世界的な文化財保護に関するユネスコへの提言について

   アフガニスタンのタリバンによる仏像破壊を契機に、日本ユネスコ国内委員会としても、世界的な文化財保護の方策の検討についてアピールを行うこととしました。
   「世界的な文化財保護に関するユネスコへの提言」は、第98回文化活動小委員会(平成13年4月4日)で案がまとめられ、第455回運営小委員会(平成13年4月16日)において採択された後、松浦ユネスコ事務局長、各国ユネスコ国内委員会及び関係機関に送付されました。
   なお、6月4日の第161回ユネスコ執行委員会では、人類の文化遺産の保護に関する執行委員会決議がなされています。




世界的な文化財保護に関するユネスコへの提言について
(2001年4月16日   日本ユネスコ国内委員会)



   このたび、アフガニスタンのタリバンが、バーミヤンの大仏を含む仏像、彫像の全てを破壊する指令を発し、既にバーミヤンの大仏2体を含む多くの仏像を破壊したと報道されている。
   これらアフガニスタン国内の彫像、仏像等の遺産は、仏教などが伝来した古代シルクロードの文化遺産として、我が国を含むアジア諸国への仏教伝来の起源を探る上でも極めて重要なものであるとともに、東西文化が融合したヘレニズム文化の遺産として人類にとって大変貴重なものであると言われていた。
   これを機に、このような惨事が二度と起こらないよう、世界的な文化財の保護について具体的な方策の策定、実行が不可欠と考える。
   具体的な方策としては、世界遺産条約等の既存の国際的な文化財保存のための枠組みの再検討、ユネスコを通じた各国の文化遺産保護支援の強化、文化財保護に関する意識の普及のための教育・啓発への取組み等が考えられ、同時にこれらの実現のためにもさまざまな手段を通じて国際世論を喚起していくべきと考える。
   ついては、ユネスコにおいても文化の多様性を保持する観点から世界的な文化財保護の一層の強化策を検討するよう、ユネスコに対して日本ユネスコ国内委員会として提言を行うこととする。また、政府としてもユネスコに対して働きかけを行うことを含め、世界的な文化財保存のための措置をとることが必要であると考える。







(仮訳)
人類の文化遺産の保護に関する執行委員会決議



執行委員会は、
1. 議題3.1.1(161EX/INF.16)に関する事務局長の導入説明において提供される情報を考慮し、
2. アフガニスタンの文化遺産の破壊に反対する事務局長による緊急行動を歓迎し、
3. 人類の文化遺産を守るという国際世論を結集するための事務局長の行動に大いに感謝し、
4. 「文化に対する犯罪」として事務局長により述べられた、特にアフガニスタンの歴史的文化的遺跡に対する破壊行動を断固として非難し、
5. 人類共通の遺産に対するこのような行動を犯罪行為であると確信し、
6. 「武力紛争時の文化財の保護に関する条約(1954年、ハーグ)」、「文化財の不法な輸出入及び所有権の移転の禁止及び防止に関する条約(1970年)」、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(1972年)」その他関連する国際法規の原則を尊重し、実現させるよう不断の努力を行うことを加盟国に求め、
7. 人類共通の遺産を代表する文化財に関する関心を醸成するための教育を普及させることを加盟国に求め、
8. 更に、世界遺産委員会、文化財返還促進のための政府間委員会、及びその他の関係団体が、条約の枠組みの中で、取り分け、先に述べた条約の関係条項の実施をより強化するための方策、施策を検討することにより、また、新たな実施機能(メカニズム)を開発することを通じ、人類共通の遺産のより良い保護を確実にするための手段を見いだすことを求め、
9. 以下のことを事務局長に求める。
(a) 脅威にさらされている文化的歴史的遺産の保護に一層努めること
(b) 遺産の保護を強化するための実施機能(メカニズム)の創設に関する提案をまとめるために、世界遺産委員会及びその他の関係団体に対して全面的な支援を与えること
(c) 21世紀における危機的遺産の調査を実施すること
(d) これらのことを第162回執行委員会で報告すること
10. 第162回執行委員会の議題と第31回ユネスコ総会の議題案に「人類共通の遺産に対する犯罪行為」を含めることを決定する。