資料2 ESDの更なる推進に向けて(ESD特別分科会報告書素案)

1. はじめに

 大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済成長と人口増加に伴い、地球上では、気候変動が進み、これに伴う洪水や干ばつ、生物多様性の喪失、資源の枯渇、食料生産への影響、貧困の拡大等が進んでいる。世界の平均気温は、今世紀末までの間に現在より最大4.8度上昇するとの予測が出されるなど、状況はさらに緊急性を帯びており、我々が豊かな地球の資源を将来の世代にまで残すためには、持続可能な社会の実現に向け、直ちに一人一人が自らの行動を変革し、これらの課題に取り組むことが求められる。
 こうした危機感のもと、国際社会で「持続可能な開発(Sustainable Development)」の必要性の声が高まる中、2002年に開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)における我が国の小泉首相(当時)からの提案を受け、同年の第57回国連総会において、満場一致で2005年から始まる10年を「国連持続可能な開発のための教育の10年(国連DESD, United Nations Decade of Education for Sustainable Development)」とすることが決議された。
 この10年の間、ユネスコを主導機関として、世界各国においてESDの取組が進められてきた。我が国も、「国連DESD」の提唱国として、国内におけるESDを推進すると同時に、ユネスコへの信託基金の拠出等を通じて、国際的なESDの推進にも貢献してきた。さらに、「国連DESD」の最終年である2014年11月には、「ESDに関するユネスコ世界会議」を日本でホストし、153か国・地域から76名の閣僚級を含む政府関係者、国連機関、研究者、学校関係者等各種ステークホルダーのESD実践者等、およそ3000名の参加を得た。ここでは、これまでの各ステークホルダーのESDの取組の成果を評価するとともに、「国連DESD」の後継プログラムである「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」のもと、ESDを更に強化し、そのための行動を起こすことを宣言する「あいち・なごや宣言」が採択された。
 GAPにもあるように、「持続可能な開発」は、政治的合意、財政的な動機付け、技術的な手段のみによって実現できるものではなく、一人一人の考え方や行動の変容が求められる。この「変容」の実現に向けて教育が果たすべき役割は大きい。特に、持続可能な社会を構築する上で取り組むべき、環境、エネルギー、防災、国際理解に関する様々な課題は、個々に見ても非常に複雑である上に、それぞれの課題を取り巻く状況は、目覚ましく変化を続けている。さらに、持続可能な社会を構築していくためには、一つ一つの課題について個別に考えるだけではなく、総合的に物事を考えることが必要になる。また、グローバル化が進展し、環境、経済、社会のあらゆる側面において日本の課題と諸外国の課題の相互の関係が深まっており、課題の解決策を検討するに当たっては、地球規模で物事を考えることがますます重要となっている。
 こうした考え方を身に付け、さらに、それを行動に移すことができる人材を育成するのがESDであり、知識や技能の習得に加え、人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機会均等、環境の尊重等、持続可能な開発に関する価値観のほか、体系的な思考力、代替案の思考力(クリティカル・シンキング)、データや情報の分析能力、コミュニケーション能力の育成やリーダーシップの向上を目指すものである。こうした資質・能力は、OECDが提唱するキー・コンピテンシーとも一致するものであり、今後ますますその重要性が高まっていくと考えられる。我が国としても、GAPを踏まえ、国内でのESDの取組を一層推進するとともに、これまでの国内における成果や成功事例を積極的に国際社会に発信し、世界のESDの取組を引き続きけん引していくことが重要である。
 今回のESD特別分科会での議論は、国際的な動向も踏まえ、我が国として、より具体的なESDの実践を推進していくための方策について行ったものである。本報告書においては、まず「国連DESD」の成果を振り返り、それぞれの分野での課題を整理した上で、今後の推進方策について論ずることとする。

2.これまでのESDの成果

 「国連DESD」を通じて、国、地方公共団体、学校、地域においてESDの認知度が広がり、各ステークホルダーの取組において一定の成果を上げている。

(1)学校教育における取組 

1)教育振興基本計画や学習指導要領における持続可能な社会の構築に向けた教育の位置付け
 日本政府は、教育施策の基本的な方針等を定める教育振興基本計画の重要な理念の一つとしてESDを位置付けるとともに、5年間に取り組むべき施策の一つとしてESDの推進を盛り込んだ。平成25年に改訂された第2期教育振興基本計画では、より明確にESDの推進が位置付けられている。
 また、現行の小・中・高等学校等の学習指導要領においても、世界や我が国の社会が持続可能な発展を遂げるために、様々な課題に協力しながら積極的に対応していくといった視点が盛り込まれており、全国の小・中・高等学校等において、持続可能な社会の構築に向けた教育が推進されている。

