第191回ユネスコ執行委員会の結果について

平成25年9月10日
文部科学省
国際統括官付

1.日程 

平成25年4月10日(水曜日)~26日(金曜日)

2.出席者 

木曽 功  ユネスコ日本政府代表部特命全権大使
加藤 重治 文部科学省国際統括官  外

3.会議のポイント 

○パレスチナ加盟に伴う米国の資金拠出停止(分担率:22%)によるユネスコの財政難については、これまでに官房経費の削減、職員のポスト凍結及び緊急基金の導入等のコスト削減・効率化の努力が行われてきたところであるが、長期的には対応できない状況。米国の拠出再開が行われない場合に備えた緊縮予算案について、事業の優先付けを含めて、執行委員会の特別セッションで検討され、次回執行委員会(本年9~10月)で報告・審議されることとなった。
○ユネスコの次期中期戦略(37C/4:2014-2021年)案及び事業・予算(37C/5:2014-2017年)案について審議された。今後、第37回ユネスコ総会(本年11月)で審議・決定される。我が国が積極的に推進している持続可能な開発のための教育(ESD)とサステイナビリティ・サイエンスについて、C/4案及びC/5案に盛り込まれている。ただし、サステイナビリティ・サイエンスについては、その意味内容が何か、自然科学及び人文・社会科学両局で具体的に何を行うのか、各国から質問があり、本年9月のシンポジウム等の結果を踏まえ、次回執行委員会までに明確にすることとなった。
○2015年以降の開発アジェンダについて、ユネスコは、教育の枢要な重要性を強調していき、ユネスコの関与と更なる進展について、次回執行委員会でユネスコ事務局から報告することとなった。我が国からは、2015年以降の教育関係の開発アジェンダにESDが位置付けられるよう、EFA、国連DESDの主導機関であるユネスコの努力を期待する旨発言した。

4.会議の主な内容 

1)我が国代表演説 

 木曽ユネスコ日本政府代表部大使から、次の通り代表演説を行った。

【厳しい財政状況】
・事務局は、引き続き事業の選択と集中を行い、一層のコスト削減・効率化を図るべきであり、事務局長のロードマップ作成への意向を歓迎。現在の財政的な苦境は、当面の財政的な対処だけではなく、ユネスコの構造的な問題(外部資金への過大な依存とガバナンスの問題)に対して取り組む好機でもある。

【次期中期戦略(37C/4)/事業・予算(37C/5)案】
・基本的には事務局案を指示するが、組織改革(特に、地域事務所調整局の廃止、対外関係・広報局の縮小、「社会変容・文明間対話センター」の設立)について、論理的根拠と期待される成果について加盟国への説明が必要。

【事業の実施】
・教育に関し、EFA目標と教育関係のミレニアム開発目標の達成に焦点を置くべきであり、また2015年以降の教育アジェンダについては、何がEFA目標の実現に課題であったかをはっきりさせた上で作成すべきである。教育は、人間の安全保障に不可欠なものであり、2015年以降の開発目標では最も重要な課題の一つであると考える。また、持続可能な開発のための教育(ESD)は必要不可欠な要素であり、我が国として積極的に2015年以降の教育アジェンダの構築に参加するので、ユネスコにも強く期待。来年は、我が国においてESDに関するユネスコ世界会議を開催予定であり、多数の加盟国や関係者の参加及び協力を歓迎。
・科学に関しては、我が国は自然科学と人文・社会科学の統合的なアプローチである「サステイナビリティ・サイエンス」を提案しており、主要事業2(自然科学)とともに主要事業3(人文・社会科学)の戦略目標にも明確に位置付けられるべきと考える。
・世界遺産に関して、我が国はユネスコと共同で世界遺産条約採択40周年最終会合を昨年11月に京都で開催した。京都ビジョンでも述べられているとおり、地域コミュニティを含む全ての関係者が遺産の保護と保全に更に取り組む必要がある。

