日本ユネスコ国内委員会科学小委員会(第5回) 議事録

1.日時

令和4年3月2日(水曜日)14時00分~16時00分

2.場所

オンライン開催

3.出席者

(委員)
日比谷委員長、道田委員長代理、大島委員、大谷委員、大野委員、沖委員、河野委員、小池委員、鈴木委員、角南委員、髙木委員、野村委員、林委員、藤田委員、渡邉委員

(事務局)
田口事務総長(文部科学省国際統括官)、町田副事務総長(同省文部科学戦略官)、原事務総長補佐(同省国際統括官付国際統括官補佐)、堀尾事務総長補佐(同省国際統括官付国際統括官補佐)、その他関係官

4.議事録

【日比谷委員長】  それでは、皆様、時間になりましたので、始めます。
 本日は、御多忙のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。14時を1分過ぎましたので始めますが、まず、事務局に定足数の確認をお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  本日の出席の委員は、現在の時点で14名であり、委員の過半数ですので定足数を満たしております。
 なお、本日の公開部分に関しては、報道関係者の取材を受け付けておりまして、朝日新聞社の方が取材をされますので、あらかじめお知らせいたします。
 また、今回の議題に関係の深い省庁や機関として、内閣府、外務省、総務省、文部科学省、国土交通省、環境省、海洋研究開発機構、日本ユネスコ協会連盟、日本自然保護協会、その他国内の大学関係者の方々も傍聴される予定です。
 以上です。
【日比谷委員長】  ありがとうございます。
 それでは、ただいまより第5回科学小委員会を開催いたします。
 私は、本日の議事進行を担当いたします、本委員会委員長の日比谷潤子でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 議事に先立ちまして、事務局より、委員及び事務局の紹介をお願いいたします。
 なお、本日の議事のうち、議題1に関しましては、事前にお伝えしておりますとおり非公開とさせていただきます。非公開の部分を除いて、御発言は議事録としてそのままホームページ等で公開されますので、その旨、御承知おきください。
 では、事務局、お願いいたします。
【原国際統括官補佐】  日比谷委員長から御案内いただきましたが、昨年12月1日付で新たに着任された委員を御紹介いたします。
 配付資料の参考1を御覧ください。12月1日付で、大谷紀子委員、沖大幹委員、小池治委員、髙木要志男委員、道田豊委員、渡邉綱男委員が着任されております。新たに本小委員会に着任された委員におかれましては、一言御挨拶をいただければ幸いです。
 大谷紀子委員、お願いします。
【大谷委員】  東京都市大学の大谷と申します。
 今回は、このような大役を仰せつかりまして少し緊張しておりますが、私の経験を生かして皆様のお力になりたいと考えております。よろしくお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  ありがとうございます。
 沖大幹委員、お願いします。
【沖委員】  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の沖と申します。
 専門は、グローバルな水循環と世界の水資源ということで、地球科学と人間社会の両方に跨るような研究をしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
【原国際統括官補佐】  ありがとうございます。
 小池治委員、お願いします。
【小池委員】  鎌倉ユネスコ協会理事の小池といいます。
 初めて参加させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  ありがとうございます。
 髙木要志男委員、お願いします。
【髙木委員】  私は、富山ユネスコ協会に所属しております、会長の髙木要志男と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  ありがとうございます。
 道田豊委員、お願いします。
【道田委員】  東京大学大気海洋研究所の道田でございます。よろしくお願いします。
 専門は海洋物理学で表層付近の流れを長年やっています。ユネスコ関係では、政府間海洋学委員会IOCの関係の仕事を長年行っております。どうぞよろしくお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  ありがとうございます。
 渡邉綱男委員、お願いします。
【渡邉委員】  皆さん、こんにちは。自然環境研究センターの渡邉綱男と申します。
 自然環境政策あるいは生物多様性という分野を専門にしています。この国内委員会の中では、MAB計画分科会、IOC分科会に参加する予定です。よろしくお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  ありがとうございます。
 続きまして、前回審議形式で開催した昨年3月以降、事務局にも異動がございましたので御紹介いたします。
 昨年4月1日より、文部科学戦略官、日本ユネスコ国内委員会副事務総長として、町田大輔が着任しております。また、10月1日付で国際戦略企画官、日本ユネスコ国内委員会事務局次長として河村裕美が着任しております。また、私、国際統括官補佐の原も4月1日付で着任しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 以上です。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、田口国際統括官から一言御挨拶いただければと思います。
【田口国際統括官】  皆様、こんにちは。国内委員会の事務総長を務めております文部科学省国際統括官の田口でございます。
 本日は、お忙しい中、委員の皆様お集まりいただきまして、オンラインでございますが、どうもありがとうございます。日頃よりユネスコの活動に御協力をいただき、本当に感謝申し上げます。
 昨年の2021年というのは非常に節目の年になっていまして、我が国にとってユネスコの加盟70年であるとか、あるいはユネスコ自体が設立75周年ということでありました。
 また、この委員会の下のMAB計画分科会で御議論いただいている人間と生物圏計画50周年、そしてさらには、持続可能な開発のための国連海洋科学の10年が始まった年であり、非常に節目の年でございます。
 そういう中、2年に一度のユネスコの総会が11月にパリで開催されました。ちょうどオミクロン株が蔓延する直前で、対面開催できたわけでございますが、そこでは、この委員会に非常に関係の深いオープンサイエンスに関する勧告であるとか、あるいはAIの倫理に関する勧告等が決定されて、非常に盛会だったのではないかと思ってございます。
 これらの勧告の策定に当たりましては、国内委員会の委員の皆様をはじめ、国内の様々な専門家に御協力をいただきました。我が国の専門家の存在感というのがユネスコの中でも高まったのではないかというふうに思ってございます。本日は、これらの勧告については、政府間委員会に出席された先生方にも御説明いただくことになっております。
 一転して、本年2022年でございますが、恐らくこれからコロナ禍で今まで大変不自由になっていた国際交流、これも制限が徐々に解かれていくことになると思います。昨年の節目の年から一転して、今年は新たなスタートを切る年だというふうに考えております。
 昨年から始まった国連海洋科学の10年とか、あるいはAIの倫理だとか、ユネスコの戦略イニシアティブについては、既に国内委員会では約2年前に御議論を頂いて、建議という形でまとめていただいております。そういったものが、今いろいろな形で具体化してくる中、これからの委員会では、さらにその次の将来を見据えた御議論を頂けますと幸いでございます。
 本日は、どうぞよろしくお願い申し上げます。
【日比谷委員長】  田口国際統括官、ありがとうございました。
 続きまして、事務局から本日の配付資料について説明をお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  資料表紙の議事次第を御覧ください。本日は、ユネスコ科学分野に係る動きの報告に関して資料1-1から1-3を、AIの倫理に関する勧告について資料2-1及び2-2を、オープンサイエンスに関する勧告について資料3を、また、それらの附属資料として1から6を御準備しております。併せて、参考資料として1から4についてもお送りしております。
 不足等ございましたら、事務局へお申し付け願います。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
 それでは、最初の議題、科学小委員会委員長代理の指名に移ります。

(傍聴者等退席)

<議題1 科学小委員会委員長代理の指名>
ユネスコ活動に関する法律施行令第8条第5項に基づき、日比谷委員長より、道田委員が委員長代理として指名された。

 (傍聴者等復席)