2)学校現場における横断的・総合的な指導の実践
 ESDの実践に当たっては、教科間・教員間の連携が重要であるため、ESDに取り組む多くの学校で、教科・領域を越えた横断的・総合的指導を進めるための年間計画やESDカレンダー(注釈1)等に基づき、計画的にESDが展開されている。また、ユネスコスクールの約60%はESDの実践に関し、地域の社会教育機関、NPO等との連携を行っている(注釈2)。こうしたESDの実践を通じ、「学年や学級を越えた活動が行われるようになった」、「地域の人材やNPOが教育活動に関わってくれるようになった」という学校の変革も報告されている(注釈3)。
 さらに、ESDの実践を通じて学校間の交流、地域とのつながり、生徒間のつながり等が広がることで、子供たちの学習に対する興味・関心が向上したり(注釈4)、子供たちの学びが深まり、また、自分たちの課題を解決していこうとする意識が高まり、自己肯定感が育成された等、子供の意識の変容が見られたという報告がある(注釈5)。
 また、総合的な学習の時間等を活用してエネルギー等の身近な題材を取り上げ、ESDを実践することで、児童生徒の思考力・判断力・表現力等が向上するとともに、児童が主体的に、互いに協力しながら工夫して話し合い活動や発信の活動に取り組めるようになったという報告がされている(注釈6)。
 さらに、教科横断的な授業を実施することで、授業の充実・改善や教職員間の授業改善が深まったとの報告もされている(注釈7)。
 加えて、テーマを定め、その課題について教科横断的に考え、分析し、結果を発表するという学習プロセスを繰り返し行うことで、児童生徒の視野が広がり、社会貢献や地域ボランティアへの意欲が増したという報告もある(注釈8)。

事例1.多摩市立多摩第一小学校の取組例(総合的な学習の時間におけるESDの取組) 

 持続可能な社会づくりに必要な意欲や問題解決に向けて行動する力の育成を目指し、小学校の発達段階を踏まえて、実践に向けた能力・態度の育成を図ることに重点を置き、ESDで育む能力と態度を「問題解決力」「つながり」「意欲」に設定した。特に、問題解決力を育成するため、「問題把握」「体験」「課題設定」「仮説」「計画・立案」「検証」「結果・結論」「発信・実践」を繰り返す「多摩一型問題解決学習」(下図参照)をESDの実践に活用している。児童は活動に主体的意欲的に取り組んでいる。
 評価は、児童の意識調査やポートフォリオの分析等を行った。評価結果からは、ESDによって児童の主体性、思考力や判断力が向上したこと、また、児童が協力して調査活動を行ったり、話し合い活動、他校への発信の活動に積極的に取り組めるようになったことが分かった。さらに、児童の自己肯定感が高まった。全体として小学校6年間のESDによって環境保全など問題解決に意欲を高めることができた。
 加えて、教員が問題解決学習の指導方法を習得したことで、ESDを充実させるためには、教科の活用型指導と総合的な学習の時間との横断的指導が重要であることに気付き、教科の指導にも問題解決学習を活用することで、毎日の学習活動全体を児童主体の学び活動へと改善することができた
【具体的な活動例】 

 

1・2年生

3年生 

4年生

5年生

6年生

 1学期 

栽培
自然体験
昔遊び
地域と関わる 

地域探検
多摩川探検
地域調べ 

多摩川学習
他校とweb交流
福祉学習

環境学習
稲作稲刈り
世界の米料理
他校と交流

 国際理解
エネルギー学習
海外校と交流

 2学期

 3学期

 総合発表会

         
 ・1、2年生は生活科の時間にネイチャーゲームを活用した自然体験を多く取り入れ、不思議なことや自然物の特徴に気づく活動を行う。栽培や地域の自然や町の発見活動にも取り組む。
・3年生は、総合的な学習の時間に、安全面での十分な配慮を行いつつ、手作りいかだで多摩川下りを行う。いかだが壊れたら、その理由を話し合い、改善していかだを完成させることの楽しさを知る。
・また、農家や商店を訪ねてインタビューによる調査方法を体験するとともに、デジタルカメラを使った記録やポスターセッションによる発表を行うことで、調査方法や発表方法の基礎を学ぶ。
・4年生は、川の調べ方を外部講師に聞き、多摩川の水質調査などの体験活動を行った上で、グループで調査結果の予想、調査方法の決定、計画書の作成、実地調査を行い、結果をまとめる。その上で、多摩川沿いの他の学校とテレビ会議を活用して交流を行い、調べたことを発表し合う。
・5年生は、地域の農家の指導の下、米作り体験をする。収穫した米は6か国の留学生と調理して世界の米料理を楽しみ、食文化の多様性を学び他校に発信する。今後はブラジルの日系人小学校との交流を計画している。加えて、環境問題について外部講師の話や調べ学習の成果をもとに、環境問題への自分の考えをまとめる。これらは6年生のエネルギーや交流の活動へとつなげる。

・6年生はエネルギーの活動と交流活動を行う。様々な発電方法を調べて発表したり、風力発電機を自作して、生活の中で節電することの大切さを学ぶ。さらに、日本や世界のエネルギー問題の未来を考え、20年後の多摩市のエネルギーについてのアイディアをまとめて発表するとともに、ウェブ会議でスウェーデンの小学校と交流でエネルギーについて発表し合う。

 多摩市立多摩第一小学校の取組例

 

事例2.岡山市立京山中学校の取組例(教科横断的なESDの取組)