【アフリカ、TICAD-V】
・我が国は、アフリカの発展に重点を置いてきており、本年6月にTICAD-Vを開催予定。

【まとめ】
・平和で持続可能な社会構築のために「強いユネスコ(STRONG UNESCO)」の実現に向けて支援をしていく予定であり、事務局及び加盟国と連携を図っていく。

2)ボコバ事務局長の演説

 執行委員会の全体会合において、ボコバ事務局長が全体報告を行った。概要は以下のとおり。

【改革及び独立外部評価(IEE)勧告への対応】
・ユネスコは戦略的ビジョンに基づき改革を推進。種々の改革に対する厳格な評価の結果をインターネット上に公開。
・比較優位のある分野に活動を集中し、プライオリティ・アフリカとの関係では、運営戦略を策定の上、六つのフラグシップ事業を特定。フィールドネットワーク改革第1フェーズを本年末迄に完成予定。国連システムとの連携については、事務総長イニシアティブへの積極的関与や、国連水協力年の調整、UN WOMEN及びUNAIDSとの連携を実施している。

【財政難への対応】
・官房経費の15%削減目標を既に14%達成、2か年ベースでは18%削減見込み。213ポストを凍結。75百万ドルを受領した緊急基金を始め、財源の多様化に尽力。本年については赤字をカバーでき財政バランスが均衡する見通しだが、長期的にはもたない。

3)次期中期戦略/事業・予算案及び執行委員会勧告(議題15)

 次期中期戦略(37C/4:2014-2021年)/事業・予算(37C/5:2014-2017年)案について審議された。主なポイントは、下記のとおり。今後、第192回ユネスコ執行委員会(本年9~10月)でも審議を重ねたあと、最終的に第37回ユネスコ総会(本年11月)で審議・決定される。

・ミッションステートメント、ユネスコの機能、包括目標(OVERARCHING ObjECTIVES)、地球規模の優先課題(GLObAL PRIORITIES)、については、前回第190回ユネスコ執行委員会での審議結果が反映されたものが提案されていたところ、修正なしで了承された。(37C/4案の概要については、別紙1参照)
・五つの主要事業(MAjOR PROGRAMMES)の名称について、事務局から具体の内容を記した長い名称が提案されていたが、分野名のみを記した現行の簡素な名称を維持することとなった。
・組織のスリム化の観点から、コミュニケーション・情報局事業のうち、ICT事業は教育、科学、文化各局へ、記憶遺産(MOW)事業は文化局へ、オープン教育資源(OER)は教育局への移管が事務局から提案されていたが、米国等の強い反対により見送ることとなった。
・37C/4は、37C/5のコピーではなく、要点を絞って短くすべき。
・ESDについては、重要性が共有され、戦略目標2及び主要事業1(教育)の主要活動ライン(MLA:MAIN LINE OF ACTION)2の期待される成果(ER:EXPECTED RESULT)9で位置付けられている。
・サステイナビリティ・サイエンスについては、戦略目標4・5及び主要事業2(自然科学)のMLA1のER2のほか、戦略目標6及び主要事業3(人文・社会科学)のMLA1のER1で位置付けられたが、「自然科学局及び人文・社会科学局でそれぞれ何を行うのか」、また「サステイナビリティ・サイエンスとは何か」について各国から質問がなされ、本年9月のシンポジウム等の結果を踏まえ、次回執行委員会までに明確にすることとなった。
・人文・社会科学局に新設することが提案された「社会変容・文化間対話センター」については、目的・活動等、具体的な内容については、次回執行委員会において審議することとなった。
・米国の拠出再開が行われない場合のキャッシュフローの不足に備えて、2014~2015年の2か年について、名目ゼロ成長(ZNG)の場合の653百米ドルのほかに、キャッシュフローが不足した場合の507百米ドルの緊縮予算案(いわゆる「プランB」)が、事務局から参考として提案された。今後、オープンエンドなワーキンググループ(執行委員会の事業委員会(PX)及び行財政委員会(FA)の両議長が議長を務め、各地域3か国ずつで構成))を立ち上げて、各主要事業のプログラムの優先度も含めて議論を行い、執行委員会の特別セッションでとりまとめて、第192回執行委員会へ報告されることとなった。
(37C/5案の概要については、別紙2参照)

