文化協力の原則に関する宣言に定める目的を推進するために文化政策を実施するための責任は加盟国にゆだねられることを認識し、
 科学及び技術の基礎である知識に種々の分野の人々が接する機会を妨げ並びにこれらの人々が固有の文化的要求を認識することを妨げている経済的及び社会的不平等の除去がこれらの人々の一層広範な参加をもたらすこと並びにこれらの障害には、政治的又は商業的な原因によるか閉鎖的な社会の反動の形態によるかを問わず、変化への抵抗及びあらゆる種類の障害を加えなければならないことに留意し、
 接近及び参加の問題が、生活の多くの分野及び側面にわたる総合的な方法によって解決することができること並びにこのような方法が、それぞれの社会の特性に応じて多様化されるべきであり、その全体が基本的な政策の選択を必要とする真の社会構想を形成するものでなければならないことを考慮し、
 文化への接近及び文化生活への参加が、勤労大衆、労働組織、余暇、家庭生活、教育及び訓練並びに都市計画及び環境に関する条件を対象とする総合的な社会政策において不可欠の要素であることを考慮し、
 社会の発展及び進歩に寄与することを使命とする青少年、特に児童の文化教育及びその創造力の発達に決定的な影響を及ぼす親、新たな社会的及び文化的機能を果たすことができる高齢者、社会的変化に積極的に貢献する勤労者、文化的価値の創造者でありかつその担当者である芸術家並びに社会の自発的指導者の協力を得て、すべての分野の人々の文化生活への有効な参加を確保し及びこれらの人々の希望を確認しかつ表現することを任務とする文化発展担当者が、社会生活及び文化生活において果たす重要な役割を認識し、
 接近及び参加であって、社会生活のあらゆる環境において恩恵を享受するのみではなく自己を表現する機会をすべての人に与えるものが、文化的訓練並びに文化の創造及び普及の分野において最大限度の自由及び寛容をもたらすことを考慮し、
 文化生活への参加が、人格並びにその尊厳及び価値の確認並びに国連憲章及び人権に関する国際的法文書において宣言されている基本的人権及び人間の自由の実現を前提とすること並びに個人の文化的進歩が、形態及び発現の方法のいかんを問わず、侵略政策、植民地主義、新植民地主義、全体主義、人種差別主義等の現象及び他の原因によって妨げられていることを考慮し、
 文化生活への参加が、独自性、真正性及び尊厳の主張の形態をとること並びに独自性の保全が、特に、不適当なひな形又は十分に習得されていない技術の流布に起因する浸蝕の種々の原因によって脅かされていることを考慮し、
 文化的独自性の主張が孤立した集団の形成をもたらすべきではなく、反対に、相互の広範囲かつ頻繁な接触の希望と共存すべきであり、また、このような接触が、これなくしてはこの勧告の目的を達成することができない基本的な必要条件であることを考慮し、
 十分な文化的発展のため、一般教育、文化教育及び芸術的訓練並びに勤務時間及び自由時間の利用が生涯教育の中で果たす基本的な役割に留意し、
 大衆通報媒体が、個人の文化的潜在力の解放、伝統的文化形態の保存及び普及並びに新たな形態の創造及び普及に寄与するに当たって文化的発展が果たすことのできる新たな可能性を開発し、集団的伝達のための媒体となり、かつ、人々の直接の参加を促進することによって、文化向上の手段として役立つことができることを考慮し、
 接近及び参加の窮極の目的が、人道主義的価値を基礎に社会全体の精神的及び文化的水準を向上させ、かつ、文化に人道的及び民主的な内容を付与することにあること並びにそのことは、国の文化及び人類の文化的発展を脅かし、人格の低下をもたらし、また、若い世代に著しい悪影響を与える「商業主義的な大衆文化」の有害な影響に対して措置をとることを意味することを考慮し、
 大衆の文化生活への参加及び寄与に関する提案を前記の会期の議事日程の第28議題として審議し、
 その第18回会期において、この問題が、国際規則の主題とされるべきであり、また、加盟国に対する勧告の形式をとるべきであると決定して、
 1976年11月26日にこの勧告を採択する。
 総会は、加盟国が、この勧告に規定する原則及び規程を自国の領域において適用するため、必要な立法措置その他の措置を自国の憲法上の慣行及び検討される問題の性質に従つてとることにより次の諸規定を実施することを勧告する。
 総会は、加盟国が、大衆が文化生活に参加し及び寄与することを確保することを援助することができる当局、機関及び団体にこの勧告を知らせることを勧告する。
 総会は、加盟国が、この勧告についてとつた行動に関する報告を総会が定める時期に及び様式で総会に提出することを勧告する。

