文化遺産及び自然遺産の国内的保護に関する勧告

文化遺産及び自然遺産の国内的保護に関する勧告(仮訳)

1972年11月16日 第17回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関の総会は、1972年10月17日から同年11月21日までパリにおいてその第17回会期として会合し、
 生活条件が加速度的に変化する社会においては、自然との接触及び過去の世代が残した文明の証跡との接触を保つことのできる適切な生活環境を保存することが人類の均衡及び発展のために欠くことができないものであり、このため、地域社会において文化及び自然の遺産に積極的な役割を与えること並びに現代の所産、過去の価値あるもの及び自然の美を総合政策の中に統合することが適当であることを考慮し、
 社会生活及び経済生活へのそのような統合があらゆる段階における地域開発及び国家計画の基本的なものの一でなければならないことを考慮し、
 現代に特有な新たな現象によってもたらされた特に重大な危険が、人類の遺産の本質的な構成要素であり、かつ、現代及び将来の文明の充実と調和のある発展の源泉である文化及び自然の遺産を脅かしていることを考慮し、
 文化及び自然の遺産を構成するいかなる物件も、独自の存在であること並びにいずれの物件の消失も、当該遺産にとって決定的な損失となり、かつ、取り返すことのできない貧困化を招くこととなることを考慮し、
 領域内に文化及び自然の遺産が存在する国が人類のその遺産を保護し及びきたるべき世代へそれを伝承することを確保する義務を有することを考慮し、
 世界の諸国の文化及び自然の遺産についての研究、認識及び保護が諸国民の相互理解に資することを考慮し、
 文化及び自然の遺産が調和を得た一体をなし、その構成要素が不可分の関係にあることを考慮し、
 共同で案出されかつ作成された文化及び自然の遺産の保護のための方針が、加盟国間における永続的な相互作用をもたらし及びこの分野における国際連合教育科学文化機関の活動に決定的な影響を及ぼすことを考慮し、
 総会が、考古学上の発掘に適用される国際的原則に関する勧告(1956年)、風光の美と特性の保護に関する勧告(1962年)及び公的又は私的の工事によって危険にさらされる文化財の保存に関する勧告(1968年)等の文化及び自然の遺産の保護のための国際文書をすでに採択していることに留意し、
 これらの勧告に規定された基準及び原則の適用を補足し並びに拡大することを希望し、
 この会期の議事日程の第23議題である文化及び自然の遺産の保護に関する提案を審議し、
 第16回会期において、この問題が加盟国に対する勧告の形式により国際的に規制されるべきことを決定したので、
 1972年11月16日にこの勧告を採択する。

I 文化遺産及び自然遺産の定義

1 この勧告の適用上、「文化遺産」とは、次のものをいう。
    記念工作物 建築物、記念的意義を有する彫刻及び絵画作品(洞窟住居及び銘文を含む。)
   並びに考古学上、歴史上、美術上又は科学上特別の価値を有する要素、要素群又は構造物
   建造物群 独立した又は連続した建造物群で、その建築性、均質性又は風景内における位置により、歴史上、美術上又は科学上特別の価値を有するもの
   遺跡 地形学上の区域で、人工と自然との結合の所産であり、その美観により又は考古学上、歴史上、民族学上若しくは人類学上特別の価値を有するもの
2  この勧告の適用上、「自然遺産」とは、次のものをいう。
   無機的及び生物学的生成物又は生成物群から成る自然の記念物で、観賞上又は科学上特別の価値を有するもの
   地質学的及び地文学的生成物並びに貴重な又は脅戚にさらされている動物及び植物の種の生息地及び自生地である明確に限定された区域で、科学上又は保存上特別の価値を有するもの
   自然地区又は明確に限定された自然の区域で、科学上、保存上若しくは自然景観上又は人工と自然の結合の所産として特別の価値を有するもの

II 国の方針

3 各国は、自国の法令に定めるところに従い、文化及び自然の遺産の効果的な保護、保存及び整備活用を確保するため、あらゆる科学的、技術的及び文化的手段その他の手段の調整及び活用を主たる目的とする方針をできる限り設定し、発展させ及び適用する。

