有識者インタビュー

GIGAスクール構想×クラウド活用
(東京学芸大学 教授 高橋純 氏)



 GIGAスクール構想は、1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実や創造性を育む学びの実現に寄与するもので、資質・能力の一層確実な育成を目指しています。
 今回はGIGAスクール構想を実現するために欠かせない「クラウドの活用」について、東京学芸大学 高橋純教授に伺いました。(令和5年4月13日掲載)

 
○ クラウドの特徴
○ クラウドを活用するためのステップ
○ クラウド活用によって起こる授業の変化
○ クラウド活用を進めるための研修


 

クラウドの特徴

― クラウドの特徴について教えてください。
 まず、GIGAスクール構想そのものがクラウドを使うことを前提とされていますので、クラウドを積極的に活用してほしいと思っています。クラウドは、端末を購入したときにインストールされている標準のソフトがあれば、活用することができます。
 クラウドの特徴として、「作業している途中でも共有できる」「後から追加や修正ができる」「追加や修正の記録が全て残る」ということがあります。クラウドを実際に使ってみることで、良さをたくさん実感できますので、まずは体験していただくのが良いと思います。
※「クラウド」とは、ユーザー側の環境に影響されず、インターネット上で利用可能なサービスの総称。
【参考】教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインハンドブックP.46(令和4年3月) (mext.go.jp)

 

クラウドを活用するためのステップ

― クラウド活用を進めるためには、どのようなステップから始めたら良いか教えてください。
 おすすめは、教師が校務で使うことから始めることです。最終的には授業改善に生かしていくことになりますが、慣れていない方にとって、始めから授業で使うのは不安があると思います。ですから、これまで校務の中で使ってきたソフト(文書作成ソフトや表計算ソフト、プレゼンテーションソフトなど)を実際にクラウド上で体験していくことが大切です。
 ただ、ファイルの保存やデータのやり取りが従来の方法とは全く異なりますので、その点を理解しておくことが重要です。ファイルやフォルダそのものを共有するのではなくて、クラウド上にあるファイルの置き場所であるURLを共有します。その際、チャットやメールを活用してURLをやり取りすることがとても重要になります。
 
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(図1)クラウドネイティブな仕事の流れ(2022 高橋純)

 例えば、これまでは、メールで「行事の最終提案」という名前のファイルが送られてきて、またしばらくすると修正された「行事の最終提案(修正)」というファイルが送られてきて、その後さらに修正されて「本当に最終の提案」というファイルが送られてきて…というように、一体どれが最新の情報か分からなくなってしまった経験はないでしょうか。それは、ファイルそのものをやり取りするから起こることであり、ファイルの置き場所であるURLをチャットやメールなどで共有すれば、常に最新の情報にアクセスすることが可能になるだけでなく、作成途中でも参照することが可能になります。
 教師が、このようなクラウドの特徴に慣れることによって、働き方が変わってきます。(図1)URLからいつでもファイルにアクセスできますし、編集権限のある人達はそれぞれのペースで作業することができます。このようなクラウドの便利さを体験してもらって、授業でも取り入れてもらう形が良いと思っています。

   

クラウド活用によって起こる授業の変化

― クラウド活用が進むと、授業はどのように変わっていくのかを教えてください。
 始めに確認しておきたいのは、これまでの授業観とクラウドを使った授業観は違うということです。クラウドを活用すると授業は大きく変わっていくと思います。特に、思考力・判断力・表現力等といった資質・能力を育成する場面においては、クラウドが大きな力を発揮すると思います。
 
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(図2)一人一台端末活用新旧イメージ 従来授業+端末活用(2022 高橋純)