 「京山から世界の見える学校へ ~グローカルな視点を活かした授業・活動で育む思いやり・夢・志 共育~」を学校経営方針に据え、全教育活動を通じたESDへの取組やESDカレンダーによる育てたい力を明確にした指導、教科横断型で実施しているESDの視点を入れた授業などを行っている。ESDの視点でカリキュラムを再構築し、「探究活動」「平和学習」「人権学習・国際理解学習」「キャリア学習」「環境学習」から構成される総合的な学習の時間の京山中学校版学習指導要領解説や評価規準表を作成している。この際、六つの構成概念と七つの能力・態度を用いてESDの視点の明確化を図った。さらに、学校評価アンケートを1年に2回実施し、振り返りをするとともに改善策を提示している。さらに、教科の授業や他教科との連携をESDの視点で拡張した単元学習プログラムを構築することで、教科の授業改善に結び付けている。
 ESDの視点でプログラムを再編したことやESDカレンダーの作成で、各教科で教える内容の重複を避けたり、各教科間での授業内容・指導方法の共有ができるようになった。また、探究活動の充実を図ることで、生徒の思考力・判断力・表現力等の育成につながった。また、生徒の視野が広がり、社会貢献や地域ボランティアへの意欲が増した。さらに、教科指導をESDの視点で整理することで、他教科の授業実践を学び合い、授業スキルを高めることができ、授業改善だけでなく、教科を超えた学習連携が深まり、教員の発想力の向上や意識の変容につながった。

【具体的な学習活動】

○世界の全ての子供に教育を(外国語・学活・社会の連携事例)

(1)重視する能力・態度の例
 ・批判的に考える力…客観的な情報に基づいて貧困問題や経済格差などを捉え、よりよい解決策を考えることができる。
 ・多面的・総合的に考える力…世界で起きている問題を多面的に捉え、それを日本あるいは自分との関わりで考えることができる。

(2)単元の計画(抜粋)≪総時数8時間(学活1 社会科2 英語科5)≫
 1.アフリカのプランテーションについて知る(社会科)
 2.世界の教育の現状を知る(DVD鑑賞)(英語科)
 3.貿易ゲームをして世界の不均衡に気づく(学活)
 4.マララさんのスピーチを聞き自分の考えを書く(英語科)

事例3.広島県立賀茂(かも)高等学校の取組例(教科横断的なESDの取組)

 「防災」をテーマとして、教科を横断し単元内容につながりを持たせる指導を実施することで、生徒に知の総合を促し、思考力・判断力・表現力等を高めさせることを目的としている。実践の結果、「他者と協力する態度」「計画を立てる力」「つながりを尊重する態度」の3つの能力・態度について高まったことが確認できた。また生徒の思考力・判断力が高まり、連携しようとする態度に向上が認められた(注釈9)。
広島県立賀茂(かも)高等学校の取組例

 
3)ESDの推進拠点であるユネスコスクールの拡充
 文部科学省及び日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコスクールをESDの推進拠点として位置付け、ユネスコスクールの質量両面における充実を図ってきた。現在ユネスコスクールは939校まで増加し、また、1県を除き、全ての都道府県にユネスコスクール加盟校が見られるまでになった。さらに、市の設置する全ての学校がユネスコスクールに加盟している東京多摩市、福岡県大牟田市等では、市ぐるみで面的な広がりをもってESDが進められている。
 これらのユネスコスクール同士の交流を促進し、優良事例を共有するために、年に一度、ユネスコスクール全国大会を開催したり、ユネスコスクールESD優良実践事例集を作成し、平成26年に開催されたESDに関するユネスコ世界会議において発信をした。また、ASPUnivNet加盟大学による地域におけるユネスコスクールの研修会も開催されている。
 また、ユネスコスクールとしての活動の質の確保の観点から、日本ユネスコ国内委員会は平成24年にユネスコスクールガイドラインを策定し、「ユネスコスクールとして大切なこと」、「ESD推進拠点として大切なこと」を明確にし、全国のユネスコスクールに周知を行った。
 さらに、平成26年度から、教育委員会及び大学が中心となり、ユネスコ協会及び企業等の協力を得つつ、ESDの推進拠点であるユネスコスクールとともに形成するコンソーシアム事業を実施し、全国10か所のコンソーシアムに対して財政支援を行っている。(「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」)

(2)ASP UnivNetの形成

 国内の17の大学が自発的に組織するネットワークであるユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASPUnivNet)を中心に、大学によるユネスコスクールの申請や活動を支援する、世界に例を見ない取組を進めている。また、ESDを実践する教員の教育実践力を高めるための教員教育に取り組んでおり、ワークショップや研修会の開催を通じて、教員間のESDに関する情報交換や優れた授業実践例の共有を推進してきている。

(3)自治体、社会教育施設、NGO、企業等による多様なESDの実践 

 学校、公民館、NGO等の地域の多様な主体が、協議会等の形でゆるやかに連携しながら、地域ぐるみで、地域に根ざしたESDの取組が進められている。また、NGO/NPO、企業等による、地域の特性に合った多様なESDの実践が多数行われている。

<地域における協議会形成の事例:岡山市>

 岡山では「国連ESDの10年」が開始される前から市が中心となって、市民・企業の参加の下での環境パートナーシップ事業という環境活動が行われていたこと、京山公民館を中心とした環境活動が行われていたこと、地域のNGOや自治体による国際交流・国際貢献活動が行われていたこともあり、これらの取組を合わせて、平成17年からRCE(注釈11)におけるESDのプロジェクトとして開始した。また平成20年12月のASPUnivNetの設立、平成22年頃からのユネスコスクールの取組が加わり、現在では、学校教育と社会教育の間でバランスの取れたESDの活動が実施されている。
 その結果、ESDに取り組む人や学校、団体、組織が平成17年の24団体から26年には208団体に増加し、対話の場の増加や連携の気運醸成が見られた。さらに、大学、公民館、教育委員会などが主体的にESDを推進する体制が整備され、また、公民館の事業方針の中にESDが入り、市内全ての公民館が地域におけるESD推進拠点として様々な取組を実施するようになった。 

