資料3-1 SDGsでコロナ危機を克服し、持続可能な社会をつくるためのSDGs推進円卓会議構成員による提言

令和2年7月30日  

SDGs推進本部
本部長 安倍 晋三 様

SDGsでコロナ危機を克服し、持続可能な社会をつくるためのSDGs推進円卓会議構成員による提言

1.SDGs推進円卓会議構成員による緊急提言

 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大は、「持続可能な開発目標」(SDGs)達成への取り組みに大きなダメージを与えている。2019年の国連SDGsサミットでは「SDGsの進捗の遅れ」に警鐘が鳴らされた。私たちは、コロナ禍により、これまでの限られた成果すら失いかねない状況に直面している。SDGs推進円卓会議構成員有志は、第10回SDGs推進円卓会議の開催にあたり、コロナ禍の克服に関する取り組みについて、SDGs推進の視点から、SDGs推進本部に対し、以下の3点の緊急提言を行う。

(1) コロナ禍により、現在の日本の社会・経済システムが持続可能なものではないことが明るみになった。コロナ禍の克服と、気候変動を含む新たな災害のリスクの軽減のためには、よりよい復興の実現が最も重要であり、SDGsはその羅針盤である。政府はこのことを再認識し、SDGsを軸に経済再生計画を構成する必要がある。政府は12月を待つことなく、至急SDGs推進本部の会合を開催して政策の策定・実施を行い、国連総会の機会に日本の対応策を世界に示す必要がある。

(2) 上記政策の具体化のため、本年度第1次・第2次補正予算の執行にSDGsを取り入れるとともに、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太の方針)で年内の策定を定める「新しい日常」実行計画や「男女共同参画基本計画」など関連施策の実施にSDGsを主流化する必要がある。また、「SDGsアクションプラン2021」の策定においても、SDGsをコロナ対策の基本理念に据えることでコロナ禍の克服とSDGs推進の両立を図り、コロナによるSDGs達成の遅延を最小限に抑えるため、全てのステークホルダーを巻き込み、包摂的な対話機会を保証すべきである。

(3) 上記のプロセスを通じ、「Withコロナ社会」においてレジリエンス(回復力のある、しなやかな強さ)を強化し、SDGsの達成された持続可能な「Afterコロナ社会」を目指すコロナ克服のための国家戦略を策定すべきである。

2.「コロナ禍」の現状分析とその克服に向けた展望

 コロナ禍は特に、脆弱な状況にある人々に打撃を与え、社会・経済のひずみや貧困・格差の存在をさらけ出している。日本でも、コロナ緊急事態において、家庭におけるケア労働の女性への集中、ジェンダーに基づく暴力や高齢者・障害者・子どもへの虐待の増加、高齢者などの生活の質の低下、LGBTなど少数者への迫害などが増加している。休校などで公教育の機会が失われる中、所得格差がオンライン教育へのアクセスなどにも反映し、教育格差が拡大している。非正規雇用にある労働者を中心に、多くの労働者が失業と生活困窮に直面している。多言語サービスの不十分さなどから、外国人住民が支援策から疎外される状況も生じている。コロナに感染した人の個人情報が漏洩され、社会的な迫害にさらされるといった事態が生じているほか、フェイクニュースやデジタル監視技術の乱用による人権侵害も懸念されている。これらの課題はすべて、SDGsの各ゴールにかかわる問題である。

 コロナ禍は、パンデミックへの平時からの準備とガバナンスの重要性も浮き彫りにしている。広範な国民の合意のもとに首尾一貫した政策を打ち出すことができた国は、被害の軽減に相対的に成功している。日本でも大規模な予算により各種の支援策が組まれているが、意思決定の安定性や公開性、透明性、科学的知見の反映、支援を届ける迅速性について、見直しと改善が必要とされている。このことは、SDGsのゴール16(平和と公正・ガバナンス)、ゴール17(パートナーシップ)の重要性を示している。

 いま、世界はコロナ禍という同じ問題を共有している。医薬品や診断、ワクチンなどの開発と平等なアクセスの実現に向けた国際的な枠組みも整いつつあり、日本もこうした仕組みづくりに多国間協力で貢献している。一方、国際協調を脅かすコロナの拡大の隠蔽やリスク軽視、自国優先の傾向も強く存在する。今作られつつある国際連帯・協調の促進こそが、グローバルな危機を克服する早道である。

3.SDGsでコロナ禍を克服し、持続可能な社会を作るための政策提言

 コロナ禍からの「復興」は、コロナ以前の社会に戻るのでなく、包摂的で公正、グリーンでジェンダー平等の達成されたSDGs型の社会をめざす、「よりよい復興」でなければならない。「Withコロナ」の段階から、SDGsをコロナ対策の基本理念に据え、社会のコロナへのレジリエンスをSDGsの17目標を活用して定義し、コロナ対策と経済、労働、環境、ジェンダー等の様々な政策とのシナジーを強化することにより、コロナ禍の克服とSDGs達成が両立した「Afterコロナ社会」の実現への出口戦略を開く必要がある。これを実現するため、以下の政策提言を行う。