 <議題2 昨今のユネスコ科学分野に係る動きについて(報告)>
【日比谷委員長】  続いて、議題の2、昨今のユネスコ科学分野に係る動きについてに移ります。今申し上げましたとおり、ここから公開議事でございます。
 まず、資料の1-1から1-3について事務局から御報告お願いいたします。
【原国際統括官補佐】  通し番号1ページの資料1-1を御覧ください。こちらは、昨年3月の審議形式で開催された科学小委員会開催以降のユネスコ科学分野に係る活動について記載しているものです。事務局より概略の説明をさせていただきますが、個別の活動については、この後、それぞれ関わっていただいた委員の方々からも御紹介いただければ幸いです。
 まず、昨年11月にパリのユネスコ本部で開催されたユネスコ総会について報告させていただきます。
 ユネスコ総会は2年に一度、全加盟国が参加して行われる、ユネスコの方針を定める最も重要な会議です。今回の総会では、科学分野で重要な議論があり、国際統括官が出席し対応させていただきましたが、オープンサイエンスに関する勧告及びAIの倫理に関する勧告が採択されました。これらの勧告については、次の議題で報告及び議題でなされますが、今後、我が国においても国会報告がなされ、また、4年に一度、勧告のフォローアップがユネスコから全加盟国に対して行われることになっております。
 また、毎年11月3日を生物圏保存地域国際デー、10月6日を国際ジオダイバーシティデーとすることも決定されました。あわせて、ユネスコ総会において実施された下部機関選挙において、我が国は人間と生物圏(MAB)計画国際調整理事会及び政府間水文学計画(IHP)政府間理事会の理事国にも当選いたしました。
 続いて、3ページ目から政府間海洋学委員会(IOC)に関する動きです。
 ユネスコIOCは、海洋科学調査及び研究活動に係る唯一の国際機関として、海洋観測・調査、海洋データの収集管理及び交換、津波早期警戒システムの構築、教育訓練等を実施しております。2021年から2030年の10年間はIOCの提案により、国連総会において、持続可能な開発のための国連海洋科学の10年と定められており、海洋科学の推進により、持続可能な開発目標を達成するために集中的に取組を実施することとされております。
 本10年を推進していくため、各国において国内委員会を設置することが奨励されており、我が国においては、笹川平和財団海洋政策研究所及び日本海洋政策学会により、持続可能な開発のための国連海洋科学の10年日本国内委員会及び研究会が設立されております。本国内委員会及び研究会には、角南委員、道田委員、河野委員も参画され、積極的な活動が行われており、また、日本国内委員会の第1回会合にはアズレー ユネスコ事務局長からもメッセージが寄せられました。
 また、6ページに記載のとおり、IOC西太平洋地域小委員会(WESTPAC)に関して、昨年4月に開催された第13回政府間会合において、我が国の安藤健太郎IOC分科会調査委員が、中国のFangli Qiao氏と共に共同議長に選出されております。
 8ページに記載のとおり、6月にはIOCの最も重要な会議であるIOC総会が開催され、我が国はIOC執行理事会の理事国に引き続き選出されております。
 また、ユネスコでは事業間の協力、連携も推進されておりますところ、9ページに記載のとおり、ユネスコ世界ジオパークによる海洋との連携に関する取組として、11月に隠岐ユネスコ世界ジオパークにより会合が開催され、国連海洋科学の10年における日本ジオパークネットワーク取組推進宣言が出されたことも併せて報告させていただきます。
 続いて、10ページからの政府間水文学計画(IHP)に関する活動です。
 IHPは、国際協力による水資源の最適な管理のため、世界的観測網によるデータ収集、世界の水収支の解明、人間活動が水資源に与える影響の解明等に関する科学的、教育的事業を実施しております。
 IHPにおいては、我が国の専門家も参画の上、長い時間をかけて、IHPの2022年から8年間の計画であるIHP第9期計画の検討が行われ、昨年6月のIHP政府間理事会において最終草案に合意、ユネスコ総会での報告により策定されました。
 現在は、ユネスコにおいて、このIHP第9期戦略計画を着実に実施するための運営実施計画の策定が議論されており、立川前国内委員が作業部会の副議長に選出され、策定に参画されております。
 また、2022年4月には第4回アジア・太平洋水サミットが熊本で開催されることが予定されているなど、本年も様々な活動が予定されています。
 続いて、15ページからの人間と生物圏(MAB)計画についてです。
 MAB計画は、生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の指定を行う等、生物多様性の保護と持続可能な自然と人間との共生を目指す活動を推進しております。2021年はMAB計画が開始して50周年であったことから、コロナ禍の中でオンラインを中心とするものではございましたが、様々な活動が行われ、我が国のユネスコエコパークもプロモーション動画の提供や、マルチメディア展示会の参加等により貢献いたしました。
 また、19ページに記載のとおり、ユネスコ協会との協力として、11月に港ユネスコ協会が40周年を記念して実施したシンポジウムでは、日本のユネスコ加盟の70周年及びMAB計画50周年を記念して、ユネスコエコパークをテーマに講演が行われました。
 続いて、21ページからのユネスコ世界ジオパークについてです。
 ユネスコ世界ジオパークは、国際的に価値のある地質遺産を保護し、地質遺産がもたらした自然環境や地域の文化への理解を深め、科学研究、教育、地域振興等に活用することにより、自然と人間との共生及び持続可能な開発を実現することを目的とした事業です。
 昨年の科学小委員会において、本年度に白山手取川ジオパークの新規認定に係る審査及び糸魚川、隠岐、島原半島、伊豆半島の再認定審査が予定されている旨を御連絡させていただいておりましたが、コロナ禍により、審査員の国を越えた移動に制限が生じたことから、昨年は現地審査が行われませんでした。
 また、再認定審査に関しましては、本年度新たに阿蘇、山陰海岸の2地域についても進捗報告書を提出し、再認定審査の対象となりました。
 これらについては、今後、状況が可能になり次第実施されるユネスコにおける現地審査を経て、その後に開催されるユネスコ世界ジオパークカウンシルで審議、新規認定については、さらにその後のユネスコ執行委員会にかけられて決定される予定です。
 22ページからのその他の動きとして、文部科学省のユネスコ信託基金拠出金により、遺伝子編集及びAIの倫理に関するラウンドテーブルが実際されたことを報告させていただきます。
 本ラウンドテーブルに関しては、ラウンドテーブルで議論されたトピックに基づき、ユネスコが5分程度の動画を作成しております。この動画については、日本語字幕も作成されておりますので、お時間のあるときにでも是非御覧いただければ幸いです。
 また、29ページからの資料1-2では、科学小委員会の下に設置されているIOC分科会、IHP分科会、MAB計画分科会の議事についてお示ししておりますので、御参照いただければ幸いです。
 また、32ページからの資料1-3では、ユネスコ総会の科学分野の結果について、少し詳しくまとめさせていただいております。
 報告は以上となります。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
 既に議題にお示ししておりますけれども、AIの倫理、それからオープンサイエンスに関する勧告については、この後、議題の3と4で時間を取りますので、それ以外の部分について、今の事務局からの御報告に関して、まずはそれぞれの分科会御所属の委員の方や、ユネスコで開催された会議に実際に御参加になった方々から補足等ございましたらお教えください。
【事務局】  道田委員、お願いいたします。
【道田委員長代理】  ありがとうございます。東京大学の道田でございます。IOCの分科会の主査を務めておりますので、IOC関係について簡単に二点ほど補足をいたします。
 一つは、先ほど来お話のある国連海洋科学の10年が昨年始まりまして、もう1年を経過しておりますけれども、我が国は非常に積極的にこれに貢献しておりまして、最も活発と言っていいかどうか分かりませんが、IOCの加盟国150か国の中でも上位に入る、非常に活発な活動を続けているということを申し上げておきます。
 海洋科学の10年、科学と銘打っておりますけれども、他分野との連携ということも大事なこととなっておりますので、この小委員会はじめ、ユネスコの関係の方々と連携を密にしてまいりたいと思います。
 二つ目は、先ほどの資料の5ページにありました国際海洋データ情報交換(IODE)というプログラムがIOCの下にあって、これはIOCが発足して翌年から行っている基幹プログラムの一つなのですけれども、これに関連して、つい先日、ポーランドのソポトで、ハイブリッド形式でしたけれども、海洋データに関する国際会議、触れ込みでは1,000人の参加と言っておりましたが、見た感じ500名強だったと思いますけれども、参加がありました。国連海洋科学の10年の一つの柱が、データ・情報の共有、それに基づく社会課題の解決ということになっておりますので、非常に重要な会議だと位置づけられておりまして、割と高いレベルの方の御参加もありました。こういったことを核に、今後進めてまいりたいと思っております。
 以上でございます。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
【事務局】  続きまして、渡邉綱男委員から手が挙がっているようですので、渡邉委員、お願いいたします。
【渡邉委員】  ありがとうございます。渡邉です。
 MAB計画分科会の関係ですけれども、御説明いただいたように2021年がMAB発足から50周年と、大変節目のタイミングになりました。日本の国内のMABも、この10年の間に4地域から10地域というふうに拡大をしてきています。その50周年の節目に当たって、日本の国内のMABの現場の経験ということと、ユネスコを中心とした国際的な議論を結びつけていくような様々な議論を行う機会があって、今後のMABの方向性について考えていくような機会がたくさん見られました。
 ジオパークの紹介もありましたけれども、MAB計画のユネスコエコパーク、ユネスコ世界ジオパーク、世界遺産、様々な国際認証地域があります。そういった認証地域がばらばらではなくて、相互にシナジーを高めていくということも今後の方向性として大変重要な課題というふうに考えています。
 もう一点、今、道田委員から国連海洋科学の10年の活動の御紹介がありました。大変活発な活動が進められているというお話でした。
 同じ昨年から、国連生態系回復の10年という10年がスタートしています。都市、農地、森林、海洋、様々な生態系の回復を各国に呼びかけていくというものになります。UNEP(国連環境計画)とFAO(国連食糧農業機関)が主導していて、ユネスコ、国連大学、IUCN(国際自然保護連合)、生物多様性条約事務局、そういった国際機関がパートナー機関になっているというものです。
 海洋科学の10年と比べると、まだまだ生態系回復の10年のほうは国内であまり知られておらず、活動が始まった段階ということかと思います。
 そんな中、2月9日に、今回の資料でも御紹介いただいていますけれども、笹川平和財団、国連大学、環境省が共催して、角南委員、山口委員にも御尽力いただいて、国連生態系回復の10年を記念して、里海の再生のシンポジウムを開きました。1,000人を超える人が視聴していただいて、このテーマに対しての関心の大きさを感じたところです。
 是非、この生態系回復の10年のほうも活発な活動を展開していければというふうに思うわけですけれども、そのためには、国際機関、行政、学会、市民団体、企業、いろいろなセクターの参画と連携の幅を広げていくことが重要になってくると考えています。
 海洋科学の10年と連携していく、あるいはユネスコのエコパークやジオパーク活動と連携をさせていく、そういった連携も含めて、これから本委員会の皆様の御支援、御協力もお願いしていきたいというふうに思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 私からは以上です。
 