I 定義及び勧告の適用範囲

1 この勧告は、すべての個人が社会的進歩の要求に応じ文化的創造及びその恩恵に自由かつ十分に参加することができるよう、加盟国又は当局が文化活動の方法及び手段を民主化するために行わなければならないすべてのことに関係する。
2 この勧告の適用上、
(a)文化への接近とは、特に、適当な社会経済的条件の整備を通じて、すべての個人に与えられる情報、訓練、知識及び理解を自由に獲得し並びに文化的価値及び文化財を享受するための具体的な機会をいう。
(b)文化的生活への参加とは、すべての集団又は個人に対し、その人格の十分な発達、調和のとれた生活及び社会の文化的進歩のために自由に自己を表現し、伝達し、行動し及び創造的な活動に従事することを保証する具体的な機会をいう。
(c)伝達とは、集団又は個人の独創性及びそれぞれの相違を尊重しつつ相互理解及び平和の強化のために、対話、共同の行動、理解及び共同体意識を増進させることを目的とした情報、思想及び知識の自由な交換又は共有を希望する集団又は個人の相互の関係をいう。
3 この勧告の適用上、
(a)文化の概念は、拡大されており、この概念には、生活様式及び芸術活動の双方における集団又は個人のすべての形態の創造及び表現を含む。
(b)大衆の文化への自由かつ民主的な接近は、適切な経済的及び社会的政策が存在することを前提とする。
(c)文化生活への参加は、種々の異なつた社会の構成員が諸活動の実施及び評価並びに文化政策の策定に関与することを前提とする。
(d)文化生活への自由な参加は、次の政策と関連する。
 (i)経済成長及び社会正義のための開発政策
 (ii)すべての人の要求及び希望に応え、すべての人に自己の知的潜在力及び感受性を認識させ、文化教育及び芸術的訓練を与え、自己を表現する能力を向上させ並びに創造力を刺激し、よって、すべての人が社会的変化に一層良く適応し、かつ、社会の共同生活に一層十分に参加することができるようにする生涯教育政策
 (iii)国民の文化的独自性を保護する決意に裏付けられた科学技術政策
 (iv)進歩、一層正確には、特定の集団及び個人、特に最も恵まれない者の生活条件、機会及び希望の実現に関してこれらの者を不利にしている不平等の除去を目的とした不平等の軽減のための社会政策
 (v)空間の計画的利用及び自然の保護を通じ、個人及び社会の十分な発展を促す生活環境を整備するための環境政策
 (vi)相互理解を促進するために情報、思想及び知識の自由な交換を強化するよう企画され、このため、近代的及び伝統的媒体の双方を文化的目的に利用し及び拡大することを奨励する伝達政策
 (vii)文化の平等、相互の尊敬、相互理解及び相互の信頼並びに平和の強化の原則に基づく国際協力政策