(1) 政府はSDGsをコロナ対策の基本理念に据え、包摂性・参画性と専門性を両立させ、エビデンスに基づいた意思決定が可能な確固としたガバナンスの仕組みを構築する必要がある。

(2) コロナ対策、SDGsへの取り組みの双方とも、一般市民に伝わる、わかりやすい広報を徹底する必要がある。また、政府やステークホルダーの取り組みについて、SDGsの複数ゴールへの貢献(社会的価値)を科学的、定量的に把握・評価する仕組みの構築が重要である。

(3) 私たちは7月の豪雨災害で既にコロナ下での災害を経験した。コロナ下での緊急事態対応をスフィア基準(人道憲章と人道対応に関する最低基準)に準拠して策定するとともに、都市インフラのレジリエンス向上、地域循環型経済圏の創生、テレワークの普及を進展させ、「東京一極集中」からの脱皮を急ぎ、今後のパンデミックへのレジリエンス強化を図る必要がある。

(4) コロナ禍による教育格差、ジェンダー不平等、人権侵害といった多様な社会・経済的課題には、SDGsのシナジー効果を活用し、政府、地方自治体、労働組合、協同組合、民間企業、民間財団、市民社会、社会起業家等の連携で「誰一人取り残さない」社会づくりに帰結させる必要がある。また、公・共・私の協力で市民の生活を支える必要性を重視し、立ち遅れがみられる「共助」の促進のための制度的整備を検討する必要がある。

(5) 脆弱層や最前線の労働者を含め、全ての労働者を失業から守り、ディーセント・ワークを実現する必要がある。コロナ禍で可視化された非正規雇用や、グローバルなサプライチェーンの脆弱性の克服には、「ビジネスと人権」指導原則に基づく行動計画の誠実な実践が必要である。「Afterコロナ」に向け、SDGsに基づいたグリーン・ジョブの創出、社会的包摂を伴ったデジタル・トランスフォーメーション(DX)の大胆な導入などを通じて目標8、9達成を加速化し、持続可能で誰一人取り残さない新しい社会・経済モデルへの移行を実現する必要がある。

(6) 新しい社会・経済モデルの柱となるのは、デジタル技術を活用した成長戦略の強化、脱炭素社会に向けたエネルギー・環境対策の推進、働き方改革と人材育成、地域経済の活性化である。「ソサエティ5.0」は巨大なビジネス・投資機会でもある。一方、科学技術イノベーションの急速な進展は、貧困・格差や環境、社会規範、ガバナンスの在り方などに大きな変容をもたらしうる。SDGs達成に向けて科学技術イノベーションの可能性を最大化するには、全てのステークホルダーによる建設的な対話に基づいた「人間中心のアプローチ」が不可欠である。

(7) 気候危機は着々と進んでいる。また、コロナなどパンデミックの多くは人獣共通感染症であり、蔓延の根幹には生物多様性の喪失や交通網のグローバル化がある。脱炭素化の取り組みはコストではなく、社会的・経済的な価値を生み出す。パリ協定への取組み強化、気候変動に関わる新規技術の導入、生物多様性への取組みなど、SDGsゴール12-15の達成を目指す必要がある。

(8) 「コロナ禍」は世界共通の課題であり、「一国のみの解決」はあり得ない。医薬品・ワクチン・診断技術の開発と平等なアクセスの実現に向けて、日本が一翼を担う「COVID-19関連技術アクセス促進枠組み」(ACT-Accelerator)や「COVID-19技術アクセス・プール」(C-TAP)、技術アクセスパートナーシップ(TAP)などの多国間の枠組みや、これらに協調した「オープンCOVID誓約」(Open COVID Pledge)の運動が広がっている。日本は今後も、「グローバルな危機にグローバルな解決を」という立場から、これらの枠組みに積極的な貢献と関与を行う必要がある。(了)

本提言書を提出するSDGs推進円卓会議構成員

有馬 利男  一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事
稲場 雅紀  一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク政策担当顧問
大西 連    特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい理事長
春日 文子  国立研究開発法人国立環境研究所特任フェロー
蟹江 憲史  慶應義塾大学大学院教授
河野 康子  一般社団法人全国消費者団体連絡会前事務局長、特定非営利活動法人消費者スマイル基金事務局長
近藤 哲生  国連開発計画駐日代表
宮園 雅敬  年金積立金管理運用独立行政法人理事長
田中 明彦  政策研究大学院大学長
根本 かおる 国連広報センター所長
二宮 雅也  日本経済団体連合会企業行動・SDGs委員長、損害保険ジャパン日本興亜株式会社会長
三輪 敦子  一般財団法人アジア太平洋人権情報センター所長、一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク共同代表
元林 稔博  日本労働組合総連合会総合国際政策局長
山口 しのぶ 国連大学サステイナビリティ高等研究
 

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