幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)持続可能な社会づくりに関連する記載(抜粋)

中央教育審議会
幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)
持続可能な社会づくりに関連する記載(抜粋)

第1部 学習指導要領改訂の基本的な方向性

第2章 2030年の社会と子供たちの未来

(予測困難な時代に、一人一人が未来の創り手となる)

○ ・・・解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり、定められた手続を効率的にこなしたりすることにとどまらず、直面する様々な変化を柔軟に受け止め、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかを考え、主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくために必要な力を身に付け、子供たち一人一人が、予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。

(我が国の子供たちの学びを支え、世界の子供たちの学びを後押しする)

○ 本答申の姿勢は、このように、子供たちの現状と未来を見据えた視野から教育課程の改善を目指すものである。こうした改革の方向性は国際的な注目も集めているところであり、例えば、OECDとの間で実施された政策対話の中では、学力向上を着実に図りつつ、新しい時代に求められる力の育成という次の段階に進もうとしている日本の改革が高く評価されるとともに、その政策対話等の成果を基に、2030年の教育の在り方を国際的に議論していくための新しいプロジェクトが立ち上げられた。こうした枠組みの中でも、また、平成28年5月に開催されたG7倉敷教育大臣会合などにおいても、我が国のカリキュラム改革は、もはや諸外国へのキャッチアップではなく、世界をリードする役割が期待されている。

○ 特に、自然環境や資源の有限性等を理解し、持続可能な社会づくりを実現していくことは、我が国や各地域が直面する課題であるとともに、地球規模の課題でもある。子供たち一人一人が、地域の将来などを自らの課題として捉え、そうした課題の解決に向けて自分たちができることを考え、多様な人々と協働し実践できるよう、我が国は、持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議のホスト国としても、先進的な役割を果たすことが求められる。

第3章 「生きる力の」理念の具体化と教育課程の課題

(1)教科等を学ぶ意義の明確化と、教科等横断的な教育課程の検討・改善に向けた課題

○ 教育課程において、各教科等において何を教えるかという内容は重要ではあるが、前述のとおり、これまで以上に、その内容を学ぶことを通じて「何ができるようになるか」を意識した指導が求められている。特に、これからの時代に求められる資質・能力については、第5章において述べるように、情報活用能力や問題発見・解決能力、様々な現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力など、特定の教科等だけではなく、全ての教科等のつながりの中で育まれるものも多く指摘されている。

(注釈)持続可能な開発のための教育(ESD)が目指すのも、教科等を越えた教育課程全体の取組を通じて、子供たち一人一人が、自然環境や地域の将来などを自らの課題として捉え、そうした課題の解決に向けて自分ができることを考え実践できるようにしていくことである。

○ 重要となるのは、“この教科を学ぶことで何が身に付くのか”という、各教科等を学ぶ本質的な意義を明らかにしていくことに加えて、学びを教科等の縦割りにとどめるのではなく、教科等を越えた視点で教育課程を見渡して相互の連携を図り、教育課程全体としての効果が発揮できているかどうか、教科等間の関係性を深めることでより効果を発揮できる場面はどこか、といった検討・改善を各学校が行うことであり、これらの各学校における検討・改善を支える観点から学習指導要領等の在り方を工夫することである。

第4章 学習指導要領等の枠組みの改善と「社会に開かれた教育課程」

1.「社会に開かれた教育課程」の実現

○ ・・・新しい学習指導要領等においては、教育課程を通じて、子供たちが変化の激しい社会を生きるために必要な資質・能力とは何かを明確にし、教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科横断的な視点を持って育成を目指していくこと、社会とのつながりを重視しながら学校の特色づくりを図っていくこと、現実の社会との関わりの中で子供たち一人一人の豊かな学びを実現していくことが課題となっている。

○ これらの課題を乗り越え、子供たちの日々の充実した生活を実現し、未来の創造を目指していくためには、学校が社会や世界と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる、開かれた環境となることが不可欠である。そして、学校が社会や地域とのつながりを意識し、社会の中の学校であるためには、学校教育の中核となる教育課程もまた社会とのつながりを大切にする必要がある。

○ こうした社会とのつながりの中で学校教育を展開していくことは、我が国が社会的な課題を乗り越え、未来を切り拓いていくための大きな原動力ともなる(以下、注釈)。特に、子供たちが、身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び、自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つことは、困難を乗り越え、未来に向けて進む希望と力を与えることにつながるものである。