III 一般原則

4 文化及び自然の遺産は、一つの富であり、その富が領域内に存在する国は、自国民及び国際社会全体に対し、その富の保護、保存及び整備活用について責任を負う。加盟国は、それらの責任の遂行に必要な措置をとる。
5 文化又は自然の遺産は、全体で均質な統一体であると考えるべきであり、本質的に重要な価値を有する作品のみでなく、時の経過とともに文化的又は自然的価値を生じた作品は、それほど重要でない要素であっても文化又は自然の遺産に含まれる。
6 5のいかなる作品及び要素も、原則として、その環境から切り離してはならない。
7 加盟国は、文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用の究極の目的が人類の発展にあるので、文化及び自然の遺産を国の発展の障害とみなさず、できる限り、そのような発展の決定的な要因とするような方向にこの分野における活動を指導する。
8 文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用は、国及び地方の地域開発計画及び総合計画の基本的なものの一とみなすべきである。
9 文化及び自然の遺産の保存及び社会生活におけるその位置づけのために積極的な方針を発展させるものとする。加盟国は、そのような方針を作成し及び適用するため、すべての公的及び私的な関係機関が協調的な活動を行なうように措置をとる。文化及び自然の遺産に関する予防的及び是正的措置は、これらの遺産を構成する文化的又は自然的性格に従い、現在及び将来を通じて国民の社会的、経済的、科学的及び文化的生活の一部となる機能をそれらの物件に与えるためのその他の措置によって補足される。文化及び自然の遺産の保護を行なうにあたっては、文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用に関連するあらゆる研究分野における科学技術の成果を活用する。
10  公的当局は、できる限り、文化及び自然の遺産の保護及び整備活用のための財源の増大を図るものとする。
11  保護及び保存のためにとられる措置については、地域の住民に協力を求めるものとし、特に、文化及び自然の遺産に対する尊重及び監視について意見及び援助を求める。また、民間からの財政的援助についても考慮する。

IV 機構

12 加盟国においてそれぞれ事情が相違するので、すべての加盟国が同一の機構を採択することは不可能であるが、一定の基準が遵守されなければならない。

公的な専門の機関
13 加盟国は、公的な専門の機関がまだ設置されていない場合には、自国にとって適当な条件で、次の事項を効果的に実施するための1又は2以上の公的な専門の機関を自国の領域内に設置する。
  (a)自国の文化及び自然の遺産を保護し、保存し及び整備活用するため並びにこれを社会生活の不可欠な要素とするため、あらゆる手段を開発し、かつ、実施すること。まず第一に文化及び自然の遺産の保護目録を作成し、及び適当な資料センターを設置すること。
  (b)認定、保護、保存及び統合のための計画を作成し並びにそれらの計画の実施を管理する学術職員、技術職員及び事務臓員を必要に応じて養成し及び募集すること。
  (c)文化及び自然の遺産の保存に関する技術的問題の研究のため、各分野の専門家の間の緊密な協力を図ること。
  (d)文化及び自然の遺産の保存に関連して生ずるすべての科学的問題の研究のため、研究施設を利用し又は新たに設置すること。
  (e)所有者又は占有者が必要な修復工事を実施し並びに建造物を美術的及び技術的に最良の状態に維持することを確保すること。

諮問機関
14専門の機関は、文化及び自然の遺産に係る措置の策定にあたって諮問機関の助言を受ける。諮問機関には、専門家、主要な保存団体の代表及び関係行政機関の代表を含む。

団体間の協力
15 文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用について責任を有する専門の機関は、他の公的機関、特に、地域開発計画、主要な公共事業、環境並びに経済的及び社会的計画について責任を有する公的機関と連絡して、当該公的機関と同等の資格で事業を遂行する。文化及び自然の遺産に関する観光開発計画は、当該遺産の本来の性格及び重要性をそこなうことがないように慎重に作成するものとし、関係当局間の適当な連絡を確立するための措置がとられる。
16 大規模な事業については、専門の機関の間で不断の協力を図るものとし、これに伴う種種の利害を考慮して、一致した決定が行なわれるように調整するための措置をとる。当該事業は、当初から共同で計画されるものとし、紛争の解決のための手続が制定される。

中央、連邦、地域及び地方の団体の権限
17 文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用に係る問題が特別の知識を必要とし、時には、困難な選択を伴うため、その処理が困難であるという事実及びこの分野の専門職員が不足しているという事実を考慮して、保護のための措置の策定及び実施に関するすべての事項についての責任は、各国の現状に応じた妥当な均衡を基礎として、中央又は連邦の当局及び地域又は地方の当局の間で分担する。

