【仮訳】仁川(インチョン)宣言

「仁川(インチョン)宣言」
2030年に向けた教育:包括的かつ公平な質の高い教育及び万人のための生涯学習に向けて
(世界教育フォーラム2015、2015年5月21日 於:韓国・仁川)

前文

1. 我々大臣は、あるいは、代表団長及び団員、機関長及び多国間・二国間組織の主要関係者、市民社会の代表者、教員、青年及び民間関係者は、2015年5月、ユネスコ事務局長の招待により、世界教育フォーラム(WEF2015)のために韓国仁川に集まった。この会議の共同招集者として、ユニセフ、世界銀行、UNFPA(国連人口基金)、UNDP(国連開発計画) 、UN Women、UNHCR(国連難民高等弁務官)はもちろん、韓国政府及び韓国国民にこの重要なイベントを主催いただいたことに感謝する。2030年に向けた教育のための、この節目のイベントを召集していただき、我々は心からの感謝の意をユネスコに表明する。

2. この歴史的な機会に、ここ数十年の間で教育において最も重要なコミットメントであり、教育の重要な進歩に役立ってきた、1990年にジョムティエンで開始され、 2000年にダカールで改めて表明された、万人のための教育(EFA)の世界的なムーブメントのビジョンを再確認する。我々は、教育の権利を明記した多数の国際及び地域の人権条約等や他の人権との相互関係に反映されたビジョン及び政治的意思もまた再確認した。我々はこれまで為されてきた努力を確認したが、万人のための教育を達成するには、まだ程遠いことに大きな懸念を持っている。

3. 我々は、幅広い関係者間で協議され、グローバルEFA会合2014(GEM)で採択された、マスカット・アグリーメントを想起する。これは、持続可能な開発目標(SDGs)に関するオープンワーキンググループにより提案された教育目標にも成功裏にインフォームされた。我々はさらに、ポスト2015年の教育に関する地域閣僚会議の成果を想起し、EFAグローバルモニタリングレポート2015と地域EFA統合報告書の成果に留意する。我々は、グローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアティブの重要な貢献とともに、教育のための政治的なコミットメントを活性化させている、政府、地域、政府間組織及びNGOの役割を認識している。

4. 2000年以降のEFAのゴール及びMDGsの教育目標に向けて行われた進捗や教訓を評価し、残された課題を精査し、提案されている2030年教育アジェンダと行動枠組みだけでなく、その達成のための今後の優先課題と戦略を審議したことを受けて、我々はこの宣言を採択する。

2030年に向けて:新たな教育のビジョン

5. 我々のビジョンは、教育を通じて生活を変えることであり、教育が、発達のための主な原動力であり、他のSDGs案を達成することにおいて、重要な役割であることを認識している。我々は、危機感を持って、全体論的で野心的なたった一つの、新たな教育アジェンダを公約し、誰も置き去りにしないことを保証する。この新たなビジョンは、提案されたSDG4「包括的かつ公平な質の高い教育の保証と、万人のための生涯学習の機会の促進」とそれに対応する目標に完全に取り入れられている。それは変革と普遍であり、EFAアジェンダ及び教育関連のミレニアム開発目標の‘未完の案件’に取り組むものであり、世界的及び国内的な教育の課題に取り組むものである。それは、教育における人間中心のビジョンと人権と尊厳、社会的正義、包括性(インクルージョン)、保護、文化、言語及び人種の多様性に基づく開発によりもたらされており、責任(responsibility)と説明責任(accountability)は共有されている。私たちは、教育は公共財であり、基本的人権であり、その他の権利の実現を保証するための基礎であることを再確認する。それは、平和、寛容さ、人間の充足感、持続的発展に不可欠である。我々は、教育が完全雇用及び貧困の根絶への重要な鍵となることを認識している。我々は生涯学習のアプローチにおいて、アクセス、公平性及び包括性、教育の質、学習成果の向上に努めていく。

6. 過去15年間で教育へのアクセスの拡大における私たちの重大な成果を受けて、我々は12年間の無償で、公的支援を受けた、公平で質の高い初等及び中等教育の提供を保証する。それは関連した学習成果につながるものであり、少なくとも9年間は義務教育とする。また、全ての子供たちが質の高い幼年期発達や保護、教育を受けられるための、少なくとも1年間の無償かつ質の高い義務的な就学前教育の提供を推奨する。それと同時に、全ての子供たちが学校に行き、学ぶことが出来ることを確実にするために、早急で、的を絞った、持続的な対応を必要としている数多く存在する不就学児童及び青年に対して有意義な教育及び訓練の機会が提供されるよう公約する。

