資料4 第39回ユネスコ総会について(文部科学大臣への答申案)

(案)

29受ユ国統第 号
平成29年9月 日


文部科学大臣
   林 芳正 殿

日本ユネスコ国内委員会会長
安西 祐一郎

 

第39回ユネスコ総会について(答申)


 平成29年9月8日付け29文科統第69号で諮問のありました標記のことについて、第141回日本ユネスコ国内委員会(平成29年9月12日開催)の議を経て、日本ユネスコ国内委員会は、下記のとおり答申します。


 第39回ユネスコ総会におけるユネスコ2018-2021年の事業・予算に関する審議に関する方針について


1. 第39回ユネスコ総会における基本的方針


 今次第39回ユネスコ総会は、2018-2021年事業・予算(39C/5)を策定するとともに、次期ユネスコ事務局長の承認が行われるものであり、今後のユネスコ事務局運営の方向性を決める重要なものである。
 ユネスコにおいては、我が国を含む加盟国の厳しい財政状況や、ユネスコにおける米国の資金拠出停止(分担率22%)に伴い、非常に厳しい財政状況が継続している。これを受けて、39C/5案の検討にあたっては、2015年に策定された持続可能な開発目標(SDGs)も踏まえ、その達成に向けた施策に重点的に取り組むことにより、事業の精選・重点化及び管理運営の合理化等を一層進める方向で検討されることを求める。
 次期事務局長の承認にあたっては、昨今のユネスコの「政治化」の流れを止めることのできる決断力、「世界の記憶」事業の制度改善を含め、ユネスコの本来あるべき姿を取り戻すためのリーダーシップを求めるとともに、財政、組織、及び人材登用にあたって、透明性を確保した運営が行われることを求める。
 これらを通じて、ユネスコが国連の専門機関として教育・科学・文化に関する取組の指針、方向性を示し、加盟国や国際社会を導くことが重要である。


2. 2018-2021年事業・予算案(39C/5)等に関する方針


1.総論
 1)今次総会の主要議題である39C/5案は、現中期戦略(37C/4:2014-2021)の前半4年間における事業の実施状況を踏まえ、中期戦略の達成に向けて後半4年間に重点的に行うべき課題が明確にされることが重要である。
 2)ユネスコが現在直面している財政難を、構造的な問題に対して取り組む好機と捉え、事業の精選・重点化、管理運営の合理化、及び財政の健全化等が一層進められることを求める。その際、ユネスコの各事業について、2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献の度合いを踏まえて検討を行うことが重要である。
 3)現中期戦略における包括的目標は「平和(持続的な平和への貢献)」と「持続可能な開発(持続可能な開発と貧困撲滅への貢献)」の二つに重点を置いており、引き続きこの二つの目標達成のため、他の国連機関及び国際機関と調整・連携しつつ、教育、科学、文化及び情報・コミュニケーション分野において、ユネスコが専門的知見を活かし、世界的な議論を主導することが重要である。
 4)特に、SDGs達成に向けては、持続可能な社会の構築が世界の共通目標となっている中、ユネスコは国連の専門機関として積極的に貢献していくべきであり、その点において、39C/5においてユネスコの実施事業とSDGsとの関係が整理されている点は高く評価できる。その上で、39C/5に盛り込まれる事業が、SDGs達成に向け、先進国・開発途上国のいずれにとっても有意義で実効性を持つものであることを求める。その際、SDGsの達成には、政府のみならず、民間の取組や個々人の意識改革が重要である点に留意しつつ、我が国においては、総理大臣の下に全閣僚を構成員とする推進本部を設置し、政府を挙げて取組が行われていることを強調するべきである。
 5)また、SDGs達成に向けた取組としては、個別分野での取組に加え、分野を横断した連携が重要である。我が国が提唱し、ユネスコが国連システムにおける主導機関として推進している「持続可能な開発のための教育(ESD)」と、我が国から提案した「サステイナビリティ・サイエンス」はどちらも地球規模課題に総合的な視点から取り組むものであり、引き続き重点的に推進することが重要である。

2.教育分野
教育を受ける権利は、人類の重要な権利の一つであり尊重されるべきである。経済発展に果たす教育の実利的役割を越えて、様々な指標をもって統合的な幸福、豊かさに教育がどのように貢献しているかを考え、人類共通の利益としての教育、知識の重要性を再認識することが重要である。
 1)SDGs4(教育)の実施に係る主導的役割
SDGsのゴール4は、教育に特化した目標であり、教育に関する唯一の国連専門機関であるユネスコが、ゴール4達成を主導的に推進していくことを求める。その観点からは、39C/5において、従来は分野ごとに設定されていた主要活動ライン(Main Line of Action)が、1.SDG4実施に関する加盟国の支援並びに2.SDG4-教育2030の調整及びレビュー・モニタリングの主導の2点の下に、各分野の事業が整理された点は評価すべきである。これらの事業の実施により、SDG4-教育2030ステアリング・コミッティー等の世界レベルでの教育分野におけるSDGs達成に向けた施策の議論が活性化されるとともに、各ユネスコ地域事務所を通じた地域レベルでのSDG4の達成に向けた取組の実施に関する調整機能が一層強化されることが重要である。
 2)SDGs達成に資する持続可能な開発のための教育(ESD)
我が国はこれまで、国内外のESDの推進に積極的に貢献してきたが、ESDを通じて育まれる資質・能力は、持続可能な社会の創り手に不可欠であり、ESDが盛り込まれているSDGsのターゲット4.7のみならず、SDGsの17のゴール全ての達成に寄与するものであり、SDGs達成に向けてESDは一層重要である。また、ESDの更なる推進に向けて、2019年に予定されている「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」の見直しにあたっては、SDGsの達成期限である2030年を見据えた戦略の策定を求める。
 3)ユネスコスクールを通じた取組の推進
我が国では、ユネスコスクールをESDの推進拠点としてこれまで取り組んでおり、現在では、1000校を超える学校が加盟している。ユネスコスクールは、ESDの普及のみならず、ユネスコの理念及び活動の普及を行っていくにあたっても有効であり、SDGs達成に向けても重要な役割を果たしていくことが重要である。

