我が国のユネスコ事業への協力及び国内におけるユネスコ活動への取組みについて(建議)

   平成13年7月18日、第109回日本ユネスコ国内委員会において、「我が国のユネスコ事業への協力及び国内におけるユネスコ活動への取組みについて」の建議が採択されました。
   この建議は、ユネスコの2002-2007年中期戦略及び2002-2003年事業・予算案策定において、松浦ユネスコ事務局長が進める事業の重点化・精選化の方針を踏まえ、協力の一層の充実を図るため、政府が必要な措置をとることを提言するものです。
   建議は、教育、科学、文化、コミュニケーション、普及の各分野に係るもの及び我が国のユネスコ代表部の強化からなり、万人のための教育への支援、学校教育等におけるユネスコ活動の振興、世界的な文化財保護等、我が国のユネスコ事業への協力、国内活動の推進についての提言がされています。
   建議は委員会の採択後、文部科学大臣、外務大臣をはじめ関係各大臣へ提出されました。









我が国のユネスコ事業への協力及び国内における
ユネスコ活動への取組みについて(建議)


   ユネスコは教育、科学、文化の国際交流を通じて、国際平和と人類の福祉という目的に貢献するために第2次世界大戦後創設され、我が国は昭和26年(1951年)に加盟した。以来、今年は50周年を迎えるに至った。
   ユネスコは、創設以来、識字教育の普及、科学の発展と科学的知識の普及への貢献、文化遺産の保護、及び国際理解の推進など数多くの実績をあげてきたが、近年の国際情勢の変化の中で、相互理解や社会変容などの対応の不十分さに根ざした問題が顕在化し、また、環境問題、人口問題、文化多様性の保護、情報格差など地球規模の問題が深刻化する中で、改めてユネスコの役割の重要性が増してきている。
   このような中、我が国は加盟以来、教育、科学、文化の交流・協力を通じて数多くのことを学ぶとともに、世界各国の人づくりと相互理解の推進に貢献するとの観点から、ユネスコに対して積極的に協力してきたところであるが、ユネスコの2002-2007年中期戦略及び2002-2003年事業・予算策定において、松浦事務局長が進める、事業の重点化・精選化の方針を踏まえ、その協力の一層の充実を図るとともに、国内におけるユネスコ活動の取組みを一層強化する必要がある。その際、特に以下の諸点を重視すべきと考える。
   よって、日本ユネスコ国内委員会は、政府がこれらに関し積極的に必要な措置をとることを要望し、ここに建議する。



1    教育分野
1    「ダカール行動の枠組み(Dakar Framework for Action)」に基づく支援について
    
  (1) 「ダカール行動の枠組み」による勧告内容については、平成12年(2000年)7月の九州・沖縄サミットで採択されたコミュニケにおいても明確な支持が打ち出されており、我が国をはじめとするG8諸国は、「万人のための教育(EFA)」の達成に向け真剣な取組みを実施している諸国に対し十分な支援を行うことを確認している。しかしながら、当枠組みに設定されている達成目標を実現させるためには、他の援助国・機関・NGO等市民社会との連携更には途上国同士での経験・知見の交流も含むあらゆる関係者との連携を通じ、基礎教育に対する更なる支援の拡大を図る必要がある。
  (2) 我が国が当該支援を行うに当たっては、女子や社会的な弱者に対する教育、並びに、特に開発途上国において深刻な事態を引き起こしているエイズに対する予防教育について特に配慮を行うべきである。また、支援を実施するに当たっては、知識の普及と開発の促進の有効手段としての情報技術(IT)を積極的に活用するよう配慮すべきである。更に、「万人のための教育」の目標は、全ての国における共通、且つ普遍の課題であることに鑑み、支援対象地域についても、従来より重点的な支援対象であるアジア・太平洋地域に加え、アフリカをはじめとする他の地域に対しても拡大的に実施すべきである。
  (3) 具体的には、以下の施策を実施すべきである。
     
 
   識字関係の協力については、EFAの目標達成のための活動全般の支援を充実する観点からの見直しを図ること。
 
   急速に広がるエイズ禍に対しては、保健・医療による対策に加え、地球規模での予防教育の推進に努めるべく、各国・機関・NGO等と密接な連携の下、他の援助形態による支援とともに、ユネスコを通じた協力の一層の充実を図ること。
 
   世界中で広がるデジタル・ディバイドにより、子供達の未来に格差が生じないよう、各国・機関・NGOを含む民間セクター等と密接な連携の下、他の援助形態による支援とともに、開発途上国の教員の養成、訓練をはじめ教育の場における情報技術(IT)の有効活用に対する一層の支援の充実を図ること。
     