7. 教育における、また、教育を通じた包括性と公平性は、変革的な教育アジェンダの基礎であり、そのために教育における、あらゆる排除や社会的疎外、アクセス、参画、学習成果における格差や不平等に対処することを約束する。教育目標は、万人に対して達成されない限り達成されたとするべきではない。つまり、我々は、誰も取り残されないことを確実にするために、必要な教育政策の修正をし、最も不利な立場にいる人々や、特に障害を持つ人々に注力することを約束する。

8. 我々は、万人のための教育の権利の達成において、男女平等の重要性を認識している。そのため、我々は、性別に配慮した政策や計画、学習環境を整備し、教員研修やカリキュラムにおいて性別問題を主流化し、学校における性差別や暴力をなくすことを約束する。

9. 我々は、質の高い教育及び学習成果の向上を約束する。それは、インプット、プロセス、学習成果の評価、進捗を測るメカニズムの強化を必要とする。我々は、教員や教育者が権限を与えられ、適切に雇用され、きちんと研修を受けられるとともに、専門的に質が高く、やる気を惹起し、十分な資金援助が受けられ、効率的で効果的に統治されたシステムの中で支援が受けられることを保証する。質の高い教育とは、創造性や知識を強化するものであり、また、分析力があり、問題解決力のあるハイレベルの認知的で、対人的、社会的なスキルのほか、基礎的な読む力、計算力の習得を確実にするものである。さらに、質の高い教育により、市民が健康で、満たされた生活を送り、情報に基づいた意思決定を行い、持続可能な開発のための教育(ESD)と地球市民教育(GCED)のための教育を通じてローカル及びグローバルな課題を解決することのできる、能力、価値観や姿勢を発達させることができる。この点において、我々は2014年愛知県名古屋市で開催されたESDに関するユネスコ世界会議で開始されたESDに関するグローバルアクションプログラムの実施を強くサポートする。さらに、ポスト2015年開発アジェンダを達成するため人権教育・研修の重要性も強調する。

10. 我々は、すべての状況及び全教育課程における、万人のための質の高い生涯学習の機会を推進することを約束する。これには、質の保証に配慮した、職業技術教育・訓練(TVET)、高等教育及び研究への公平なアクセスの増加が含まれる。加えて、認証、妥当性の確認及びノンフォーマルやインフォーマル教育を通じて得た知識、スキルや能力の認可や、学習を行う道行きの柔軟な設定を提供することは重要である。また、すべての若者と大人、特に少女や女性が適切で機能的な読み書きと計算能力に達し、生活技能を獲得し、また、成人学習、教育・研修の機会が提供されることを約束する。情報通信技術(ICTs)については教育システム、知識の普及、情報アクセス、質の高い効果的な学習、さらに効果的なサービス提供に生かされると確信している。

11. さらに、我々は今日、特に世界の不就学児童人口の大部分が犯罪や暴力が横行し教育機関を襲撃するような紛争地域に住んでおり、自然災害や世界的流行病が世界的に教育と発達に影響しているという重大な懸念について言及する。我々は、国内避難民と難民を含む、子供、若者、成人それぞれのニーズに合った、さらにより包括的で、対応の速い、レジリエントな(回復力のある)教育システムの開発を約束する。我々は教育が安全で、援助が行き届き、暴力がない環境で行われる必要性を強調する。我々は緊急時の応答から再生や再建までの十分な危機対応や、よく調整された国、地域、地球規模の対応、さらに紛争時、緊急時、紛争後と早期回復の間にも教育が維持されることを確保するためのリスク軽減と緩和のための能力開発を推奨する。

我々の共通のアジェンダを実施するために

12. 我々は、アジェンダを達成するための基本的な責任は政府にあることを再確認する。我々は、説明責任と透明性を促進する法律や政策の枠組みを確立すること、すべてのレベルで参加型ガバナンスと協調パートナーシップを維持すること、そして全ての関係者が参加する権利を支持することを決定した。

13. 我々は、世界及び地域の強固な協調、協力、連携とともに、地域組織やメカニズム、戦略の範囲内で、国家レベルでのデータ集計、分析、報告に基づく教育アジェンダの実行に係るモニタリングの必要性を呼びかけてきた。