<議題3 AIの倫理に関する勧告について(報告・意見交換)>
<議題4 オープンサイエンスに関する勧告について(報告・意見交換)>
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
 それでは、続きまして、先ほど既に言及いたしましたけれども、今般、科学分野で二つの勧告が採択されました。それぞれ議題の3ではAIの倫理に関する勧告、議題の4ではオープンサイエンスに関する勧告を取り上げたいと思います。
 時間の都合上、まず、それぞれの勧告の政府間委員会に御出席くださいました方に続けて二つ発表をお願いし、その後、まとめて意見交換の場を持ちたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 では最初に、総務省国際戦略局の飯田陽一情報通信政策総合研究官により、AIの倫理に関する勧告について、御発表をお願いいたします。
【飯田研究官】  御紹介ありがとうございます。総務省の国際戦略局、飯田陽一と申します。
 今、議長から御案内ございましたとおり、ユネスコのAI倫理勧告の政府間交渉の会議に出席をいたしましたので、秋に採択をされました倫理勧告について御報告をさせていただきたいと思います。
 配付資料で言いますと35ページは表紙ですので、36ページ目からざっと資料を追って御報告をさせていただきます。
 この経緯から申しますと、2021年、去年の第41回ユネスコ総会で勧告、採択になったのですが、その前の2019年11月の第40回ユネスコ総会で、ユネスコとしてもそのAI倫理についての審議を開始するべきであるということが決定されております。これは実は2019年という年は、5月にOECD(経済協力開発機構)での閣僚会合で、OECDのAI原則勧告というものが採択をされ、同じ年の6月には大阪サミットG20で、G20AI原則というものが採択をされた年でございまして、この二つはかなり、何ていうのでしょう、技術をいかに経済社会活動に応用するかという視点の強い勧告です。そういった経済面の視点が強い勧告ができたことを受けて、ユネスコとしては、その倫理面とか文化面、教育面にも光を当てた倫理勧告というものを策定するのだという趣旨だったかと思っております。
 ちなみに、このAI原則の議論というのは、2016年に、G7を日本で開催しましたときに、日本からこうしたものを議論する必要があるということで提起をしまして、その後2019年にこうした動きに結びついたということで、その間3年ぐらいはOECDやG7で議論をしてきたということがございました。
 2019年11月にユネスコ総会で審議をするべきということで、2020年には専門家会合ということで、世界各地から24名の専門家が集められまして、日本からは、当時の東大教授であられた須藤修先生、今、中央大学に移られていますが、御出席をいただき、各国からの専門家との間で草案を起草いただきました。これが4月から9月ぐらいまでかかって、かなり集中的な作業だったとお聞きしております。
 この草案を元に、2021年の4月から6月には政府間特別委員会で、これも各国政府のAI政策に関わっている担当者が出席をする形で議論をしております。トータル100時間超えまして、6月は、もちろんオンラインなのですが、ほとんど毎日これをやっていたような記憶がございます。
 ここでは勧告のドラフトというか、その案を作っておりまして、これを元に手続的なことを決めた決議案というのを付け加えまして、これ全体を11月のユネスコ総会に諮っております。
 実際に、総会の方では、ロシアとか中国から、特に手続的な決議案のほうに追加的な技術的な修正意見等が出されたのですけれども、内容に関わる勧告案の方は、全く政府間委員会で決定されたとおりの内容が維持されまして、ちょっとした決議案の修正だけで採択に至ったということで聞いております。
 総会の中では、事務局から日本への協力の謝意の表明もあったということとともに、途上国からは今後の日本からの支援にも期待が表明されたというふうにも聞いております。
 まず、簡単にそこに勧告案の概要がございますが、AIを今後開発したり、利活用していくときに、特に人間の尊厳とか倫理的な観点からどういう価値を守るべきなのか、あるいはどういう原則に基づくべきなのかということがまず冒頭に書かれております。
 価値としては、人間の尊厳や人権、基本的自由、あるいはユネスコらしいのですが、豊かな環境とか生態系への配慮、あるいは包摂性や平和というようなことが述べられております。
 原則のほうは、これもOECDでつくったものとかなり重なっておりますが、比例性というのは、リスクがあるならちゃんとそれに応じた措置をしなさいと。害を与えてはいけませんということです。あと、当然、安心で安全なものでなくてはいけない。あるいは、よく話題になりますが、AIが差別を引き起こしてしまうというようなことも問題にされておりますので、無差別をきちんと保てるようなものでなくてはいけない。あるいは、環境も含めて持続可能性がなくてはいけない。また、データを大量に使いますので、プライバシーやデータを保護しなくてはいけない。また、自動的にいろいろな意思決定をするように見えて、ブラックボックス化するということが懸念されますので、最終的な重要な決定に当たっては、人間がそのオーバーサイトしなくてはいけない、あるいは決断に当たっては人間のインターベンションがなくてはいけないというようなことも言われております。
 また、その意思決定のプロセスの中では、透明性や説明可能性が維持されるべきである、あるいはサービスやそのプロダクトにAIが使われているという場合には、それをちゃんと示さなくてはいけない、隠してはいけない、そういうようなことも含めて透明性というようなことが言われております。
 それから、AIが意思決定をしたことに対して誰が責任を持つのか、あるいは責任を持つ体制というものがきちんとしていなくてはいけない。そして、AIについて、今後社会や経済に広がっていくということのインパクトや、その仕組みについて、意識の醸成やそれに対応できるリテラシーを醸成していかなくてはいけない、これは教育の問題を含めて、あるいは労働者の問題を含めて言われております。
 そして、こうしたものを社会全体が受け止めていくためにも、全てのステークホルダー、ビジネスや学術界だけでなく、市民社会や消費者や、もっと細分化すると、ジェンダーとかユースとかということにもなるんですが、そういうステークホルダーがみんな関わった形でガバナンスをやっていかなければいけない、こういうようなことが述べられております。
 そして、ユネスコの今回の特徴としては、各国政府に対する政策的な措置の提言というものが含まれておりまして、ここには11項目そこに列挙しているようなことが記述されております。影響の評価、これは先ほどのリスク、あるいはそれが実際に具現化するインパクト、こういうものをきちんと図らなくてはいけないし、それに基づいた措置を取らなければいけないですとか、あるいは倫理的な観点での管理やガバナンスというものをしっかりできるように政策的な措置を取っていかなければいけないとか、こういうことが一つずつ述べられております。
 そして最後に、このインパクトの評価をするような仕組みと、それをモニターしていくような仕組みというのを、ユネスコがこの勧告の採択に続いてつくっていくのであるというようなことまで記述されております。ただ、あくまでもボランタリーな勧告ですので、法的な義務や強制力を伴うものではございません。
 次のページに行っていただきまして、総会の議論で先ほど簡単に御説明はしましたが、事務局の説明の中では、やはりユネスコがAI倫理勧告というものを策定するということは、特に社会や経済に対しての潜在的なリスクというものを抑えて、必要なグローバル、つまり途上国も含めた世界の全ての国、そして世界の全ての国の中の政府だけ、あるいはビジネスや学術界だけではなく、市民社会も含めた全ての人たちの理解を促進するためのものであるという説明がございました。
 そして、先ほどお話ししました価値や原則という理念的なところだけではなく、それを実現するための政策措置や実施のメカニズムというものを規定して、ユネスコ自身もそれに取り組むのであるという、その総合性というところも強くアピールされております。
 また、事務局からも、アドホック専門家グループで起草に関わっていただいた専門家の先生方や、あるいは政府として、特に外務省さんは財政負担等、大分出されておりますので、日本やオランダ、あるいは政府間委員会の議長を出しましたクウェート等の協力に感謝が述べられたというふうな報告を聞いております。
 この総会の中で大使のほうからも御発言をいただきまして、日本がAIの国際的な議論に貢献をしてきたということと、あと今回、ユネスコの倫理勧告について、やはり先進国のみならず、多くの途上国が加盟する中で、公平なアクセスですとか正しい認識醸成や教育と、こういうことの促進も考慮に入れたものであることを高く評価をするものであると。そして、今後、加盟国政府が措置すべき政策等を示した勧告案ですので、これを先進国だけではなく途上国もしっかり取り組んでいけるように、日本として協力をしていきたいということを述べていただいています。
 特に一番下ですけれども、日本政府から、これは後で外務省さんからコメントをいただければと思いますが、ユネスコに対する任意拠出金を通じて、アフリカや太平洋島嶼国等の途上国に対して、このAI社会というものが、AI倫理原則を踏まえた包摂的で豊かなものになっていくように協力をしていくということを今検討いただいていると思いますので、私どもも政府一丸となって、これに協力できるようにしていきたいと思っているところでございます。
 あと少し、倫理勧告の中身についてもかいつまんでお話はしましたが、政府間交渉の中で出てきたことで若干御紹介をしておきたいと思います。
 次のページをお願いいたします。ここは後で御覧いただければと思いますが、先ほどお話しした価値や原則について少し中身を御説明しております。例えば4番目の持続可能性のところですと、AIというのが様々な開発レベルの国で、いろいろな形で実装されていくと。そうすると、場合によっては格差の拡大というようなことにもつながりかねないので、それはやはり世界全体として持続性のあるAI社会というものに至る道を塞いでしまうということで、やはり格差の拡大みたいなものを避けていかなくてはいけないというようなことが述べられております。
 次のページですが、日本政府としては、実は二点、対処方針を持っておりまして、一つは七番目の透明性と説明可能性の中に、やはり透明性をしっかり確保するべきであるというところで、そうは言っても、例えば企業や個人が持っている知的財産のようなものは保護する必要もありますと、これはバランスを取っていく必要があるんですということを主張しております。これは、ここまでのOECDやG20の議論の中から出てきているものでして、通常、デジタルの専門家の間では、そうだよねということになるのです。知財は守らなければいけない。アルゴリズムやプログラムは企業や開発者のものだよねということになるのですが、ユネスコの観点になると、いやいや、それを一々認めていられるか分からない。やはり透明性、あるいは市民や利用者の安全を守るための説明責任みたいなものは重要なのだと。だから、ここにわざわざそれを書くには値しないということで、残念ながら日本の意見はここでは取り上げられませんでした。そういうような議論がございました。
 あるいは次のページの政策措置の中なんですが、2番目のところに倫理的ガバナンスと管理ということで、倫理的な観点でしっかりAIをガバナンスを効かせなければいけないと。これはもちろんそうなのですけれども、中に、AIに対して法律上の人格、法人格というものを認めることはあってはならないという記述がございます。これ、今までの日本の国内の議論とか、今実際にアメリカや日本で、例えば自動運転の車が事故を起こしたケースなどを想定して、AIそのものに法律上の人格というものを付与して、責任を誰か個人に押し付けなくて済むような仕組みも必要になるかもしれないという可能性を議論しています。そういうことを考えると、法的な人格というのを議論する余地はあるのではないかという意見を述べております。これは議論の場で集中放火を浴びまして、とんでもないと。人格というものをAIに認めようなどということは、とても許容できないということを、これは結構、先進国からも言われて、全く意見は通りませんでした。
