多様化の時代におけるユネスコ活動の活性化についての提言

(概要)

 近年、グローバル化及び気候変動をはじめとして、我々を取り巻く環境が変化する一方、文化・価値観等の多様性を尊重する必要性がますます高まる中で、ユネスコはこれらに対応すべく、「平和」とともに「持続可能な開発」を「中期戦略2014-2021」 の包括的目標として掲げ、持続可能な社会の構築を目指した取組に重点を置いている。 
 このような国際社会の多様性及びそれに対応したユネスコの動向も踏まえ、ユネスコ活動のより効果的な実施方法等、我が国におけるユネスコ活動の在り方を大きく見直し、活性化を図るべき時期を迎えている。
 
 こうした状況を背景として、日本ユネスコ国内委員会は、本年11月に開催される「持続可能な開発のための教育(ESD) に関するユネスコ世界会議」を、ESDに限らず、全てのユネスコ活動 を国内に普及する絶好の機会と捉えつつ、今後特に若者や企業の積極的なユネスコ活動への参加を促すための方策及びESDの推進策に関して、以下の事項等について提言を行う。

 

若者及び企業の参加によるユネスコ活動の一層の促進

1.ユネスコ活動への広い参加を促すため、ユネスコ活動の魅力や国民の生活との結び付き等をより分かりやすく伝えることが必要である。こうした情報を効果的に発信するため、広くユネスコ活動を推進している諸団体の活動について、包括的な情報発信を行うためのポータルサイト等の仕組みの構築を行うこと。

2.公益社団法人日本ユネスコ協会連盟(日ユ協)、公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)、ユネスコ協会・クラブや大学のユネスコクラブといった組織によるユネスコ活動の重要性を踏まえつつ、組織に加盟しなくてもユネスコ活動に若者や企業等が参加できる機会を拡大していくとともに、ユネスコの理念に合致する多様な活動を広くユネスコ活動として認識した上で取り組んでもらうことができるよう、検討を進めること。
 このため、本委員会とは別に、ユネスコ活動に積極的に参加する意欲のある若者等が中心となって、自主的・自律的に議論を行う場(プラットフォーム)を設け、具体的な方策を検討するとともに、可能なものから実施していくこと。

3.ユネスコが開催する各種ユースフォーラムに関する情報を積極的に発信し、公募に対する若者の応募を支援するなど、若者が参加しやすい環境を整備するとともに、類似のフォーラムを国内において開催することを検討すること。

4.ユネスコ活動表彰制度など、優れたユネスコ活動への取組を本委員会が顕彰する仕組みを設けること。

学校教育・社会教育等を通じた持続可能な開発のための教育(ESD)の一層の推進

1.我が国の全てのユネスコスクールは、事業内容の質的向上に努めること。このためにも、国内若しくは国外のユネスコスクールとの交流事業を実施すること。また、ユネスコスクールのない県を解消するなどユネスコスクールの地域的偏在をなくすよう努めること。

2.ESDがユネスコスクール以外でも積極的に推進されるようコンソーシアムの形成、ESDに関する教員等への研修の充実、学習指導要領におけるESDのより一層の明確化、国及び地方公共団体の初等中等教育行政におけるESDの更なる推進等の施策を講じること。

3.各個人に今後求められる資質・能力の向上にESDがどのように貢献するかを理論的、実証的に明らかにするよう、評価指標の開発等の調査研究を進めること。

4.「ESDに関するユネスコ世界会議」において、我が国のこれまでのESDの取組や成果を発信するとともに、本世界会議終了後も上記1から3の達成に向けて、ユネスコ及びユネスコ加盟国と協働して取り組むこと。

※上記は、「ESDに関するグローバルアクションプログラム(GAP)」のレビューが予定されている平成31(2019)年までに達成することを目指す。

はじめに

 戦後、ユネスコは、教育、科学及び文化分野の協力と交流を通じた国際平和と人類の共通の福祉の促進を目的とした国際連合の専門機関として設立され、我が国はユネスコ加盟以来、積極的にユネスコ活動に取り組んできた。他方、近年、グローバル化及び気候変動をはじめとして、我々を取り巻く環境が変化する一方、文化・価値観等の多様性を尊重する必要性がますます高まる中で、ユネスコはこれらに対応すべく、「平和」とともに「持続可能な開発」を「中期戦略2014-2021」 の包括的目標として掲げ、持続可能な社会の構築を目指した取組に重点を置いている。
 このような国際社会の多様性及びそれに対応したユネスコの動向も踏まえ、ユネスコ活動のより効果的な実施方法等、我が国におけるユネスコ活動の在り方を大きく見直し、活性化を図るべき時期を迎えている。