4)過去の執行委員会・総会決議フォローアップの事務局長報告(議題5)

・ジオパークの正式プログラム化について、1)ユネスコのビジビリティを向上させるものであること、2)ユネスコに対して追加的な予算措置は生じないこと、3)他のプログラムとの重複は避けること、4)次回執行委員会において具体的な提案を行うなど、現在の検討状況について事務局から報告があり、多数の国がジオパークの正式プログラム化に対して賛同があった。
・次回執行委員会において、事務局からの具体的な報告書に基づき、審議予定。

5)2015年以降の開発アジェンダのための準備へのユネスコの参画に関する報告(議題6)

・2015年以降の開発アジェンダに対するユネスコの積極的な関与を期待し、その戦略に対する質問や、ポスト2015年開発アジェンダの中でも教育が重要であることを強調し、ユネスコはEFAの主導機関として、その達成に向けて達成度の低いものについて明らかにする等の努力が必要である旨、我が国を含め、多くの国から発言があった。
・2015年以降の開発アジェンダにおいて、教育の枢要な重要性(PIVOTAL IMPORTANCE)を追加すること、また加盟国のステークホルダーによるコンサルテーションプロセスの必要性について認識することを追加することが決議された。
・2015年以降の開発アジェンダに関するユネスコの関与と更なる進展について、次回執行委員会で報告することとなった。
・我が国からは、初等教育の完全普及に加えて、教育の質の向上、衡平性の確保、ポスト初等教育等も重要であること、教育は「持続可能な開発」を実現する上でも不可欠な要素で、ESDは重要な取組であり、リオ+20の成果文書も踏まえ、2015年以降の教育関係の開発アジェンダにもESDが位置付けられるよう、EFA、国連DESDの主導機関であるユネスコの努力を期待する旨発言した。

6)職業技術教育・訓練(TVET):TVET戦略の実施に関する中間評価の報告(議題7)

・TVET戦略の実施の進捗状況、ユネスコの優先事項及び2015年以降の教育と開発アジェンダを盛り込んだ、TVET戦略のフォローアップに関する提案を、第196回ユネスコ執行委員会(2015年春)に行うこととなった。
・我が国からは、TVETは、ポストMDGS、EFA、DESD等の国際アジェンダの議論において重要なテーマであり、引き続きユネスコのリーダーシップに期待していること、上海コンセンサスを踏まえ、生涯学習の観点からもTVETは重要である旨発言した。
・事務局から、UNEVOCの活動については数の増加よりも質の向上が必要であること、また生涯学習の観点からもTVETは重要であり、我が国の発言にあるESDの重要性に賛同し、TVETにもグリーンTVETという要素が含まれていること、2014年のESDに関するユネスコ世界会議でもTVETに焦点が当てられていることから、その成果に期待する旨発言があった。

7)博物館及び収集品の保護及び促進に係る法規範設定文書に関する法的・博物館学的視点からの予備的調査(議題8)

・博物館及び収蔵品の保護と促進に関する新たな法規範の設定について、第37回総会の議題とすることが提案され、審議が行われた。我が国を含めいくつかの国から、現在の財政状況下で新たな法規範の設定をするのではなく、既存の枠組みの活用を検討すべきという意見が出されたものの、既存の枠組みでは十分ではなく、博物館の果たす役割は途上国にとって重要であり、ユネスコの果たす役割は大きいと言う観点から、次回総会に新たな法規範文書が提案されることとなった。
・エクアドルから「博物館の役割として、不法な文化財の取引に立ち向かう」という文言を付け加える提案がされたが、賛成15か国、反対18か国により否決された。

8)文書遺産の保護及びアクセス(議題11)