 ですので、日本政府の観点でいうと、これは一番大きな二つの点ですけれども、ユネスコのAI倫理勧告が今までの議論と完全に一致しているわけではないというところはございます。
 一方で、やはり大きな視点で見ますと、環境への配慮とかそういうことももちろんですし、あとやはり先ほどからお話ししております途上国を含めて、ユネスコにはこれだけの参加国がいて、やはり途上国を含めた包摂的な世界全体のAI社会の推進という観点を含めますと、やはり非常に重要な勧告ができたと捉えておりますので、まさに今後は、その小さな相違はあったとして、これはだんだんと時間が経つと、それをどう評価するべきかということが分かってくると思いますので、それはそれとして、やはりこれに基づいて、ユネスコと一緒に途上国や、あるいは途上国でなくても、いわゆるマージナルなコミュニティに対して、こういうものを少しずつでも浸透させていくということを目指して、各省一体となってユネスコと協力していきたいというふうに考えております。
 私からは以上ですけれども、もし外務省さんから御案内があればお願いしたいと思います。
【日比谷委員長】  外務省の方、いかがでしょうか。補足はおありでしょうか。
【外務省(若杉主査)】  ありがとうございます。外務省の国際文化協力室、若杉と申します。
 資料の43枚目になりますけれども、先ほど飯田研究官から御説明いただきましたAIの倫理勧告についての策定についてお話いただきましたけれども、外務省では、ユネスコに対して任意拠出金を拠出しておりますので、このお金を通じて、勧告の中身をさらに途上国向けに支援できるような形として支援を続けていきたいと思っております。
 具体的には、この11月に策定されましたAIの倫理勧告を受けて、途上国、特にユネスコが重視するアフリカ、SIDS(小島嶼開発途上国)を対象として、AI技術の開発、利用に促進するため、AI技術、倫理の関連の施策のモニタリングメカニズム等のキャパビルツールを開発し、実施していくというところをまとめたいと思っております。
 このプロジェクト自体は、つい先月承認したところなので、これから3年間かけて実施をしていくというところになりますが、AIの倫理はユネスコとしても重視している分野だと思いますので、外務省としても、特に途上国との関わりという観点から、ユネスコを通じて支援を進めていきたいと考えております。
 ありがとうございました。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、今度はオープンサイエンスについて御説明をお願いいたします。文部科学省科学技術・学術政策研究所の林和弘データ解析政策研究室長に御発表をお願いいたします。
【林室長】  御紹介ありがとうございます。文部科学省科学技術・学術政策研究所、通称NISTEPの林と申します。
 私は、このオープンサイエンス勧告のアジア太平洋地域選出の専門家として本勧告に関わってまいりました。今回、このような御紹介の場をいただきありがとうございます。
 早速ですが、御紹介を始めます。
 今日の構成なのですけれども、初めに軽くイントロダクションさせていただきつつ、ユネスコ勧告がもたらした背景について一応御説明させていただいて、本題であるサイエンス勧告の経緯と勧告の要点をお話しし、一応今後の展望と日本の対応をお話しさせていただいてまとめたいと思っております。
 早速ですが、せっかくの機会ですので、NISTEPについて簡単に御紹介させていただきます。
 NISTEPは、国の科学技術政策立案プロセスの一翼を担うために設置された、いわゆる国研、今、文部科学省に二つしかないのですけれども、国立試験研究機関でございます。行政のニーズを的確に捉えて、主に科学技術政策に資する、いわゆるエビデンスベースドのデータに基づく政策策定のための調査研究を行っているところでございます。
 これがこちらにございますように、今年度、昨年4月からデータ解析政策研究室が立ち上がりまして、初代室長として仰せつかっております。
 室の調査研究の一つとしてオープンサイエンス政策へ資する調査研究というのを行っておりまして、多少煩雑な図で大変恐縮ですけれども、この見方は上に行くほど政策立案者、左に行くほど啓発、ルール、理念になりまして、右下に行くほど要は現場指向なのですけれども、この後御説明しますように、(オープンサイエンスの文脈で)研究の現場も非常に変わっていく中、政策もそれをどうリードしていくか非常に混沌としています。そのオープンサイエンスに向けた社会の中で、トップダウンとボトムアップ、その双方のアプローチから調査研究を行って、さらに、オープンサイエンスに関する活動自体をモニタリングするという立場でNISTEPは調査研究を行っております。
 この活動を10年ぐらいNISTEPでは進めております。私自身は1990年代から、もともと化学、有機合成化学者で実験化学者で、たまたまITオタクだったものですから、学会の電子ジャーナルをアルバイトでお手伝いしたら、それが仕事になった人間でございます。今現在は電子ジャーナル化の先の単に論文をオープン化することだけではなくて、この後御紹介する論文を含む様々な知識をICTの活用で開いて民主化することによって社会が変わることに着目し、それは“科学の社会”がまず変わるし、それは産業を含める社会全体が変わって、“科学の社会”の関係性も変わるという、この変容に関する調査研究をライフワークにして行っている研究者であり実務家であり、あとアドボカシーをやっている人間でございます。そのために、すべて御紹介し切れないのですけれども、要は研究をやって、ジャーナルを作って、査読をして、編集をして、売って、図書館と対応するとかいう、実際に学術出版の現場の経験を生かし、政策とアカデミア、日本学術会議の特任連携会員も仰せつかっておりますので、政策とアカデミアの間を通訳のようにつなぐこともあれば、ときにブローカーのように調整をする人間でございます。その御縁があってユネスコの専門家としても活動させていただいておりますし、世界的に見ても、ここまで現場のことをやっていて、国際的なオープンサイエンス政策に関わっている人間というのは、多分世界で1人しかいないと思っております。すみません、自慢したいのではなくて、少しは私の話に耳を傾けてもらえるかなと思って御紹介させていただきました。
 早速ですが、今回の勧告の背景について御紹介させていただきますと、オープンサイエンスというのは歴史的必然であるという話を必ずさせていただいています。どういうことかというと、まず、いわゆる宗教革命がなぜ起きたかを考えるときに非常に重要な役割を果たしたのが(大量)印刷本という技術でして、これは「印刷という革命」、原題は「THE BOOK IN THE RENAISSANCE」ですけども、要は、印刷本が生まれて、手書きや写本ベースからの知識の伝播が印刷本、後にジャーナル等になる、大量印刷ベースになることによって情報爆発が起きて知が開放される。つまり、以前に比べればよりオープンな知識基盤が生まれることによって何が起きたかというと、もうこの本のとおり、ルネッサンスが起きたというのがこの本に書いてあることです。
 それ以外にも、印刷本による情報流通の効率化に加えて、ルターがドイツ語、いわゆる民話語に聖書を訳したことによって宗教革命が起こる。印刷本はその伝播も手伝ったと思われます。他にも、知識の共有が加速することで教育も変わって、科学も変わって、それが数学と物理の融合、数理物理学、一言で言うと微積分による数理物理学を生み出し、ジャーナルを生み出し、科学革命につながって産業革命につながるというような、大枠ではそういう話が歴史的にできるわけです。
 そうすると、もう皆さんお気づきの通り、今まさに、今度はそのグーテンベルグの大量印刷の世界からインターネットやウェブが支える科学と社会に変わりつつあるということになります。そして、依然、私は過渡期の端緒であるという立場をとっています。
 もう既に、皆さんこのようにZOOMを使うなどしてデジタル技術に対応されているかもしれませんけれども、やはりここに書いておりますが、知財や著作権を含む法律や社会制度というのは、依然、まだレガシーのままだと言わざるを得ません。ですので、これから本格的なデジタルネイティブな社会に向けて、社会制度そのものが変わることによって、オープンサイエンスのパラダイムにむけた進展が見込まれると思います。あるいは、先ほどのAIの議論も興味深く拝聴しておりましたが、今も、情報のオープン、クローズ、あるいはシークレットという考え方が特許や知財関連にあるように、将来的にもオープン、クローズ、シークレットという行動をとる人の本質、行動原理は変わらないんですけれども、情報基盤の変革に応じた戦略の再デザインと新しい秩序が形成されようとしているとみています。そして、この潮流に気づいている人は、早めに活動して先行者利益を取ろうとしているという状況にあります。
 この変革がCOVID-19によって非常に加速されているということは皆さんお感じになっていると思います。このスライドは内閣府の研究データ基盤整備と国際展開ワーキンググループの資料から持ってきているものなのですけども、後の歴史によって語られるべきものであるかと思いますが、COVID-19によって100年に一度レベルの転換点を迎えている中で、研究の進め方や公開の方法、スピードとか、一つ一つちょっと御説明する時間が足りませんが、従来の研究スタイルに新たな研究スタイルが付加されています。これはCOVID-19で変わったというよりは、もともと存在しており、一部では新しい動きとして認識されていたのだけれども、それが広く認知されてどんどん使われるようになっています。その典型としてデータ主導型の研究とか査読前論文(プレプリント)の活用、あるいは、研究データを研究成果公開として使いましょうという流れを生み出し、あるいはよりオープンに、あるいは低価格、無料に、あるいは非常に速やかに大量の成果を出すというトレンドにもなっています。
 逆に、フェイク問題も浮き彫りになっています。情報のオープン化とフェイクの関係というのは、ジャーナリズムを含め学術上に限らずあらゆるところにあるわけですけれども、そういった新たな観点、論点が顕在化しているという、カオスな状態に入りかけており、それは先ほど申し上げたオープンサイエンスパラダイムに向けた変革であると考えております。
 既に、これはコロナの前に作った資料ですけれども、ビッグデーターやAIによって仮説探索型研究というのはどんどん進んでいますし、あと脳科学等で文理融合を前提とした研究というのもどんどん進んでいます。COVID-19はより迅速に、世界規模の危機に関しては、より早く効率よく国際協働しようという動きも生み出し、さらには、もう実験はロボットにやらせればいいじゃないかと、大学にも行けなくなったので、もうロボットで、リモートで実験させましょうという流れにもなっています。私の古巣の(研究者が手を動かしてこそとされた)有機合成研究でも、もうそういう世界に入りつつありまして、そうなってくると、もう研究者は論文書くのではなくて(ロボットに指示する)コードを書くのが仕事になるのではないかというような考え方なども生まれつつあります。このような動きはすぐ広まるわけではないのですけれども、こういう象徴的な例を引き合いに、様々な転換を迎えているという背景があるということをまず御説明させていただきました。
 その上で、このオープンサイエンス勧告について御紹介申し上げます。
 最初に、実は、勧告に至るまで結構日本が関わっているということを実際の本文にはどこにも書いてないので、この機会を踏まえて御紹介させていただきます。