 我が国においてユネスコ活動をいかに推進していくかは、これまでも本委員会において議論がなされ、建議が出されているところである(平成13(2001)年7月「我が国のユネスコ事業への協力及び国内におけるユネスコ活動への取組みについて」)。しかしながら、国内におけるユネスコ活動の認知度は、ユネスコ世界遺産等、特定の事業を除き、十分であるとは言えず、より積極的な取組が必要である。

 特に、青年のユネスコ活動への参画については、ユネスコでは「青年戦略」 が策定され、「中期戦略」でも青年の重要性がうたわれている。他方、我が国においては、各地のユネスコ運動の基盤となってきたユネスコ協会・クラブにおいて、その会員に占める青年の割合が低下するとともに、活動する会員が増えないなどの課題がある。一方、ユネスコ協会・クラブのようなユネスコ活動を行う組織に属しない若者等が多様な場で行っているボランティア活動等には、ユネスコの理念に合致するものが多くある。将来にわたり活発なユネスコ活動を継続していくためには、このようなユネスコの理念と合致する活動を広くユネスコ活動と認識し実施してもらうなど、多様化した時代に適応した形で、青少年のユネスコ活動への参加を促進することが急務である。
 一方、地域振興の上で世界遺産、ユネスコ記憶遺産、ユネスコエコパークをはじめとする様々なユネスコの事業に期待する機運が高まっていることから、地域におけるユネスコ活動の一層の振興のために、ユネスコ協会・クラブ、NGO、知事部局、教育委員会等が連携を図る必要性が高まっている。
 また、近年、ユネスコにおいて企業との連携が重視されており、また、社会貢献が企業活動の中に明確に位置付けられるようになってきていることから、企業もユネスコ活動を推進していく上での重要なパートナーとして、その参加の促進について検討することが必要である。

 こうした課題は、全てのユネスコ活動に共通するものであるが、「ESDに関するユネスコ世界会議」を本年に控え、特にESDについては、我が国のこれまでの取組を踏まえ、現在課題となっていることを明らかにすることが必要である。さらに、「国連ESDの10年」の後継プログラムとして第37回ユネスコ総会で採択され、本年秋の国連総会で承認される予定の「ESDに関するグローバルアクションプログラム(GAP)」を見据え、今後のESD推進の方向性を定めていくことが必要である。
 GAPでは、丸1 ESDへの政策的支援、丸2 ESDへの包括的取組、丸3 ESDを実践する教育者の育成、丸4 ESDへの若者の参加の支援、丸5 ESDへの地域コミュニティの参加の促進の五つを当面5年間の優先行動分野と位置付けており、我が国としても、2015年以降、これらの分野においてどのような取組を行っていくかについて具体的な方向性を示し、ESDの提唱国として、国際的にも積極的に発信していくことが期待されている。この際、ESDの推進に当たっては、政府のみでなく、教育関係者、NGO、企業、若者といった幅広い層を巻き込んでいくことが不可欠であることに留意しなければならない。

 こうした状況を背景として、本委員会としては、「ESDに関するユネスコ世界会議」をESDに限らず、全てのユネスコ活動を国内に普及する絶好の機会と捉えつつ、今後特に若者や企業の積極的なユネスコ活動への参加を促すための方策及びESDの推進策について、本提言を取りまとめるものである。本提言は、日ユ協及びACCUをはじめ、ユネスコスクール、教育委員会、若者、企業等、多様な主体と連携しつつユネスコ活動を推進していくに当たっての本委員会としての指針であり、今後、本提言を十分に踏まえ、本委員会において、実施できる活動から順次着手しつつ、関係する団体、個人に対して、積極的なユネスコ活動への参加を働きかけるための具体策について更に検討を進める。

 本提言の第1部では、分野に関わらず、全てのユネスコ活動の活性化に不可欠である若者及び企業の参加の促進方策について提言を行った。また、第2部では、本年、我が国において開催予定の「ESDに関するユネスコ世界会議」を見据えて、ESDの一層の推進方策について議論したものであり、その結果得られた提言は、GAPの優先行動分野について具体的な方策を示すものでもある。なお、若者の参加の促進は、全てのユネスコ活動の活性化に向けた共通課題として第1部で取り上げることとする。

