資料3-2 2020-2021年のユネスコ活動に関する方針(答申案)(教育分野抜粋)

A. 2020-2021年のユネスコ活動に関する我が国の基本的方針(教育分野)

1.ユネスコにおける主な取組の現状

○ ユネスコは、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、教育に特化したゴール4のリーディング・エージェンシーであり、その達成を主導的に推進している。2016年には「SDG-教育2030ステアリング・コミッティー」を設置し、加盟国等の目標達成を組織的にサポートしている。
「持続可能な開発のための教育(ESD)」は、SDGsの17すべてのゴールの達成に寄与するものとして位置付けられ、充実が図られている。本年4月の執行委員会において、2020年~2030年の期間における新たなプログラムである「持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が決議され、本年9月の国連総会に提案される予定である。

○ 教育政策全般に関しては、ユネスコは過去にも、生涯学習の流れを主導したフォール・レポートや、学習の方向および内容についての共通理解を深めたドロール・レポートなどをまとめてきたが、新たに国連事務総長の要望を受け、複雑さを増し不確実性が高まる世界の中で教育の将来像を描く「教育の未来」プロジェクトが始動することとなった。今後、有識者による国際委員会を設置し、2021年までにグローバルレポートを作成する予定である。

○ 高等教育に関しては、流動性が高まる中で学修経験が他国でも公平・公正に取り扱われるよう、高等教育の資格の承認に関する規範文書の作成が進められてきた。これまで6つの地域で地域規約の採択・発効が進んできたところであるが、グローバル化のさらなる進展等を受け、地域規約と協調して相乗効果を発する「世界規約」の策定が進められており、本年11月の総会で採択予定である。

2.我が国の主な活動状況

○ SDG4達成のためのメカニズムである「SDG-教育2030ステアリング・コミッティー」には、教育分野の有識者である日本ユネスコ国内委員会委員が共同議長として参加している。また、ESDについては、我が国は2005年からの「国連ESDの10年」の提唱国であり、SDGs採択後には17すべてのゴールの達成に寄与するものとしてその位置付けを更新しながら、ESD for 2030に向けた主導的な役割を果たしてきている。

○ また、ユネスコに対しては、「アジア太平洋地域教育協力信託基金」や「ESDグローバル・アクション・プログラム信託基金」といった任意拠出金を通じて、教育プロジェクトの支援を行い、国際的な合意形成や各国の教育の量的・質的向上に貢献している。

○ 国内の教育については、新学習指導要領に「持続可能な社会の創り手」の育成が基盤となる理念として位置付けられ、育みたい資質・能力を軸に、カリキュラム編成、授業改善、評価の観点、教員養成等が一貫した仕組みとして整備されている。「知識・技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性」のバランスの取れた育成は、国際会議においても日本の教育の強みとして高く評価されているところである。

○ 国内のユネスコ活動については、地域のユネスコ活動を担うユネスコ協会、ESDの実施拠点であるユネスコスクールのネットワーク、ユネスコチェアやUnivNetとして活動している大学、地方自治体や各種の民間団体など、多様な組織や個人が関与している。長年の活動の中で、今後はユースの世代を巻き込み、これからの時代にふさわしいユネスコ活動の価値づけを改めて行い、さらなる充実を図ることが期待されている。

3.2020-2021年のユネスコ事業に関する我が国の基本的方針

(1)日本の強みを生かした国際貢献

○ 我が国は、ESDなどの重点分野におけるアジア太平洋を中心とした地域の取組を、任意拠出金を通じて支援してきている。こうした長年にわたる地道な支援は、各国の教育の量的・質的向上に貢献していることはもちろんのこと、様々な国際場裡において、日本の存在感を示す上でも間接的に効果を発揮していると考えられ、今後とも継続的に支援していくことが重要である。

○ 具体的な支援方法については、これまでは、会議等の開催経費や参加者の旅費等をパッケージで支援してきているが、近年は、アジア全体の資金力の増加に伴い、会議開催や専門家の出席に係る経費は地域機関や各国において支弁できるケースも増えており、従来の支援の在り方では、日本としての協力をアピールしにくくなってきている。

○ 今後、支援のビジビリティを高め我が国の存在感を維持するためには、従来の支援方法を見直し、これまで信託基金を通じて構築されてきた各国との関係をさらに強化しつつ、日本の事例や知見を生かした教育コンテンツの共同研究・開発や、教育内容や指導法等の工夫・改善支援、対話・交流や人材育成等を活性化するためのネットワーク形成といった、日本の強みを生かした質的な支援にシフトしていくことが重要である。

(2)多文化共生の考え方に基づく我が国の教育機会の提供

○ 近年、我が国に在留する外国人は増加しており、深刻な人手不足を踏まえ、入管法等改正により新たな在留資格「特定技能」が創設されたことなどを受け、今後も更なる増加が予想されるところである。一方、世界に目を向ければ、外国人受入れに伴って、望ましい形での共生が実現できず生じた社会的な分断は大きな課題となっている。日本社会において同様の課題が発生しないよう十分な対策を積極的に講じていくことが重要である。

