文化財の不法な輸出、輸入及び所有権譲渡の禁止及び防止の手段に関する勧告

文化財の不法な輸出、輸入及び所有権譲渡の禁止及び防止の手段に関する勧告(仮訳)

1964年11月19日 第13回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関の総会は、1964年10月20日から11月20日までパリでその第13回会期として会合し、
 文化財が文明及び諸国民の文化の基礎的な要素を構成し、かつ、文化財に対する親しみが諸国民の間に理解と相互認識とをもたらすものであることを認め、
 各国がその領域内に存在し、かつ、その国の遺産を構成する文化財を不法な輸出、輸入及び所有権譲渡の結果として生ずる危険から保護することがその国の義務であることを考慮し、
 これらの危険を避けるため、各加盟国が自国及びすべての国の文化財を尊重する道徳的義務をますます自覚することが重要であることを考慮し、
 これらの目的が加盟国間の緊密な協力なくしては達成しえないものであることを考慮し、適切な手段の採用を奨励するための及び当該目的の達成上不可欠な国際的連帯性の気運を促進するための措置を執るべきであると確信し、
 この会期の議事日程の第15.3.3議題である文化財の不法な輸出、輸入及び所有権譲渡を禁止し及び防止するための国際的な規制の提案を審議し、
 第12回会期において、一方においてこの提案につき国際条約をできる限りすみやかに採択するよう希望され、他方において、同提案が加盟国に対する勧告の形式により国際的水準において規制されるべきことを決定したので、
 1964年11月19日にこの勧告を採択する。
 総会は、加盟国が、それぞれの領域内において、この勧告に定める原則及び基準の実施に必要な立法その他の措置を執ることにより、次の規定を適用することを勧告する。
 総会は、加盟国が、この勧告を文化財の保護にたずさわる当局及び機関に通知することを勧告する。
 総会は、加盟国が、この勧告を実施するために執った措置について、総会が定める期限及び様式により総会に報告することを勧告する。

I 定義

1  この勧告の適用上、「文化財」とは、国の文化的遺産にとって大きな重要性を有する動産及び不動産、たとえば、美術品、建造物、文書、図書その他芸術的、歴史的又は考古学的に価値のある財産、民族学的資料、動植物の模式標本、科学的収集、図書及び古文書(音楽に関するものを含む。)の重要な収集等をいう。
2  各加盟国は、その領域内に存在する文化財のうちいずれのものがその重要性にかんがみこの勧告に定める保護を受けるべきであるかを決定するため、最も適当と認める基準を採用するものとする。

II 一般原則

3 各加盟国は、その文化財を滅失のあらゆる危険から保護するため、1及び2に定める文化財の輸出に対して効果的な管理を行なうための適切な措置を執るものとする。
4 文化財の輸入は、その文化財につき輸出国の権限のある当局が制限を解除するまでは許可されないものとする。
5 各加盟国は、文化財の所有権の不法な所有権譲渡を防止するため、適切な措置を執るものとする。
6 各加盟国は、前記の諸原則の適用に関する規則を定めるものとする。
7 6の規定に従って各加盟国が定める規則に反するいかなる輸出、輸入又は所有権譲渡も、不法とみなすものとする。
8 博物館及び文化財の保存にたずさわるあらゆる施設及び機関は、不法な輸出、輸入又は所有権譲渡を通じて得られた文化財を購入しないものとする。
9 加盟国は、文化財の適法な交換を奨励し、かつ、促進するため、輸出若しくは所有権譲渡を許可しえない物につき、これと同一の種類の物の売却若しくは交換により、又はそのあるものを貸与若しくは寄託により他の加盟国の公共収集施設の利用に供するよう、努力するものとする。

III 勧告される措置

文化財の認定及び目録の作成
10 各加盟国は、前記の一般原則の一層効果的な適用を確保するため、1及び2に定める文化財で自国の領域内に存在するものを認定するための手続を可能な範囲において立案し、かつ、適用し及びこれらの文化財の目録を作成するものとする。文化財がこの目録に記載された場合においても、その所有権にはいかなる変更も生じない。特に、私有の文化財は、目録に記載された後においても、私有物である性格を失わない。この目録は、制限的性格をもつものではない。