II 法律及び規則

4 加盟国が、まだ措置をとつていない場合には、次のことを行うため自国の憲法上の手続に従って法律又は規則を制定し又は現行の慣行を修正することを勧告する。
(a)世界人権宣言、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約の精神にのっとり、また、国際連合憲章及びユネスコ憲章に規定する理想及び目的に従い、文化生活への接近及び参加に関する権利を人権として保証すること。
(b)人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的信条、国民的又は社会的出身、経済状態その他の事由に基づく区別又は差別なしに国及び世界の文化への社会のすべての構成員の自由な接近を効果的に保障すること及びすべての分野の人々の文化的価値の創造過程への自由な参加を奨励すること。
(c)文化に接近し及び文化生活に効果的に参加する婦人の完全な権利に特別の注意を払うこと。
(d)他国民の文化的成果を一層良く周知させるため、また、友好及び相互理解を強化するため、国の文化の発展及び普及並びに国際協力の発展を促進すること。
(e)人々がそれぞれの社会の将来の建設に一層積極的な役割を果たし、その過程において責任及び義務を果たし、かつ、権利を行使することができるような適当な条件を整備すること。
(f)文化(国内の少数民族及び存在する場合には少数外国民族の文化を含む。)の平等性を全人類の共通の遺産の一部を構成するものとして認めることを保証し及び差別なくあらゆる水準においてそれらの文化を振興することを確保すること並びに国内の少数民族及び少数外国民族が、それぞれの文化的独自性を保持する権利を守るとともに、独自の貢献により居住する国の文化生活を豊かにするためにその国の文化生活に接し及び参加する十分な機会を確保すること。
(g)過去及び現在の国語又は地方語、方言、大衆芸術及び大衆の伝統並びに地方文化及びその他の社会集団文化のようなあらゆる形態の文化的表現を保護し、保障し及び充実させること。
(h)不利な立場にある者が文化生活に加わり及び寄与する機会を得ることを確保すること。
(i)教育への接近の機会の平等を確保すること。
(j)人道主義の理想の強化に役立つ表現及び伝達の自由を保証すること。
(k)創造活動を促す条件を整備するとともに、創造的な芸術家の自由並びにその作品及び権利の保護を確保すること。
(l)文化政策の実施に必要とされる種々の部門の人々の職業上の地位を改善すること。
(m)文化教育及び芸術的訓練が教育及び訓練機関における教育過程において適切な地位を与えられることを確保すること並びに教育制度外にある人々にも芸術的遺産を享受させること。
(n)芸術と生活との統合を実現するため知的な、手を用いた又はしぐさによる創造の機会を増大すること並びに芸術的な訓練、経験及び表現を奨励すること。
(o)創造的な芸術家及び大衆の効果的な参加を十分に考慮して大衆通報媒体に対し独立を確保する地位を与えること並びに大衆通報媒体が、文化の真正性を脅かし、文化の質を損い、また、文化的支配の手段として機能すべきではなく、相互理解及び平和に役立つべきであること。
(p)文化遺産、伝統及び過去に関係のあるすべてのものを保護し及び充実させる義務と、現在及び現代の考え方によって表現しようとする努力を認める必要とを調和させること。
(q)(i)急速な工業化及び都市化の進行する社会に不可欠な均衡をもたらす上で貢献することができる過去の遺産、特に、古代の記念物及び伝統を保護し及び充実すること。
  (ii)都市計画及び建造物が文化生活及び社会生活を反映しているのみではなく、特に生活基盤そのものを規制しているので、大衆に都市計画及び建造物の重要性を認識させること。
  (iii)自然環境の質が人格の十分な発達にとつて不可欠なものであるため、国内的及び国際的な規模の自然環境の保存及び管理に大衆を関与させること。
(r)勤労及び余暇がそれぞれの方法ですべての人に文化的創造の機会を与えるような条件を適当な機関を通じて設定すること並びに勤務時間及び余暇に関する条件並びに最大多数の人々の文化への接近及び参加を可能にする文化機関の運営組織に関する条件を定めること。
(s) 文化活動の偽装の下で行われる暴力、侵略、支配、軽蔑及び人種的偏見並びに品位を低下する思想又は慣行に基づく見解を排斥すること。
(t)国際的文化協力の原則に関する宣言に従い平和及び国際理解を支援する事業を強化すること並びに平和、安全及び協力を強化する思想及び文化財の普及を奨励すること。

III 技術的、行政的、経済的及び財政的措置

5 まだ措置をとっていない場合には、加盟国が、文化活動のための政策がなお現在も置かれている低い地位から、生涯教育及び文化的発展の目的を達成し並びに大衆の文化への接近及び文化生活への自由な参加を最大限に確保することができるような実効的な段階までその政策を到達させるために必要な技術的、行政的及び財政的措置を講ずることを勧告する。このため、加盟国は、次の措置をとるべきである。