 ユネスコが2017年に「科学と科学研究者に関するユネスコ勧告」を採択した頃、実は日本はEUと共同してG7の上でオープンサイエンスを推進しておりました。2016年には既にオープンサイエンスワーキンググループを立ち上げて、一年に一回会合を開いていて、2019年、これもコロナ前ですね、G7オープンサイエンスワーキンググループがパリで行われたときに、ユネスコ自然科学局Shamila Nair-Bedouelle 事務局長補、御存じの方は御存じの有名な方が話題提供されて、我々ユネスコもオープンサイエンスを取り上げますというような話をされました。2019年10月に「オープンサイエンスに関するユネスコ勧告の望ましいあり方に関する技術的、財政的、法的側面に関する予備的研究」がなされ、第40回ユネスコ総会前の11月の「平和と開発のための世界科学デー」で、実はテーマがオープンサイエンスでした。そのイベントで、2019年のG7の御縁があって、私がラウンドテーブルに御招待いただいた形で、これからは”publish or perish”から”share or perish”の時代になるのではないでしょうかというような発表させていただきました。
 それも受けてユネスコでアドバイザリーコミッティーが形成されて、Group IV(Asian and Pacific States)の委員として日本からも私が参加する形で、複数回の関連会合、アジア地域会合も開かれました。そういうところで積極的に情報提供、発言をするなどして、昨年の9月に本勧告の草案が発出されまして、先ほど御案内がありましたように第41回ユネスコ総会で193か国で採択されたという経緯になっております。
 これが勧告の目次になっております。一つずつ簡単に御紹介させていただきたいと思います。
 まず、目的に関しましては、これはユネスコらしく、やっぱり学問分野だけではなくて地域の違いを認識して、学問の自由、ジェンダー変換アプローチ、そして様々な国、特に発展途上国における科学者や他のオープンサイエンス関係者に特有の課題を考慮して、国の間や国内、国外それぞれの格差の縮小に貢献するオープンサイエンス政策を実践するために、それを取りまとめた、それは様々な、多次元に議論が及びますので、すぐその論点が混沌としますので、国際レベルにおけるオープンサイエンスの共通の定義、共通の価値観、原則、基準を概説して、万人のためのオープンサイエンスの公正かつ公平な運用に資する一連の行動を提案するというものになっております。
 実はこの(最終版の)目的の一つ前の案はこちらになってございました。これを目的の行間を埋めるものとして御紹介させていただきますと、地理的、ジェンダー、政治的境界、民俗、経済的・技術的障壁をなくす、ユネスコらしい話かと思います。デジタル世界の前例のない進歩に押されて、リスクもやっぱり一応考慮されています。その上で、透明性、共有、共同研究に基づく科学事業の新しいパラダイムを設定するとしています。研究の実施と、あと評価に関しても新しい方法を採用するということが目的にはあります。
 その上で、堅牢な制度的、国家的なオープンサイエンス政策と法的枠組みが全ての国で策定される必要があって、繰り返しになりますが、地域差、特に発展途上国対応や、それから各国間、国内に存在する格差の縮小に努めたいという、ユネスコらしいミッションに沿った目的になっております。
 その上で、御存じの方は御存じなのですが、オープンサイエンスの定義は実はまだすごく揺れていまして、ユネスコにおいては、この勧告においてオープンサイエンスを以下のように定義しています。まず、多言語の科学知識を誰もが自由に利用でき、アクセスでき、再利用できるようにするとします。この再利用できるようにするというところが非常に重要です。科学と社会の利益のために、科学的共同研究と情報の共有を拡大し、コラボラティブアプローチをとるという点が重要です。科学知識の創造、評価、伝達の過程を従来の科学界を超えて、社会的アクターに開放する社会的インパクトも重要ということで、それを包括的に取り入れたものであるとしています。
 また、基礎科学、応用化学、自然科学、社会科学、人文科学などあらゆる科学分野と学術的実践の側面から、この後御紹介するこの五つの柱として構成されています。
 オープンサイエンスの構成要素は四つとなっています。まず、より開かれた科学知識ということで、論文のオープンアクセスということに関しては、皆さん、相当もう馴染みが出ているかと思います。それでも20年ぐらいかかったわけなのですけれども、それ以外の研究データやソフトウエア、先ほどもありましたがコード等も、できる限りオープンにという話が一つ目です。それから、それをオープンにするメディア、情報、データを支える基盤づくりということで、特に人と機械が読めるインフラ整備が重要であるという話が二つ目です。それに加えて、それを利用できるアクターというのがより社会に開かれたものであるということで、具体的には市民が参画する。市民に本当は限らないのですけれども、代表的なものとして市民が参画することによって、そもそも科学研究が新しくなるという話になるのが三つ目。最後に、これも非常にユネスコらしい観点ですけれども、先住民や地域が持つ伝統的な知識の導入。日本の場合だと、日本語の伝統に関わるものが相当すると思いますが、そういったほかの知識システムとの開かれた対話という、これら四つを構成要素として解説をしています。
 その上で、今度は概念的に、横から別の軸で整理しています。コアバリューと基本理念としては、質と公正性(integrity)、集団的利益や公平さ(Equity and Fairness)、多様性と包括性を重視ということで、ここはもうユネスコで常に語られている論点かと思います。その上で、今度は“原則”としては、その透明性や精査、批評、再現性が重要でありますし、機会も平等であるべきである。その上で、責任や敬意、説明責任も必要である。協働、参加、包摂というコンセプトは、オープンサイエンスでどんどん取り入れられるべきだし、柔軟に対応し、かつ持続可能性高く行わなければいけないという話になっております。
 続いて、ここが一番政策的には重要で、七つの実践項目と勧告が出ているという話になっております。まず、そもそもきちんと理解しましょうという話ですね。共通の理解、関連する利益と課題、オープンサイエンスへの多様な道筋を促進。今日、簡単に御紹介させていただいただけでも、非常に多方面の論点を含むものでございまして、これをきっちり整理して、各方面で理解いただくということがまず重要で、その上で、それぞれ政策づくりのための環境を整備していく必要があります。例えば、オープンサイエンスのインフラ、これは単に研究データの置場をつくりましょうというシステム的な話にとどまらず、社会との対話を創るような場もつくりましょうという、より包括的な概念のインフラ、ないしはサービスというものをデザインする必要があり、その包括的なインフラへの投資が必要であるということになります。
 続いて、ありがちですけれども、人材、教育、リテラシー、能力開発への投資を挙げています。オープンサイエンスが目指すものは、一種のカルチャーチェンジという見方もできます。ソーシャルカルチャーチェンジ、科学者社会の文化を変えて、最終的に社会全体の文化を変える話なので、その文化を変えるためのインセンティブを調整することが重要です。その上で、究極的には論文を書く前や、もう研究データを共有する段階より以前の、アイデアの段階から、実はオープンサイエンスというのはほかの人とシェアをして、協働することやその成果を認め合うなどしてさらに研究を効率化する、発展させるということを念頭に置いています。そういう革新的なアプローチもどんどん促進させることによって、COVID-19のような危機的な状況が来たときに、査読つき論文を書いて出版するまで2年たたないとその成果が公開できないというような状況ではなくて、もうさっとデータを公開する、そういう時代に既になっていますけれども、こういった流れをどんどん作っていきましょうという話になります。
 その上で、やはり目指す先と現状にはギャップが様々に存在しますので、そのギャップを緩和するために、国際協力やマルチステークホルダー協力を推進することが実践項目になっております。この四角、オレンジの中は、勧告が出た時に必ず入るであろう表現で、(オープンサイエンス実現のために)適切な措置を取って、当局、機関の注意を喚起し、二国、地域、多国間、世界的なイニシアティブで協働して、その上で、きちんと報告するようにという形になっています。さらに最後に、この取組み自体をモニタリングしましょうということも書いております。
 次のスライドのモニタリングに関する細かいところは読み上げる時間がございませんが、オープンサイエンスのようなパラダイムシフトや、あるいはトランスフォーマティブに動いている研究や関連の活動をどのようにモニタリングするかということ自体も、実は重要かつ興味深い調査研究対象です。
 さて、勧告が今後の展望と日本の対応にどう影響を与えるかについてお話します。まず、大枠として申し上げますと、先ほど軽く触れたとおり、G7では2016年からオープンサイエンス政策の対応をしておりまして、昨年、イギリスのコーンウォールで出たG7Research Compact、研究協約と訳されますが、私はこちらのワーキングループの専門メンバーでもございまして、こちらでは、要は新しいイノベーション基盤をつくり、産業や雇用を生み出すという、よりアグレッシブな政策としてのオープンサイエンス政策づくりと研究データ基盤整備になっています。これは、一言で言うと、日本は先進国としてのリーダーシップを持って(オープンサイエンスの可能性に即した)研究力や産業力を上げていきましょうという動きとなります。対して、ユネスコは今申し上げたとおり、格差社会の解消や、むしろもっと包括的に新しい知の営みというものをつくっていきましょうということで、日本においては国際社会におけるリーダーシップを、外交や教育の観点から行う必要があるという議論になります。ちなみにこの勧告は、国連とか、あと世界学術会議による公式なサポートを得ておりますし、この勧告が出されるまで、WHO(世界保健機関)とか様々な世界機関のコンサルティングも受けているというような状況でございます。
 G7においてのオープンサイエンスの議論を簡単に御紹介させていただきますと、こちらが研究協約の中の一文で、「データ及びツールを可能な限りオープンかつ迅速に共有する際の障壁を取り除くとともに、オープンサイエンスを推進し、オープンで安全かつ透明性のある形で市民への科学の普及を拡大させ、技術関連のリスクの最小化に努める」となっています。表現上は、ユネスコと書いていることがほとんど一緒なのですけれども、先ほど解説させていただいたように、よりイノベーション基盤形成よりとなっています。敢えてすみ分ける必要があるわけでもないんでしょうけれども、特徴が出ている状況で、日本はそれぞれ対応していく必要があると考えます。
 最後に、これが国内外の動向で、日本はもう2015年から、実はオープンサイエンスに関して様々に活動させていただいております。あるいは大学では、自主的に研究データ基盤を整備するというのをどうやっていかなければいけないかという、典型的な言うのは簡単、やるのがとても大変という課題であることを分かった上で活動をしております。あるいは、AIの倫理の問題と絡めて、データ共有と利用に伴う責任を誰が持つのかという話、ガバナンスの問題もあるなどして、様々に問題は存在しますが、それを乗り越えた先に、冒頭申し上げた新しい科学と社会のパラダイムが生まれると考えている次第でございます。
 念のため、既に第6期の科学技術・イノベーション基本計画においては、新たな研究システムの構築ということで、オープンサイエンス、データ駆動型研究等の推進というのは明記されております。ここにございますように、研究データの管理・利活用、ないしは研究DXが開拓する新しい研究コミュニティ・環境の醸成ということで、既にユネスコの勧告に関してはあらかじめ対応しているというか、対応しながら勧告に入れていったというような流れにもなっていると思います。
 ということで、オープンサイエンスの潮流というのはもう歴史的に必然で、情報流通の技術革新によって知識を開放することにより、科学と社会というのを変えてきたので、これからも変わるだろうという前提で進んでいます。今のパラダイムシフトを駆動するのはインターネットなわけなのですけれども、(論文や電子ジャーナルとは違った)新しいプラットフォーム上で知識の共有が行われ、新しいルールメイク、ゲームチェンジが行われようとしているという話をさせていただきました。あるいは、ユネスコの観点としては、学問の自由や多様性を確保して、国の間や国内に存在するデジタル、技術、知識の格差、つまり今までとは違うやり方で格差社会を解消できるというのが、オープンサイエンス勧告の一つのポイントだと思います。その上で、このオープンサイエンス勧告というのは、国際社会の中で共通してこのオープンサイエンスの問題に取り組むための情報を整理したものと、お考えいただければと思います。
