博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告

博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告(仮訳)


1960年12月4日 第11回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関は、1960年11月14日から12月15日までパリにおいて開催された第11回総会において、
 その憲章に規定されている同機関の権能の1つが大衆教育と文化の普及に清新なる刺激を与え、人種・性又は経済的・社会的差別なしに、教育の機会均等の理想を推進せしめるため人々の間に協力を醸成することにより、人々の間に相互理解を増進するための仕事に協力し、且つ知識を保存し、増大させ、さらに普及することであることを考慮し、
 博物館はこの課題の達成に効果的に貢献しうることを考慮し、
 あらゆる種類の博物館は娯楽と知識の根源であることを考慮し、
 さらに、博物館は美術品、学術資料を保存し、且つそれらを公衆に展示することにより、各種文化についての知識を普及し、かくして諸国民間に相互理解を増進することを考慮し、
 その結果、国民のあらゆる階層、特に勤労階級に博物館を利用せしめるよう奨励するため、あらゆる努力が払わるべきであることを考慮し、
 世界の産業構造の進展とともに、人々が従来以上の余暇を持つこと、またかかる余暇が総ての人の利益と文化的向上に利用さるべきであることを考慮し、
 博物館がその恒久的な教育上の使命を遂行し且つ、勤労者の文化的欲求を満足せしめるために斟酌すべき新たな社会的環境とその要請とを認め、
 総会議題17.4.1にすべての人に博物館を利用せしめるための最も有効な方法に関する提案が上程されており、
 本提案を加盟各国に対する勧告の方式をもって国際規制の対象とすべきことを第10回総会において決議したので、
 1960年12月4日に、本勧告を採択する。
 総会は、加盟各国が、それぞれの国内で、本勧告に明示されている原則ならびに基準に効果を与えるために必要なあらゆる法的又は他の措置を講じて、下記規定を適用することを勧告する。
 総会は加盟各国が、本勧告を博物館を主管する当局又は、団体ならびに博物館自体に周知せしめるよう勧告する。
 総会は加盟各国が、総会によって決定される時期及び書式によって、加盟各国が本勧告に基づき行なった措置につき総会に報告するよう勧告する。

I 定義

1.本勧告の趣旨にかんがみ、「博物館」とは、各種方法により、文化価値を有する一群の物品ならびに標本を維持・研究かつ拡充すること、特にこれらを大衆の娯楽と教育のために展示することを目的とし、全般的利益のために管理される恒久施設、即ち、美術的、歴史的、科学的及び工芸的収集、植物園、動物園ならびに水族館を意味するものとする。

II 一般原則

2.加盟各国は、各自国内の博物館が経済的又は社会的地位に関係なく、すべての人に利用されるようあらゆる適切な措置をとる。
3.このため、適用されるべき措置の選定に当っては、加盟各国内にある種々の形態の博物館管理方式を考慮する。例えば、この措置は、博物館が国有且つ国によって管理されているか、国有ではないが、国から定期的又は随時財政援助を受けているか、あるいは、国が学術的、技術的又は行政的能力内で博物館管理に参加しているかによって異なるであろう。