A 文化活動の方法及び手段
施設、活動及び決定の地方分権化
6 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)人口の稀薄な辺境地域又は恵まれない地域を特に考慮し、諸活動の地方分権化を助長し及び地方センターの発展を奨励すること。
(b)大都市に限らず、小都市、町村及び都市周辺にある文化的及び芸術的機関の網状組織を奨励し、拡大し及び強化すること。
(c)利用者の要求に最も適合した施設の設置を奨励すること並びに文化活動のために利用される施設と社会的及び教育的事業のために設けられる施設との統合を助長すること。この施設は、できるだけ多くの一般の人々に、意識の向上及び文化的発展に必要なすべての手段を利用させるため、ある程度の移動が可能であるべきである。
(d)集団及び個人の間の伝達を促進するすべての公共施設を文化的目的に利用することを奨励すること。
(e)地域相互間及び共同体相互間の交流を奨励すること。
(f)決定を行う者に対し、適当な段階において必要な財源を供与することにより、また、決定する機能を文化問題に関心を有する他の当事者の代表と分担させることによって、地域又は地方の創意を刺激すること。このため、行政上の決定を行うための二次的センターを発展させるべきである。
(g)大衆が、居住地域及び勤労場所の双方において、大衆自身の組織に基づいて行う芸術的創造及び文化活動を促進するための方法を発展させること。
(h)恵まれない集団及び文化生活が未発達な環境のために特別の措置をとること。例えば、児童、心身障害者、病院及び監獄で生活する者、辺地に居住する者並びに都市の貧民居住地区に居住する者を特に考慮すべきである。決定及び責任は、できる限り、活動に参加する集団にゆだねるべきである。

共同の行動
7 加盟国又は権限のある当局は、次の方法により、活動及び政策決定の双方に関する共同の行動及び協力を奨励すべきである。
(a)非制度的及び非職業的な文化的及び芸術的創造活動を特に考慮し並びにあらゆる分野における愛好者の活動にできる限り支持を与えること。
(b)文化活動の目的及び方法の決定に参加する関係職業集団及び社会集団の代表者からなる助言組織を、地区、地域及び国の段階で設置すること。

労働組合及び他の勤労者組織
8 加盟国又は権限のある当局は、大衆のための社会文化的組織、労働組合及び賃銀労働者又は自営業者(農民、職人等)のためのその他の勤労者組織がすべての文化的価値を有するものを享受し及び社会の文化生活に積極的に参加することができるようにする文化政策及び文化計画を自由に実施する際に役立つすべての措置をとるべきである。

鼓舞活動
9 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)文化発展担当者の養成、特に、人々を相互に接触させることにより、また、公衆、芸術作品及び芸術家の間並びに公衆と文化的機関との間の紐帯として機能することによって、情報、伝達及び表現の仲介者として行動する活動家の養成に寄与すること。
(b)文化発展担当者に対し、その者が一方において地域社会の自発的活動家を支援し、他方において必要な養成方法により創意及び参加を刺激することができるようにする活動の手段を供与すること。
(c)公共図書館、博物館等の文化センター及び文化機関を利用させることにより、教育的価値を有し、かつ、創造の可能性を付与する伝達及び表現のための機材及び設備の活用を奨励すること。

芸術的創造
10 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)芸術家、作家及び作曲家による自由な創造活動に必要な基礎を提供する社会的、経済的及び財政的条件を整備すること。
(b)(a)の目的のため、著作権及び芸術作品の保護に関する法的措置に加え、次のものを定めること。
 (i)すべての職業芸術家に適用する社会的措置及び芸術的創造の集合体(演劇、映画等)のみならず個々の芸術家をも援助するための財政措置
 (ii)特に、公共の建造物の建設及び装飾に対する奨励金、褒賞、国の依頼及び芸術家の雇用に関する政策
 (iii)文化の普及(展覧会、演奏会、舞台芸術等)のための政策
 (iv)個々の芸術家、集団及び機関に対し、これらが成果を挙げることが義務付けられているとの感を有することなく、多目的の製作の場において芸術的及び文化的更新を助長するような実験及び研究を行う機会を与えるような研究政策
(c)芸術的創造を援助する基金の設置を考慮すること。
(d)芸術的創造を職業とするすべての人の努力を奨励し、いかなる差別もなく青少年が自己の才能を開発することを援助し及びすべての芸術分野について職業的訓練を行う専門的な機関を強化すること。
(e)芸術作品の質の高い複製の発行、文学作品の出版及び翻訳並びに作曲の出版及び演奏のための機会を促進すること。
(f)芸術家をすべての段階において文化政策の作成及び実施に関与させること。
(g)創造的な芸術家の自由を保障するため、芸術作品を評価することを求められる団体の多様性、その構成員の定期的な更新及び財源の多様性を確保すること。
(h)芸術愛好家団体に対し技術的、行政的及び財政的援助を与え並びに非職業芸術家と職業芸術家との間の協力を支援すること。

