第37回ユネスコ総会について(答申)案

25受ユ国統第  号
平成25年  月  日

文部科学大臣
 下村博文 殿

日本ユネスコ国内委員会会長
田村哲夫

第37回ユネスコ総会について(答申)

 平成25年5月29日付け25文科統第32号で諮問のありました標記のことについて、第133回日本ユネスコ国内委員会(平成25年9月10日開催)の議を経て、日本ユネスコ国内委員会は、下記のとおり答申します。

第37回ユネスコ総会における2014-2021年中期戦略案及び2014-2017年事業・予算案等に関する方針について

1.  第37回ユネスコ総会における基本的方針

 今次第37回ユネスコ総会は、2014-2021年中期戦略(37c/4)及び2014-2017年事業・予算(37c/5)を策定する重要なものである。
 ユネスコは、前回第36回ユネスコ総会の決議によるパレスチナの加盟に伴う米国の資金拠出停止(分担率:22%)により、非常に厳しい財政難に直面している。これまでに官房経費及びプログラム経費の削減、職員のポスト凍結等のコスト削減・効率化及び緊急基金の導入等の努力が行われてきたが、長期的には財政バランスの均衡が取れない見通しである。このような財政的な苦境に対して、ユネスコは、当面の財政的な対処だけでなく、他の加盟国と連携して米国等の拠出再開に向け積極的に働きかけるとともに、これをユネスコの構造的な問題に対して取り組む好機と捉え、ユネスコが比較優位を有する分野を絞り込み、明確化し、その分野での活動に特化することで具体的な成果を挙げ、その存在意義の向上を図るべきである。
 上記の点を踏まえ、37c/4案及び37c/5案は、事業の精選化・重点化及び管理運営の合理化等を一層進める方向で検討されるべきであり、我が国としては、ユネスコにおける諸改革及び各分野への取組が継続され、ユネスコが他の国際機関、各国政府及びNGOと協働して、国際社会が抱える幾多の課題に有効に対処できるよう、可能な限りの支援を継続していくべきである。

2.  2014-2021年中期戦略案及び2014-2017年事業・予算案等に関する方針

1.総論
1)今次総会の主要議題である37c/4案及び2014-2017案は、ユネスコの今後8年の方向性を決める極めて重要なものである。現行の中期戦略(37c/4)で実施された事業の進捗状況を点検し、37c/4で重点的に取り組むべき課題が明確にされるべきである。
2)ユネスコが現在直面している財政難を、構造的な問題に対して取り組む好機と捉え、事業の精選化・重点化、管理運営の合理化及び財政の健全化等が一層進められることを期待する。
3)37c/4案及び37c/5案においても、分野横断的な地球規模の優先課題として、「アフリカ」と「ジェンダー平等」が挙げられている。特にアフリカについては、我が国はアフリカの発展に重点を置いており、本年6月に第5回アフリカ開発会議(TICAD V)を開催したところであり、ユネスコがアフリカを優先課題とすることを支持する。今後も我が国がユネスコと連携して、アフリカにおける平和、安定及び繁栄に一層寄与することが望ましい。
4)両案における包括的目標については、従来の5項目から、「平和(持続的な平和への貢献)」と「持続可能な開発(持続可能な開発と貧困撲滅への貢献)」の二つに絞り込まれていることは評価できる。特に「持続可能な開発」については、昨年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」の成果等も踏まえ、他の国連機関及び国際機関と調整・連携しつつ、教育、科学、文化及びコミュニケーション分野においてユネスコが比較優位を有する取組を一層推進すべきである。
5)持続可能な社会の構築に向けた取組としては、我が国が提唱しユネスコが国連システムにおける主導機関として推進している「持続可能な開発のための教育(ESD)」と、前回第36回ユネスコ総会の機会に我が国から提案した「サステイナビリティ・サイエンス」について、特に重点的に推進すべきである。