若者及び企業の参加によるユネスコ活動の一層の促進

背景

「ユネスコ活動に関する法律(昭和27(1952)年6月21日法律第207号)」は、国又は地方公共団体は、「自らユネスコ活動を行うとともに、必要があると認めるときは、民間のユネスコ活動に対し助言を与え、及びこれに協力する」(第4条第1項)、とし、また、本委員会は「ユネスコ活動に関し、地方公共団体、民間団体又は個人に対して必要な助言を与え、及びこれに協力することができる」(第6条第8項第7号)と定めている。他方、我が国の民間ユネスコ活動は、ユネスコ加盟前の昭和22(1947)年から行われており、また、世界初の民間のユネスコ協会・クラブが発足したのも我が国である。

  現在、日本各地で300近い民間のユネスコ活動団体(ユネスコの理念・目標に沿って、地域で独自の活動を行っている非政府組織。ユネスコ協会・クラブ、各種ユネスコクラブ等)が、 日ユ協へ加盟し活動を行っている。日ユ協はこれらの機関の連合体として、本委員会をはじめ、文部科学省、外務省、企業及びユネスコ等との連携を促進している。
 
  さらに、ACCUは、日本政府と民間の協力によって昭和46(1971)年に設立され、ユネスコとの連携を図りながら、アジア・太平洋地域のユネスコ加盟国と協力して、教育協力、人物交流、文化協力の分野で、現地のニーズを反映した具体的な地域協力事業を実施している。
 
  一方、公益法人制度等の改正により、上述の日ユ協及びACCUは平成23(2011)年度から内閣府所管の公益社団法人、公益財団法人になり、三者の新しい連携の姿を模索することが重要である。

課題

 このように、我が国においては、これまで民間のユネスコ活動団体が主としてユネスコ活動の担い手となってきたところであるが、その活動の質・量の豊かさに比して国民に知られることが少ないことは、平成13(2001)年の本委員会の建議においても指摘しているところである。しかしながら、現在もユネスコ活動の国民への普及が必ずしも十分であるとは言えない状況にある。

 特に若者は社会の単なる「顧客」でなく、社会の主体であることを考えた場合、若者に広くユネスコ活動に関心を持たせることは重要であり、この意味で本委員会に新たに青年1名が任命されたことは意義が大きい。これは、中期戦略等で青年の重要性をうたっているユネスコの方向性とも合致するものである。また、若者がユネスコ活動へ参加することは、我が国において現在活発に議論されているグローバル人材の育成にも資するものである。しかしながら、地域におけるユネスコ活動を推進してきた各地のユネスコ協会・クラブの会員に占める15歳以上35歳未満の「青年」の割合が、平成24(2012)年度現在2.8%と低くなっている。また、活動する会員が増えない(平成24(2012)年度の全国のユネスコ協会・クラブの会員総数は16,803人)、ユネスコ活動に対する教育委員会等の十分な理解が得られないなどの課題がある 。
 さらに、ユネスコ協会・クラブのようなユネスコ活動を行う組織に属しない若者等により行われている多様な活動の中には、ユネスコの理念と合致するものが多くあるにもかかわらず、こうしたものがユネスコ活動として認識されていないことが多い。多様なユネスコ活動の在り方を尊重しつつ、ユネスコ活動間のつながりや連携を促進していくためには、先ずは、それらをユネスコ活動として認識し実施してもらう必要がある。
 一方で、国内におけるユネスコスクールの数の増加を受け、ユネスコスクールに在籍し、ユネスコの理念に共鳴した児童・生徒に卒業後もユネスコへの関心を持たせることは、ユネスコ活動への参加者の裾野を広げる上で有意義である。
 また、近年は、特に若者を中心として、フェイスブックやツイッター等のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じた交流が普及し活動・交流の形態が多様化しており、ユネスコ活動の実践においても、このような社会環境の変化を捉えた対応が必要である。

 さらに、最近のユネスコにおける企業との連携強化の積極的な方針、企業における社会貢献活動の浸透を踏まえると、我が国の民間ユネスコ活動における企業との連携は十分ではない。

 こうした状況を踏まえると、より広くユネスコ活動を国民に普及させ裾野を広げていく必要があり、そのためには、地域におけるユネスコ協会・クラブの一層の活動の活性化が必要である。また、若者の最近の特徴を考えれば、多様化した若者の活動・交流に適応した形で、広く若者がユネスコ活動に関心を持ち、参加しやすくなるための方策を早急に講じる必要がある。特に、東日本大震災の際にも若者のボランティア活動への積極的な参加が見られたように、多くの若者が、社会活動に参加する意欲を示したことに留意すべきである。
他方、近年企業のCSR活動が盛んに行われており、CSR活動とESD活動を連携して行っている例も見られる。こうした企業の活力を我が国のユネスコ活動に振り向けることが重要である。