3.自然科学及び人文・社会科学分野
 ユネスコの科学事業には、SDGs達成に向けた国際協力を促進する上で先導的な役割を果たすことが重要である。特に、政府間海洋学委員会(IOC)による、海洋学分野における研究、観測システム、防災及び能力開発に関する取組は、SDG14(海洋)の達成に直接的に貢献するものであり、水文学分野(水資源の適切な管理に向けた科学的基盤の提供)の取組は、SDG6(水・衛生)及びSDG11.5(水防災・地震防災等)の達成に寄与するものであるなど、幅広くSDGsの達成に貢献すべきものである。
 また、ユネスコエコパークやユネスコ世界ジオパークは、自然と人間の共生を実現するモデル地域を認定するという性質上、SDG8(経済成長と雇用)、11(持続可能な都市)、17(実施手段)をはじめとする複数のゴールに横断的に寄与する。地域でのSDGs達成を具現化する取組として我が国においてもビジビリティが高まっており、事業の枠を超えて、SDGs達成という共通目標の下、更なる連携を深めていくことを求める。
 このように、科学分野においては、「サステイナビリティ・サイエンス」の考えのもと、教育セクターを含む分野横断的かつ統合的なアプローチにより、SDGs達成に向けて事業間の連携が図られることが重要である。

4.文化分野
 文化分野においては、引き続き、「遺産の保護、理解増進及び周知」及び「創造性の涵養及び文化的表現の多様性」の二つの戦略目標の下に更なる取組が促進されることが重要である。
 文化遺産の保護は、39C/5の中で、「持続可能な開発のための文化遺産の保護」と謳われている通り、SDGs達成に寄与するものである。このため、ユネスコが今まで実績をあげてきた世界遺産条約事業や無形文化遺産保護条約事業について、SDGsの理念に照らして各事業の本来の趣旨を再認識しつつ、文化財の保護・保全と活用を更に促進することを求める。また、文化財不法輸出入への対応については、具体的な方策を進めることが重要である。
 文化的表現の多様性の尊重や、自己の文化を享有する権利の保障については、異なる文化間の相互理解を深め、世界の平和と安全に結びつけるために有効であり、SDG16で示され、SDGsの基本理念の一つでもある平和な社会構築に寄与する重要な考え方である点を強調すべきである。

5.コミュニケーション・情報分野
 ユネスコの設置目的である国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進するために、知識とアイデアを世界に流通させ、また、人類の貴重な記録に関する保存とアクセスを推進することは重要である。
 「世界の記憶」事業が、上述の理念を実現するとともに、加盟国間の友好と相互理解の促進というユネスコ本来の使命を実現するものとして、これまでの事業の運用について不断の見直しを図り、ユネスコと加盟国の協力及び加盟国間の対話により、発展していくことを求める。

6.普及分野
 ユネスコ事業の実施・普及を効果的に推進するため、加盟国政府・国内委員会と各国のユネスコクラブ・協会、NGO、学校・教育機関、メディア及び民間企業の連携・協力を一層強化していくことが重要である。また、ユネスコ活動を若者にとって大きな魅力と訴求力を有するものとしていくことも、ユネスコの将来にとって重要である。
 我が国では、ユネスコ加盟前から民間によるユネスコ活動が発足しており、本年その発足から70年を迎えた。日本ユネスコ協会連盟が国内外のユネスコ活動の推進において中心的な役割を担ってきたが、これらの取組には、各団体の創意に基づく自由な活動の尊重が不可欠である。
 これを踏まえ、今後もユネスコが、各国における民間ユネスコ活動がユネスコ自体を支える重要な取組であることを認識し、民間ならではの自由な発想や活動により、ユネスコの理念及び活動を普及する役割を担っていけるよう、今後もユネスコがその活動を支えていくことを求める。
 

諮問(文部科学大臣)

 

29文科統第69号
平成29年9月8日


日本ユネスコ国内委員会
     会長 安西 祐一郎 殿

文部科学大臣  
       林 芳正

第39回ユネスコ総会について(諮問)



 本年10月31日から11月14日までパリにおいて開催される第39回ユネスコ総会に関し、ユネスコ活動に関する法律(昭和27年法律第207号)第6条第1項に基づき、下記事項について諮問します。


第39回ユネスコ総会におけるユネスコ2018-2021年の事業・予算に関する審議に関する方針について


 

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