文化産業
11 加盟国又は権限のある当局は、利潤追求という基準が文化活動に決定的な影響を与えないことを確保すべきであり、また、文化政策の策定に当たり、民間の文化産業と交渉し、交渉を補足し又はこれに代わるイニシアチブをとるための機関を設置すべきである。

普及
12 加盟国又は機限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)文化財及び文化的役務に対し補助金を支給し及び褒賞を与える政策を採用するとともに、特に商企業によって無視されている文化の分野においては、文化財及び文化的役務が普及され、できる限り広範囲の社会的階層の人々がそれらに接近することができることを確保する条件を整備すること。
(b)適切な補助金及び契約に関する政策によって、国、地域及び地区における文化組織の活動を一層発展させる措置をとること。
(c)文化の所産の受動的消費よりもむしろ、大衆の積極的な心構えを導く普及形態を優先させること。

調査
13 加盟国又は権限のある当局は、文化政策に関する斬新な措置を採用することができるように、特に、現在行われている活動を評価し、新たな試みを奨励し及びできる限り広範囲の視聴者に対するその効果を研究することを目的とする文化的発展に関する研究事業を助長すべきである。

B 文化活動に関する政策
伝達
14 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)個人、大衆、創造的な芸術家、活動家及び製作者の間の対話及び思想の不断の交流を奨励するため会議、討論会、公演会、グループ活動、祭典のような伝達のためのすべての機会を促進すること。
(b)運動行事、自然探究活動、芸術及び審美教育、時事的行事並びに観光旅行のもたらす文化的な接触及び交流の機会を発展させること。
(c)通常の社会的媒体(共同体、機関、労働組合その他の組織)が、できる限り広範囲の自己の構成員に文化活動に対する認識を増大させ、かつ、文化活動を身近なものとさせるために、情報及び自由な文化的発表を促進することをそれらの媒体に奨励すること。
(d)フィードバック及び個人の創意を引き起させるのに適した情報を提供すること。
(e)可動的及び弾力的な普及形式を準備することによって書物への接近を容易にし、かつ、図書館又は閲覧室等の場所に同様の趣旨を徹底させること。
(f)多くの部門の人々が、過去及び現在の最も優れた文化(適当な場合には口承文化を含む。)に接することができるよう視聴覚手段の広範囲にわたる利用を促進すること。口承文化の収集に当たっては、視聴覚手段が確実に役立つことができる。
(g)番組の選定及び作成につき発言の機会を与えることにより、大衆、芸術家及び製作者の間の思想の恒久的な交流の創設を助長することにより、また、地方及び共同体の段階における聴衆による利用のための製作センターの設置を奨励することによって、聴衆の積極的な参加を促進すること。
(h)伝達手段が、聴衆の極めて広い多様性に留意し、広範囲な選択を提供するために番組の数及び種類を増加し、大衆を対象とする番組の文化的質を向上させ、すべての聴衆が利用することができる言葉及び文字を選択し、宣伝及び広告を目的としたものでなく情報及び教育を目的とするものを優先させ並びに特定の大量生産が有する潜在的に有害な影響から国の文化を保護するよう特に考慮することを奨励すること。
(i)芸術家、大衆通報媒体及び社会の間の相互の影響並びに文化的番組の作成とその影響との間の関係に関する比較研究及び調査を促進すること。
(j)生涯教育を目的として若年期から視聴覚言語のための手引並びに伝達手段及び番組を識別力をもつて選択するための手引を与えること。
(k)聴衆が現代社会において流通している多量の情報を受け入れ、選択し及び理解することができるように、聴衆の特性に適合する教育及び訓練の形態を一般的な方法で発展させること。

教育
15 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)家庭、学校、共同生活、職業訓練、継続的教育及び文化活動にわたる生涯教育の観点から、文化計画と教育計画とを組織的に連関させること。
(b)大衆が共同生活に参加することができるような社会経済的条件を整備する必要に留意して大衆の知識への接近を援助し並びに教育の制度、内容及び方法を必要に応じて変化させること。
(c)芸術家及び文化活動に責任を有する者の貢献を求めることにより、すべての段階における文化教育及び芸術訓練の計画を組織的な方法で発展させること。