V 保護のための措置

18 加盟国は、できる限り、自国の領域内に存在する文化及び自然の遺産の保護を確保するために必要な科学的、技術的、行政的、法的及び財政的措置をとる。それらの措置は、当該国の法令及び機構に従って決定する。

科学的及び技術的措置
19 加盟国は、文化及び自然の遺産が損壊した場合にはその修復に多額の経費を要することとなるので、このような事態を回避するため、その遺産の周到なかつ不断の維持を図る。このため、加盟国は、定期的に点検することによってその遺産を規則的に監視することを規定する。加盟国は、また、保存及び整備活用のための周到な実施計画を作成し、利用しうる科学的、技術的及び財政的手段に応じて、漸進的にすべての文化及び自然の遺産に及ぼす。
20 いずれの作業についても、その重要性に応じ、作業前又は作業中に徹底的な研究を行なう。この研究は、関係分野の専門家の協力を得て又はその者によって実施される。
21 加盟国は、特に重大な危険にさらされている文化及び自然の遺産については、保護を強化するため、効果的な方法を研究する。その方法を研究するにあたっては、科学上、技術上及び美術上の問題の相互関係を考慮し、かつ、実際に適用される処置を決定することができるようにする。
22 前記の文化及び自然の遺産は、さらに、適当と認めるときは、従前の用途に復旧するものとし又は、文化的価値が減少しないことを条件として、その遺産に新たなかつ一層適切な機機能を与える。
23 文化遺産に係るすべての工事は、その遺産の伝統的な外観を保存すること及びその物件と周囲との間に存在する量又は色彩の関係を損じるおそれのある新築又は改装が行なわれないようにその遺産を保護することを目的とする。
24 時間及び人間によって記念工作物とその周囲との間に作られた調和は、最も重要なものであり、原則として、阻害され又は破壊されてはならない。周囲の物件を除去することによって記念工作物を孤立させることは、原則として認めてはならない。また、記念工作物を移動することは、緊急の理由により正当であると認められる例外的な場合を除くほか、意図してはならない。
25 加盟国は、現代文明の特徴である工業技術の発達に伴う悪影響をこうむらないように自国の文化及び自然の遺産を保護するための措置をとる。この措置は、機械及び交通機関によって生ずる衝撃及び振動の影響に対処するように立案する。また、汚染の防止及び天災その他の災害からの防護並びに被害を受けた文化及び自然の遺産の修理のためにも措置がとられる。
26 加盟国は、建造物群の機能回復については一様に規制することができないので、当該建造物群が存在する地域の社会的及び文化的要求を正確に把握するため、適当な社会科学的調査を行なう。機能回復工事を行なうにあたっては、当該建造物群において人間が活動し、発展し及び進歩することができるように特に考慮を払う。
27 加盟国は、自然の遺産の科学的価値を評価し、一般公開に伴う影響を明確にし並びに遺産が重大な損傷を受けることを回避し及び動植物の保存のための十分な根拠を確保するように相互関係を監視するため、自然公園、野生動植物保護地、避難施設、レクリエーション地区その他これらに類する保護地のような自然の遺産の地質学的及び生態学的研究及び調査を実施する。
28 加盟国は、交通、通信、視聴覚技術、自動的情報処理その他の技術の進歩並びに文化及びレクリエーションの傾向に従い、自然資源を損傷することなく、学術研究及び公衆のため、各地区の性格に応じて最上の便益が与えられるように努力する。