○ 外国人の受入れ・共生は、我が国に豊かさをもたらすものであり、外国人が日本人とともに今後の日本社会を作り上げていく大切な社会の一員であることを認識し、日本人と外国人がともに尊重し合い、さまざまな課題に対して協働していくことのできる環境を構築することが重要である。

○ 我が国は、「人類の心の中に平和の砦を築く」というユネスコ憲章の理念のもと、国内外で多文化共生の考え方に基づく多様なユネスコ活動を展開してきている。こうした長年の実績を受け継ぎつつ、将来にわたって新たな時代における共生社会を実現するために必要な活動を展開していくことが求められる。

(3)ユネスコ活動の基盤強化

○ 国内外のユネスコ活動には、長年地域のユネスコ活動を支えてきているユネスコ協会や、世界一の数を誇るユネスコスクールのネットワーク、ユネスコチェアとなっている大学等はもちろんのこと、GAPキーパートナーとなっている地方自治体やNPO、公益法人なども含め、多くの組織や個人が関わっている。

○ 今後、個々の活動の質を高めていくのみならず、多様なステークホルダー同士の連携を深め、オールジャパンでの戦略的な取組を推進し、我が国のユネスコ活動の未来を共創するプラットフォームの構築が望まれる。

B. 第40回ユネスコ総会における2020-2021年事業・予算案(40C/5)等に関する方針(教育分野)

ユネスコ憲章や教育基本法にのっとり、人類の重要な権利の一つである教育を受ける権利を保障し、変化の激しい時代にあっても一人一人が「持続可能な社会の創り手」となれるようにすることが求められている。教育がよりよい人生やよりよい社会の実現にどのように貢献しているかを考え、人類共通の利益としての教育、知識の重要性を再認識し、ユネスコ活動の充実を図っていくことが重要である。

(1)SDG4(教育)の実施に係る主導的役割と、SDGs達成に資する持続可能な開発のための教育(ESD)のさらなる充実

○ 我が国が提唱したESDは、分野横断的に全てのSDGsの目標達成に貢献するものである。気候変動などの諸課題に直面する社会の中で、自ら解決策を見出すことのできる次世代の育成を目指すにあたって有効であり、ユネスコにとっても引き続き重要な取組である。

○ 9月の国連気候変動アクションサミットでは、気候変動とESDに関する日・ユネスコ共同イニシアティブへの貢献として、世界のユネスコスクールにおける取組を共有するサイドイベントが開催された(予定)。

○ また、ESD提唱国である我が国は、秋の総会で採択予定の「持続可能な開発のための教育:SDGsの達成に向けて(ESD for 2030)」の立ち上げ直前記念イベントとして、9月に東京でESD for 2030のオープンセッションを開催した(予定)。

○ 今後もユネスコと協力しつつ、SDGsの達成に向けた国際的な議論の活性化に貢献するとともに、信託基金を通じた各国の教育の量的・質的向上を支援していきたい。

(2)「教育の未来」プロジェクトへの貢献

○ 国連機関の中で教育のリードエージェンシーであるユネスコが、教育の力で新たな社会を創造し、様々な課題を解決するためのものとして、先般の執行委員会で教育の未来プロジェクトを提案したことを歓迎する。我が国としても、議論のための国際委員会への参加も含めて積極的に関与していきたい。

(3)高等教育の資格の承認に関する規約

○ 高等教育の資格の相互承認を通じて地域及び世界における高等教育の質の向上・改善を図るため、地域規約については、締約国が増加することで規約がより普遍性を持ったものとなること、また、世界規約については、本年秋のユネスコ総会での採択を前提に、早期発効に向け、加盟国の締結が促進されるとともに地域間連携が進展することが必要である。そのために、ユネスコには、加盟国と協力しながら、政策形成支援、能力開発、国際協力促進、ネットワーク強化等、その役割を果たすことを求める。

(4)先端技術の活用や、他分野との連携

○ AIの研究開発や社会実装が急速に進展する中で、AIに対する大きな期待と同時に、AIの発展に対して不安や恐れを抱く人もいる。こうした不安を解消しながら、国や地域を問わずAI導入の恩恵を一人一人が受けられるよう、人間中心の社会を作っていくことが必要である。

○ 我が国では本年3月に「人間中心のAI社会原則」を決定した。また、全ての国民が数理・データサイエンス・AIの素養を習得できるよう、発達の段階に応じた体系的な養成方策をAI戦略として取りまとめた。

○ さらに、AIに代表される先端技術の教育への活用を進め、学習者の力を最大限に引き出していく「柴山・学びの革新プラン」を推進しているところである。引き続きユネスコや加盟国と知見を共有できれば幸い。

○ また、AIについては教育への活用や、倫理面の課題なども検討していく必要がある。ユネスコが局の壁を越えて対応することを期待している。

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