今後取るべき方向
1.ユネスコ活動に関する情報発信のあり方の工夫

 ユネスコ活動への広い参加を促すためには、ユネスコ活動の魅力や国民の生活との結び付き等をより分かりやすく伝える工夫がされなければならない。具体的には、ユネスコ活動や本委員会について、何を目的とし、自分たちの生活とどのような関連があるのか、また、ユネスコ活動に関わることが、どのように自分たちの未来の形成につながるのかをイメージしやすくなるような情報の発信を行うべきである。

 ユネスコの事業には、世界遺産、無形文化遺産、ユネスコ記憶遺産、ユネスコエコパーク、クリエイティブ・シティーズ・ネットワーク等、地域振興に資するプログラムが数多くある。こうした事業に既に認定されている自治体等の成功事例を紹介すること等を通じ、地域の様々な取組が、ユネスコ事業の枠組みと結び付くことで、いかにしてより価値を高められるかなど、ユネスコの事業の魅力に言及することが重要である。さらに、これらの取組は、個々の地域の活性化にも資することから、国のみならず、地方公共団体やユネスコスクール、ユネスコ協会・クラブ等の地域に根ざしたユネスコ活動の実施主体に対しても効果的な情報発信を行うべきである。

 情報発信の方策を検討するに当たっては、ユネスコ活動や本委員会についての豊富な知識を有しているのみでは十分でなく、広報の専門家の視点も取り入れることが必要である。さらに、若者や企業といった情報を受け取る側も、議論への参加等、発信内容の形成に関与することで関心が高まるということを踏まえ、ホームページのみならずソーシャルネットワーキングサービス(SNS)等を活用しながら、こうした意見を集約する場を設けることが必要である。

 また、ユネスコ活動の重要性や日常生活との関わりをメディアにも十分に理解してもらうため、記者等への情報発信を積極的に行うとともに、より分かりやすい説明が必要である。さらに、各種イベント等の際の報道関係者への案内はより積極的に行うことにより、具体的な取組経験やユネスコ活動の魅力等について直接関係者から話を聞く機会を提供することが重要である。

 ユネスコ活動に関する情報発信に当たっては、活動内容の多様性を十分に反映することができるよう、ユネスコ活動の多様な担い手がそれぞれ工夫して取り組むとともに、ACCU、日ユ協と本委員会が連携する必要がある。さらに、広くユネスコ活動を推進している諸団体の活動について、包括的な情報発信を行うためのポータルサイト等の仕組みの構築が必要である。

 また、平成24(2012)年2月より、広く世間にユネスコ活動を普及し、ユネスコの理念を浸透させることを目的として、日本ユネスコ国内委員会広報大使 が任命されており、より積極的に情報発信に関与してもらうことが求められる。

 さらに、地域におけるユネスコ活動の普及には行政の理解は不可欠である。ユネスコ活動が多岐にわたることを考えると、教育委員会及び知事部局双方にユネスコ活動に関する十分な情報発信を行うとともに、両者の連携を促すことが必要である。

2.若者の参加の促進

 民間のユネスコ活動の牽引(けんいん)役として、日ユ協やACCU、地域のユネスコ協会・クラブや大学のユネスコクラブといった団体が組織的にユネスコ活動に取り組んでいくことは、引き続き重要である。他方、ユネスコの理念やユネスコ活動の多様性、また、近年、同一の組織に属しない若者等がソーシャルネットワーキングサービス(SNS)等を通じて募った仲間とボランティア活動等、様々な活動に取り組んでいる実態を踏まえ、これら組織によるユネスコ活動の重要性を勘案しつつ、組織に加盟しなくてもユネスコ活動に若者や企業等が参加できる機会を拡大していく必要がある。また、ユネスコの理念に合致する多様な活動 を広くユネスコ活動として認識した上で取り組んでもらうことができるよう、検討を進める。
 このため、本委員会とは別に、ユネスコ活動に積極的に参加する意欲のある若者等が中心となって、自主的・自律的に議論を行う場(プラットフォーム)を設け、具体的な方策を検討するとともに、可能なものから実施していくことが重要である。また、適宜本委員会において議論をした上で施策に反映させることが望ましい。
 これらの取組を通じ、ユネスコ活動という共通の意識を持った緩やかなネットワークが構築され、個々の団体、個人で活動するよりも補完的に協力し合い、つながりが広がる効果が期待できる。さらに、このようにユネスコ協会・クラブ等のユネスコ活動の実践を主たる目的とする既存の組織に属しないでユネスコ活動に参加した若者等が、その後ユネスコ協会・クラブ等の既存の組織へ加盟し、ユネスコ活動の実践基盤の強化につながることが望ましい。