2 学校教育等におけるユネスコ活動の振興について
     
  (1) ユネスコの新しい中期戦略案においては、教育を通じた諸国民間の相互理解の推進が重視されており、また、我が国においては、平成14年(2002年)度から施行される小中学校の新しい学習指導要領の「総合的な学習の時間」において「国際理解」が課題の一つとして例示されているなど、学校教育における国際理解教育の重要性は一層高まってきている。また、生涯学習社会を構築していく中で、教育における学校・地域・家庭の連携及びそれぞれの役割の重要性が高まっていることを踏まえ、学校外教育においてもユネスコ活動を一層振興する必要がある。さらに、ユネスコ協同学校については、担当教員の転任に伴いその活動が低下してしまうなどの問題点が指摘されている。これを踏まえ、ユネスコのヴィジビリティの向上の観点も併せ、学校教育におけるユネスコ活動を振興していく必要がある。
  (2) 具体的には、以下の施策を実施すべきである。
     
 
   学校教育におけるユネスコ活動については、例えば、「総合的な学習の時間」や教科学習を通じた国際理解教育で取り上げられるように、事例として示すこと。
 
   地域や家庭等、学校外の教育の場において、ユネスコ活動の振興をさらに図るため、ユネスコ協会、NGO等、教育委員会が一層の協力・連携を図ること。
 
   ユネスコ協同学校については、新たに「ユネスコ国際理解協力ネットワーク(仮称)」としてその活性化を図るべく、教育委員会を通じた指定を行うなどにより学校としての組織的な取組みを進めるとともに、その構築する国際的なネットワークを利用する効果的な方策について検討を行うこと。
     
2    科学分野
1    科学技術に関する倫理について
   
     ユネスコは、次期中期戦略において、科学技術の両面性-正の効果と負の効果-を共通の価値と文化の多様性の関係という高度な問題として捉え、科学技術に対して生命倫理など、高い倫理性を求めようとしている。また、平成11年(1999年)にブダペストで開催された「世界科学会議」のフォローアップ活動として、ユネスコの次期事業計画予算案においては人文・社会科学分野の最優先分野として、「科学技術の倫理」が定められている。
さらに、平成13年(2001年)3月に閣議決定された、我が国の科学技術基本計画においても「重要政策」の一つとして、「優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革:科学技術に関する倫理と社会的責任」が、また、「総合科学技術会議の使命」の一つとして「科学技術の両面性に配慮、科学技術に関する倫理の確立」が唱われているところである。
以上を踏まえ、我が国も、ユネスコの「科学技術の倫理の確立」に向けた活動に、自然科学、人文・社会科学の分野を通じ、国際会議やシンポジウムの開催などについて積極的に協力を行っていく必要がある。
     
2    知識活用社会の構築への貢献について
     
     ユネスコの次期2002-2007年中期戦略案において、人文・社会科学分野の優先分野として文化の多様性、知識活用社会の構築への貢献が示されている。そのためには、人文・社会科学分野からの領域横断的なアプローチによる研究の促進が必要である。また、我が国がユネスコの科学分野においても国際的、地域的なリーダーシップを発揮し、あわせてユネスコのヴィジビリティを高めることができるよう、「科学技術の倫理」、「共通の価値と文化の多様性」、「グローバリゼーションと社会変容」、「知識活用社会の構築」など、21世紀の重要課題をテーマとする国際的な知的交流の場を繰り返し設けるべきである。
     
3    水資源管理等に関する国際協力について
     
  (1)    途上国を中心とする世界各地での水不足、水質汚染、淡水利用可能量の不足、及び地域的な偏りによる水に関する紛争の懸念など、水問題は21世紀の最も重要な問題である。ユネスコは、国連が実施しているWorld Water Assessment Programme(WWAP)の事務局をつとめ、イニシアティブをとっているほか、次期中期戦略案及び事業計画予算案において、「水科学を通じた水保護」を自然科学分野の最優先分野に定めている。また、平成15年(2003年)には「第3回世界水フォーラム」が我が国で開催される。
以上のような状況を踏まえ、これまで欧米を中心に議論が進められている水資源関連の国際的な取組に対して、我が国が水に関し国際的な大きな役割を果たすため、広く国際的な活動を推進することが必要である。
  (2)    このため、具体的には以下の施策を重点的に推進すべきである。
     