文化財の保護のための機関
11 各加盟国は、文化財の保護を適当な公的機関に所管させることを定め、かつ、必要なときは、文化財の保護のための国内機関を設置するものとする。すべての加盟国が憲法の規定及び伝統の相違並びに資力の不同のため画一的な機構を採用することが不可能であるとしても、文化財の保護のための国内機関の設置が必要であると考えられる場合には、次の共通の原則を採用するものとする。
 a 文化財の保護のための国内機関は、可能な限り、国営の行政機関、又は国内法令に従って運営され、かつ、その任務を効果的に遂行するために必要な行政的、技術的及び財政的手段を有する団体の形をとるものとする。
 b 文化財の保護のための国内機関の任務には、次の事項が含まれる。
 (i)国の領域内に存在する文化財を認定し、並びに適当なときは、10の規定に従って文化財目録を作成し、及び保管すること。
 (ii)IIの規定に従って文化財の輸出、輸入及び所有権譲渡を管理するにあたって他の権限のある機関と協力すること。文化財の輸出の管理は、輸出国が当該文化財の輸出を許可している旨の適当な証明書を輸出に際しその文化財に添附するならば、相当の簡素化が期待される。輸出の適法性について疑義が生じた場合には、文化財の保護を所管している機関は、その輸出の適法性を確認するため、権限のある機関に対し照会するものとする。
 c 文化財の保護のための国内機関は、権限のある当局に対し、文化財の保護のためのその他の適切な立法上及び行政上の措置(不法な輸出、輸入及び所有権譲渡の防止のための制裁を含む。)に関する提案を提出する権限を与えられるものとする。
 d 文化財の保護のための国内機関は、専門家に対し、技術的問題についての助言及び係争事件についての解決策の提案を求めることができるものとする。
12 各加盟国は、特に重要な文化財を購入するに必要な手段とするため、必要な場合には、基金を設定し、又は他の適当な財政的措置を執るものとする。

二国間又は多数国間の協定
13 加盟国は、必要な又は望ましい場合には、文化財の輸出、輸入及び所有権譲渡から生ずる諸問題を解決するため、また、特に、当該協定の当事国の領域から不法に輸出され、かつ、他の当事国の領域内に存在している文化財の復旧を保証するため、二国間又はたとえば地域的政府間機関のわく内で多数国間の協定を締結するものとする。このような協定は、適当なときは、さらに広範な協定(たとえば文化協定)の範囲に含めることもできる。

不法行為の摘発についての国際協力
14 必要な又は望ましい場合には、前項の二国間又は多数国間の協定には、文化財の所有権譲渡の申出があった場合には、各国の権限のある機関が当該文化財について、盗難、不法な輸出若しくは所有権譲渡又は輸出国の法制上不法と認められるその他の行為を経たものと認める根拠がないことを、たとえば11 に定める証明書の提示を求めることにより、確認しなければならない旨の条項が含まれるものとする。疑わしい申出及びこれに関する詳細は、すべての関係機関に通報するものとする。
15 加盟国は、この勧告の対象となる分野において、それぞれが得た経験の成果を交換することにより、相互に援助するよう努めるものとする。

不法に輸出された文化財の復旧又は返却
16 加盟国、文化財の保護のための機関、博物館その他一般に、すべての権限のある機関は、不法に輸出された文化財の復旧又は返却を保証し、又は容易にするため、相互に協力するものとする。この復旧又は返却は、当該文化財が所在する国で施行されている法律に従って実施されるものとする。

文化財の亡失の場合の公示
17 文化財が亡失した場合には、その文化財の回復を請求している国の要請があったときは、適当な公示方法により、その亡失を一般に周知させるものとする。

善意の購入者の権利
18 各加盟国は、必要なときは、不法に輸出された文化財であって、輸出国の領域に復旧され又は返却されるべきものの善意の購入者に対し、損害賠償又は公平な補償を受ける可能性をその国内法令又はその国が当事者となる国際条約により保証することを定めるため、適切な措置を執るものとする。

教育的活動
19 文化の普偏的な性質及び人類の文化的遺産の利益をすべての人に享受させるための交流の必要性を考慮に入れた国際協力の精神において、各加盟国は、すべての国の文化的遺産に対する国民の関心及び尊重の念を喚起し、かつ、啓発するために措置を執るものとする。このような活動は、権限のある機関が、教育関係機関並びに報道機関、通信及び情報の普及のためのその他の機関、青少年及び成人教育団体並びに文化活動にたずさわる集団及び個人と協力して行なうものとする。

  以上は、パリで開催され、1964年11月20日に閉会を宣言された第13回会期においてて国際連合教育科学文化機関の総会が、正当に採択した勧告の正文である。

  以上の証拠として、われわれは、1964年11月21日に署名した。

  総会議長
  ノライル・M・シサキアン
  事務局長
  ルネ・マウ

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