(注釈)未曾有の大災害となった東日本大震災における困難を克服する中でも、子供たちが現実の課題と向き合いながら学び、国内外の多様な人々と協力し、被災地や日本の未来を考えていく姿が、復興に向けての大きな希望となった。人口減少下での様々な地域課題の解決に向けても、社会に開かれた学校での学びが、子供たち自身の生き方や地域貢献につながっていくとともに、地域が総掛かりで子供の成長を応援し、そこで生まれる絆(きずな)を地域活性化の基盤としていくという好循環をもたらすことになる。ユネスコが提唱する持続可能な開発のための教育(ESD)や主権者教育も、身近な課題について自分ができることを考え行動していくという学びが、地球規模から身近な地域の課題の解決の手掛かりとなるという理念に基づくものである。

第5章 何ができるようになるか-育成を目指す資質・能力-

2.資質・能力の三つの柱に基づく教育課程の枠組みの整理

(資質・能力の三つの柱)

○ 全ての資質・能力に共通し、それらを高めていくために重要となる要素は、教科等や直面する課題の分野を越えて、学習指導要領等の改訂に基づく新しい教育課程に共通する重要な骨組みとして機能するものである。こうした骨組みに基づき、教科等と教育課程全体のつながりや、教育課程と資質・能力の関係を明らかにし、子供たちが未来を切り拓いていくために必要な資質・能力を確実に身に付けられるようにすることが重要である。

○ 海外の事例や、カリキュラムに関する先行研究等に関する分析によれば、資質・能力に共通する要素は、知識に関するもの、スキルに関するもの、情意(人間性など)に関するものの三つに大きく分類されている。
前述の三要素は、学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)とも大きく共通している。

○ これら三要素を議論の出発点としながら、学習する子供の視点に立ち、育成を目指す資質・能力の要素について議論を重ねてきた結果を、以下の資質・能力の三つの柱として整理した。この資質・能力の三つの柱は、2030年に向けた教育の在り方に関するOECDにおける概念的枠組みや、本年5月に開催されたG7倉敷教育大臣会合における共同宣言に盛り込まれるなど、国際的にも共有されているところである。

(1)「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」(中略)

(2)「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」(中略)

(3)どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」

前述の(1)及び(2)の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下のような情意や態度等に関わるものが含まれる。こうした情意や態度等を育んでいくためには、体験活動を含め、社会や世界との関わりの中で、学んだことの意義を実感できるような学習活動を充実させていくことが重要となる。

・主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。一人一人が幸福な人生を自ら創り出していくためには、情意面や態度面について、自己の感情や行動を統制する力や、よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等を育むことが求められる。こうした力は、将来における社会的な不適応を予防し保護要因を高め、社会を生き抜く力につながるという観点からも重要である。 

・多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの。

(資質・能力の三つの柱に基づく教育課程の枠組みの整理)

○ この資質・能力の三つの柱は、本章3.において述べる各教科等において育む資質・能力や、4.において述べる教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・能力、5.において述べる現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の全てに共通する要素である。教科等と教育課程全体の関係や、教育課程に基づく教育と資質・能力の育成の間をつなぎ、求められる資質・能力を確実に育むことができるよう、育成を目指す資質・能力はこの三つの柱で整理するとともに、教科等の目標や内容についても、この三つの柱に基づく再整理を図ることとする。

○ 教育課程には、発達に応じて、これら三つをそれぞれバランス良く膨らませながら、子供たちが大きく成長していけるようにする役割が期待されている。

5.現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力

(グローバル化する社会の中で)

○ グローバル化する中で世界と向き合うことが求められている我が国においては、自国や他国の言語や文化を理解し、日本人としての美徳やよさを生かしグローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成が求められている。前述4.において述べた言語能力を高め、国語で情報を的確に捉えて考えをまとめ表現したりできるようにすることや、外国語を使って多様な人々と目的に応じたコミュニケーションを図れるようにすることが、こうした資質・能力の基盤となる。加えて、古典や歴史、芸術の学習等を通じて、日本人として大切にしてきた文化を積極的に享受し、我が国の伝統や文化を語り継承していけるようにすること、様々な国や地域について学ぶことを通じて、文化や考え方の多様性を理解し、多様な人々と協働していくことができるようになることなどが重要である。

○ また、世界とその中における我が国を広く相互的な視野で捉えながら、社会の中で自ら問題を発見し解決していくことができるようにしていくことも重要となる。国際的に共有されている持続可能な開発目標(SDGs)なども踏まえつつ、自然環境や資源の有限性、貧困、イノベーションなど、地域や地球規模の諸課題について、子供一人一人が自らの課題として考え、持続可能な社会づくりにつなげていく力を育んでいくことが求められる。

(現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力と教育課程)