3.ESDの取組の推進に関する課題

(1)学校現場におけるESDの普及に関する課題

 「国連ESDの10年」を通じて、ESDは、特にユネスコスクールを中心として取組が推進されてきたが、持続可能な社会の構築は、社会全体で取り組むべき課題であり、ユネスコスクールに限らず、全ての学校において取り組むべきものである。一方で、より広く学校現場でESDを推進するには以下のような課題がある。

・ESDの概念が抽象的であり、また、環境、平和、国際理解、人権等、多岐にわたる分野を包含するものであることから、一般的に十分に理解を得られているとは言い難い。
・学校教育におけるESDの普及が十分に進まない理由として、「教職員のESDに関する理解が不十分」を挙げたユネスコスクールは全体の75%、「ESDの概念がわかりにくい」を挙げたユネスコスクールは約50%であった(注釈11)。
・ESDが、既存の教科等で学んだ知識を活用し、課題の解決に向けて生徒が自ら考え、行動することを促すものであり、教科間のつながりや地域の人とのつながりを大切にするものであるという趣旨が十分に理解されず、付加的なものとして捉えられることが多い。
・学校現場でどのような学習活動を行えば良いのかについての十分な情報がなかったり、適切なカリキュラムの編成上の工夫がなされていなかったりするために、体系的・継続的な学習がなされず、ESDとなり得る活動を行っているにもかかわらず、ESDの目指す資質・能力の育成につながらないことも多い。
・ESDに熱心な教員がいても、異動等によりその取組が継続されなかったり、校内における理解が十分に得られず、教科横断的な取組が困難となったりするなど、必ずしもESDが学校内で組織的に実施されていない。
・学校現場での効果的なESDの実践のためには、教職員の意識・指導力の向上が不可欠であるが、ESDに関する教員研修が十分ではない。

(2)ユネスコスクールの活動の活性化に向けた課題

 ESDは、全ての学校において実践されるべきものであるが、特にユネスコスクールにおいては、これまでの経験・実績も踏まえ、ESDの実践に関するモデル校となるよう、更なる活動の活性化及び質の向上を図ることが求められる。また、国際的なネットワークとしてのユネスコスクールの特性を生かし、より積極的に国内外のユネスコスクール間の交流を行うことが求められる。

・ユネスコスクールにおいて、これまでも優れた実践が行われてきているが、こうした実践事例を効果的に発信・共有できる場が限られている。
・ユネスコスクールは国内におけるESDの推進拠点であり、今後も、更なるESD活動の質の確保が必要である。
・国内のほかのユネスコスクールとの交流を予定しているユネスコスクールは約46%と半分に満たない。
・海外のユネスコスクールとの交流を予定しているユネスコスクールは16%にとどまっている。
・海外との学校間交流をする際に、海外の学校を見つけるための仲介役が必要。また、通訳・翻訳などの語学的なサポート、交流の際に必要な設備が必要。
・活動の質を上げるための企業等との連携が必要だが、コネクションがない。
・各地域のユネスコスクールが協働して活動を行う際に、活動の経費、教職員の旅費等の支援が必要。
・ユネスコスクールでの学校間交流について、どのような交流を望んでいる学校かが分からないため、お互いのニーズが合う学校が見つかりにくい。
・他のユネスコスクールとの連携を通じて、具体的にどのような活動をしたらよいかが分からない。
・ユネスコスクールのうち公式ウェブサイトを利用した学校が53.6%にとどまっており、公式ウェブサイトの活用率が低い。

(3)大学におけるESDの実践及びASPUnivNetの役割強化に関する課題

 ASPUnivNetが形成された一方で、ESDの実践についてより実質的な支援を大学から期待する声もある。さらに、地球規模の課題が複雑化・高度化する中で、その解決に向けて大学に期待される役割は大きく、大学自身がESDを実践することが必要である。具体的には以下のような課題がある。

・大学での各専門分野での学びの前提として、地球規模の課題の解決に向けた分野横断的・統合的なアプローチの必要性を理解してもらうことが必要である。
・ESDの実践に関し、必ずしも大学と学校との連携が構築されていない。
・ユネスコスクールのうちASPUnivNetの支援や協力を受けた学校が23.6%にとどまっており、必ずしも十分にその役割を果たしているとは言えない。
・ユネスコスクールからは、学校での学習活動を行うに当たっての語学面、設備面での支援に加え、各学校の特色を生かしたより効果的なユネスコスクール活動の進め方についての指導・助言や、学習プログラム作りや理論と実践を結び付けた評価方法等についての助言等、より実質的な支援を求める声もある。
・ESDを取り入れた教員養成を行う大学はまだ限定的であり、ASPUnivNetに加盟する大学を中心として、大学間の連携が一層図られる必要がある。
・サステナビリティ・サイエンスに取り組む研究者や大学、国連大学のRCE等との連携がまだ十分とはいえない。

(4)地域における多様な主体のESDへの参画・連携に関する課題

 地域ぐるみでESDを推進する地域が複数あるものの、地域間の取組状況の差が大きい。地球規模の課題の解決に向けて、地域レベルでの取組は不可欠であり、また、学校がESDを実践するに当たっても地域との連携は不可欠であることから、より多くの地域でESDに取り組んでもらうための方策を検討することが必要である。具体的には以下のような課題がある。