 一方、既存の団体による活動を生かす観点から、若者のユネスコ活動への参加促進に当たっては、ボーイスカウト、ガールスカウト等のNGOのような若者になじみの深い団体と、ユネスコ協会・クラブ(青年部含む)や大学のユネスコクラブといったユネスコ関係団体が連携していくことが重要である。こうした意味で、最近、ユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASP UnivNet)を中心に、多くの大学、ユネスコ協会やユネスコクラブ所属の学生による議論の場が生まれつつあるのは望ましいことである。また、ユネスコ協会・クラブの青年部や大学のユネスコクラブ等のメンバーからの呼びかけを通じて、より多くの若者の積極的な参加を促していくことが必要である。さらに、ユネスコ活動に参加することは、グローバル人材の育成にも資することから、グローバル人材の育成を積極的に推進している大学に対しても、ユネスコ活動の情報を発信していくべきである。

 さらに、若者がユネスコ活動に参加するきっかけとして、例えば関係団体等によるスタディーツアー等は有効であり、関係団体等においては、こうした機会をより積極的に提供していくことが望まれる。また、ユネスコにおいても例えば世界遺産委員会やユネスコ総会等のイベントに合わせてユースフォーラムを開催している。ユネスコが開催する各種ユースフォーラムに関する情報を積極的に発信し、公募に対する若者の応募を支援するなど、若者が参加しやすい環境を整備するとともに、類似のフォーラムを国内において開催することを検討すべきである。

 また、起業家精神をもつ若者を捉え、地域振興と合わせ、ユネスコ活動を展開するような仕組みを検討する必要がある。
 さらに、与えられた枠組みに若者が参加する機会を提供するのみでなく、例えば本年の「ESDに関するユネスコ世界会議」の際に、若者が自らイベントを企画し開催できるような場を提供するなど、若者の自主的な活動を発表できる場を設けることも検討する必要がある。

3.企業の参加促進

 ユネスコにおいても、多様なステークホルダーとの協働による活動の展開の見地から、近年、企業との連携が重視されており、また、ユネスコ活動を社会全体に浸透させるという観点からも、企業に積極的にユネスコ活動に参加してもらうことが必要である。このため、ユネスコ活動に参加することが企業にとってもメリットとなり、企業が率先して関与したくなるような方策について引き続き検討すべきである。また、企業への働きかけを行うに当たっては、企業がどのような方針でCSR活動等を行っているのかについて十分に情報収集を行うことが望ましい。近年、長期的な企業活動においてCSRの役割の重要性が高まりつつあることに鑑み、企業がCSRを強化していく上で、ユネスコ活動がより重要であることを示すようにしていくことが必要である。

 加えて、ユネスコ活動の理念には賛同するものの、どういう形で企業として貢献できるかが分からないとの指摘もあることから、企業にどのような役割を期待するのかを具体的なプログラム又は活動を示した上で明示することが重要である。さらに、企業がユネスコ活動への参加を検討している段階から支援することにより、ユネスコ活動に参加しやすい環境を整備する必要がある。また、少額の公的資金が企業の積極的な参加・資金提供の呼び水となることも多いため、こうした観点から、国としての財政的な支援の在り方を検討すべきである。

 本委員会としても、経済関係団体との共催によるシンポジウム等を通じ、企業に対しユネスコ活動に関する情報提供を行う必要がある。また、日ユ協及びACCU等の関係団体においても、近年企業との連携強化を図っているところであるが、今後は、これら関係団体との連携強化を進め一体となって取り組むことにより、企業に対するユネスコ活動全体のビジビリティを向上させ、相乗効果を図るべきである。また、日ユ協においては、地域のユネスコ協会・クラブにおいて、企業との積極的な連携が進められ、地域におけるユネスコ活動のより一層の活性化が図られるよう、働きかけを行うとともにノウハウの共有等の支援を行うことが期待される。