青少年
16 加盟国又は権限のある当局は、青少年にその要求及び希望に応ずる広範囲の文化活動を提供し、青少年が社会的責任感を得ることを助長し、青少年の自国及び全人類の文化的遺産への関心を喚起し並びに友好、国際理解及び平和の精神に基づく文化協力のため、人道主義の理想を奨励するとともに、広く認められた教育上及び道徳上の諸原則を尊重すべきである。

環境
17 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)住民又はその代表が都市計画事業の準備及び実施、現在居住している建造物の変更、歴史的地区、歴史的町及び史跡の保全並びに近代的環境へのそれらの統合に密接に関与することができるように共同の行動のための機関を設置すること。
(b)政府間機関が(a)の問題に関して採択した国際文書を考慮に入れること。

IV 国際協力

18 加盟国又は権限のある当局は、次のことを行うべきである。
(a)国際法の一般原則、国際連合の理想及び目的、国家の主権及び独立、相互の利益並びに文化の平等を十分に考慮し、2国間及び多数国間の文化協力並びに地域的及び国際的な文化協力を強化すること。
(b)大衆の他国民に対する尊敬並びに国際的な暴力行為並びに武力、支配及び侵略に基づく政策を支持することに対する拒否を奨励すること。
(c)人々の間の理解の増進に役立つ思想及び文化価値の普及を奨励すること。
(d)各文化の価値への一層深い理解を増進するために文化交流を発展させ及び多様化すること、特に、開発途上にある国の文化の独自性への尊重の証左としてその文化への注意を喚起すること。
(e)文化事業の実施並びに共同の努力によって創作される作品の製作及び普及に積極的に寄与するとともに、文化の分野で活動している機関と個人との間の直接的な接触及び交流並びに文化発展に関する研究を発達させること。
(f)非政府機関、大衆のための社会文化的団体、労働組合、社会的及び職業的団体、婦人団体、青少年運動、共同組合並びにその他の団体(例えば、芸術家協会)が国際的文化交流及びその発展に参加することを奨励すること。
(g)人物の交流においては、各国の専門家間の協力の結果もたらされる相互の向上を考慮に入れること。
(h)文化に関する初歩的学習及び情報に対する要求は、その目的が文化の多様性及び平等性の認識に人の注意を向けさせるために他国民の文明及び文化への関心を喚起することを目的とする場合には、一層強くなることを留意すること。
(i)文化への接近の機会が国際社会全体にとつて意義を有するように、選ばれた標語が普遍的な文書に挿入され又は再挿入されることを確保すること。
(j)新聞、書籍及び視聴覚媒体、特に、テレビジョンが、諸国家間の相互理解及び他国の文化的成果の国民への周知に寄与することができることを考慮すること並びに平和、人権、基本的自由、人間相互間の友情並びに国際の理解及び協力の理想を促進するために伝達手段(衛星通信を含む。)の使用を奨励し、これにより、諸国民間の憎悪、戦争、武力及び人種差別の思想に対し、これらの思想がもたらす不幸な結果及び青少年に与える悪影響を考慮して、それぞれの国の文化がこれらの思想に抵抗することができるようにするために必要な条件を整備すること。
(k)国際的交流及び文化協力を促進することを目的とする活動のための適当な財政的便宜を供与すること。

V 連邦国家又は国家連合

19 この勧告の実施に当たって、連邦又は国家連合の憲法を有する加盟国は、この勧告に関する権限がその構成国、州等のそれぞれに与えられている場合には、この勧告を実施することについて拘束されないものとし、この場合における当該連邦又は国家連合の政府の唯一の義務は、その構成国、州等にこの勧告を通報し、かつ、その実施を勧告するものとする。

  以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、ナイロビで開催されて1976年11月30日に閉会を宣言されたその第19回会期において、正当に採択した勧告の真正な本文である。

  以上の証拠として、我々は、署名した。

  総会議長
  タイタ・トエット
  事務局長
  アマド=マハタール・ムボウ


お問合せ先

国際統括官付