 
   我が国の国際水資源管理の戦略に関する調査研究活動に対する支援施策の強化充実を図ること。
 
   ユネスコ国際水文学計画(IHP)に関して、アジア太平洋地域での主導的活動をはじめとする世界的な研究活動を支援すること。
 
   水科学を中心とするユネスコの科学事業に対する協力のための信託基金を拡充すること。
 
   「第3回世界水フォーラム」等、我が国が主体的に参画する国際会議への支援を行うこと。
     
4    ユネスコの戦略的テーマに関連する研究資金の確保について
     
     我が国が科学分野においてユネスコに一層効果的効率的な協力を行っていくには、ユネスコが戦略的に取り上げる自然科学、人文・社会科学のテーマ、さらには両分野横断的なテーマを国内的、国際的に研究し、その研究成果の還元を促進することが重要となっている。しかしながら、これまで、我が国におけるユネスコの科学分野の活動は、各プログラムに参加する研究者の取得した競争的研究資金により支えられるという不安定な状況で行われてきた。
 このため、個々の研究者が競争的研究資金を確保することに加え、中核的研究機関を定めての組織的な対応等を含め、安定した財政支援の体制を作ることにより、我が国の研究者がユネスコのプログラムに積極的に貢献することを可能にすべきである。
     
3    文化分野
1    世界的な文化財保護について
     
  (1)    タリバンによるアフガニスタンの文化財破壊活動に見られるような紛争によって危機にさらされている文化財の保護を推進するために、世界的な文化財保護についての具体的な方策の策定、実行が不可欠である。
  (2)    このため、次のような施策を重点的に実施すべきである。
     
 
   ユネスコに対し、世界的な文化財保護のために緊急な行動が必要とされるときにとりうる措置を検討すること、及び各国の文化財保護支援の強化などを働きかけること。
 
   我が国がまだ締結していないいわゆるユネスコ条約(文化財の不法な輸出入及び所有権の移転の禁止及び防止に関する条約)の締結に向けて国内体制整備を含め必要な作業をすすめること。
 
   世界的な文化財保護について、文化無償協力と技術協力のそれぞれの特性を活かし、連携を促進しつつ一層の充実を図ること。
 
   文化財保護に関する意識の普及のための教育・啓発に取り組むこと。
     
2    文化の多様性の保護について
     
2.1   無形遺産分野における国際協力事業の強化
  (1)    平成13年(2001年)5月、ユネスコにおいて「人類の口承及び無形遺産の傑作」の第1回宣言が出された。今後、2年に1回の頻度で宣言が予定されているとともに、宣言された無形遺産の保護に関するフォローアップが求められている。
  (2)    このため、次のような施策を重点的に実施すべきである。
     
 
   アジア・太平洋地域の文化財保護に関する研修を充実すること。
 
   ユネスコで進められている国際的な人間国宝制度の創設や無形文化遺産条約の策定に向けた検討に対応するため、文化財に関する国際機関の活動との協調を図りながら、我が国の文化の発信や交流を行うこと。
     
2.2デジタル技術を利用した文化遺産の保存及び修復等の推進
  (1)    文化遺産の保存及び修復の方法として、破損の激しい古文書等、現物で長期的保存が困難な場合、それをデジタル・イメージとして、保存及び修復することが有効なものであるとして、脚光を浴びている。また、デジタル技術を用いた文化遺産に関する情報の保存、流通及び発信についても一層の発展が期待されている。
  (2)    このため、ユネスコと連携を取り、文化遺産を最新のデジタル・イメージ技術を利用しての保存、あるいは仮想修復について検討を進めるべきである。
   また、デジタル技術を用いた、無形文化遺産の保存及び文化遺産に関する情報の保存、流通及び発信の推進について検討を行うことが望まれる。
     
4    コミュニケーション分野
1    情報・コミュニケーションにおける国際協力
     
  (1)    平成12年(2000年)の九州・沖縄サミットで採択されたIT憲章にも明記されているように、国際的なデジタル・ディバイドの解消は喫緊の課題となっていることから、アジアの一員であり、かつ世界第二の経済大国でもある我が国として、アジアを始めとした世界の開発途上地域に対する技術協力等の国際協力を積極的に進めていくことが日本政府のe-Japan重点計画で定められている。これを踏まえ、更に昨年の九州・沖縄サミット以来のG8におけるデジタル・ディバイド解消のための取組みを勘案して、ユネスコにおけるデジタル・ディバイドの解消施策に対し積極的に支援する必要がある。
  (2)    具体的には、以下の施策を重点的に進めるべきである。
     
 
   ユネスコの創設する「すべての人のための情報(Information for All)」計画(Programme)に対し、特にアジア太平洋地域におけるデジタル・ディバイドの解消(減少)とそのための情報へのグローバルアクセスの確立に向けた活動の支援等の協力を行うこと
 