○ このように、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力としては、以下のようなものが考えられる。

・健康・安全・食に関する力
・主権者として求められる力
・新たな価値を生み出す豊かな創造性
・グローバル化の中で多様性を尊重するとともに、現在まで受け継がれてきた我が国固有の領土や歴史について理解し、伝統や文化を尊重し、多様な他者と協働しながら目標に向かって挑戦する力
・地域や社会における産業の役割を理解し地域創生等に生かす力
自然環境や資源の有限性等の中で持続可能な社会をつくる力
・豊かなスポーツライフを実現する力

○ これらが教科横断的なテーマであること踏まえ、それを通じてどのような力の育成を目指すのかを資質・能力の三つの柱に沿って明確にし、関係教科等や教育課程全体とのつながりの整理を行い、その育成を図っていくことができるようにすることが求められる。各学校においては、子供の姿や地域の実情を捉え、学校教育目標に照らした重点化を図りながら体系的に育成していくことが重要である。

○ ここでは例示的に、健康・安全・食に関わる資質・能力及び主権者として求められる資質・能力について整理したが、その他の資質・能力についても、同様の整理を行い、学習指導要領等や解説に反映させていくことが求められている。

6.資質・能力の育成と、子供たちの発達や成長のつながり

(学校段階や、義務教育、初等中等教育全体を通じて育成を目指す資質・能力)


○ 今回の改訂における教育課程の枠組みの整理は、こうした「高等学校を卒業する段階で身に付けておくべき力は何か」や「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」を、幼児教育、小学校教育、中学校教育、高等学校教育それぞれの在り方を考えつつ、幼児教育から高等学校教育までを通じた見通しを持って、資質・能力の三つの柱で明確にするものである。

○ これにより、各教科等で学ぶことを単に積み上げるのではなく、義務教育や高等学校教育を終える段階で身に付けておくべき力を踏まえて、各学校・学年段階で学ぶべき内容を見直すなど、発達の段階に応じた縦のつながりと、各教科等の横のつながりを行き来しながら、教育課程の全体像を構築していくことが可能となる。加えて、幼小、小中、中高の学びの連携・接続についても、学校段階ごとの特徴を踏まえつつ、前の学校段階での教育が次の段階で生かされるよう、学びの連続性を確保することを容易にするものである(注釈)。

(注釈)こうした三つの柱に基づく資質・能力の全体像の示し方としては、3.において示した学校教育を通じて育てたい姿を踏まえつつ、以下のようなイメージが考えられる。今後、こうした資質・能力を学校段階別に整理して明確化していくことにより、各学校等がこれらを基にしながら、自校の教育目標や育成を目指す資質・能力を明確にしていけるようにすることが求められる。

教育基本法及び学校教育法に規定する教育の目的及び目標を実現し、子供たちに生きる力を育むため、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせた学習活動を通じて、各学校段階において求められる資質・能力の育成を次のとおり目指すこと。

(1)発達の段階に応じた生活の範囲や領域に関わる物事について理解し、生活や学習に必要な技能を身に付けるようにする。

(2)情報を捉えて多角的に精査したり、問題を見いだし他者と協働しながら解決したり、自分の考えを形成し伝え合ったり、思いや考えを基に創造したりするために必要な思考力・判断力・表現力等を育成する。

(3)伝統や文化に立脚した広い視野を持ち、感性を豊かに働かせながら、よりよい社会や人生の在り方について考え、学んだことを主体的に生かしながら、多様な人々と協働して新たな価値を創造していこうとする学びに向かう力や人間性を涵養する。

第2部 各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性

第2章 各教科・科目等の内容の見直し

17. 総合的な学習の時間
(2) 具体的な改善事項
  2) 教育内容の改善・充実 2 )教育内容の見直し

(持続可能な社会という視点)

○ 持続可能な開発のための教育(ESD)は、次期学習指導要領改訂の全体において基盤となる理念であると言えるが、そこで求められている資質・能力(国立教育政策研究所の整理によれば、「多様性」「相互性」「有限性」「公平性」「連携性」「責任性」といった概念の理解、「批判的に考える力」「未来像を予測して計画を立てる力」「多面的・総合的に考える力」などの力)は、総合的な学習の時間で探究的に学習する中で、より確かな力としていくことになると考えられる。

○ 持続可能な社会の担い手として必要とされる資質・能力を育成するには、どのようなテーマを学習課題とするかではなく、必要とされる資質・能力を育むことを意識した学習を展開することが重要である。各学校がESDの視点からの教科横断的な学習を一層充実していくに当たり、総合的な学習の時間が中心的な役割を果たしていくことが期待される。

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