行政的措置
29 各加盟国は、自国の文化及び自然の遺産の保護目録(特に重要ではないが、環境から切り離すことができない物件であってその性格を形成することに役だっているものを含む。)をできる限りすみやかに作成する。
30 文化及び自然の遺産の調査の結果は、適当な形式で編集し、かつ、定期的に更新する。
31 加盟国は、計画のあらゆる段階において文化及び自然の遺産が積極的に認められることを確保するため、当該遺産に関する地図及びできる限り完全な資料を作成する。
32 加盟国は、本来の目的に使用されていない歴史的建造物群に対して適切な用途を見いだすように努力する。
33 歴史的及び美術的価値を有する建造物群の保護、保存、整備活用及び機能回復の計画を作成する。この計画には、周辺の保護地帯、土地を使用するための条件、保存すべき建造物及びその建造物の保存の条件を定める。この計画は、当該地区が属する都市及び地方の総合的国土計画中に組み入れられなければならない。
34 機能回復計画には、歴史的建造物に与えられる機能及び機能回復地区と周辺の市街地との間の関係を明示する。機能回復地区を設定する場合には、地方当局及びその地区の住民の代表と協議する。
35 保護地区内に存在する記念工作物の現状を変更する可能性がある工事については、工事に先だち、文化及び自然の遺産の保護のための専門の機関の了承を得たうえで、都市及び地方の国土計画について責任を有する当局の認可を求める。
36 建造物群の内部変更及び現代的設備の取付けは、居住者の快適な生活のために必要である場合には、古住届群の本来の特徴を決定的に変更しない限り、認められる。
37 加盟国は、自国の必要に応じた保存のための体制を確立するため、自国の自然遺産目録に基づき、短期的及び長期的計画を作成する。
38 加盟国は、土地の生産的利用と矛盾しない遺産の保存のための政策につき、非政府団体及び土地の所有者に対して指導を行なうため、諮問機関を設立する。
39 加盟国は、工業又はその他人間の活動によって荒廃した自然の区域を原状に回復するため、政策及び計画を作成する。

法的措置
40 文化及び自然の遺産は、重要性に応じて個別に又は全体として、各国の権限及び法的手続に適合した法律又は規則によって保護される。
41 保護のための措置は、必要に応じ、文化及び自然の遺産の保存を強化し並びにその遺産の整備活用について便宜を与えるため、新たな規定によって補足される。このため、保護のための措置を遵守する義務を民間の所有者及び公的当局(文化及び自然の遺産の所有者である場合)に対して課する。
42 保護地区又はその周辺に存在する物件については、専門の機関の認可を得ることなく、外観に影響を及ぼすおそれのある新規の建築、取りこわし、変形、模様替え又は伐採を行なうことができない。
43 産業開発又は公的及び私的な工事の許可に関する法令は、保存のための現行の法令を考慮に入れて作成する。文化及び自然の遺産について責任を有する当局は、必要な保存のための工事を促進するため、所有者に対する財政的援助を行ない、又は所有者に代わって職権によって工事を遂行させることができる。この場合において、当局は、経費のうち所有者が通常支払うべき部分について返済を受けることができる。
44 公的当局は、当該物件の保存に必要とされる場合には、国内法令に従い、保護の対象である建造物又は自然地区を収用することができる。
45 加盟国は、はり紙、ネオンサインその他これらに類する広告、看板、野営、電柱、高圧鉄塔及び電線又は電話線の架設、テレビジョン用アンテナの取付け、各種の車両の運行及び停車、掲示板の設置、街頭用備品等の設置その他一般に文化若しくは自然の遺産内に設備を施し又は当該遺産を占有することについて規制する。
46 文化又は自然の遺産を保護するためにとられる措置の効力は、所有権の変更にかかわりなく継続する、保護の対象である建造物又は自然地区を譲渡する者は、取得者にその物件が保護の対象である旨を通報しなければならない。
47 保護の対象である記念工作物、建造物群若しくは遺跡又は考古学的、歴史的若しくは美術的価値を有するそれらの物件を故意に破壊し、き損し又は外観を汚損した者に対しては、各国の法令及び合法的な権限に従って刑事罰又は行政罰を科する。さらに、不法な発掘に使用された機材を没収することができる。
48 保護の対象である文化又は自然の遺産の保護、保存又は整備活用につき、その他の有害な行為を行なった者に対しても、刑事罰又は行政罰を科する。この制裁には、影響をこうむった区域を科学的及び技術的基準に従って原状に回復させる規定を含む。