 日本国内、G7としては、オープンサイエンス政策推進を、イノベーション基盤づくりに主に注力しておりましたけれども、今後ユネスコにおいては、より包括的な世界課題解決のために、国際社会、アジアのリーダーとしての立ち振る舞いが、この勧告を受けて求められるという話になると、これはあくまで私の主観ですけれども、まとめさせていただきました。
 なお、最後に、こちらのほうは、実はモニタリングに関しては2016年から、日本で研究データがどのぐらい公開されているかを調査しております。これでもユネスコの勧告に対応できる準備はしているということで、後で御参照いただければと思っております。
 以上です。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
 それでは、今、二つの勧告についてそれぞれ御報告をいただきました。これからしばらくの時間、意見交換をしたいと思います。それぞれ御発表くださった方への御質問、あるいはコメント、御意見等、どうぞ御自由に御発言ください。
【事務局】  では、今、手が挙がっているのが沖大幹先生、そして、大谷紀子先生の手が挙がっていらっしゃいますので、まず沖先生からお願いいたします。
【沖委員】  ありがとうございます。どちらの御発表も大変興味深く拝聴させて、勉強させていただきました。
 私は地球科学に近い分野ですので、今の話で言いますと、論文を投稿すると、元のデータだけではなくて、数値シミュレーションのモデルすら公開しろという、公開しないとトップジャーナルには載せてもらえないというような状況になっていますので、そういう流れがあったのかというのを改めて思いました。
 ただ、私、オープンアクセスに関して今思っておりますのは、ここで問題提起をさせていただきますと、論文にアクセスできても、体系的に書かれている教科書がないと、なかなか学問が頭に入らないというのを最近しみじみ思っていまして、特に研究で分かっている者同士だといいのだと思うのですけれども、学生が勉強するのに、やはり論文がアクセスしやすいものですから、オープンジャーナルが増えて、論文は見てくれるんですけれども、それらがどういうコンテクストで流れてきていて、何をまず勉強していかなきゃいけない、メインストリームはこうなっていて、そこにどんな新しい流れが加わっているかみたいな、そういう意味では、レビュー論文的なものがまとまった、本当にテキストブックというのが大事で、オープンサイエンスの向こうに、テキストブックが共有されるみたいなことがないと、なかなか途上国の能力開発にいかないのではないかなという問題提起でございます。
 もう一つ、AIのほうですが、私、特に面白いなと思いましたのは、AIに人権を認めようと提案したら、ぼろかすに言われたという話ですが、やはり森羅万象、石とか木にすら、人格どころか神様と認めてしまう私たちのメンタリティーというのが、やはりなかなか違うのではないかなということをしみじみ思いました。
 一つ質問がございますのは、AIというのが書かれているわけですが、ここで言うAIは何のことであろうかというのが、原文を見てもよく分かりません。見ますと、単に技術、あるいは先端技術に置き換えても全て、例えば倫理であったり、包摂性であったり、平等であったりというのは非常に重要だと思いますので、何をもってここでわざわざAIと言っているのかというのが、私、少し分からないところがございました。
 自動運転で申しましても、実際、今、もういろいろなものにフィードバックがかかって、安定して動くような機械ができているわけですので、それとAIと、ここでわざわざ何を言おうとしているのかというのが、もし明確に分かりましたら、教えていただければと思います。ありがとうございます。
【日比谷委員長】  よろしければ、今の最後の御質問について、飯田研究官から何かコメント、御回答はありますでしょうか。
【飯田研究官】  ありがとうございます。人格のお話は、まさしく先生、御指摘のとおりでして、常々欧米人と議論をすると、すごく根底にある世界感とか宗教観が違うということを痛感させられるのですけれども、今回も同じようなことでございました。
 AIの定義ですが、これも御指摘の全くそのとおりでございまして、実はAIの定義が厳密にできていないというのが、OECDの原則もそうですし、今、この世界ではEUがAI規制案というのを出してきまして、まだ議論中です。ただ、法律にしようという段階においても、まだどこまでがAIなのかというのがはっきりしていないというのは、日本産業界の非常に大きな懸念になっています。
 基本的に、データをインプットして、何らかのプログラムによって判断やアウトプットを出すシステムということで、かつ、ここで言っているユネスコの場合、OECDでもそうですけれども、AIそのものではなくて、AIを使ったシステムというのを対象にしています。ですので、AIが中で動いているソフトウエアとか、あるいはそれがアクチュエーターに結びついた何らかのロボティクスとか、そういうもの全体をAIシステムと言っているわけですけれども、じゃあ、そのコアになっているAIの部分の厳密な線引きはできているかというと、実はできていなくて、勝手にデータを入れて判定が出るなら何でもAIなのかというと、広過ぎるだろうということで、ここは強制的な制度を作る場合には、非常に問題になってくる可能性がまだあると思っていますし、あと、やはりデジタルを……、全体にそうなのですけれども、技術変化が早いので、昨日はAIではなかったものが今日はAIだという状態になっている可能性もありますし、昨日なかったものが明日出てきているかもしれませんので、これを定義する困難さというのは、常に伴っているかと理解しております。
 あまりきちんとしたお答えにはなりませんけれども、現状はそのようなことでございます。
【沖委員】  ありがとうございます。
【事務局】  次、大谷委員にお願いしたいと思います。その後、野村委員、道田委員とお願いしたいと思います。
 まず、大谷先生、お願いします。
【大谷委員】  ありがとうございます。東京都市大学の大谷です。非常に分かりやすく御説明いただき、ありがとうございました。
 先ほど私、自己紹介で申し上げませんでしたが、私、AI分野の研究をしておりまして、自動作曲をテーマにしておりますので、どうしても人格というと、責任を取るよりも、著作権のほうが少し気になるというような、そんなことがございます。
 そして、一点質問なんですけれども、透明性と説明可能性という御説明がございました。この説明可能性ということに関してなんですけれども、AIの技術は、この技術で何かデータを入力すると、結果が出る。その結果を出した過程が分からない、ブラックボックスになってしまうような技術と、それ以外に、どうしてその結果が出たのかという説明ができるような技術と、大きく2種類あると思うのですけれども、現在ですと、その説明できないブラックボックスの技術を抜いてしまうと、AIのすばらしさというのがもう格段に減ってしまうので、ここで言う説明可能性というのは、どういうデータで学習をさせたどういう技術だよというところを明確にするというような説明可能性というふうに私は理解しているんですけれども、それで正しいでしょうか。
【日比谷委員長】  では、時間の関係もありますので、今、お手の挙がっている方全部、コメントを伺った後で、まとめて御回答をお願いいたします。
【事務局】  では、続きまして、野村委員お願いいたします。
【野村委員】  野村です。今日は相当遅れての参加で、申し訳ありません。AI倫理とオープンサイエンスの御説明、ありがとうございます。
 双方に共通してのコメントなのですが、いずれも実現するためには、国際的な非営利機関といいますか、非営利団体みたいなものが必要ではないかと感じました。
 AI倫理のほうで言いますと、加盟国は何とかかんとかすべきだというような表現が何回も出てまいりましたが、いずれもその中身は、飯田さん御説明のとおり、すごく練られた、本当にそのとおりだと思うものなのですけれども、加盟国が何々すべきと言っても、今、大手の影響力のある多国籍企業に限らず、全ての企業、市民がネットでつながっている時代ですので、民間企業の使い方で、それが市民社会に及ぼす影響というのは、大手IT企業、メディアのみならず、多大なるものがあります。
 そこで、やはりAI倫理を実行するような国際的な、ある程度のユネスコに倣ったルールみたいな形で国際機関が、それに優良企業は署名、加盟して、そのルールに従うということを良しとするみたいなところに持っていかないと、なかなか規律が保たれないのではないかなと思っています。
 オープンサイエンスにしても、オープンサイエンスを実現するための新しいプラットフォームをどこがどのように担うのかと考えると、やはり、例えば先進国はじめ各国の政府が資金拠出するような国際的な非営利団体みたいなところが、運営、それから監視するといったことが必要なのかと思いました。
 以上です。
【事務局】  ありがとうございます。
 続きまして、道田委員、お願いいたします。
【道田委員長代理】  ありがとうございます。東京大学、道田でございます。大変興味深く聞かせていただきました。
 AIのほうは感想ぐらいしかないので、時間の関係もあるでしょうから、これからのお話はオープンサイエンスのほうに絞りますが、先ほど来話題になっておりました国連海洋科学の10年、これを進めるためにオープンサイエンス、あるいは、もっと手前にあるデータシェアリングですね、オープンデータシェアリング、これが鍵であるということは共通認識になっておりまして、それが大事だということになっています。私自身も、30年以上、IOCの海洋データのシェアリングに関する仕事をずっと関心を持ってやってきておりまして、今日はオープンサイエンスの現状について整理したお話を伺えて、非常に良かったなと思っております。
 UN Decadeに向けて、一層データの共有化、オープン化を進めるのだということになっていて、Findable、Accessible、Interoperable、ReusableというFAIR原則を徹底しようという話になりつつあるのですけど、現行のIOCのデータ交換ポリシーというのがよりオープンな方向の改定に向かっているんですが、一方で、昔はそういうことが議論にならなかった、ナショナルセキュリティのことを取り出してくる人、国もなきにしもあらずでありまして、海洋の観測データ、例えば水温とか塩分とかがナショナルセキュリティにそんなに影響があるとは思えないんですけれども、予防的にそういったことをシェアすることに関して、ブレーキを踏もうとする方々もいると。
 そういう中で、いかにデータシェアリングを進めていくかというのが、当面、国連海洋科学の10年の推進という観点からも重要だということで、ここ二、三年、IOCのデータポリシーの改定が予定されていますので、先ほどお聞きしたオープンサイエンスの議論をよく注視しつつ、我々の議論も進めてまいりたいと思います。
 ありがとうございました。以上です。
【事務局】  ありがとうございます。
 あと4名の方、河野委員、渡邉委員、藤田委員、大野委員から手が挙がっているのですけど、一旦ここで回答をお二方からいただければと思うのですが、委員長いかがでしょうか。
【日比谷委員長】  はい、結構です。お願いいたします。
 では、まず飯田研究官からお願いいたします。
【飯田研究官】  ありがとうございます。大谷委員からお話のありました説明可能性は、まさにお話のとおりでございまして、データをインプットしたときに、何でこんな結果になったのかというのが全く分からないのは、やはり安全と言えるのかということになるわけですので、今……。ただ、御指摘あったとおり、説明可能にすればするほど効率が落ちるという、あるいは、じゃあ、もうAIじゃなくても良いのではということになりますので、そこのバランスが非常に難しいということになっています。現場でも、説明可能なAIというのを一生懸命開発している企業もあるのですが、それがAIとしてどのぐらいパワーを発揮できるかというのは、一方でパフォーマンスの問題が出ますので、そこをいかにバランス取っていくか。