   世界中で広がるデジタル・ディバイドにより、子供達の未来に格差が生じないよう、各国・機関・NGO等と密接な連携の下、他の援助形態による支援とともに、開発途上国の教育の場における情報技術(IT)の有効活用に対する一層の支援の充実を図ること
     
2    デジタル技術を利用した文化遺産の保存及び修復等の推進(文化分野再掲)
     
  (3)    文化遺産の保存及び修復の方法として、破損の激しい古文書等、現物で長期的保存が困難な場合、それをデジタル・イメージとして、保存及び修復することが有効なものであるとして、脚光を浴びている。また、デジタル技術を用いた文化遺産に関する情報の保存、流通及び発信についても一層の発展が期待されている。
  (4)    このため、ユネスコと連携を取り、文化遺産を最新のデジタル・イメージ技術を利用しての保存、あるいは仮想修復について検討を進めるべきである。
また、デジタル技術を用いた、無形文化遺産の保存及び文化遺産に関する情報の保存、流通及び発信の推進について検討を行うことが望まれる。
     
5    普及活動
1    学校教育等におけるユネスコ活動の振興について(教育分野再掲)
     
  (1) ユネスコの新しい中期戦略案においては、教育を通じた諸国民間の相互理解の推進が重視されており、また、我が国においては、平成14年(2002年)度から施行される小中学校の新しい学習指導要領の「総合的な学習の時間」において「国際理解」が課題の一つとして例示されているなど、学校教育における国際理解教育の重要性は一層高まってきている。また、生涯学習社会を構築していく中で、教育における学校・地域・家庭の連携及びそれぞれの役割の重要性が高まっていることを踏まえ、学校外教育においてもユネスコ活動を一層振興する必要がある。さらに、ユネスコ協同学校については、担当教員の転任に伴いその活動が低下してしまうなどの問題点が指摘されている。これを踏まえ、ユネスコのヴィジビリティの向上の観点も併せ、学校教育におけるユネスコ活動を振興していく必要がある。
  (2)    具体的には、以下の施策を実施すべきである。
     
 
   学校教育におけるユネスコ活動については、例えば、「総合的な学習の時間」や教科学習を通じた国際理解教育で取り上げられるように、事例として示すこと。
 
   地域や家庭等、学校外の教育の場において、ユネスコ活動の振興をさらに図るため、ユネスコ協会、NGO等、教育委員会が一層の協力・連携を図ること。
 
   ユネスコ協同学校については、新たに「ユネスコ国際理解協力ネットワーク(仮称)」としてその活性化を図るべく、教育委員会を通じた指定を行うなどにより学校としての組織的な取組みを進めるとともに、その構築する国際的なネットワークを利用する効果的な方策について検討を行うこと。
     
2    ユネスコ活動の広報等について
     
  (1)    主として民間によって担われている我が国のユネスコ活動は、その質・量の豊かさに比して国民に知られることが少ない現状である。より一層の活動の浸透を図るためにもヴィジビリティの向上が課題であるが、その際、地域・家庭に大きな影響力を持つグループへの働きかけが有効であり、また、特に、将来のユネスコ活動を担う青少年に対する広報を重視することが必要である。
  (2)    具体的には以下の点に留意した活動の展開を促進すべきである。
     
 
   ユネスコが持つ資産を活かしての、それぞれの対象にとって魅力的で親しみやすく訴求力の高い広報を行うこと。
 
   新しい情報媒体の利用、情報提供のネットワークづくりなど、新しい情報通信技術を使った広報を行うこと。
 
   地域にユネスコ活動が直接かつ効果的に浸透していくために、ユネスコ協会、他のNGO、教育委員会などの連携を強化すること。
     
6    我が国のユネスコ代表部の体制強化
1    我が国は、ユネスコへの加盟以来連続してユネスコ執行委員国を務め、また、ユネスコへの最大拠出国としてその行財政及び各種事業に積極的に貢献してきたことに加え、我が国出身の松浦事務局長が就任したことにも鑑み、我が国のユネスコへの協力の必要性は今後一層高まってくるものと考えられる。
2    現在我が国政府のユネスコ代表部は、在フランス大使館員の兼務で構成されているが、G8諸国を含め主要国のほとんどは、在フランス大使館とは独立した代表部または特命全権大使を有しており、ユネスコ関係業務を円滑かつ十分に処理、対応し、高いレベルでの支援を行うためには、機構、人員ともに独立した日本政府代表部の設置が必要である。