・学校、NGO、企業、社会教育施設等がそれぞれに行っているESDの取組をつなげるための情報等が十分でないため、多様な主体間での連携が必ずしも容易でない。
・地域におけるESDの取組を持続可能なものにしていくために必要な若者の参加が十分でない。
・地域でESDを担い得る人材が限られている。

 (5)国際的なESDの推進に関する課題

 昨年11月に日本で開催された「ESDに関するユネスコ世界会議」において、「国連ESDの10年」の後継プログラムとしてのグローバル・アクション・プログラム(GAP)の開始が正式に発表された。また、本年9月の国連総会で採択される予定のポスト2015年開発アジェンダの教育に関するターゲットにESDが含まれる見込みである。これらを受け、今後、「国連ESDの10年」の提唱国である日本として、国際的なESDの推進にどのように貢献していくのかを検討する必要がある。具体的には以下の課題について検討する必要がある。

・GAP信託基金等、ユネスコの枠組みを通じて、グローバルなESD事業を実施し、引き続き国際的なESDの推進においてリーダーシップを発揮することが必要。
・ドイツ等のESD先進国との協調・連携方策の検討が必要。
・ポスト2015年開発アジェンダの教育に関する目標にESDが盛り込まれるよう、引き続き日本としてもその重要性を発信するとともに、今後の国際的なインディケーターの策定に貢献することが必要。

4.今後のESDの推進方策

 以上の課題は相互に関連するものであり、対応策を検討するに当たっては、課題ごとに個別に検討するのではなく、包括的な検討が必要である。このため、本報告書では、(1)ESDを広めるための取組、(2)ESDを深める(実践力を高める)ための取組、(3)国際的にESDを推進するための取組、に分類して推進方策を検討することとする。なお、これまでのESDの推進に当たっては、NGO等による地域における取組が貢献してきた部分も大きく、今後も引き続き積極的な取組が期待されるところであるが、本報告書においては主として学校を核とし、大学や地域との連携を促しながら、ESDを推進するための方策を議論することとする(注釈12)。

(1)ESDを広めるための取組

 「国連ESDの10年」を通じて、ユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付け、その拡充に取り組んだ結果、平成18年に20校であったユネスコスクール加盟数は、世界最多となる939校(2015年6月現在)まで増加し、47都道府県中1県を除き、全ての都道府県においてESDの推進拠点となるユネスコスクール加盟校がみられるようになるなど、一定の広まりがあったといえる。
 一方、様々な広報活動を通じてESDの認知度向上を図ってきたものの、世論調査の結果によると、ESDの認知度は約2%と極めて低く、ESDを更に普及させることが必要である。特に、基礎的な知識・技能の習得に加え、実生活や実社会の中でそれらを活用しながら、自ら課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に探究し、それを実践する力は、変化が激しい今の時代において、全ての人に求められるものである。これまでのESDの成果に見られるように、こうした力の育成に資するESDをより広く普及させることが重要である。その際、広く一般に向けた広報活動を引き続き行うと同時に、より具体的に対象を絞った方策を検討することが必要である。

1)学校現場でのESDの推進に向けたESDの具体的イメージの提示 
 これまで、ユネスコスクールをESDの推進拠点としてESDの推進を進めてきたところ、ユネスコスクールだけがESDに取り組めばよいと誤って理解されている場合も見受けられたが、ユネスコスクールに限らず、全ての学校におけるESDの実践を推進するため、ESDの実践の具体的な学習活動やその準備の進め方等のイメージを示す「ESD実践の手引き(仮称)」を作成することが必要である。その際、この手引き作成の目的が、単一のモデルを押し付けることではなく、学校現場における多様なESDの実践を促すために、学習活動の例を、その準備のプロセスも含め具体的に示すものであるということを明確にすることが必要である。また、日々学校において実施されている授業とESDの実践との関係性について分かりやすく説明することが必要である。その上で、以下の事項について、学校現場での学習活動を計画する際に活用しやすい形で示すことが必要である。

・ESDのねらい
・ESDを通じて重点的に育成する資質・能力
・ESDを実践することの意義及び実践することにより得られる効果
・育成したい資質・能力やテーマに応じた具体的な学習活動の事例
・指導方法、学習評価、指導体制等

 学校においてESDを通じて育成したい資質・能力については、ESDの目標をより具体的に示すものとして、例示をすることが適当である。その際、発達段階にも留意しつつ、国立教育政策研究所が例示している「持続可能な社会づくりの構成概念」、「ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・態度」や、環境教育指導資料の「環境教育を通して身に付けさせたい能力や態度」等も参考にしつつ、環境、国際理解、防災等の個別の分野に特有の資質・能力を例示するかどうかも含めて検討することが必要である。また、教科間のつながりをどのように整理するかについても検討が必要である。

<参考>国立教育政策研究所の枠組み

【持続可能な社会づくりの構成概念】(例)
1. 多様性
2. 相互性
3. 有限性
4. 公平性
5. 連携性
6. 責任性   など 

 【ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・態度】(例)
1. 批判的に考える力
2. 未来像を予測して計画を立てる力
3. 多面的,総合的に考える力
4. コミュニケーションを行う力
5. 他者と協力する態度
6. つながりを尊重する態度
7. 進んで参加する態度       など

 (学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究〔最終報告書〕(国立教育政策研究所作成)より) 


参考:環境教育を通して身に付けさせたい能力や態度(例)
(環境教育指導資料【幼稚園・小学校編】)