14. 我々は、2030年の教育アジェンダの達成のためには、堅固な政策、実施計画とともに、効率的な実施計画が必要であることを認識している。さらに、提出されたSDG 4に網羅されている目標は、特にすべてのレベルにおいて、質の高い万人のための教育の達成から程遠い国々に対し、重要で対象を絞り込んだ財政の増加なしでは実現出来ないことは明らかである。したがって、国の状況に応じて教育への公共支出を増加させ、GDPの少なくとも4- 6%または総公共支出の少なくとも15-20%を効果的に措置することを国際及び地域基準として遵守することを決定した。

15. 政府により投資を補完する開発協力の重要性に注目すると、我々は、先進国、既存のドナーや将来的なドナー、中間所得国及び国際的な資金調達メカニズムに対し、教育への資金提供を増加させることと、国のニーズと優先順位に従ったアジェンダに対処することを支えることを求める。我々は、多数の先進国が開発途上国へ配分する政府開発援助(ODA)を国民総生産(GNP)の0.7%目標を実現することを含め、発展途上国へのODAに関わるすべてのコミットメントの達成はきわめて重要であると認識している。それらのコミットメントを踏まえると、まだ行っていない先進国に対して開発途上国へ配分するODAをGNPの0.7%に実現するように要求する。また、後発途上国に対しての援助を増やすことを約束する。さらに、教育の権利を支える全ての可能性のある資源を解放する重要性を認識する。我々は、より良い調整と調和を通して、援助の効果を改善し、顧みられないサブセクターと低所得国の財政支援と援助の優先順位をつけることを推奨する。我々はさらに、長引く人道的危機の中で教育支援を拡大することを推奨する。2015年7月に行われる開発のための教育に関するグローサミットを歓迎する。また、アディスアベバで行われる経済開発会議を求める。

16. 我々は、2030教育アジェンダを実施するにあたり、WEF2015の共同招集者、また、特にユネスコ及びすべてのパートナーが、技術的なアドバイスや能力開発、それぞれの任務と比較に基づいたアドバンテージや相補性に基づき構築された財政支援を提供することにより、個々にそして団結して国々を支援することを要請する。この目的のために、我々はメンバー国、WEF2015の共同主催者及びその他の協力者との協議のもと、ユネスコに対し、適切な世界的協調メカニズムを発展させることを委託する。GPE(教育のためのグローバル・パートナーシップ)を、国々の要望と優先度に準じたアジェンダの実施を支援する教育のためのマルチ・ステークホールダーとする認識のもとに、我々はそれがこの将来の国際調整メカニズムの一部となることを推奨する。

17. 我々はさらに、2030年教育アジェンダをリードし、調整するための義務的役割を続けるよう、教育のための国連の専門機関としてのユネスコに次のことを委任する。すなわち、政治的公約を持続させるための主張(アドボカシー)を行うこと、政策対話と知識の共有と標準の設定を強化すること、教育目標に向けた進捗状況をモニタリングすること、アジェンダの実施をガイドするために、世界、地域及び国のステークホルダーを招集すること、全体的なSDGの調整の仕組みの中で教育のためのフォーカルポイントを機能させること。

18. 我々は、政策策定と教育システムの管理のための確実な証拠を生み出すだけでなく、説明責任を確実にするために、包括的な国家モニタリングと評価システムを開発することを決意する。我々はさらに、WEF2015共同招集者や協力者に、国レベルでのデータ収集、分析及び報告に関する能力開発に対する支援を要求する。国々は、ユネスコ統計研究所への報告の質、分割のレベル、スケジュールの向上を模索し続けるべきである。我々は、提案されたSDGsの実施手段をモニターし、評価するために確立された仕組みのなかで、提案されたSDG4及びSDGsにおける他の教育目標に関するモニタリング及び報告のメカニズムとして、EFAグローバルモニタリングレポートが、ユネスコにより主宰される独立したグローバル教育モニタリングレポート(GEMR)として、続けられることを要請する。

19. 我々は、2030年までの教育における行動枠組みの本質的要素について議論を行い合意した。ポスト2015開発アジェンダ採択のための国連サミット(2015年9月、ニューヨーク)及び第3回開発資金国際会議(アディスアベバ、 2015年7月)の成果を考慮すると、最終版は、2015年11月の第38回ユネスコ総会に併せて開催される、特別ハイレベル会議において採択及び開始されるべく提示される予定である。我々は国々やパートナーに刺激を与え、導くことで、アジェンダが達成されることを確実にするために、この採択後の実施を全面的に約束する。

20. ジョムティエンとダカールの遺産の元に構築された、この仁川宣言は、2030年までに我々の野心的な目標を達成するための、大胆かつ革新的な行動を伴った、教育のための新たなビジョンを通じて、生活の変革をするための我々全員による歴史的なコミットメントである。

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