4.ユネスコ活動への参加の動機付け

 若者及び企業等のユネスコ活動を促進するために、例えばユネスコ活動表彰制度など、優れたユネスコ活動への取組を文部科学省あるいは本委員会が顕彰する仕組みを設けることにより、ユネスコ活動への参加の動機付けを図るべきである。なお、このような顕彰により、本委員会からの情報発信に加え、ユネスコ活動の意義等について、受賞者が自らのネットワークを通じて発信していくことで、ユネスコ活動に関心を有する人の裾野が広がることが期待される。

 また、現在本委員会で行っているユネスコ活動に対する後援名義について、ホームページ等を通じて広く一般に積極的に周知することにより、「見える化」と付与件数の拡大を図るべきである。等について、受賞者が自らのネットワークを通じて発信していくことで、ユネスコ活動に関心を有する人の裾野が広がることが期待される。

学校教育・社会教育等を通じた持続可能な開発のための教育(ESD)の一層の推進 

背景

 平成26(2014)年11月、我が国において「ESDに関するユネスコ世界会議」が開催される。本世界会議は「国連ESDの10年」の最終年に開催される節目の会議であり、2005年から2014年の10年間を総括し、今後のESDの推進方策を検討する重要なものである。「国連ESDの10年」は、平成14(2002)年の第57回国連総会において、我が国の提案が採択されたものであり、我が国はこの10年間、「国連ESDの10年」の主導機関であるユネスコと協働して、積極的にESDの推進に努めてきたところである。
 
特に日本ユネスコ国内委員会では、これまでESDに関して次のとおり、建議、三つの提言及びガイドラインを出し、我が国のESDの推進に貢献してきた。
 平成15(2003)年7月には、「国連ESDの10年」に関してユネスコが策定する国際実施計画に組み込むべき事項として、先進国がESDを自らの課題として取り組むこと、地域社会における絆(きずな)を重視すること、ESDを基礎にした教育の質の向上を図ること、関係機関・関係者間のパートナーシップなくしてESDの実現はありえないこと等をユネスコに対して提言した。

 「国連ESDの10年」の中間年を控えた平成19(2007)年8月には、ESDをより推進するため、各国の参考となり得るESDの教育プログラムの具体化を示すこと、参画の拡大促進、国際協力の促進、モニタリングと評価の重要性について、ユネスコに対して提言を提出した。

 平成20(2008)年4月には、ESDの学校現場への普及促進を図るための提言を取りまとめた。その中で、ESDの概念に基づいた教育活動の推進、ユネスコスクールのネットワークの活用・発展を図るため、ユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付けることを提言した。ユネスコスクールは、平成20(2008)年は78校であったが、上記提言を契機として数が急増し、平成25(2013)年12月現在675校まで増加した。

 「国連ESDの10年」の中間年である平成21(2009)年3月には、ESDの一層の取組推進のため、関係大臣に対して、必要な措置を取るよう建議した。

 
 さらに平成24(2012)年8月には、ユネスコスクールの質の確保のため、ユネスコスクールガイドラインを策定し、ユネスコスクール及びESD推進拠点として大切なことを取りまとめたところである。

課題と今後取るべき方向
1.ユネスコスクールについて

(課題)

 平成25(2013)年12月現在、675校を数えるに至った我が国のユネスコスクール数は、ユネスコ加盟国中で最多である。しかしながら、ユネスコスクールが集中して存在している地域がある一方、全くない県が4県あるといった地域的偏在がみられる。

 一方、ユネスコスクールは、本来、ユネスコ憲章に示されたユネスコの理想を実現するため、平和や国際的な連携を実現する学校の国際的なネットワークの構築を意図するものである。グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図り、またユネスコスクールの質を向上させるためにも、国内外の交流が重要である。一昨年8月に日本ユネスコ国内委員会が策定したユネスコスクールガイドラインにおいても、学校間交流の重要性に触れたところであるが、現状においては、我が国のユネスコスクールは、国外はおろか国内の交流も十分進んでいるとは言えない。

(今後取るべき方向)

 今後、我が国のユネスコスクールは、特に海外との交流を促進し、活動の質を向上するべきである。そのためには、ユネスコスクールウェブサイトの交流機能やサイト上に示す学校の活動内容を分かりやすく発信することが必要である。また、交流事業を継続させるためには、既にアジア共通の食材であるコメについて行われているように、今後、例えば気候変動、防災・減災といった学校間で共通のテーマを明確に設けることが重要である。さらに現在、日本と米国・中国・韓国との間で実施している教職員交流の対象国をASEAN域内に拡大し、交流の枠組みを拡大するべきである。こうした交流事業を推進するためには、ユネスコスクールガイドラインで示したとおり、ユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASP UnivNet) の支援や協力を得ながら、大学の持つ知的資源の活用、国内外のユネスコスクールとのネットワーク作り、地域の教育機関との連携等を図っていくことが重要である。