・環境を感受する能力
・環境に興味・関心をもち、自ら関わろうとする態度
・問題を捉え、その解決の構想を立てる能力
・データや事実、調査結果を整理し、解釈する能力
・情報を活用する能力
・批判的に考え、改善する能力
・合意を形成しようとする態度
・公正に判断しようとする態度
・自ら進んで環境の保護・保全に寄与しようとする態度 


 さらに、手引きに紹介された事例が日常の実践とかい離したものとならないよう、どのようにして単元を作っていくか等、実践の準備プロセスも含めて示すことが重要である。また、指導方法、学習評価、指導体制等については、現在の中央教育審議会における初等中等教育における教育課程の基準等の在り方についての議論の結論を踏まえ、必要に応じて、更なる充実を図ることとする。
 このほか、手引きの作成に当たっての留意点として、以下のものが挙げられる。

・ESDは特定の教科等においてのみ実践されるものではなく、学校全体のカリキュラムを通じて実践されるべきものであること。
・ESDは、地域の特性に合った課題について実践することが効果的であり、学校によった内容・形態において多様であること。

 さらに、ESDの普及が十分に進まない理由として、教職員のESDに関する理解が不十分であることを理由として挙げられることも多く(注釈13)、ESDに関する教員の指導力向上のための研修の充実が求められる。研修は、前述の「ESD実践の手引き(仮称)」を教材として用いる等、単にESDの重要性を認知してもらうにとどまらず、具体的な実践につながるものであることが必要である。また、管理職を含め、より多くの教員の研修への参加を促す方策を検討することが望まれる。なお、研修方法については、今年度独立行政法人教員研修センターに設置された次世代型教育推進センターとも連携しながら、より効果的な研修方法を確立することが望ましい。
 研修の実施に当たっては、例えば、独立行政法人教員研修センターや、都道府県(又は政令指定都市・中核市)教育委員会が実施している総合的な学習の時間や環境教育等に関する教員研修等、既存の研修の中でESDと親和性の高いものにおいて取り上げてもらうことも有効である。
 さらに、総合的な学習の時間、理科、社会、国際理解担当等の指導主事を含め、都道府県等教育委員会に対し、「ESD実践の手引き(仮称)」について周知するとともに、関連の研修等において活用してもらえるよう、働きかけをすることが望まれる。

2)大学におけるESDの普及 
 大学におけるESDの推進はこれまで限定的であったが、地球規模の課題の解決に向けて大学が果たすべき役割は大きく、ASPUnivNet加盟大学、ESDに関する教育・研究センター等を有する大学、ユネスコチェアを中心として、大学自身によるESDの実践を促進することが望まれる。具体的には、大学での各専門分野での学びの前提として、分野横断的・統合的なアプローチの必要性を理解させるために、大学におけるESD実践の優良事例を収集・共有することで大学においてESDの実践を促進することが必要である
 また、教員養成の中にESDを取り入れることは、ESDを広める上で効果が大きく、ASPUnivNetの加盟大学や、ESDコースを実施している大学等を中心にその在り方について議論することが望まれる。
 さらに、地球規模の課題を考えるに当たっては、サステナビリティ・サイエンスの視点が必要であり、大学におけるESDの推進を考えるに当たっては、国連大学等との連携が重要である。

3)若者の参画の促進
 地域でのESDの取組の持続可能性を確保する観点から、また、若者の参画促進はGAPの五つの優先行動分野の一つであることも踏まえ、地域におけるESDの取組への若者の参画を促進することが必要であり、ESDの分野において引き続きユースフォーラムを開催することが必要である。また、こうした若者が継続してESDに関する情報共有・発信等を行えるよう、ESDに取り組む若者のネットワークを構築することが望まれる。さらに、ESDに参画する若者が世界との接点を持つことができるよう、ESDに関するユネスコ世界会議におけるユースフォーラムの参加者との交流や、ユネスコにおける国際的な事業との連携を確保することが重要である。


(2)ESDを深める(実践力を高める)ための取組

 これまでユネスコスクールをESDの推進拠点として位置付け、その拡充に取り組んできたが、必ずしも全てのユネスコスクールにおいて、ESDを含め、ユネスコスクールとしての活動が十分になされているとは言えない。ESDを深める(実践力を高める)ためには、今後も引き続きESDの推進拠点としてのユネスコスクールの拡充を図るとともに、ユネスコスクールがこれまでの経験・実績を踏まえ、そのネットワークという特性を生かして今後の学校におけるESDの実践のモデルとなるよう、更なる活動の活性化及び質の向上を図ることが必要である。
 また、ユネスコスクールを含め、学校がESDの実践をより充実させるためには、学校での学習活動を支える大学や地域の活動の活性化が重要である。