 一方で、やはりそれが分かりやすいことが、利用者に受け入れられるということにもなるとすると、ビジネスで使っていく範囲では、ある程度効率性、パフォーマンスを抑えても、説明可能性を重視することがAIの普及につながる面もあるかもしれませんので、このあたりは今後、企業の戦略も含めて、我々も探求していく必要がある要素だと思っております。
 それから、野村先生の御指摘なのですけれども、まさにここは難しいところでございまして、AI原則というものは、こういう国際間、政府間のものも含めて、各企業がつくっているものですとかいろいろなものが幾らでもありまして、じゃあ、それを守っているのかというところがどういうふうに担保できているのかというのが、非常に課題になっております。
 結構話題になりましたのが、G20で、先ほどお話ししましたとおり、AI原則を2019年に採択したわけです。G20は非常に多様性に富んだ集まりでして、例えばロシアとか、あるいはお隣の国とか、いろいろな国が入っています。それで、この国もみんな、人間中心のAIという原則を受け入れて守るというふうに、一応宣言しています。それでもやっぱり無人機とかAI兵器がどうしたこうしたというのは、世界中でもうニュースになっているわけで、誰かが作っているということになりますので、このAI原則は当然拘束力がないわけですけれども、どこまで守っているのかというのをどうやって担保するのかというのは、非常に今、課題になっています。
 例えば一つの試みとして、Global Partnership on AIという団体が、これはG7をコアにできており、2020年6月に発足していますが、今、25か国が参加した国際機関になってきておりまして、本部はOECDに間借りをしている状態なのですけれども、G7プラス民主主義国が参加するグローバルなパートナーシップということで、OECD原則に基づく人間中心のAIを、基本メンバーシップは政府なのですが、マルチステークホルダーの枠組みでして、AIの研究者とか企業も参加をしています。
 ただ、サインをして何かを誓約するという仕組みはございません。ですので、やはり自発的にこれを守りながら推進する枠組みとしてのプラットフォームという形で、ある種、非営利団体的な国際機関としてできているものがございまして、実は今年の年末に、この、サミットと我々は呼んでいますが、総会を、日本で開催することになっております。11月か12月に東京のどこかで、少しAIに関する大きな会議をやろうと思っておりますので、ここでまた皆様にいろいろ御覧いただけるように、これから準備したいと思っていますので、また御指導をいろいろいただける機会があれば、ありがたく思います。
 すみません、長くなりました。以上でございます。
【日比谷委員長】  それでは、林さん、お願いいたします。
【林室長】  まず、オープンサイエンスを進める上で、教育のためには、レビューなど体系化された知識が重要ではないかというのは、まさしくそのとおりでございまして、こういうときに御説明するのは、査読前論文(プレプリント)は最先端の情報が分かる専門家がその責任において読む、査読つき論文は産業や医療を含むある程度信頼性の高いものを読みたい人たちでも一定の信頼性を担保された形で読める、そして、教育のためにはやっぱり教科書、レビュー、データが重要で、これは紙の本でいいと思うのです。紙の本で、100年以上残るようなものこそが人類か残すべき知識であるという形で、御紹介させていただいています。私はメディア論の専門ではないのですけど、今でもラジオがあってテレビがあってインターネットがあって、それぞれ、多少のシェアの変化はありながらもすみ分けているということが、多分、学術情報のメディアでも繰り返される。これも歴史に倣えば、そういうことと理解しております。
 続いて、国際的非営利団体であるオープンサイエンスのガバナンスの重要性も、おっしゃるとおりでございます。今、具体的に動いているのは、研究データ基盤を各国ないしはEU、地域でつくりましょうというときに、せめてそのデータ基盤同士は横のつながり、インターオペラブル(相互通用性がある形)につなげましょうという連携の取組があり、だけどすぐにはできないから、まずメタデータを交換しましょうといった具体的な活動があるのが一点あります。あと、OECDを中心に研究データの利活用に関するソフトローや規範につながるようなガイドラインの策定が、メンバー各国の丁寧な対話の中で生まれようとしています。そういう取組が積み重なった先に、最終的に新しい組織ができるかもしれませんが、国際的非営利団体によるオープンサイエンスのガバナンスというものが出来上がるのではないかぐらいに考えております。
 続いて、FAIR原則(FAIR data principles)に関して、 海洋系などデータシェアリングの現実的なオープンクローズやセキュリティのお話、本当に私もその話をよく聞きます。FAIR原則と共によく言われるのが、“as open as possible, as closed as necessary”というスローガンです。できるだけオープンに、だけど、どうしても閉じないといけないときは必要な限りにおいて閉じなさい、という所作が現実的です。大事なポイントは、情報基盤、インフラがそもそも変わるので、このオープンやクローズに関するルールづくりが変わろうとしている点です。分かりやすく言うと、特許とか著作権というのは、これ、実は(権利者は保護しつつも情報自体は)守るためではなくて公開するための仕組みです。この仕組み自体が変容し、紙の流通に依拠しないデータやインターネット上の情報に最適化した権利処理の仕組み、もはや特許とか著作権と呼ばないのかもしれないですけど、何かデータや情報を公開したときに、インセンティブやリワードがある仕組みというのが今後作られることが見込まれます。その仕組みを作るのが非常に面白いのではないかと、あるいは、行政官としては(著作権に代わる)法律を作るチャンスじゃないでしょうかといつも申し上げているのですけれども、そういう形で未来洞察をして行動していくことが、大事ではないかと考えております。
 以上です。
【事務局】  では、続きまして、河野委員、お願いします。
【河野委員】  海洋研究開発機構の河野と申します。御説明ありがとうございました。
 私もオープンサイエンスについて質問させていただきます。当機構も、もちろん全ての研究データをオープンにしようという方針の下で活動しておりますが、昨今、公開できないデータというのも含まれてくるようになってきて、もしシェア・オア・ペリッシュの時代が来て、あるいは基本的には素早く公開することが正しいのだというような時代になった場合、科学の質、あるいは科学者の評価はどのようになされていくのでしょうか。
 現在の科学誌は、ピアレビューのシステムによって、極力失敗がない方向に進んでいると思っていまして、そうではないのだというふうになっていくと、国から予算をいただいて、ひょっとするとあまり大したことないものをシェアすることによって、高い評価を得てしまったというようなことになりかねないかと思います。何か、これぞオープンサイエンスの神髄であるというような成功例みたいなものは、存在するのでしょうか。これが質問です。
【事務局】  ありがとうございます。
 続きまして、渡邉委員からコメントをお願いします。
【渡邉委員】  御説明、ありがとうございました。AIのほうで一つだけ質問です。
 AIの倫理勧告の重要な項目、価値や政策、措置の項目として、環境あるいは生態系という項目が取り上げられていることを、興味深く感じました。どんな議論でこの環境とか生態系という項目が取り上げられてきたのか、どんな議論だったのかということと、AIが環境や生態系に及ぼすマイナスの影響に着目された議論なのか、あるいは、環境や生態系の課題解決に向けて、AIが持つポジティブな可能性の議論だったのか、その両方だったのか、そのあたり、伺えればと思います。よろしくお願いします。
【事務局】  では、大野委員、御発言をお願いします。
【大野委員】  皆さん、こんにちは。大野と申します。御発表、御講演ありがとうございました。知らないことが多くて、本当に勉強になりました。私のほうは、実際、地質学を専門としておりまして、現在はジオパーク、国内の審査等にも関わっております。
 オープンサイエンスの件について興味があったので、ほぼコメントになりますが、ジオパークの現場ですと、結局、地質学や地球科学を使って持続可能な地域社会をどう実現していくかというようなことに、直接現場として取り組んでいるのですけれども、学術的な専門情報というものを地域社会に適用していくためには、なかなか専門性の高いものというのは、そのままの形では地域になじまないというところで、いつも苦しんでおります。
 先ほど沖委員のほうで、学術論文の情報をオープンしたとしても、そのままではなかなか地域社会には使えないから、それをワンクッション、もしくはツークッション置くようなマテリアルを整備して、それを基に、学術情報を地域に活用していくということがいいのではないかという御提案のように、私は理解したのですね。私もその現場で非常に苦しんでいるものですから。結局学者、研究者がやった研究成果を地域社会に役立てるためには、情報公開は必要だと思うのですけど、では、その公開された情報をどのようにしたら使えるか。
 もっと言うと、観光みたいなものというのは、今までそこにアカデミズムというのはなかったのですけれども、ジオパークの場合は、例えば目の前に見える景観とか、そこにある様々な歴史的な事柄について、きちんとした学術的背景に基づいた説明をしたいわけです。それをすることによって、例えば観光に来た人たちのリテラシーを上げたり、あと知的レベルを上げたりということに、ジオパークは貢献できると思っているのですね。それを実現していくために、最先端の技術と科学的成果をどう使えるようにしていったらいいかなというアイデアがもしあれば、御教示いただきたいと思っております。
 以上です。
【事務局】  ありがとうございました。
 藤田先生、お願いします。
【藤田委員】  京都大学の藤田です。プレダトリージャーナルの調査をしたことがありましたので、非常にオープンサイエンスのお話、興味深くお聞きさせていただきました。
 手短に三つございます。先ほどのお話とも少し関連するかもしれないのですけれども、いわゆる査読前論文の公開の扱いについて、何か基準というのが、編集者ですとかメディアの間であったりすると、教えていただければ。というのは、新しい情報にいち早くアクセスできるという非常に良い点と同時に、科学的エビデンスとしては生煮えのものがリリースされてしまうという、そういった諸刃の剣の面がある。それについて何か、どういうふうに公開していくかという基準があったりすると、教えていただきたいということです。2番目は、オープンアクセスで、市民参画による新しい研究スタイルというのが実現するのではないかとおっしゃって、市民参画は、非常に研究者の領域では盛んに言われるようになりまして、理念としてはもう否定しようがなく、大事だということは分かるのですけれども、では、どうやってこれを具体的に実現していくかというと、これがいい在り方だということのイメージを、誰も具体的に持っているわけではなく、評価の基準もないという現状があって、その中で、先生がおっしゃった市民参画による新しい研究スタイル、例えば具体的にどういったすばらしい例があるとか、何かあったら教えていただきたいということです。最後、格差について、オープンアクセスによって格差がなくなるというお話がありました。例えば我々の研究所のような理系の科学者の業界だと、様々なデータを共有して、みんなで新しい知見を明らかにしていこうというときに、非常に有益です。ただ、我々、人文社会科学の研究者は、日本ではやはり周りを見ても、英語で発信する、英語で資料を読むという、そういった研究スタイルの者が決して多数派ではない。その中で、世界各国で人文社会科学系のデータを、オープンサイエンスで誰でもアクセスできますよとなったときに、逆に日本の研究者が取り残されたりしないか、格差が広がるということはないか。その点について、お考えがあったらお聞かせいただきたいというところです。