 ユネスコスクールの推進の方向としては、交流事業を発展させるためには量の確保が求められるところ、ユネスコスクールのない県の解消といった地域的偏在をなくすことに留意し、当面は質と量の両面での充実を図るべきである。将来的には、以下に述べるユネスコスクール以外へのESDの拡大の状況も見つつ、検討する必要がある。

2.ユネスコスクール以外の学校でのESDの推進について

(課題)

 学習指導要領には、「ESD」と明示的に記載されていないものの、持続可能な社会の構築の観点が盛り込まれている。また、教育振興基本計画では、ESDの推進が明記されている。さらに、これまでの日本ユネスコ国内委員会の提言においても、「ESDは、内容的には必ずしも新しい概念ではない。その中には、国際理解、環境、多文化共生、人権、平和、開発、防災等のテーマ・内容が含まれている。それらをESDという新しい視点から捉え直すことにより、個別分野の取組に、持続可能な社会の構築という共通の目的を与え、具体的な活動の展開に明確な方向付けをするもの」と指摘しているところである。その反面、ESDに多様なテーマ・内容が含まれ得ることから、その理解が多義的になり、ESDを分かりにくいものにしていることも事実である。

 これまで、ユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付けてきており、ユネスコスクールの我が国の学校段階別学校総数に占める割合で見ると、小学校1.6%、中学校1.4%、高等学校1.9%となっている。また、ESDはユネスコスクールだけが取り組めばよいと誤って理解されている場合も見受けられる。
 学習指導要領、教育振興基本計画にあるとおり、ユネスコスクール以外の学校においてもESDを推進することが求められている。このため、ユネスコスクールの地域におけるESD推進拠点としての役割を強化し、教育委員会、公民館、ユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASP UnivNet)の加盟校をはじめとする大学、RCE 、企業等との連携を促進する方策を講じる必要がある。

(今後取るべき方向)

 ESDが学校教育の内容にどのように寄与するかを明確にするなど、ユネスコスクールやESDの活動に対して教育委員会の理解を得ることが必須である。こうした観点から学校間や教育委員会間の交流を通じた優良事例の共有を進めることが必要である。また、ESDの重要性を広く浸透させるために、保護者はもとより一般の人にESDを分かりやすく伝えるような内容を広報すると共に、報道を通じてより広範に伝わるよう工夫する必要がある。さらに、ESD活動は、初等中等教育で目指す生きる力の育成や、教育再生の重要課題の中で強調されているグローバル人材育成、さらにはOECDが提唱するキー・コンピテンシー 等の育成に通じるものであり、国及び地方公共団体の初等中等教育行政においても、ESDを更に推進することが重要である。例えば、今後、学習指導要領において、各教科、総合的な学習の時間等の内容とESDとの関係がより明確となるよう配慮するべきである。また、教育委員会や各学校におけるESDへの理解を一層増進する見地から、ESDに関する教員及び教育委員会担当者への研修を充実させることも重要である。
 一方、ユネスコスクール以外の学校におけるESDの推進については、ユネスコスクールのESD推進拠点としての役割、ACCUが担っているユネスコスクールの事務局機能、ASP UnivNetの機能をより一層強化することが求められる。これらの既存の仕組みを補強しつつ、一体としてESDを推進するためには、関係機関との調整を図るコーディネーターを配置するコンソーシアムを新たに形成することが重要である。すなわち、教育委員会や大学を中心に、ユネスコスクールと共にコンソーシアムを形成して、それがユネスコスクール以外の学校へのESDの実践普及及び国内外のユネスコスクール内の交流を促進する仕組みである。加えて、ESDに関するコーディネーター相互の交流を活発にする方策が必要である。また、日ユ協やユネスコ協会・クラブが、地域で形成してきたネットワークを有効に活用することも求められる。

 また、地域社会でESDをより一層浸透させるためには、RCE、JICAの地方支部、企業、NPO等が多様なステークホルダーとなり、それらが一体となって参加するネットワークを形成し、取組を進めるべきである。その際、上述のコンソーシアムが中核的な機能を発揮することが重要である。さらに、地域の実情に応じ、ユネスコスクールは公民館、博物館、図書館等の社会教育施設や地域の資料センター、大学等の高等教育機関等との連携を図るべきである。なお、我が国の公民館活動は、特にアジア諸国の関心が高いことから、国際連携も視野に入れて活動することが期待される。一方、企業においてはCSR活動からESDに参画して活発に事業を行っている場合もあり、こうした企業との連携については、ESD活動に積極的に取り組む企業を顕彰する仕組み等を検討する必要がある。