 これまでの授業は、黒板や教科書、ノートなどを活用しながら一斉に教えるという、100年以上にわたって改善改良が加えられてきた、ある意味完成された形です。この授業の進め方はいわゆる一斉授業と言われるものです。(図2)教師の発問や指示に合わせて子供たちが一斉にインプットをして、教師の指示で話し合いや発表をします。教師の指示のもとで協働学習をしたり、全体発表をしたりする授業に、そのまま1人1台端末を導入してもクラウドの良さを感じられず、「紙や鉛筆のみの授業の方が良かったのではないか」という意見が出ることも少なくありません。
 しかし、子供たち一人一人が別々の興味・関心をもっていることを踏まえれば、これからは、クラウドや1人1台端末を活用した新しい授業を考えていく必要があります。それぞれ学びたいことやペースも異なりますから、なるべく一人一人のペースに寄り添っていく必要があるのです。つまり、学びのスタイルが複線型になっていきます。この複線型の授業は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実のイメージに近いと私は考えています。
 一斉授業、つまり単線型のイメージのまま複線型の授業を考えてしまうと、35人の子供がいれば、35通りの指示や説明をしないといけないと思ってしまいがちです。それは極めて難しいことですから、子供一人一人が目標をもち、自ら学んでいくというような複線型の授業のイメージをもつことが非常に重要です。
 
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(図3)一人一台端末活用新旧イメージ クラウド活用授業(2022 高橋純)

 また、複線型の授業ではクラウド環境と1人1台端末が大きな力を発揮します。複線型の授業でも一斉指導でインプットをする場面はありますが、これまでと比べて、その時間が非常に短くなっていくと思います。一斉での確認が終わった後、授業で活用するデータを白紙の状態で共有し、そこに、子供たちが本時の目標やねらい、学ぶ手順、方法などを入力して、各自のペースで学習を進めていきます。(図3)
 中には一人だけで学習を進めることがなかなか難しい子供もいますので、そのような時に、クラウド活用による共有が役立ちます。

 クラウド上で共有されているデータから、友達の進捗を参考にして学びを進めたり、友達へ直接聞きに行ったりして、自分なりの考えをまとめていきます。
 これまでも、図画工作科や美術科での作品作りなどで、アイデアに行き詰まった子供が友達の作品を一通り見て、新しいアイデアが浮かんでくることがありましたが、同様のことがクラウド上において全教科等で起こっていると考えるとイメージしやすいと思います。
 このように1人1台端末を活用することによって、個別最適な学びが充実します。そして、教師はクラウドを介して子供の進捗状況を端末上でリアルタイムに把握したり、実際の子供の様子を見たりしながら必要な支援をしていきます。これまでの一斉授業では、なかなか実現が難しかった複線型の授業を、クラウドや1人1台端末を活用することで容易に実践できるようになっています。そして、他者の考え方を参照して学ぶことや共同編集機能を活用して協働することなど、「新しい授業の形」が続々と生み出されています。

 

クラウド活用を進めるための研修

― 校務や授業でクラウド活用を進めていくためには、今後どのような研修を行っていけば良いか教えてください。
 「クラウドの便利さを校内で共有し、それを授業に生かしていきたい」と思っても、いきなりすべてを変えることは難しいです。だからこそ、端末やクラウドも少しずつ使って慣れていくことが非常に重要です。
 この記事を読んでいる方の中には、校内研修を担当している方がいるかもしれません。そのような立場の方は、「端末の使い方の研修を実施する必要がある」と考えているのではないでしょうか。もちろん、その時間を設けても良いのですが、多くの学校ではすでに教師が端末を使えるようになっています。ですから、やはりここでも効果的なのは、授業研究後の協議会や職員会議、日常の業務などで体験していくことです。例えば、端末上で共同編集をしながら意見をまとめることや、プレゼンテーションソフトを使って発表すること、資料を共有することなど、子供が授業で1人1台端末を使うのと同じように、教師が校務でクラウドを活用する機会を確保してほしいです。繰り返し使いながら慣れていくこと自体が研修になると考えています。

StuDX Style「授業研究会におけるクラウド活用」

 そして、もっと研修したいという方は、インターネット上にあるたくさんの研修事例を活用すると良いと思います。文部科学省の特設ウェブサイト「StuDX Style」というホームページがありますので、こういったインターネット上の情報を参考にすることも、大変有効であると思います。クラウドやインターネットを活用して自ら学びを進めていくような学び方は、これからの社会で子供たちに求められている「新しい学びの形」そのものです。教師も子供も同じように積極的にクラウドの活用をしながら慣れていくことがポイントだと思います。
   
【有識者インタビュー】GIGAスクール構想×クラウド活用(東京学芸大学 教授 高橋純 氏)【一括ダウンロード版】