 ありがとうございます。以上です。
【事務局】  ありがとうございます。
 委員長、今、手が挙がっている方々は全てですので、まとめて回答をお願いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。
【日比谷委員長】  はい、結構です。
 それでは、今回は最後、順番を変えまして、そうですね、林室長からお願いいたします。
【林室長】  ありがとうございます。
 まず、科学の評価、ピアレビューの真価について、これは今、大変議論になっております。そもそもCOVID-19に関して、”The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE”等のトップジャーナルが撤回騒ぎを起こすなどをしていて、とはいいながら、ピアレビューというのが、やはり科学者コミュニティの見識を示し、科学的真正性をより妥当的に判断する手段としての立ち位置は揺るぎないと考えます。その上で、それ以外の社会的インパクトをはかるときには、やっぱり科学者のピアレビューでは分からないのでというような議論もあります。要するに評価の軸が多次元になっている。だから、ややこしいカオスになっているという話だと思います。
 ですので、(社会に役立つ研究がより求められるために)社会的インパクトだけ見てしまって科学者として評価されないというように、評価者が間違った判断をしてはいけないという、そういう文化醸成の議論に持ち込む話だと思います。ですので、社会的インパクトをはかることが、ピアレビューの何か価値観を損なうものでは決してないのではないかと思います。
 この話に関して、ちょうど次の質問と関連するもので、スライドがたまたま手元にありますので御紹介すると、これが、オープンサイエンスのチャンピオンケースで御紹介しているものでございます。東京大学のAI研究者、シミュレーションをやっている先生が、WHOのオープンデータを使って自分のシミュレーションに当てはめたら、何か面白い結果が出てきました。オープンデータをまず活用しました。先生は医療の専門家ではないので、専門のジャーナルに出せないから、何をしたかというと、査読前論文として投稿して、それでSNSで、「こんな結果が出たのですけど、どうですか」というふうに世界に聞きました。そうすると、まず科学的インパクトが出る形で、医学系とか経営学者、情報学者と国際コラボが生まれて、シンポジウムが開催されました。一方、先生は横浜に住んでいるので、横浜市との啓蒙活動にもつながりました。もう喫緊の課題ですので、生活への導入も行われ、社会インパクトにもつながりました。
 このケースの何が画期的かというのは二点ありまして、一つは、このエピソードに学会も図書館も(商業)出版社も一切関わっていないという点、もう一点は、これ、最初に先生が着想してからこの社会的インパクトが出るまで、半年ちょっとなのです。すなわちこの活動は、そもそも査読をやっていたら間に合わない世界で、既に研究がデータとAIを使って研究活動が行われて、しかも科学的インパクトも、経営情報学等を含めて多次元な科学的インパクトに加えて、さらに社会インパクトも生まれている事例なのです。
 その上で、最後の落ちを聞いていただきたいのですが、先生は最終的に、この査読前論文からちゃんと査読つきジャーナルに投稿して、通って、業績として確定しています。というのが、私が御紹介するオープンサイエンスのチャンピオンケースであり、このような変化に応じて評価の仕方も変わることが想起されます。
 続いて、市民との関わりに関しましても、これは市民科学の文脈で講演させていただくときのスライドなのですけれども、結論から申し上げますと、市民の関与に関して、クラウドファンディングを使うといいという話があります。つまり、研究が終わってからアウトリーチするのではなくて、市民に関与させたい話であれば、最初からお金をもらうときに、クラウドファンディングで資金を提供いただくと、そこで必死に説明をするわけなので、もうエンゲージメントというのは織り込み済みであるという話になります。
 究極的には、このクラウドファンディングを利用することが、実は科学と社会の関係性を変える、大きな駆動力になるとは思います。ただし、この仕組みがすぐ全ての分野に適用されるとはいきませんので、それ以外に考えられるものとしては、オープンサイエンス・アジェンダ・セッティングと呼ぶ場合もありますけれども、課題を設定するところに市民をどんどん参画させる。研究のより上流工程で市民が参画できることが、ネットワーク化した情報インフラ、あるいはプラットフォーム化した情報インフラの上でできる時代になっているというのが、オープンサイエンスの特質だと考えます。
 それ以外にも、そもそも研究そのものに関与するアマチュアの研究者も、オープンデータを使ってどんどん進めますし、今、職業科学者、大学で科学者をやるととても大変だから、自分は企業に勤めるなどして別なところでお金を稼いで、自分の好きな研究を本格的にやるという、独立系研究者と私は呼んでいる方々が生まれていて、これも科学の姿が変わっているというような話になってきていると思います。
 もう一つの例を紹介します。スライドが別のファイルなので口頭で申し上げますと、雷の中で原子核の反応が起きているということを突き止めたいと思った、当時、京都大学の榎戸先生が、科研費でそれを申請したのだけど落ちたので、クラウドファンディングで、雷の中で核反応が起きているのを一緒に探しませんかといってクラウドファンディングをもらって、それを突き止めたという話があります。雷ってどこで落ちるか分からないので、検出器をあちこちに置くというところで市民が参画して、それで、見事、対消滅ガンマ線と呼ぶらしいのですけれども、核反応が起きている証拠を検出した結果を”Nature”に載せて、イギリス物理学会のその年の重大発見の一つに選ばれたというのが、市民科学のチャンピオンケースとして御紹介しております。
 あと、長くなって恐縮ですけれども、質問としては、査読前論文の質に関しましては、基準というものは今、ないです。なぜならば、査読前論文は専門家で読める人が読める、読めない人はもぐりだというような扱いで、その代わりより早く手に入るというトレードオフの関係です。そして、出版社が何をしているかというと、今、積極的に査読前論文に載せてくださいと著者に働きかけています。より具体的には、査読を待っている間に、どんどん査読前論文にも投稿してくださいという働きかけを、シュプリンガー・ネイチャー等商業出版社は進めています。
 これはどういう効果があるかというと、いたずらに出版社が研究成果の公開をとどめているのではないという姿勢を示すのと、あともう一つ大事なのは、査読によるスクーピング問題を解決するメリットがあります。つまり、査読の間に情報を抜かれて査読を遅くされて、別なところで成果を出される問題というのが前からありました。実は鉄系の高温超電導のときなど、エピソードとしてはいろいろな世界で語られるわけですけれども、査読前論文で先に公開させておくことによって、少なくともそのアイデア等の先取権を確保できる状態にする形で現状運用されています。あと、先ほどの御説明の繰り返しになりますが、自分がその専門であれば(自分の責任において)査読前論文を読むのは問題ない。だけれど、自分が非専門家であったり、単なる読者、特に産業や医療関係の人は、やっぱりピアレビューしたものを読むべきですし、教育のためには、その前に体系化された、ときに100年単位でまとまった教科書を読むべきであるというのが、私の立場です。
 最後に、言語問題についてお話します。言語問題もこれ、大変なのですけど、ちょっと長くなるので一言で申し上げますと、機械が読めるようになることが大事だと思います。オープンアクセスのもう一つの議論は、人が読める量に対して、読まなきゃいけない情報量が既にもう限界、1桁どころか2桁、3桁を超えているので、もうAIが読むしかない状況です。AIが読めて、まとめ上げるというものを人間が読む時代に、もう既に入っています。だから、そのプロセスの中で言語問題も解決されると考えるのが、今のところの答えとなります。
 以上です。
【日比谷委員長】  ありがとうございました。
 それでは、続いて、飯田研究官、お願いいたします。
【飯田研究官】  ありがとうございます。渡邉先生から環境の御質問をいただいたかと思います。
 あまり勝手な予想をしても、いけないのかもしれないのですが、最初にこの要素が出てきたのは、先ほどお話ししました専門家の起草委員会の中でございます。伝え聞いた話では、中国の専門家がこの要素を提案したと。これが非常に、解釈がなかなか興味深くなるところでございまして、私の聞いた説明の一つで、これが正解かは分かりませんけれども、人間中心のAIと言うけれども、人間だけが世界の中心ではないのだと。自然も含めて、人間よりもより大きな地球なり自然界が中心なのであると、それに配慮しなきゃいけないのだという話だったと聞いておりまして、それ自体は大変崇高な理念じゃないかと思うのですが、これを言ったのが中国の専門家だったというところで、人権とか人間尊重の色彩を薄める意図だったのではないかという、これはちょっと邪推に近いかもしれませんが、解釈も語られておりました。
 当然、出てきた後は普通にいろいろな議論を経ますので、その中で、先生の御指摘のあったポジティブな面とネガティブな面と両方ございまして、実際に今、出来上がっているものでは、まず、AIはすごく効率やインパクトがポジティブに語られるけれども、やはりエネルギー消費とか炭素排出とか、あるいはAI技術を支えるような原材料の環境インパクトとか、こういうことにも配慮しなければならないのだということは、まず出てきております。
 一方で、やはり環境や生態へのポジティブな効果もあると。あるいは、耐災害対応的なところでも、スピードとかいろいろな点で活用の道がたくさんあると。ただ、これに対してはインセンティブをうまく与えていかないと、経済原則だけでは使われないかもしれないので、そこを政府なりマルチステークホルダーでいかにインセンティブを与えていくかを考えなければいけないというようなことになっておりまして、ネガティブな面に配慮しながら、ポジティブな面を生かしていく仕組みを考えていこうということになっているかと思います。
 以上でございます。
【日比谷委員長】  ありがとうございます。
 それでは、議題の3と4の御報告につきまして意見交換を行いましたけれども、これで終了といたします。
 
<議題5 その他>
【日比谷委員長】  最後、その他ということになっておりますが、事務局も含め、何かありますでしょうか。
 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 本日は皆様、お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございました。二つの勧告が出まして、それぞれ御報告をいただいたのですけれども、どちらも非常に有意義な内容で、私どもが今後、考えていかなければならない様々な、何といいますか、種を頂いたと思いますので、お二人の報告者の方々には本当に感謝を申し上げたいと思います。
 それでは、事務局から今後の予定についてお願いいたします。
【原国際統括官補佐】  本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 今後の予定ですが、既にお知らせしておりますとおり、来週、3月11日金曜日13時より、第150回日本ユネスコ国内委員会総会を開催することとなっております。本日の科学小委員会での議論については総会で報告することになりますので、よろしくお願いいたします。
【日比谷委員長】  ありがとうございます。
 それでは、本日の会議はこれで閉会といたします。皆様、どうもありがとうございました。
 

―― 了 ――

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