1)ユネスコスクール間の交流の活性化に向けた支援 
 ユネスコスクールへのアンケート結果によると、7割以上のユネスコスクールが、ユネスコスクールの活動を学校経営方針等に明確に示したり、自らの学校評価の項目に盛り込み、活動の質の向上に努めたり、ESDを通じて育てたい資質・能力を明確にし、ESDの視点を取り入れて教育課程を編成するように努めたり、教科横断的な指導計画を立て、指導方法の工夫改善に努めたりするなど、組織的にESD等のユネスコ活動に取り組んでいると言える。こうした取組を通じた経験、実績をユネスコスクール間あるいはユネスコスクール以外の学校とも共有することが、更なる活動の質の向上につながるといえる。
 このためには、ユネスコスクールのネットワークとしての特性を最大限に生かし、ユネスコスクール間での情報交換、優良事例の共有等を継続的かつ効果的に行うことが望まれる。具体的には、既存のユネスコスクール公式ウェブサイトを充実させ、教員同士が「ESD実践の手引き(仮称)」を参考に行ったESDの実践や、使用した教材等をウェブサイト上で共有し、相互に活用できるような場の提供も合わせて検討することが必要である。なお、より広くESDを普及するためには、実践事例等の情報はユネスコスクール以外の学校にも共有することが求められる。
 さらに、ユネスコスクールの校長等の管理職や教員が参加し、「ESD実践の手引き(仮称)」を活用しながら相互に学び合う研修等の場が必要である。その第一歩として、これまで一年に一回、優良事例を紹介するイベントとして開催されてきたユネスコスクール全国大会を見直し、参加者間でのより活発な議論がなされる参加型の研修の場とすることが必要である。また、ESDの実践には校長等の管理職の関与が不可欠であり、こうした場への校長の参加を促進することが望まれる。
 加えて、ESDの実践は地域と密着したものであることから、これまでASPUnivNetの加盟大学が任意で行ってきた地域におけるユネスコスクール向けの研修を、より体系的に実施することが必要である
 教員等の交流は、全国大会や研修等、1回限りのイベントで終わるのではなく、日常的、継続的に行われることが重要であり、ユネスコスクールのネットワークとしての機能を強化する観点から、全国大会や研修等の機会を活用して、ユネスコスクール同士の自主的なネットワーク構築が促進されるような場を提供することが必要である。
 これらに加えて、ユネスコスクールとして期待されている活動のうち、特に国内外のユネスコスクール間での交流を行っている学校はまだ限られており、交流を促進するための方策が必要である。交流をしていない理由としては交流のための人手や財源の不足のほか、交流方法や交流の相手先が分からない等の情報不足が挙げられる。前述のユネスコスクールウェブサイトの充実や研修の場の拡充は、国内のユネスコスクール間の交流の促進にもつながるものである。
 一方、国際的な交流の立ち上げについては、語学力やノウハウ等が求められ、必ずしもユネスコスクール単独で実現できる環境が整備されているとは言えず、ユネスコスクールへの支援方策の充実が必要である。「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」(ESD推進のためのコンソーシアムの形成)は、地域における関係者間の連携や国内外のユネスコスクール等との交流を促進することを目指す事業であり、まずはこの事業を拡充し、採択事例を全国に確保するとともに、これまでの事業の実績を検証し、効果的なユネスコスクール間の交流の方法や、そのための支援の在り方について広く普及を行うことが必要である。また、ユネスコスクールとASPUnivNetの加盟大学との連携の強化も望まれる。
 このほか、国際交流のきっかけとして、日本のユネスコスクールが、ユネスコ等が行う様々な国際交流事業に参加しやすくなるよう、積極的な情報提供を行う等、支援を行うことも重要である。特に、ユネスコへの信託基金を活用したユネスコスクールが参加する事業について、日本のユネスコスクールが参加しやすい枠組みとなるよう、ユネスコと協議することが望まれる。
 また、外国のユネスコスクールとの交流や手引きを活用したESDの実践等、ユネスコスクールの優れたESDの取組への財政的な支援の可能性を含め、ユネスコスクールのうち、他のユネスコスクールやユネスコスクール以外の学校のモデル校となり得る学校を育成することが望まれる

2)ASPUnivNetを通じた学校と大学との連携強化
 「国連ESDの10年」の成果として、ASPUnivNetが形成され、大学によるユネスコスクールの支援の体制が構築された。一方、このネットワークの存在が十分に認知されていないといった課題や、より実質的な支援を期待する声もある。今後、学校においてESDの実践に取り組み、授業改善につなげていくに当たり、地域における知の拠点としての大学に期待される役割は大きく、まずはASPUnivNetの加盟大学を中心として、ESDの実践に関する学校との連携の強化を促すことが重要である。
 ASPUnivNet加盟大学においては、支援の充実に向け、ESDの実践研究を深めることが望まれる。また、ユネスコスクールへの支援の経験を生かし、求めに応じ、ユネスコスクール以外の学校の支援の行うことが望ましい。特に、「ESD実践の手引き(仮称)」を活用し、ASPUnivNetの加盟大学を中心として、地域における教員向けの研修を実施する等、この手引きを用いた学校における優れた実践の支援に取り組んでいくことが望まれる。また、国内のユネスコスクールがESDの実践活動の質を向上させ、また、外国のユネスコスクールと交流を行うためにはASPUnivNet加盟大学を中心とした大学による支援が大きな意義をもつと考えられる。
 大学と学校の連携促進を検討するに当たっては、「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」で形成されたコンソーシアムにおいて、ユネスコスクールをはじめとする学校に対して行われている大学による支援を検証し、その成果を踏まえることが必要である。また、学校におけるESDの推進に当たっては、各県や市町村の教育委員会との連携や、地域に根ざしたテーマや課題の設定が不可欠であり、こういった点に大学がどのように貢献できるかについても合わせて検討することが必要である。
 こうしたことを踏まえ、ASPUnivNetにおいて、加盟大学を中心に、学校と大学の連携を強化し、学校におけるESDの実践に関する大学による支援の在り方等について議論を開始することが望まれる。