2.教育分野
1)万人のための教育(EFA)
 戦略目標3にある「万人のための教育(EFA)の促進と将来の国際教育アジェンダの形成」については、EFA主導機関であるユネスコにとって最重要の検討事項の一つである。特にポストEFAダカール目標及び2015年より先の開発目標の検討に当たっては、現行のミレニアム開発目標(MDGs)の目標ともなっている初等教育の完全普及のみならず、教育の質向上、衡平性の確保及びポスト初等教育の向上は重視されるべき課題である。これらの検討に当たっては、ユネスコは、EFAの達成上の課題を明らかにしつつ、主導的な役割を果たしていくべきである。
 また、EFAの目標の一つである教育の質の向上について、ESDも大きく貢献するものであることから、より一層EFAとESDの連携を強化していくことが重要である。

2)持続可能な開発のための教育(ESD)
 戦略目標2にあるとおり、ESDは持続可能な社会の実現のために重要な要素であることを踏まえ、ESDが各国の教育政策、計画及びカリキュラムに一層盛り込まれるとともに、国際的政策アジェンダに強く反映されることを期待する。
 我が国は、これまでユネスコへの信託基金等により、「国連ESDの10年」の後半5年間に向けて新たに策定された戦略に基づき、気候変動、生物多様性及び防災(災害リスク低減)に焦点を当てたプロジェクトの実施を支援するなど、ESDの推進に積極的に貢献してきた。また、来年11月には、我が国で「ESDに関するユネスコ世界会議」が開催される。本会議の目的は、これまでのESDの活動を振り返るとともに、2014年以降のESDの推進方策について議論しESDの更なる発展を目指すものである。ユネスコは、本会議の議論及び成果も十分に踏まえ、2014年以降の国際社会におけるESDの取組に反映させるとともに、ユネスコ事務局内での予算・人員の両面において体制の強化を図るべきである。

3.科学分野
1)比較優位分野における選択と集中
 ユネスコは、これまで科学分野において、特に水(淡水・陸水)、海洋、生態系及び生命倫理の領域で重要な役割を果たしてきたことを高く評価したい。これらの分野は、我が国もこれまで協力をし、また国際社会においてユネスコが比較優位性を持つ分野であり、37C/4及び37C/5において、適切な選択と集中を行うことにより、引き続きこれらの成果を生かしつつ、科学分野における先進国と途上国がともに参加・協力し、持続可能な社会の構築に向けて、ユネスコがその機能を十分に発揮していくことを求めたい。

2)サステイナビリティ・サイエンス
 「サステイナビリティ・サイエンス」については、戦略目標4~6において政策形成等への貢献に活用される旨位置付けられている点は評価できる。持続可能な社会の構築に向けた地球規模の諸問題の解明に向けて、我が国は、自然科学と人文・社会科学の統合的アプローチとしての「サステイナビリティ・サイエンス」の推進が不可欠であるとユネスコに提案し、ユネスコと協議しながら、アジア・太平洋地域におけるワークショップ(本年4月、クアラルンプール)及び国際シンポジウム(本年9月、パリ)等を通じて、加盟国間の共通理解を図るとともに、どのようにユネスコのプログラムに取り入れていくか議論を行っている。
 持続可能な地球社会の構築に向けて、ユネスコの既存のプログラム及び成果を活用し、「サステイナビリティ・サイエンス」という統合的なアプローチを取り入れることで、ユネスコの科学分野が果たすべき役割・機能が一層推進されることを期待するとともに、我が国としても積極的に「サステイナビリティ・サイエンス」を推進していく必要がある。

4.文化分野
 文化分野において「遺産の保護、理解増進及び周知」及び「創造性の涵養及び文化的表現の多様性」の二つの戦略目標7及び8の下に更なる取組が促進されることを期待する。我が国としては、文化遺産保護の事業に対して引き続き信託基金の拠出及び専門家の派遣などを通じて積極的に協力していくべきである。

1)世界遺産条約事業
 戦略目標7において、文化・自然遺産の保全を通じた持続的な開発について言及されていることを評価する。我が国は、昨年11月に、世界遺産条約採択40周年記念最終会合をユネスコと共同で京都にて開催し、「京都ビジョン」がまとめられた。同ビジョンでも述べられているとおり、地域コミュニティを含む全ての関係者が遺産の保護と保全に更に取り組む必要があることが、国際社会に広く周知されることを期待する。

2)無形文化遺産保護条約事業
 本年、条約採択10周年を迎える無形文化遺産保護条約について、我が国を含む多くの加盟国で記念行事が行われている。これらの行事を通じて示された、同条約のこれまでの成果や課題、今後の展望等も踏まえ、無形文化遺産の保護に係る同条約における一層の取組の充実を期待する。