3.ESDの理論的裏付けについて
(課題)

 ESDは、我が国の教育の質の向上に必須の概念であり、また「知識だけではなくスキルや態度」の育成を目標とする国際的な潮流においても重要な概念であるが、その教育効果についての理論的裏付けが十分とは言えなかったと考えられる。このため、評価指標を明確にすること等を通じて、理論的、実証的に明らかにする必要がある。

(今後取るべき方向)

 ESDの教育効果について、評価指標を明確にし、客観的なデータで示すことが重要である。また、各個人に今後求められる資質・能力の向上にESDがどのように貢献するかを理論的、実証的に明らかにするような調査研究を進めるべきである。あわせて、既に実施されているESD関連の研究を発表する機会を設けるなど、ESD関連の研究成果を活用することが不可欠である。これらを通じ、ESDの概念・効果が理論的に強固なものとなり、ESDが政策面でより的確に位置付けられることが求められる。さらに、これらの研究成果が、ESDに関する教材等の作成に活用されることが期待される。

 また平成23(2011)年、日本ユネスコ国内委員会が提言したサステイナビリティ・サイエンス も、持続可能な社会を構築するという観点から、アプローチという意味では、ESDに共通すること、また、ESDを高等教育レベルで推進する上でも重要であると考えられることから、理論的構築を進める際に十分参考にすることが求められる。
一方で、ESD活動の一つである世界遺産学習と観光等というように、ESDと他分野との連携を図った幅広い取組も不可欠である。

4.「ESDに関するユネスコ世界会議」を踏まえたESDの推進について
(現状)

 「ESDに関するユネスコ世界会議」は、ユネスコ加盟国の閣僚級をはじめ、ESDの専門家や実践者等が集まる2,000人規模の会議である。これは、我が国が開催する教育関係で過去最大の国際会議である。

 現在、ポスト2015年開発アジェンダの議論 が、国連、ユネスコをはじめとした国際機関等で活発に行われている中、持続可能な開発(SD)は不可欠な要素となっている。また、平成24(2012)年6月に開催されたリオ+20の成果文書では、持続可能な社会の実現のためにはESDの重要性に鑑み、2015年以降もESDに取り組んでいくことが決議されている。このように、2014年は「国連ESDの10年」の最終年であるばかりでなく、国連ミレニアム開発目標(MDGs) 及び万人のための教育(EFA) の最終年を一年後に控えた重要な年でもある。

(今後取るべき方向)

 「ESDに関するユネスコ世界会議」では、我が国のこれまでのESDの取組や成果を効果的に発信するべきである。例えば、東日本大震災の経験を踏まえ、ESDが防災・復旧等にどのように貢献したか、震災の経験がESDの在り方にどのような影響を与えたかなど、我が国からのメッセージとして諸外国に伝えてくべきである。また、ポスト2015年開発アジェンダ・教育関連アジェンダにおいて、教育の質の向上を位置付けることが重要であるが、それに関連してEFAとESDとを共に推進することの重要性を強く主張するべきである。

 他方、第37回ユネスコ総会では、「国連ESDの10年」終了後の2015年以降に推進されるフレームワークとして「ESDに関するグローバルアクションプログラム(GAP)」が採択され2014年秋の国連総会で承認される予定である。GAPでは、ESDへの政策的支援、ESDへの包括的取組、ESDを実践する教育者の育成、ESDへの若者の参加の支援、ESDへの地域コミュニティの参加の促進の五つの優先行動分野を示し、それに対して、政府機関、NGO、民間企業、報道機関、学術研究機関、教育機関、政府間組織等、多様なステークホルダーからの関与が求められており、我が国としても積極的な貢献を求められているところである。我が国は、ユネスコへの信託基金を通じた貢献のほか、企業等のステークホルダーの参画も得て、GAPに則(のっと)ったESDに関するプロジェクトを実施するなど、2015年以降も引き続きユネスコ加盟国間でのESD推進の牽引(けんいん)役となるとともに、国内においてもGAPを踏まえたESDの一層の推進が重要である。

  上記の提言については、国際的な推進枠組みであるGAPのレビューが予定されている平成31(2019)年までを目標年次として達成することを目指す。

(了)

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