財政的措置
49 中央及び地方の当局は、自己が所有する保護の対象である物件を維持し、保存し及び整備活用するため並びにその他保護の対象である物件を所有する者(公私を問わない。)が行なうそのような作業に対し財政的援助を与えるため、できる限り、保護の対象である文化又は自然の遺産の重要性に応じた一定の比率の額を自己の予算に計上する。
50 民間で所有する文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用に要する経費は、できる限り、当該遺産を所有する者又は利用する者が負担する。
51 保護の対象である物件の民間の所有者に対しては、認められた基準に従ってその物件の保護、保存、整備活用及び機能回復のための工事を遂行することを条件として、前記の経費につき、税を減免し、補助を与え、又は有利な条件による貸付けを行なうことができる。
52 保護の対象である文化及び自然の地区の所有者に対しては、必要なときは、保護に係る事業の結果生じた損失について補償することを考慮する。
53 民間の所有者に与えられる財政的便益は、公園、庭園及び遺跡への立入り、自然地区、記念工作物又は建造物群の内部(全部又は一部)の公開、写真撮影その他公共の利益のための一定の条件を遵守することを要件とする。
54 大規模な公的又は私的な工事によって危険にさらされる文化及び自然の遺産を保護するため、公的当局の予算に特別の資金を確保しておく。
55 加盟国は、利用できる財源を増大するため、民間、特に商工業企業から贈与、寄付及び遺贈を受けることができる法人格を与えられた公的機関として、「文化及び自然の遺産のための基金」を1又は2以上設立することができる。
56 文化及び自然の遺産の特定の物件を取得し、修復し又は維持するための贈与、寄付又は遺贈を行なう者に対しても、税を減免することができる。
57 加盟国は、自然及び文化の遺産の機能回復工事を促進するため、改善及び修復のための貸付け等の特別の措置をとるものとし、また、当該地域の地価の投機的騰貴を回避するために必要な規制措置をとる。
58 機能を回復した建造物又は建造物群に居住する低所得者を移転させるような困難な事態を回避するため、その居住者が引き続き住居を保持することができるように賃貸料の増額に対する補償を考慮する。その補償は、暫定的なものとし、また、引き続き居住する者が実施された工事に伴って増加した経費を支払うことができるようにその者の収入に基づいて決定される。
59 加盟国は、低利かつ長期返済の条件で所有者に対して貸付けを行なう「貸付基金」(公的機関及び民間の金融機関が支援する。)を設立することにより、文化及び自然の遺産のためのあらゆる種類の事業に対する融資について便宜を与える。

VI 教育的及び文化的活動

60 大学、あらゆる段階の教育施設及び生涯教育のための施設は、美術史、建築、環境及び都市計画に関する正規の課程、講義、セミナー等を設ける。
61 加盟国は、文化及び自然の遺産に対する一般大衆の関心及び尊重の念を広く喚起するため、教育的普及活動を行なうものとし、また、一般大衆に対し文化又は自然の遺産の保護の実態を周知させ並びにその遺産が内包する価値についての認識及び尊重の念を植え付けるために絶えず努力する。このため、必要に応じてあらゆる種類の情報手段を使用する。
62 文化及び自然の遺産が有する大きな経済的及び社会的価値を考慮して、保護、保存及び整備活用の根本的な動機となっている当該遺産の文化的及び教育的価値をさらに高揚し及び強化する措置をとる。
63 文化及び自然の遺産に係るすべての努力は、人間及びその発展に比例した環境、建築様式又は都市計画の証跡として当該遺産に内在する文化的及び教育的価値を考慮に入れて行なう。
64 遺産の保護に関して国及び地方の当局に自己の権能を十分に発揮させ、それらの当局を支援し及び必要に応じてそれらの当局のために資金を獲得するため、任意団体を設立する。この団体は、郷土史研究団体、郷土愛護協会、地方開発委員会、観光団体等と連絡をとるものとし、また、文化及び自然の遺産の観光及び解説付きの見学を組織する。
65 文化及び自然の遺産の機能回復のために行なわれている作業について説明するため、情報センター及び展示施設を設置し、並びに展覧会を開催する。

VII 国際的協力

66 加盟国は、文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用について協力するものとし、望ましい場合には、国際機関(政府間機関及び非政府間機関を含む。)の助力を求める。多数国間又は二国間の協力は、慎重に調整され、次の措置がとられる。
  (a)情報並びに科学及び技術に関する刊行物を交換すること。
  (b)特別な問題に関するセミナー及び作業部会を組織すること。
  (c)研究費及び旅費を供与し、学術職員、技術職員及び事務職員を派遣し、並びに設備を提供すること。
  (d)若年の研究者及び技術者に対し、建築工事、考古学上の発掘及び問題となっている自然地区の保存作業への参加を許可することにより、科学及び技術に関する海外研修の便宜を与えること。
  (e)獲得した経験の普及を目的として、大規模な保存、発掘、修復及び機能回復のための工事につき、加盟国間で調整すること。

  以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、パリで開催されて1972年11月21日に閉会を宣言されたその第17回会期において、正当に採択した勧告の真正な本文である。

  以上の証拠として、われわれは、1972年11月23日に署名した。

  総会議長
  萩原徹
  事務局長
  ルネ・マウ

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国際統括官付