3)文化多様性
 文化多様性の促進は、グローバリゼーションが進む中、各国・民族の多様な文化とアイデンティティを尊重し保護するとともに、民族や宗教の対立・紛争を緩和・抑制し、ユネスコの目的である平和の構築を導く活動として重要である。したがって、我が国もユネスコの同分野におけるプログラムを積極的に活用し、平和の構築に向けた取組を加速させる必要がある。

4)クリエイティブ・シティーズ・ネットワーク
 戦略目標8の中で、クリエイティブ・シティーズ・ネットワークの拡大に言及されていることを評価する。我が国において、現在3都市が加盟し、文化多様性への理解増進を図るとともに、国際的なネットワークでの交流及び知識・経験の共有、文化産業の強化による都市の活性化に貢献しており、地域振興の契機となる観点から、関心を持つ自治体が増えている。本事業は、厳しい財政状況から新規申請の受付が中止されているため、ユネスコによる外部資金の獲得の努力を期待する。

5.コミュニケーション・情報分野
1)分野横断的取組の必要性
 ユネスコの設置目的である国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進するために、「コミュニケーション」が果たす役割の重要性を考慮の上、各事業の推進方策について検討する必要がある。
 情報コミュニケーション技術(ICT)の利用は、教育、科学及び文化の各分野の事業と密接な関連を有するものであり、分野横断的な活動が推進されることが必要である。その意味で、各セクターとの連携・協力の方向性をより明確に打ち出していくことが求められる。ユネスコとして、教育、科学及び文化を通じた情報アクセスの向上や情報格差の是正のための能力開発、あるいは知識社会を見据えた知の体系化や知識の構造論といった本質的なところで、その役割を果たすことが重要である。

2)ユネスコ記憶遺産事業
我が国では、2010年に日本ユネスコ国内委員会文化活動小委員会の下に、ユネスコ記憶遺産選考委員会を設置し、本事業に対する推薦について検討を行ってきたところである。2011年に、福岡県田川市から推薦された「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」が登録され、本年6月、国内委員会から初の推薦を行っていた「御堂関白記」及び「慶長遣欧使節関係資料」が、ユネスコ記憶遺産に登録されたことなどにより、同事業に対する国内の関心が高まってきているところである。また、地方自治体においては、ユネスコ記憶遺産事業を地域振興政策と連携させた取組が生まれている。
 ユネスコ事務局において、同事業の強化に向けた取組が検討されているところ、世界の重要なドキュメント遺産の保護と振興という趣旨を遵守した事業の推進を期待する。

6.普及分野
1)パートナーシップ
 限られた予算の中でユネスコ事業の実施・普及を効果的に推進するために、加盟国政府・国内委員会とともに各国のユネスコクラブ・協会、NGO、学校・教育機関、メディア及び民間企業とパートナーシップを構築し、連携・協力を一層強化していくことが必要である。
 そのためには、引き続きユネスコ本部とユネスコ国内委員会との連携を強化するとともに、各国における民間ユネスコ活動の推進や、ユネスコスクール・ネットワークを通じた学校レベルでのユネスコの理念及び活動の普及、ユネスコ講座及びUNITWINプログラムを通じた高等教育レベルでの交流や協力等を図っていくことが重要である。
 ユネスコは、国際・地域・国レベルにおいて、このようなパートナーシップ形成の促進に努めるべきである。

2)若者・企業のユネスコ活動への参加
 若者が次世代を牽引するステークホルダーであることに鑑み、ユネスコ活動を若者にとって大きな魅力と訴求力を有するものとしていくことが、ユネスコの将来を決定付ける重要な鍵を握っていると言っても過言ではない。
 さらに、積極的にユネスコ活動に民間企業の活力を取り込むこと、またコミュニケーション分野を通じたメディアとの連携を通じて、国際社会や各国でのユネスコの可視性を高める努力が必要である。
 ユネスコは、国際・地域・国レベルで、若者や企業のユネスコ活動への参加促進やユネスコ活動への理解と認知度を高めるための役割を果たしていくことを求めたい。

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