・1)記憶遺産事業の強化のための行動計画案及び2)法規範設定の必要性に関する技術的、財政的及び法的側面の予備的研究について、事務局から提案され、審議が行われた。
・多くの国が文書遺産の保護及び記憶遺産事業の強化に対しては、賛成の意を示しつつも、多数の国が現在の財政状況下での行動計画案の実現可能性、新たな法規範設定の必要性について疑問が呈された。一方、危機に瀕している文書遺産の保存は喫緊の課題であること、規範設定については、勧告は条約よりは経費がかからず負担も少ないという事務局からの説明及び主に途上国からの要望により、行動計画案及び第37回総会で新たな法規範について審議されることとなった。なお、決議には外部資金を積極的に模索していくことも盛り込まれた。

9)カテゴリー2センター等(議題14)

・カテゴリー2センターの在り方について議論が行われるとともに、新規設立及び契約の更新について審議が行われた。
・新たなカテゴリー2センターとして設立を認めるよう、第37回総会に勧告が認められた機関は、以下のとおり。
- 地震工学研究所の設立(マケドニア)
- 地球規模地球化学国際センターの設立(中)
- グローバル変動及び水資源研究アフリカセンターの設立(南アフリカ)
- 工学技術に関する国際知識センター(中)
- 青少年育成のための格闘技国際センター(韓)
- 工学及び持続可能性における問題ベース学習のためのオールボー・センター(デンマーク)
- 水セキュリティ及び持続可能マネージメントのための国際センターの設立(韓)
- 国際水協力センターの設立(スウェーデン)
・契約の更新について承認された機関は、以下のとおり
- 水関連法律・政策・科学のためのIHP-HELPセンター(IHP-HELP、英)
- 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM、日)
- 侵食・堆積国際研究研修センター(中,IRTCES)

10)ユネスコ事務局と国内委員会との協力についてのレビューのフォローアップに関するオープンエンドな三者ワーキンググループの報告(議題33)

・ユネスコ事務局と国内委員会との協力についての評価のフォローアップに関するオープンエンドな三者ワーキンググループの報告書について審議され、次回総会で採択されるよう総会へ勧告することとなった。
・同報告書には、同ワーキンググループの勧告を実施するための詳細なタイムライン及び責任を含む行動計画(案)が含まれており、あわせて支持された。(行動計画(案)の詳細は、別紙3参照)

5.加藤国際統括官とボコバ事務局長のバイ会談 (4月15日)

・2015年以降の開発アジェンダにおいて、教育問題は重要であり、ESDは、EFAやEDUCATION FIRSTとも強く関係しており、重要な課題である点については、意見が一致。事務局長からは、同アジェンダの中に教育を位置付けるため、策定プロセスにおいて加盟国の強力な支援が必要である旨発言があった。
・サステイナビリティ・サイエンスについて、ジャカルタ事務所が主催し、文科省がサポートしたクアラルンプールでのワークショップの結果について報告し、37C/4及び37C/5での位置付けについて意見交換を行った。事務局長からは、サステイナビリティ・サイエンスのアプローチを採るのは、自然科学だけでなく、人文・社会科学も含めた全ての科学であり、サステイナビリティ・サイエンスにより両局のシナジー効果が徐々に出てくることを期待している旨発言があった。
・日本ユネスコ国内委員会で議論している民間ユネスコ活動の活性化は、重要な事項であり、民間からの参加を得た目に見えるユネスコ活動の展開を期待。

6.執行委員会について 

1)執行委員会は、総会での選挙により選出された執行委員国(58か国)のみが参加できる総会の下部機関。通常の執行委員会は1年に2回、春と秋に開催(各3週間程度)。執行委員会で、総会決定事項等一部事項を除き、2か年の事業・予算等、ユネスコの重要事項が審議及び総会へ報告され、総会で最終的に承認される。
2)次回第192回執行委員会は、本年9月24日~10月11日に開催予定。

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国際統括官付

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