3)学校とNGO、企業等の地域の関係者との連携強化に向けたコーディネーターの育成やネットワークの形成 
 地域の特性に合ったテーマを題材とすることが学校におけるESDの効果的な実践のためには不可欠であり、地域を巻き込みながら、開かれた実践を行うことが望ましい。また、地域を巻き込みながらESDを実践することで、児童生徒一人一人が、身近な課題に取り組み、行動を起こすことが地球規模の課題の解決につながるという自己有用感の向上につながると考えられる。地域においては、NGO等を中心に様々なESDの実践がなされており、学校でESDに取り組むに当たっては、こうした活動との連携も有効である。
 学校を中心として、地域を巻き込みながらESDを実践するに当たっては、自治体、教育委員会、大学、NGO、企業等、関係者が多岐にわたることから、学校と地域との連携をコーディネートする役割を担うコーディネーターの発掘/育成が重要である。また、社会教育主事や公民館職員などのESDに対する理解を深めるとともに、これらの地域におけるコーディネーターとの連携を図ることで、学校と社会教育現場との連携を促進することが望まれる。
 コーディネーターが学校におけるESDの実践を支援するに当たり、学校においてどのように授業の計画が立てられるか等、学校現場について最低限の知識も持つことが必要である。学校と地域をつなぐためにはどのようなスキル・知識が必要であるかを明確にするとともに、地域においてESDの実践者の取組を支援するNGO等、コーディネーターの役割を果たしている団体や個人に学校現場のニーズをより具体的に伝えることが重要であり、例えば教員と地域の関係者が一緒に参加するような研修の実施も効果的と考えられる。
 また、地域における多様な主体間の連携が促進されるよう、情報共有の在り方を検討することが必要である。環境省が、環境教育・学習の実践者に対し、各地域の特性やニーズに応じた柔軟な支援が行える体制の整備を検討しているが、こうした取組とも連携をしながら、環境教育の分野に関わらず、地域での多様なESDの実践をつなぐネットワークを形成することが必要である。

(3)国際的にESDを推進するための取組

 我が国は「国連DESD」の提唱国として、また、その最終年を飾るESDに関するユネスコ世界会議の開催国として、引き続き国際的なESDの推進に向けてリーダーシップを発揮する責務がある。特に、国連ESDの10年に続き新たな枠組みであるGAPに示された5つの優先行動分野である「政策的支援」、「機関包括型アプローチ」、「教育者」、「ユース」、「地域コミュニティー」に重点的に取り組むことが必要である。
 このため、ユネスコ総会等の場において、引き続きESDが優先課題として取り上げられるよう、ユネスコに対して働きかけを行っていくことが望まれる。また、我が国がユネスコに拠出しているGAP信託基金を活用し、ユネスコを通じて、加盟国を対象としたESD事業の一層の推進が必要である。ユネスコが事業を実施するに当たっては、我が国におけるESD推進の経験を生かし、積極的に事業へのインプットをしていくことが重要である。また、特に国内のユネスコスクールやユースがユネスコの事業に積極的に参加し、世界との接点を持つことができるよう、効果的な情報提供の在り方を工夫することが必要である。
 さらに、日本からの財政支援により、世界中のESDの実践者にとってより良い取組に挑戦する動機付けとなり、また優れた取組を世界中に広める機会を作るために創設されたユネスコ/日本ESD賞が効果的に活用されるよう、表彰された事例について、積極的に発信するようユネスコに対して働きかけ、国内外におけるESDの実践の向上につなげていくことが必要である。また、今後もこの賞が世界のESDの実践者にとっての動機付けとなるよう、機会を捉えて国内外の関係者に積極的な周知を行うことが必要である。
 ユネスコの枠組みに加え、例えばドイツやスウェーデン等のESD先進国との二国間での連携を強化し、ESD推進の方策について情報共有等を行うとともに、例えば、ユネスコスクール間での交流の促進等を検討することも望まれる。
 また、現時点においては、ポスト2015年開発アジェンダにESDが明確に位置付けられることとされているが、これが最終的にターゲットの中に盛り込まれるよう、引き続き日本としてもその重要性を発信することが必要である。また、このターゲットをモニタリングするためのインディケーターは、今後の国際的なESDの推進に当たって大きな意味をもつものであることから、ユネスコとも連携をしつつ、我が国としてもこのインディケーターの策定に積極的に貢献することが必要である。

注釈
1 教科・学年を越えた体系的・総合的な指導を進めるための「年間指導計画」
2 平成26年度ユネスコスクールアンケート
3 宮城教育大学の調査2014より
4 宮城教育大学の調査2014より
5 平成26年度国立教育政策研教育課程研究指定校事業「研究協議会資料1」の多摩市立多摩第一小学校の事例より
6 平成26年度国立教育政策研教育課程研究指定校事業「研究協議会資料1」の岡山市立京山中学校の事例より
7 6と同様
8 「ユネスコスクールESD優良実践事例集」(文部科学省/日本ユネスコ国内委員会作成)の岡山市京山中学校の事例より
9 実践後に生徒を対象としたアンケートを実施
10 Regional Centres of Expertise on Education for Sustainable Developmentの略
11 平成26年度ユネスコスクールアンケート
12 その他の分野については、現在、ESDに関する関係省庁連絡会議において議論されているESD国内実施計画の中で取り上げる予定。
13 平成26年度ユネスコスクールアンケート等

 

お問合せ先

国際統括官付