III 博物館における資料の配置と観覧

4.収集品は、明瞭な展示方法、簡潔な情報を与える説明書や貼札の系統的配置、利用者が必要とする説明が与えられる案内書や折り本の出版、各種階層の参観者に適応した註釈づきの案内人による規則的な観覧の編成によってすべての階層の人々が容易に鑑賞できるようにすべきである。即ち、案内人は適当な資格をもつものであり、本勧告第16節に掲げられている団体の機関を通じて任命されたものが望ましい。録音した解説の再生装置の慎重な利用もありうる。
5.博物館は、各種階層のすべての観覧者の都合、特に勤労者の余暇時間を斟酌して、毎日都合のよい時間に開館さるべきである。
博物館は、地方環境や習慣に応じて連日休むことなくかつ毎夜勤労時間後も開館されているよう、交替制をとれるだけの十分な数の管理職員を持つべきである。
博物館は照明、暖房等必要な設備を持つべきである。
6.博物館は容易に利用され、慰安手段を持ってできるだけ魅力的でなければならない。施設の特徴は尊重され、且つ展示物の見学者が、それによって鑑賞を妨げられないことを条件として、休憩所、食堂、喫茶室その他の類似施設が、一般大衆のために、なるべく博物館構内(庭、露台、適当な地階等)又は博物館にごく近接した場所に設けられるべきである。
7.観覧料はできる限り無料とすべきである。観覧料が常時無料でなく、または、それが名目的なものに過ぎなくとも、小額観覧料を徴収することが必要であると認められる場合には、各博物館の観覧料は、少なくとも1 週間に1 日あるいはこれに相当する期間無料とすべきである。
8.観覧料が課せられる場合、これを証明する公の方法がある国においては、低所得者ならびに大家族構成員に対しては、これを免除すべきである。
9.特定の博物館又は1群の博物館に何回でも入場できるようにする一定期間の予約割引観覧料のような、特別な便宜が常時利用を奨励するために提供される。
10.可能な場合はいつでも、教育的・文化的計画に参加する学童や成人の団体、博物館職員、及び本勧告第17 節に述べられている団体課成員に対しては観覧料は無料とすべきである。

IV 博物館の広報

11.加盟各国は、地方当局又は自らの文化活動事業部あるいは旅行事業部のいずれかを仲介として、かつ国の教育ならびに国際関係とも関連し、その権限の範囲内で博物館ならびにその展示会の観覧者数の増大を奨励するためあらゆる手段を講ずるべきである。
12.a 加盟各国は、全国的又は地域的旅行社に、博物館の観覧者数の増大を図ることを主な目的の1つとするよう勧奨し、この目的に対しその事業活動及び財源の一部を供与するように勧奨するべきである。
     b 博物館は、上記旅行社の奉仕を正式に活用し、かつ博物館の社会的、文化的影響を伸展せしめるため自ら行なう努力にこれを協力させるよう勧誘さるべきである。

V 地域社会における博物館の地位と役割

13.博物館は、各地域で知的、文化的中枢として奉仕すべきである。よって、博物館は地域社会の知的、文化的生活に貢献すべく、地域社会はこれに対し博物館の活動と発展に参画する機会が与えられるべきである。このことは特に、その規模と不つり合いなほど重要性を持つ小都会及び村落による博物館に適用さるべきである。
14.博物館と、職業団体、労働組合、商工業企業の社会事業部のような地域団体との間に緊密な関係を樹立すべきである。
15.博物館と、ラジオ、テレビジョン放送の機関、企業との間の協力が、最大の安全な注意を払いつつ、博物館展示物を成人及び学校教育のために利用できるよう確立され又は改善さるべきである。
16.博物館が学校及び成人教育に対してなしうる寄与を認め、かつ促進すべきである。
さらに、博物館の寄与は、地方の教育指導者とその収集物の性質により、学校が特に関心をもつ博物館との間に公的かつ規則的連繋を樹立する任務をもつ適当な機関の設置により組織化される。
この協力は下記形態をとることもできる。
   a 各博物館が、博物館の教育目的への利用を組織化するために館長監督下に職員として教育専門家をおくこと。
   b 博物館が、教員の尽力を求める教育担当の部をおくこと。
   c 館長、教員で構成する合同委員会を、博物館を最も有効に教育目的に利用することを保証するため、地方または地域水準で設立すること。
   d 教育上の要請と博物館の資源を調整するためのその他の措置をとること。
17.加盟各国は、特に法制上の便宜を供与することにより、博物館に精神的、物質的支持を与え得る博物館の友好団体又は類似団体の設立及び発展を促進すべきである。これらの団体はその目的を達成するのに必要な権限と特権とを付与されるべきである。
18.加盟各国は、博物館の各種活動に青少年が参加することを奨励するため博物館クラブの発達を勧奨すべきである。

  上記は、パリにおいて開催され、1960年12月15日閉会が宣せられた国際連合教育科学文化機関第11回総会により正当に採択された勧告の正文である。

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